「俺の家族を…」
刀に鳩尾を貫かれながらも彼は呟いた…その様は無残そのものだった。
向こうでに転がっている超一流の戦士でさえ、彼を死のふちに追いやり、
今まさに命を奪わんとするこの男には全く歯が立たなかったのだ。
もとよりただの人間が不意をついたところで勝負になるはずもない。
「ふん」
男が嘲笑を漏らし、刀を握る手に力をこめる。
もはや勝負は決した。うっとおしい蝿どもを始末し、左腕に取り戻した「母」と共に
約束の地へと行き…この星を取り戻すのだ。男の頭にはそれしかなかった。

「俺の故郷を…よくもやってくれたな。」
彼は、自らを貫く刀身に指をかけた。もはや虫の息、それだけの
動作を行うだけでも全身全霊を持ってせねば不可能であった。
そんな僅かな動きに男は気づかない―――以前の男にはありえない油断と見落とし。
慢心と歓喜のせいだろうか?いや、そもそも彼はすでに英雄とまで
称えられた男ではない。足元をすくわれるほどの狂気にそまっていても不思議ではないのだ。
「うおおおおおお!」
「何――っ!?」
男が彼の動きに気づいた時―――いったいどこにそんな力が残っていたのだろうか―――
彼は手に力を込め自らに更に深く刀を刺した。
握り締めた刀を持ち上げ、男に持ち上げられていた足を地に着けた。
そして、さらに力を込め……男ごと刀を凪ぐように振り回した。
予想外の抵抗に男は振り飛ばされる。
弧を描いて床に叩きつけられ、ほんの一瞬だけ意識が一瞬吹っ飛ばされたようだ。

「あんたは…あんただけはぁぁぁ!」
その隙を見逃さず、間髪いれずに彼が男へと突進した。
両腕で男をがっしりとつかんで引きずり上げ、その勢いまま
押し出す―――その行き先は底の見えない奈落…
押し返す間もなく引きずられ、ついには足場が途切れて…男は光が渦巻く奈落へと
落下していった。
男を突き落とした彼も自らの勢いを殺しきれずに宙に放り出される。
その腕を掴んだのは…先ほどまで倒れ伏していた彼の親友であった。
「お前を…お前まで死なせるわけにはいかないんだよ・・・!」

全力を持って引き上げようとする戦士…しかし、戦士も男との戦いで
ダメージを負っている、加えて「彼」は生きているのがありえないくらいの危険な状態だ。
両者共に支えきれるはずもなく…男と同様に奈落の中へ落下していった。
「うわぁぁぁぁぁぁ!」


暖かい…なんだ、この感覚は?これが魔晄の本質?
まるで・・・何があってもいつかはそこへ帰って安らげる場所のようだ・・・

強靭な精神を持つ戦士とてこの心地よさにずっと身を任せていたいとの誘惑にかられる。
しかし心のどこでそれを引き止める意思があることに気づいた。
「そうだ、アイツを…アイツを助けなきゃ…アイツを助けて俺も生きて帰って…」
そう思ったとき、彼の意識は途切れた。



今回の任務は骨が折れた。
確保対象のロストロギアは「星そのもの」が保有する莫大な魔力を吸い上げる機関。
幸い不法所持している集団はその力を最大限に引き出す事ができなかったものの
未完成状態でさえ推定Sランク相当以上の砲撃を連射という真似が出来たのである。
制御が甘いのか命中精度に何があったお陰でどうにかなったがこんなものが完成したらと思うとぞっとしない。
端末兵器は無力化し、局員達に研究員も逮捕させた。機関は停止させたものの
これだけのシロモノだ、まだ安心は出来ない。
安全のため機関から局員を遠ざけ、炉心の状態を確認しなければならない。
キーを操作し扉を開けて機関内部に入る、機関停止して間もないためか外に比べて若干暑い。
通路を進むと奥のほうに緑色の光が見えた、位置的にはおそらくあれが炉心だ。
さらに進んでそれを目の前にする。先ほど見えた光は機関が吸い上げたエネルギーの残滓のようだった。
今この瞬間にも光はだんだん弱くなっている、大した魔力も感じないし暴発の危険性は無いだろう。
これほど大規模なものは自分ひとりでは封印できない、区域を封鎖させて後は専門の局員達に
任せるとしよう。
「ぐ…」
炉心の奥を覗き込もうとしたとき何かが聞こえた―――ような気がした。
そこでフェイト・T・ハラオウンが見たのは・・・大剣を持った傷だらけの男が倒れている様であった。



「彼の持つ魔素にも似たエネルギー・・・これは本人の持っているエネルギーというよりも
長時間それに晒されていた結果と見るべきかな」
白衣の男がカプセルを眺めてつぶやく
「セフィロス…ザックス…ティファ…」
「先日、爆発現場から回収してからずっとこのようにうわ言を繰り返すだけです。
精神に重度の影響をもたらす何かがあったと考えられます」
カプセルの中の彼が呻き、それを受けて白衣の男の傍らの女が言う。

「さて、この拾いものはとんだお荷物なのか思わぬ掘り出し物になるのか…どちらだろうね」
ジェイル・スカリエッティはめったに見せない険しい表情でカプセルを見つめた。

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最終更新:2007年09月19日 22:43