「皆さんこんにちは!!今夜の『MID HIT CHART』大スペシャルに先駆けまして、これから生放送で街行く人にFIRE BOMBERの魅力を聞いてみたいと思います!」
ちょうど歌番組が始まったところだった。
『LET'S FIRE!!』とテロップが流れ、女性レポーターは軽快な調子で捲くし立てる。
彼女の背後には大規模な野外ステージが映っていた。ステージには続々と機材が運び込まれ、所狭しとスタッフが走り回っている。
「今夜、この特設ライブステージにてFIRE BOMBER のライブが行われます。このミッドチルダに、新星の如く現れた謎のロックバンド『FIRE BOMBER』。
彼らの魅力とは何か、その答えに今日は迫ります!」
大仰な振りでテンションを上げながら走り出す彼女をカメラが追う。
「それではまず、最初に彼女達に聞いてみましょう。こんにちは~」
彼女が最初に選んだのは、凛々しそうな長身の女性と、対照的に優しげな金髪の女性。そして少女の三人組だった。
「何か……?」
長身の女性に訝しげな視線を向けられる。
長身の女性と少女が着ているのは時空管理局の制服だ。何故、子供がそんなものを着ているのか――こっちが聞きたいくらいだ。
だが、彼女はそれを気にしないことにしたようだ。すぐに得意の営業スマイルを作る。
「あの~、突然ですがFIRE BOMBER ってご存知ですか?」
彼女達は顔を見合わせて頷く。
「それじゃあ、好きなメンバーはいますか?やっぱり若い女性なら……」
「いや、好きというわけではないが、あのビヒーダというドラマーにはどこか近いものを感じる。あのスティックから感じる気迫はなかなかのものだ」
長身の女性が答える。ジョークかと思ったが、顔から察するにどうやらジョークではない。
「はぁ……」
としか答えようがないだろう。
さすがの彼女も、これには呆気に取られてしまった。
「それではこちらの……あなたはどうですか?」
金髪の女性に素早くターゲットを切り替えた。その辺は流石プロである。
「私ですか?私は……レイさんは渋いなぁ、と思いますね~」
金髪の女性はおっとりとした口調で答える。
「お~っと、レイさんとはなかなか渋い趣味をお持ちですね~」
この女性からはなんとか期待通りの答えが返ってきたことに、彼女は、ほっと胸を撫で下ろした。
「最後に……」
ちらりと子供の方を見る。
――この子にはどう接すればいいのだろう?可愛い外見なのに、目つきは鋭いし……。
その目はそう物語っていた。そもそもFIRE BOMBERを知っているのかも怪しい。
彼女は戸惑っていたが、やがて意を決しインタビューを行う。
「あなたは――」
「あたしが好きなのは『SEVENTH MOON』だな!」
彼女が言い終わるよりも早く少女は答えた。しかも、やたら自信あり気に。
ひょっとして聞いてほしかったのだろうか?
「そ……そうなんだぁ~。まだ子供なのにFIRE BOMBERが好きなんてすごいね~」
少女は少し眉をひそめていたが、どうやら滑り出しは上手くいった――かに見えた。
背後の長身の女性が口を開くまでは。
「ヴィータ。お前は前に『SWEET FANTASY』という曲 が好きだと言っていなかったか?」
瞬間、空気が凍った。
徐々に少女の顔は真っ赤に染まる。それはもう、誰が見ても解るくらいに耳まで赤くなって。
「なななな、何言ってんだよ、シグナム!」
少女が赤くなった顔を長身の女性へと向けた。声は怒りか羞恥か解らないが震えていることだけは確かだ。
「まぁまぁ……やっぱり女の子だもんね?ミレーヌ可愛いもんね~」
彼女がなんとか空気を変えようと放った一言も逆効果。
「お前もあんまりあたしを子供子供って言うんじゃねー!」
少女の怒りの矛先は彼女に向けられた。
手足をバタバタさせて暴れる少女を、他の二人はなんとか宥めようとしている。
「ご、ご協力ありがとうございましたーー!!」
彼女は逃げるように、その場を離れた。というか完全に逃げ出した。

