少女は、怒りに打ち震えていた。
 目の前のモニターに映る余りにも残酷な映像。
 幼い子供が、巨大なシステムに組み込まれ母に助けを求めている。

 少女は母を知らない。
 両親と初めて出会った日、全てを忘れていた両親はお互いを憎むべき敵として認識し、そして殺し合った。
 彼女は、両親の愛を知らないままに育ち、そして知らないままにこれからの生きてゆかねばならない。
 やさしい姉達、初めてできた親友。頼りになる先輩。
 彼女には多くの愛を注いでくれる人々がいたが、両親の愛だけは知らなかった。
 だからこそ、ヴィヴィオには幸せになってほしかった。
 二人の母親に愛され、幸せになってほしかった。

 それが、目の前で蹂躙されている。
「……ゆるせません。絶対に」
 彼女の眼下にある「聖王のゆりかご」を睨みつける。
 あんな、あんなくだらないものの為に、あんなちっぽけな力の為にヴィヴィオは苦しんでいるのだ。
「六課の皆さん、私たちも援護します!」
≪リリスちゃん、ええんか?≫
「はい、イカロスで聖王のゆりかごの進路をふさぎ、ナンバーズは姉さんたちが相手をします!」
≪わかった、頼むで!≫
「姉さんたち、聞こえましたか?」
≪うん、ばっちり! ナンバーズにあたし等の実力見せてやる!!≫
≪もう一度、ヴィヴィオに私のお菓子食べてもらわないとね≫
≪奇麗なお花だって、一緒に育てる約束アル!≫
≪あいつら、サクラがあげたお人形まで壊しちゃったんだよ、許せない!≫
≪私の技術が、スカルエッティの技術に負けないって事を証明するチャンスね≫
≪ヴィヴィオとは、まだまだいっぱい話をしたい!≫
≪だから、ヴィヴィオに私たちと同じ苦しみは味あわせたくない≫
≪侵攻ルートの計画、もう出来てるよ。あいつ等の脇腹をえぐってやろう♪≫
≪彼らに、絶望の唄を歌ってあげましょう≫
≪ヴィヴィオに、生きる希望を……≫
≪……(うなづく)≫
≪あの連中の五感も思考も、全て奪ってやるわ≫
≪征きましょう、皆。私たち姉妹の力を合わせ、ヴィヴィオを救うのです。かつてXTHが私達を救ってくれたように≫

 プルトシリーズ-電脳種-と呼ばれる13人の機械の少女達。

 大ヤコブのスジン
 タダイのシエラ
 アンデレのランファ
 ペテロのサクラ
 トマスのシーリーン
 小ヤコブのメリッサ
 バルトロマイのジャスミナ
 ユダのハマン
 ヨハネのナイトフェザー
 ピリポのファーティマ
 シモンのドルト
 マタイのミリア
 マリアのエセル

 かつて彼女たちは創造主の手によって巨大なシステムの墓場に幽閉され、そこに組み込まれていた。
 だから知っている。その苦しみと孤独を。
 それが、どれほどまでに心を殺しうる猛毒なのかを。

 14人目のプルトにして最強たるリリスはゆっくりと頷き、そして自らが支配する巨大衛星イカロスに命令を下す。
 かつて己の悲しみから、世界を焼き尽くしかけたその火で、今度は怒りをもって妹を救うために。

「イカロス、発進!! 聖王のゆりかごを、地上に閉じ込めます!!」

 かくして、戦闘機人と電脳種の戦いの火ぶたは落とされた。

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最終更新:2007年08月16日 09:48