「第七廃棄都市区画にガジェットドローンⅡ型及びⅢ型が出現。機体数はおよそ20機」
「区画内を旋回飛行、或いは徘徊しています。出現時から変化なし」
シャーリーとルキノの報告になのはが頷く。
「数はそれほど多くないね。私とフェイト隊長、スターズ、ライトニングの新人達で行こうと思うんだけどどうかな?」
フェイトは無言で頷く。はやても特に異論はないようだった。
「ただ、廃棄都市区画には未登録でも住民もおる。建物への被害は極力避けて、避難と救助を優先するように徹底させてな?」
「うん、解ってる。それじゃ行ってくるね」
6人の降り立ったのは夜の廃棄都市区画。とはいえ、夜なのに明かりの一つも見えない全くの暗闇だ。
「ねえ、なのは。何かおかしくない?」
「うん、ガジェットが出たのに悲鳴どころか人の気配も感じない……」
皆が隠れているなら説明もつくのだが。なのはは何か言い知れない危険を感じた。
しかし何の根拠もないのに皆に話す訳にもいかない。今は自分の胸に仕舞っておこう。
「とりあえず私が空のⅡ型を叩く。皆は下の敵を。フェイト隊長はそっちの指揮をお願い」
「解った。それで行こう」
「了解!」
それぞれが散開するのを見届けてから、なのはは空に上がった。早速下では戦闘開始したらしく爆音が響いてくる。
空には10機のガジェットⅡ型がこちらへ向かっている。こちらから仕掛けるのが得策か。
夜の廃墟で戦う新人達のフォローに早く向かったほうがいい。
「行くよ、レイジングハート!アクセルシューター!」
『Yes,Master. Accel Shooter.』
レイジングハートから10を超える魔力弾が放射状に放たれる。
一つ一つが複雑な動きでガジェットに向かい、まずは半分のガジェットが貫かれて爆散した。
残りの5機はアクセルシューターを回避しながら熱線砲を発射。なのははこれを避けもせずに正面から受け止めた。それもシールドを張ることすらせず。
「もう一回……アクセルシューター!」
更に5発の魔力弾。但し今度は誘導ではなく直射。
ガジェットはこれを苦も無く回避。高機動型なだけはある。だが、なのはの狙いはそこにあった。
ガジェットを通り過ぎた魔力弾を反転させて追尾。そして最初に放った弾で生き残っているものを再び操作。
5機のガジェットは上下左右を塞がれ、敢えなく貫かれた。
「ふうっ、空はこんなところかな……」
新人達のフォローに向かう前に周囲をぐるりと見回す。夜の空は不気味なくらい静かなものへと戻っている。ただ一点、廃棄都市区画内の一画に奇妙なものを見つけた。
それは夜の闇の中でもそれと解る銀の煙。それがどうにもなのはの直感を刺激した。
「これは……」
銀の煙が闇を照らしている。その様は美しく幻想的ですらあった。
しかし逆に自分の足は動かない。これまでの戦いで培われた勘が警鐘を鳴らしている。
それでも見過ごせなかった。煙の中心には気絶しているのだろうか、男性が倒れているのだ。
有毒ガスの類かもしれない。身体は中に飛び込むことを拒否している。だが、目の前で倒れている人を見過ごすことは絶対に出来なかった。
「レイジングハート、この煙の成分が何か解る?」
暫しの沈黙の後に答えが返る。『該当するデータはありません』と。
幸い煙は深くない。バリアを張りつつ煙に入る前まで近づいて、バインドしてこちらに引き寄せることも可能だ。
少々不安だがそれしかないだろう。
なのははチェーンバインドで男性を引き寄せる。そして彼を抱くと煙から離れた。
「大丈夫ですか!?」
「あ、ああ……大丈夫だ……」
対象は30代か40代程の男性。ここの住民らしく服はボロボロだ。
呼びかけると微弱だが返事が返る。外傷も無く、顔色も悪くないし、意識もはっきりしてきた。
「あの……機械の襲撃に巻き込まれて避難してる最中に……頭を打ったんだ」
どうやら単なる失神のようだが、一応病院に搬送してもらう必要がある。このまま待機しているヘリに連れて行くか。
ガジェットに備え男性ごとバリアを展開。
そして飛び立った瞬間――ずぶりと胸に何かが突き刺さった。
「っ!?」
遅れて激痛が走る。身体から何かが抜けていく感覚も伴って。
「うめええええ!人間の……女の血だ!」
有り得ない程に大きく開かれた口から露出した注射器が、BJを貫いて血を吸っている。
注射器の中は真赤な液体で満たされ、男はそれをごくごく飲み干す。
「ああああああ……」
状況の認識が追いつかず、奇妙な感覚に力が抜けて意識が遠のく。
『Barrier Burst.』
バリアが爆発して二人とも衝撃にバランスを崩して墜落。本来はバリアの外からの攻撃に対する防御手段だが、内側への衝撃だけでも男を引き剥がすには十分だった。
男はすぐさま起き上がりなのはへと飛びかかるが、瞬時に桜色の光の輪に拘束された。
「ありがとう……レイジングハート……」
『All right.』
レイジングハートのおかげでなんとか助かったが、目が霞み意識がはっきりしない。
足はふらつき、出血は止まったがBJの胸部は赤く染まっている。
「ちぃぃぃ!もう少しだったのによぉぉ!」
男はバインドを引き千切り、注射器を口から出したまま悔しがる。
この男は何なのだろう。未だに状況が掴めないが、人間ではないこと、危険な存在であることは確かだ。
(まずは飛んで距離を取る……!)