「それでは、次はあの子達に聞いてみましょう!こんにちは~!」
「あ、はい。こんにちは」
彼女が次に選んだのは15,6の少女二人と、更に小さい10歳くらいの男の子と女の子の四人組だ。
「突然ですが、FIRE BOMBER って知ってますか~?」
「FIRE BOMBER!?私、大ファンです!」
青いショートヘアの少女が目を輝かせて答えた。
「そうなんですか~。それじゃあ好きな曲を教えてもらえますか?」
「はい!『DYNAMITE EXPLOSION』と『1.2.3.4.5.6.7NIGHTS』です!」
「やっぱり元気な娘には元気な曲ですね~。それじゃあ次は、ちっちゃな二人に聞いてみようかな?」
彼女は子供二人にマイクを向けた。
「は、はい。僕は『NEW FROTIER』と『PARADE』が……」
「私は……ミレーヌさんの『MY FRIENDS』と『LIGHT THE LIGHT』が好きです……」
二人ともカメラに戸惑っているようだったが、緊張しながらも質問に答える。
その仕種は何だか微笑ましい。
「それでは最後に――そっちの娘はどうですか?」
次はツインテールの少女。しかし、これまでの感触からさっきのようにはならないだろう。
彼女もきっとそう思っていただろうに。
「私は……敢えて上げるなら『ANGEL BOICE』かな」
少女は素っ気無くそう答えた。
最後は盛り上がらなかったが、まぁ、こんなものだろう。
「ありがとう――」
彼女がそう言いながら去ろうとした直前に、
「ティアはあれがお気に入りだよね~。なんせ昨日も夜中に聞きながら歌ってたくらい――」
青髪の娘が言い終わらぬうちに、ツインテールの少女はその口を凄まじい速さで塞いだ。
「あんた、起きてたの!?」
少女の表情は耳まで赤い。
「もごもごもご……(だって結構大きな声だったから……)。ぷはっ……!窓開いてたからたぶん外まで……」
塞がれた口をようやく外して青髪の少女は答えた。
「ええーーーー!!」
少女は頭を抱えて悶えだした。
青髪の少女はきょとんとしており、子供達は少女を気の毒そうに慰めている。
彼女はその光景に、どこか既視感を感じつつも慌ててその場を立ち去った。
「そ、それではご協力ありがとうございましたー」
未だ頭を抱えて身を捩る少女を少し可哀想に思いつつ――。

「ふうっ。なんか変な番組……」
ピンク色の髪をした少女はそう呟いてモニターを切った。
「まぁ歌番組なんてどこの世界でもあんなもんさ。それよりミレーヌ、練習を再開しよう。最後の仕上げだ」
FIRE BONBERのベースであり、ヴォーカルでもあるミレーヌは、同じくキーボード担当であるレイの言葉に反発した。
「でもでもっ!レイは私達のスペシャルライブを、異世界のミッドチルダの人達がどう捉えているのか気にならないの?」
「そりゃあ気になるさ。だからこそライブをいいものにしないとな」
そんなことはミレーヌだって解っている。
レイは色黒の肌と口髭のせいで厳つい印象を受けるが、実はメンバーの誰よりも細かいところに気が付いて面倒見がいいのだ。
「……」
ドラム担当のビヒーダは、相変わらず黙々と大柄な身体を震わせてドラムを叩いている。
「もうっ!大体こんなところに来ちゃったのは誰のせいなのよ!」
――あの時、プロトカルチャーの遺跡でアイツが勝手に歌わなければこんなところに来ることもなかっただろうに。
そう思うと、ミレーヌは張本人に思い切り怒鳴りたくなった。
だが、練習場には張本人の姿はどこにもない。
ぷぅっと頬を膨らませるミレーヌに、「いつものことだ」と肩を竦ませるレイ。全く反応せずにドラムを叩き続けるビヒーダ。
やり場のない怒りに彼女は叫ぶ。
「ライブ前だってのに……アイツはどこに行っちゃったのよーー!」

久し振りに、そして偶然に予定が合い、食堂には六課メンバーの全員が集まっていた。
「ふぅーん。そんなことがあったんだ……」
「まぁ……ヴィータもあんまり恥ずかしがらんでもええんよ?」
「ティアも……。なんていうか……災難だったね」
隊長陣がランチを取りながら、それぞれの感想を口にする。
なのはも、流石にティアナに掛ける言葉に困った。
恥ずかしい秘密を電波に流されたヴィータとティアナは食欲が無いのかぐったりとテーブルに突っ伏している。
「そうそう、FIRE BOMBERって最近凄い人気だよね」
フェイトが二人を気遣って話題を逸らそうとするが、あまり逸れていない。
「うちは『HOLY LONELY LIGHT』とか『WILD LIFE』とか好きなんやけど――フェイトちゃんは?」
「私は……『SUBMARINE STREET』と……『MY SOUL FOR YOU』。後は『REMENBER16』かな?」
なるほど。どちらも彼女達らしい曲かもしれない。
今、機動六課で――否、陸上本局でFIRE BOMBERを知らない者はいない。
なのはは、ぼーっと二人の会話を聞きながら少し前のことを思い出していた。それは、なのはを含む六課全てが彼を覚えた時のこと――。

