次元世界と言うのは地球やミッドチルダ以外にも様々な世界があるわけで、
技術体系や技術レベルも千差万別。そしてその中にかつて地球の日本がそうであったように
環境を度外視した技術開発を行ったが為に公害が問題となっている世界もあった。
海には工業排水が垂れ流され、空気も排ガスによって汚染された。
しかし本当の悲劇はここから始まる。その世界の海の奥に眠っていたロストロギアが
様々な有害物質に含まれた工業排水によって出来たヘドロと反応を起こす事で覚醒。
無機物に生命を与える力を持ったそのロストロギアはヘドロに生命を与え、
ロストロギアを核とした恐ろしい公害生命体が誕生したのである。

            なのは 対 ヘドラ

鳥も 魚も 何処へ行ったの トンボも 蝶も 何処へ行ったの
水銀 コバルト カドミウム 鉛 硫酸 オキシダン
シアン マンガン バナジウム クロム カリウム ストロンチュウム
汚れちまった海 汚れちまった空 生きもの皆 いなくなって 野も 山も 黙っちまった 
地球の上に 誰も 誰もいなけりゃ 泣くこともできない
かえせ かえせ かえせ かえせ みどりを 青空を かえせ かえせ かえせ かえせ
青い海を かえせ かえせ かえせ かえせ かえせ かえせ 命を 太陽を かえせ かえせ

ヘドラと命名された公害生命体は最初はオタマジャクシ程度の大きさしか無かった。
しかしヘドロの海を泳ぎまわる中で様々な汚染物質を取り込みむ事で大きく成長し、
次第には数十メートルと言う巨大な体となってついには上陸するまでに至った。
そして工場の煙突から出る排ガスを吸い込み、さらに巨大化。
その行動をヘドラが有害物質を吸収する事で環境を改善してくれると見る者もいたが
結局はその吸収した有害物質が他の場所にばら撒くと言う結果に至った。

             2 お お な お う み ど し げ
           矢 ね こ こ の し み ん く の ん
           野 ん る ら は っ へ な が は ば
             1 だ な が こ す み す い く
           研 く ろ い み も て ん   は
             み う か た   る な へ う す
               な な ら       ど み い
                           ろ へ ば
                               く

この問題、当初はあくまでもこの世界の問題であると時空管理局はあえて無視していた。
しかしヘドラ誕生の原因がロストロギアによる物だと分かった途端に態度を一変。
ロストロギア回収の為に高町なのはを送り込んだのである。

「うわ! 臭い! それに空気も汚い…良くこんな所で皆生活出来るね…。」
この世界に来て早々になのはは帰りたくなってしまった。それだけこの世界は汚れていたのである。
なのはの故郷の日本もかつてはこの世界の様な道を歩んでいた事もあった。
しかしそれでも過ちに気付いて幾分か環境を改善するような努力を行っていた。
その環境が改善された後の日本で育ったなのはにとってこの世界の汚れた空気や海は
耐えられる様な物では無かった。
「体調崩さない内に早く回収しないと…。」
早くもテンションを下げつつなのははヘドラ探索の為に飛びまわっていたが、
そこでなのははとんでもない物を見てしまった。
「これは…うっ!」
それは彼方此方に転がる多数の白骨死体。実力こそあれどまだ子供であるなのはにとって刺激が
強すぎる物で、この世界の悪い空気の上にいきなりこれだから思わず吐きそうになってしまった。
「うう…しばらくお肉食べられないかも…でも何故こんな事に…。」
空を見た時になのははその原因に気付いた。なんとヘドラが硫酸ミストを噴射しながら
空を飛んでいるのである。そして硫酸ミストは金属を腐食させ、現地人を次々白骨化させて行くのである。

ヘドラはさらなる汚染物質を求めてその世界で普通に走り回っている自動車にまで襲い掛かった。
自動車から出る排気ガスを取り込もうとしていたのである。特にこの世界の自動車は
地球で現在一般的に使用されている物に比べて遥かに排気ガスの量が多い。
まさにヘドラにとってカモとも言える物だったのである。

自動車の排ガスを取り込んだヘドラは次は手近にあった工業地帯を襲った。
しかしその時はそれを発見したなのはも現場に急行していた。
「これ以上はさせないよ! ディバインバスター!」
なのはがレイジングハートの先端からピンク色に輝く極太の魔砲を放ち、忽ちヘドラの身体を貫いた。
だが、貫いただけ。ヘドラそのものにダメージは見られず、平然としていた。
「え!? うそっ!」
一瞬焦るなのはだったが、直後にヘドラが自身の体液を飛び散らせて来た。
様々な害毒の含まれたヘドラの体はそれそのものが強力な武器となる。
たった一滴浴びただけでも忽ちの内にバリアジャケットが溶かされてしまった。
「うそ! バリアジャケットが溶ける!? そんな!」
バリアジャケットさえ溶かすヘドラの体液を生身で触れようものならあっと言う間に
骨にされてしまうのは必至だ。なのははとっさに防御魔法を展開してヘドラの体液を防ぐ。
そして再度ディバインバスターを撃ち込むがただ穴が空くだけでダメージらしいダメージは与えられない。
「やっぱり本体のロストロギアを回収しないとダメなの!?」
確かにそうかもしれない。しかし、ヘドラはその体そのものが強力な武器となっている。
下手に突っ込めばなのは自身も白骨化されてしまうかもしれない。
そう考えているとヘドラは飛行体に変形し、硫酸ミストを噴射しながら飛び出した。
「いけない!」
なのははとっさに防御魔法で硫酸ミストを防いだ。しかし、ヘドラのせいで起こった
工業地帯の大爆発に巻き込まれ、ヘドラを逃がしてしまった。