と、視界から男が消える。そして右腕に強い衝撃が走った。
「くっ!!」
男はいつの間にかなのはの右側面に回りこんでいる。
まさか目にも留まらぬ程のスピードで動いたのか?しかもBJ越しでこの衝撃。やはり人間ではない。
「あなたは……何者なの!?」
男は答える代わりに、再びなのはの背後に回り拳を繰り出すが――。
光の障壁に阻まれ仰け反った。
思ったとおり、見えない程速くてもバリアを突破出来る力は無い。そしてその瞬間は動きが止まる。
(そこを捕らえる――!)
レストリクトロックで男を拘束。どれだけもがこうと、念入りに強固に設定したバインドを力任せに解くことなどできはしない。できはしないはずなのに。
「畜生!解きやがれえええええ!!」
男が暴れることでバインドが千切られていく。
「暴れないで!身体が壊れるよ!」
拘束を強化するとバインドは腕に食い込み、その腕から皮膚が剥がれ機械部分が完全に露出する。
(これは……ロボット!?)
そうしている内にもバインドが緩まり、男が脱出しそうになる。迷っている時間はない。
不意を疲れて血を流し過ぎた。これを解かれれば次はやられるだろう。
(やるしかない……!)
捕まえて情報を聞く必要もあったし、何より人でないとはいえ意思の疎通が可能な存在を壊すのは抵抗もあった。
それでも撃たなければ自分が殺されることになる。
「ディバイン……」
その時、彼女は選択を迫られ、そして選んだ。
「バスターー!!」
レイジングハートから放たれた光が男を包み、消し飛ばした。
後に残されたのは男の残骸である幾らかの部品のみ。これでは分析も難しいだろう。
緊張が解けると急激に疲労と眠気が襲ってきた。頭を振ってそれを振り払おうとする。まだだ、まだ倒れることはできない。
「(フェイトちゃん、そっちの状況は?)」
「大丈夫?なのは。肩貸そうか?」
なのはの顔をフェイトが心配そうに覗き込む。フェイトになのはは笑って見せた。
「大丈夫だよ、フェイトちゃん。まだ歩ける」
「そう?でもすぐに病院で治療を受けるんだよ?」
「解ってる」
自分で思っているよりも自分の身体は丈夫に出来ているようだ。少し息苦しい気もするが問題ない。
地上のガジェットの方はフェイトのフォローも特に必要無く、新人達だけで破壊できたらしい。ティアナを中心に見事に連携してみせたそうだ。
あの煙に関しても、フェイトがはやてに防疫装備の部隊の出動を頼んでくれたらしい。
「さあ帰りましょう、なのはさん。早く病院に行かなきゃ」
「スバル、急かさないの。なのはさん怪我してるんだから」
ヘリの方ではスバルをティアナが諌めている。
彼女達はいいコンビだ。性格も戦闘スタイルも互いを補い合っている。
このまま行けばもっともっと強くなれる。
少し苦しくなってバランスを崩しそうになるのを咄嗟にエリオが支えてくれた。横ではキャロがずっとヒーリングを掛けてくれている。
「大丈夫です、なのはさん。僕が支えてますから」
「傷はちょっと深いですが、少しは楽になると思います」
二人もまだ幼いのに、しっかりとした目標を持って頑張っている。きっと優秀な魔導師になるだろう。
「ありがとう。エリオ、キャロ」
でもまだまだ四人とも未熟だ。教えることは山程ある。その為にも早く傷を治さなければ。
でも今はとにかく休みたい。やはり血を出し過ぎたのか段々と息苦しくなってきた。
数歩進んだ時、唐突になのはの足が止まった。
「どうしたんですか?なのはさん……」
最初に異変に気付いたのはキャロ。
「なのはさん、辛くなったなら皆で――」
覗き込んだエリオがそれを確信する。
彼女の顔は蒼白で、全身が小刻みに震えていた。
「なのはさん!!」
その声に全員が振り向く。
崩れるようになのはは膝を着いた。エリオが支えなければ横に倒れていただろう。
「なのはさん!?」
ティアナとスバルも駆け寄ってくる。
いつも誰かに差し伸べられた彼女の手は当てどなく彷徨った後、自らの首を押さえた。
「なのは……?」
全身の震えは更に激しくなった。目は驚きによるものか見開かれ、瞳は地面の一点だけを見つめている。
口は固く食い縛ったり、或いは金魚のようにぱくぱく開いたりを繰り返す。
そして、ようやく彼女の口から出たのは――言葉ですらなかった。
〈ぜひ〉
予告?