レリックを追って入り込んだ廃棄都市区画。
現れたのは、いつものガジェットドローン。そして謎の少女と、彼女に協力する数字の名を持つ女達。
空のガジェットを落とす為に、フェイトとなのはは空へ。新人達は地上でナンバーズの相手にする状況だった。
新人達に聞いた話では強力な敵でかなり苦戦したことは確かなようだ。

敵は高機動の戦闘機型ガジェット。数こそ多かったが、なのはとフェイトにとってはさして苦も無く撃墜できる相手だった。
「(フェイト隊長。そっちはどう?)」
少し離れた場所で戦うフェイトに念話で語りかける。
「(こっちはもう大体終わりかな。…………ちょっと待って!)」
その声は急に切羽詰ったものへと変わった。
「(新手が接近中。でも……何か追ってるみたい……。あれは……戦闘機!?)

フェイトが見たのはガジェットに追われる戦闘機の姿だった。ガジェットの数は10数機。ロングアーチからの通信よりも目視が早かった。
追われているといっても、その速さはガジェットを上回っており、徐々に距離を開き始めている。
機銃を回避しながら、それはフェイトへとぐんぐん迫っていた。
それは追われているのではなく、振り切ろうとしている訳でもない。おそらくは気にも留めていない。
もっと遠くの目的地へとひたすらに急いでいる。そんな印象を受けた。
「(とりあえずガジェット撃墜と戦闘機の護衛を優先する!)」
念話を終了した時、既に戦闘機はほぼ目前まで迫っていた。それはガジェットよりも、洗練されたシャープなフォルム。流線型の機体は抵抗を減らす効率的なデザイン。
そして炎を思わせる真赤なカラーリング。
速度を緩めることなく、戦闘機は加速する。ガジェットとの距離は更に離れ、じきに振り切るだろう。
しかし、フェイトが構えたと同時にガジェットから戦闘機を狙った誘導弾が発射された。それは光の尾を引き、複雑な軌道を描きながら戦闘機を捉える。
ミサイルは全てを撃ち尽くしたのか、数えられないほどに空を埋めていく。
「させない!」
雷の矢を飛ばしミサイルを撃ち落とすが、それでも残った半分は絡み合うように動き、戦闘機を執拗に追う。
上空へと伸び上がる戦闘機と尾を引きながら迫るミサイル。戦闘機は更に加速するも、ぐんぐんと距離は縮まる。
「はぁっ!」
再度放たれた雷の矢は、最後尾を追うミサイルを幾つか爆発させる。
とても射撃魔法では全てを撃墜することはできない。とはいえ範囲攻撃ならば一掃することも可能だが、戦闘機にも被害を及ぼすだろう。
ついにミサイルが逃げる獲物に届こうかという瞬間――。
戦闘機は機体を左右に何度もロールさせた。
翼を掠めるくらいに、ミサイルは戦闘機を追い越していく。
互いにぶつかり合い、爆発し、爆煙がたちこめる。
「なっ!?」
黒煙の中からほぼ無傷の戦闘機が飛び出した。数発のミサイルはまだ残っている。
フェイトでも、もう追いつくことは出来ない。
風を切り、機体を限界まで振り回しながらそれは飛び去っていった。

なのはが目視で確認した時、既にミサイルは確認できなかった。
すれ違う一瞬、先の尖ったコクピットに見えたのは髪を箒の様に逆立てた男。小さな眼鏡を掛けている。
だが、それらは実際は"見えたかもしれない"程度のことだ。それも突風のせいだけではないだろう。
なのはの視線を奪っていたのは、男が"両手"でしっかりと握っているギターだった。