なのはがヘドラに四苦八苦していた頃、この世界の防衛隊もヘドラに対して
手をこまねいているわけでは無かった。ヘドラは害毒の集合体であるから案外逆に酸素が
効くんじゃないか? と考える研究者の提案でヘドラに対し酸素攻撃を行う案が挙がったり、
また巨大電極板を設置し、そこからの電磁放射によってヘドラを乾燥させてしまおうと言う
作戦も立てられたのであった。

防衛隊は死力を尽くしてヘドラを巨大電極板の設置された草原地帯におびき寄せる事に成功した。
そしてその草原にはなのはの姿もあった。これ以上被害を増やすわけにはいかない。
例え刺し違えてでもヘドラの核となっているロストロギアを抜き出す。
不退転の決意でなのはも最後の戦いに挑んでいた。だがやはりヘドラは強力だ。
ヘドラの体液によってバリアジャケットは再び溶かされ、左目も潰されてしまった。
しかしなのはは退かない。ヘドラ体内のロストロギアを探さんばかりに
ディバインバスターを連射する。だが、それでも体に穴が空くだけでヘドラは平然としている。
一体ヘドラの核となっているロストロギアは何処に埋め込まれているのか…

真夜中の草原を舞台になのはとヘドラの激闘が繰り広げられる中、一機のヘリが接近して来た。
「酸素! 投下!」
ヘドラには酸素が効くのでは無いか? と考えられた研究者の案を基に立てられた酸素攻撃。
しかし、もはや60メートルの巨体にまで成長したヘドラに効くはずも無く、
目から放たれるヘドリウム光線によってヘリも撃ち落されてしまった。
「あっ!」
火達磨になって墜落して行くヘリのパイロットが脱出した様子は見られない。
またいたずらに犠牲者を出してしまったショックでなのはの動きが一瞬止まった直後、
ヘドラのヘドリウム光線がなのはを吹き飛ばしてしまった。
「キャアア!」
なのはが吹っ飛ばされた後、ヘドラは移動を開始した。その先には防衛隊が設置した巨大電極板。
防衛隊は巨大電極板にヘドラをおびき出すべくライトを当ててヘドラを刺激する。
しかし、ここで問題が発生する。先程のなのはとヘドラの戦闘の余波によって巨大電極板に
電力を送る送電線が故障してしまったのである。このままでは例え巨大電極板までおびき寄せる事が
出来ても電磁放射を放つ事が出来ない。万事休すか…そう思われた時だった。
「ディバインバスター!!」
なのはの発射したディバインバスターがヘドラ後方から襲い掛かった。
だがディバインバスターとてヘドラに効果が無い事は先の戦いで分かっていた。
しかし…そのディバインバスターが命中したのはヘドラでは無く巨大電極板だった。
するとどうだろうか。巨大電極板から電磁放射が放たれたでは無いか。
忽ち体中が乾燥し、苦しみ始めるヘドラ。なのはは続いて二射、三射とディバインバスターを
巨大電極板に発射し、その度に電磁放射によってヘドラの全身が乾燥していく。
防衛隊があっけに取られる中、カラカラに乾燥して動かなくなったヘドラになのはが近付いて行く。
これで決着か…そう思われたがなのははヘドラ体内のロストロギアがまだ活動中である事を分かっていた。
そして乾燥したカラカラのヘドラの体の中から、まだ辛うじて残っていた小さな本体が飛び出したのである。
このままでは逃げられてしまう。そうはさせまいとなのはも飛んで追う。
小さいヘドラは速かった。しかし、なのははディバインバスターを後ろ向きに発射する事で推進力として
スピードを上げ、忽ちの内にヘドラに追い付き、バインドによって動きを封じてしまった。
そこからさらに再び巨大電極板の場所まで運び、アクセルシューターを連続発射して
ヘドラの身体をグチャグチャにし始めたのである。

かえせ かえせ かえせ かえせ みどりを 青空を かえせ かえせ かえせ かえせ
青い海を かえせ かえせ かえせ かえせ かえせ かえせ 命を 太陽を かえせ かえせ

ヘドラがグチャグチャにされた後、なのはは再度ディバインバスターを巨大電極板に発射して
電磁放射によってヘドラの本体もろともに完全に乾燥させた。

完全に乾燥し、単なる砂に戻ったヘドラからロストロギアを回収したなのはは
なおもあっけに取られていた防衛隊を無言のまま睨み付けた。
普通なら一人の女の子に睨み付けられた事で怖くないはずなのだが…
なのはの表情の奥に隠れる恐ろしい気に防衛隊は気圧されていた。
しかしなのはの怒りたくなる気持ちも分かる。ヘドラが誕生した原因は確かにロストロギアにあるが、
その身体を構成していた害毒を作り出したのは紛れも無くこの世界の人間なのだから…

なのははレイジングハートを地に付け、寄りかかりながらヨロヨロとその場を立ち去った。

汚れちまった海 汚れちまった空 生きもの皆 いなくなって 野も 山も 黙っちまった 
地球の上に 誰も 誰もいなけりゃ 泣くこともできない

だがこれが最後のヘドラだとは思えない。今回のと同種のロストロギアが無いとも限らないし、
この世界の人間達が環境を度外視した開発を続ける限り…第二第三のヘドラが誕生するかもしれない。

                    そしてもう一匹?

                       おわり

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最終更新:2007年08月14日 19:57