ナンバーズ――数字で呼ばれる彼女達を、この時点では機動六課の面々は何も知らない。
廃墟の街を舞台に、レリックを巡って戦う六課の新人達とナンバーズ。特殊な能力を操る彼女達は三人でも新人達を圧倒するだけの力を持っていた。
トーレを先頭に、クアットロがそれをサポートする布陣。ディエチが後方から狙っている為、立ち止まることもできない。
ヴィータ、シグナム等とも分断された新人フォワードは街中を逃げ回る防戦一方だ。
特に前衛の疲労は深刻だった。トーレと正面から打ち合うスバル、ライドインパルスに唯一対抗できるエリオはダメージも多く、徐々に押されるようになり魔力も減少していく。
「スバル!私が援護するから後退するわよ!このままじゃ手に入れたレリックも……」
ティアナの手には紅く光る宝石が握られていた。
スバルも彼女に頷き後退する。スバルが跳び退った跡をティアナの射撃が穿つ。
エリオがその隙にソニックムーブでトーレを牽制。一瞬の攻防に競り勝ちストラーダの柄でトーレの腹を突き、素早く自分も後退する。
なんとか撤退できそうだ――。新人達は安堵の息を漏らす。
それが誤りであり、彼等の戦闘経験の少なさを表していた。
目の前に転移してくる少女――薄紫の髪、額の紋様。歳はエリオやキャロに近いはずなのに、彼女の瞳はとても冷たいものに感じられた。
彼女に付き従うガリューが拳を振りかぶる――。
「っ!」
防御姿勢を取るスバル達だったが、その拳は構えられたまま止まっていた。
少女は空を不思議そうに見上げている。感情の殆ど見られない瞳が僅かに動いた。
釣られてスバル達も空を見る。この時、スバル達は気付かなかったが、ナンバーズも同様に空を見上げていた。
空に浮かんでいるのは巨大な赤い影――。
肩等の一部を除く全身が燃えるように赤く塗られたロボットは、右手に握った銃まで赤い。
――VF19改ファイアーバルキリー。といってもこの時点では、やはり誰もその名を知らないが。
「きゃぁぁ!」
ドドドドと轟音がこだまし、全員が衝撃に顔を覆う。
煙が晴れると、周囲の地面やビルに何かが埋め込まれていた。
「これは……?」
スバルが呟く。こんなものが何故?おそらくロボットの銃から撃ち出されたのだろうが、スバルには信じ難かった。何故なら、こんなものがここにあるなど有り得ないからだ。ましてやロボットの銃から発射されるなど。
「スピーカー?」
全員を代弁したティアナの言葉を最後に。
"戦場"は"会場"に。"戦士"は"観客"へと変わる――。
「ここがどこだろうと関係ねぇ!皆まとめて……俺の歌を聴けぇ!!」

「やはり……来ると思っていたよ……」
モニターの向こうの薄暗い部屋で科学者は不気味な笑いを浮かべていた。
「君の歌を聴かせたい女の子がいるんだ」
あの時、彼の前に現れた自分はたしかそんな意味のことを言った。
胡散臭い科学者に突然話しかけられた彼は、
「誰だ、お前?」
と言った。まあ当然の反応だろう。
そしてこうも言った。
「俺の歌を聴きたけりゃライブに来い。ライブじゃなきゃ本物のサウンドは伝わらねぇんだよ!」
「残念だが、彼女は人前には姿を見せないんだ。彼女が現れるのは戦場だけ……。いや、彼女がそこを戦場にしてでも得ようとしているものの為……かな」
彼は黙ったまま、ギターをポロンと鳴らす。
「やはり君でも無理なのかな?おそらく彼女は君の歌でも心を震わすことはない。たとえ君でも……彼女を笑顔にするのは不可能なのだろうね」
あまりにも見え透いた挑発であることは解っているはず。それでも彼は何も言わない。
「一度でいいから彼女に会ってみてくれたまえ。その時は私の玩具が案内するだろう……」
去り際に聞こえたのは、彼が喧しくギターを掻き鳴らす音。そして口の端を持ち上げ、歯を見せる彼の顔。
――面白そうだ。その顔はそう物語っていた。
「玩具達の歓迎を潜り抜け、そうまでして来るとはね……」
彼は見込みどおりの馬鹿者だと改めて嬉しくなってくる。
科学者――ジェイル・スカリエッティはモニターの前で歓迎するように両手を大きく広げた。

「さあ、聴かせてくれ!熱気バサラ!!」

「たった一曲のロックンロール――」
スピーカーから聞こえてくるのは、深く遠く響く歌声。
その声を聞いたその場の誰もが動きを止めた。全ての音が止み、聞こえるのは歌声だけ。
「朝焼けの彼方へ――」
何故か解った。この歌はあのロボットから出ているのだと。
「お前をさえぎるものは――」
声の後ろで静かに旋律を奏でるのはギターの音。
「何も無い――!」
そこまで歌ったところで、これまで静かだった演奏が一気に賑やかなものへと爆発した。

「この歌は……」
スバルは歌自体に聞き覚えは無いが、歌声には覚えがあった。
それは少し前の休みに、ティアと一緒に街へ出た時。その時は何となく聞き流しただけだったのだが――。
今は違う。歌詞の一言一言が。音の一つ一つが。
確かな衝動となって胸へと飛び込んでくる。
「FLY AWAY―FLY AWAY昇ってゆこう――」
エリオとキャロも胸の鼓動に戸惑っていた。動悸が激しくなっていくのは疲れのせいではない。
「TRY AGAIN―TRY AGAIN 昨日に手を振って――」
ティアナも自然にリズムを取っていた。拳はいつの間に握っていたのか。
「FLY AWAY―FLY AWAY 信じる限り――」
興奮、昂揚、熱狂。どの言葉も正しく、どの言葉も相応しくない。
唯一つ言えるのは、それが強烈なサウンドであること。周囲一帯を彼のライブ会場に変えるに足るパワーを持っているということ。
身体がウズウズしてくる。思うがままに拳を突き上げ、無性に叫びだしたくなる。
「魔力が湧いてくるみたい……」
それは錯覚ではないことを、スバルは後に知ることになる。彼の歌に心を、魂を震わせる者なら誰しもがそうなのだ、と。

反対にナンバーズ達は、胸を押さえる者、耳を塞ぐ者と様々な反応を見せる。それでも頬が紅潮しているのは、感じるものは同じということなのだろうか?
「こんなもの……認めない!」
今まで沈黙していたディエチが、手に持っていたヘヴィバレルを構えのんきに宙を飛び回るロボットに狙いを付ける。
狙撃に気付いたのか?ロボットの頭部が180°回転し、身体が折れ曲がる。
突き出た胸がスライドし、ロボットは戦闘機に手足を生やした状態となる。それでも歌うのを止めなかった。
「くっ……!」
照準がぶれてしまう。音が――快感が身体を蝕んでいく。
「その歌を……止めろぉー!」
ディエチの発射と、ロボットが手足を折り畳み急発進するのは同時だった。
戦闘機は真上に向かって伸びる砲撃を掠め、螺旋を描きながら空へと上っていき、再びロボットへと変形した。
「TRY AGAIN―TRY AGAIN―明日を愛せるさ――」
ロボットの視線と少女の視線がぶつかる。純粋な瞳同士が交差する。
これまで全く反応の無かった少女の瞳は驚きに見開かれ、頬も紅潮していた。
「『TRY AGAIN』……何度だってやりなおせる……」
誰に対しての言葉なのか、少女はそう言い残し姿を消す。そして歌に耐えられなくなったのか、ナンバーズ達も。
残ったのは歌い続けるロボットと拳を振り上げる機動六課のメンバーだけだった。

いつもの訓練やデスクワークをこなし、自室に戻ったなのはは、窓を開けて夜の街を見ていた。
殆どの明かりが消えているにも関わらず、一箇所だけ煌々と明かりが灯っている。
静かで冷たい夜の中でそこだけが熱く燃え、歓声が轟いている。
「あれって……FIRE BOMBERのライブだよね……?」
後ろからフェイトが顔を見せる。彼女も寝巻き姿に着替えていた。
「うん。そうみたい……」
それっきり二人とも黙って、今まさに始まろうとしているライブの歓声に耳を傾けていた。
「ねえ……あれってやっぱり魔法なのかな……?」
あれから何度も、レリックを追うガジェットやナンバーズとの戦いに熱気バサラは現れた。――そして謎の少女も。
彼の歌には何かある。少なくとも、魔力を回復させる作用は確認された。
管理局は、歌の調査依頼と厳重注意の為、局員が何度も廃棄都市区画のスラムのような地区に足を運んだのだが、彼の返事はいつも同じだった。
「俺の歌を聴きたけりゃライブに来な」と。
今日もシャーリーが調査に行っているが、おそらくいい結果は得られないだろう。そもそも何をどう調べていいのか解らない。
まあ、それでも彼女は経費でライブに行けると小躍りしていたが。
「解らないよ。けど……」
「けど……?」
FIRE BOMBERがステージに登場したのか、虹のようにカラフルに多くのライトが瞬き、歓声は一際勢いを増した。
「ただの歌……だと思う」
ただの歌――それでも彼はそれに己の全てを懸けている。
歌こそが、彼の力――彼の夢。
溢れるその想いを歌に、そして流線型の機体に乗せて身体ごとぶつかっていく――。
「それってなのはの好きなあの2曲の……?」
「うん……」
涼しい夜風に当たりながら、二人はステージへと目をやる。
夜を切り裂いて声が響いた。
「行くぜぇ!『PLANET DANCE』!!」
今頃、スバル達は屋上に駆け上がっているだろうか?今日という日に休みが取れないことを心底悔しがっていたから。
「バサラが……歌ってる……」
彼が雄叫びを上げることで、歓声は最高潮まで高まる――。
「FIRE!!」

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最終更新:2007年08月14日 22:04