- ミッドチルダ 機動六課隊舎 『高町なのは×フェイト・T・ハラオウン』
あの日から二日――たった二日間で全てが変わってしまった。
なのはは、部屋でできる事務だけをこなしている。このままでは教導官の仕事にも支障が出てくるだろう。
泣かせるといけないから、とフェイトやヴィヴィオとも別の部屋へと移った。そして毎日不定期に襲ってくる発作に苦しむようになった。
〈ぜひ!ぜひ!〉
「なのは!」
喉を押さえて悶えるなのはをフェイトはただ抱き締めることしかできない。
「大丈夫……〈ぜひ〉……大丈夫だから……」
そう言って彼女は気丈にも笑ってみせる。本当は自分が笑ってあげないといけないのに。その言葉は自分が掛けるべき言葉のはずなのに。
どれだけ口の端を持ち上げようとしてみても、涙が溢れるばかりで笑うことができなかった。
- ミッドチルダ 機動六課隊長室 『フェイト・T・ハラオウン×八神はやて』
「フェイトちゃん……。なのはちゃんには治療法が解らないことは……」
「話したよ……。なのはがそれで絶望するはずないもの……」
「海鳴のことは……」
「話せるはずないじゃない……!」
なのはは自分のことは耐えてしまう。でも他人の痛みには特に敏感なのだ。
もしかしたら彼女の心が挫けてしまうかもしれない。
なのはには海鳴で静養することも考えた。だが彼女の帰る場所は、今はもうここしかない。
「ねえ、はやて。私を地球に行かせて。海鳴のこと、あの病気のことを調べてくるから!」
「それはあかん……。なのはちゃんが戦えへんのにフェイトちゃんまでミッドを離れたら……。カリムも動いてくれてる。病気はそっちに任せよ?」
「海鳴のことは……?」
病気のことはミッドのことでもある。だが海鳴は違う。管理局は動いてはくれない。
「ともかく……今フェイトちゃんが隊を離れるのは許可できへん」
「はやてはいいよ……。シグナムもヴィータもシャマルもザフィーラも。はやての家族は皆ここで元気なんだもの……」
こんなことを言いたい訳ではないのに、一度堰を切ったらもう止まらない。
「はやてにとって海鳴はもうどうでも――!」
パァン!乾いた音が部屋に響いた。
頬を叩かれたと気付くのに数秒を要した。見えていたはずなのに、避けることができなかった。
それは彼女の目にも大粒の涙が滲んでいたから。
- フランス カルナック 『加藤鳴海×エリオ・モンディアル』
傷だらけになりながらも、その背中は雄雄しく逞しかった。自分には無いが、父や兄の背中というものは、きっとこういうものなのだろう。
「僕も……鳴海さんみたいに強くなれますか?」
彼は頭から血を流しながら力強く笑った。
「ああ、なれるぜ。俺よか強くよ!」
・日本 仲町サーカス 『才賀勝×キャロ・ル・ルシエ』
「坊ちゃま……今、何と仰いましたか?」
「だからさ、僕としろがねとリーゼさんで。ううん、仲町サーカスのみんなの芸でキャロちゃんを笑顔にしてあげようよ!」
「キャウ!」
勝の耳元で白竜が鳴いた。当の飼い主は少し離れた場所に暗い顔で俯いている。
「ごめんごめん。勿論フリードも一緒だよ」
フリードは一鳴きして勝の頭に止まる。
「僕達芸人がしょぼくれた顔してちゃ、絶対にお客さんは笑ってくれないよ。ゾナハ病でもそうじゃなくても――笑うって楽しいことでしょ?」
- 日本 パピヨンパーク 『アリサ・バニングス×パピヨン×月村すずか』
彼女はまだ制御に慣れていないのか、ぎこちない動きでくるくる回りながら下りてくる。
「アリサちゃん……」
舞い散る純白の羽根に黒死の蝶が寄り添った。手を貸すわけでもなく面白そうに眺めている。
「どうだい、気分は?」
蝶人パピヨンがアリサに問う。
「鳥サイコー……なんて言う訳ないでしょ」
「なんだ、言わないのか」
パピヨンはわざとらしく残念がってみせた。
- ミッドチルダ 機動六課隊舎屋上 『エドワード・エルリック×スバル・ナカジマ』
「ねえ、エドはやっぱり元の世界に帰りたいの?」
「ああ、待ってる奴もいるしな」
待ってる奴――その言葉に何故か胸が疼いた。
「少なくとも、俺の知ってる方法じゃ行き来は難しいし、しちゃいけない。だから……帰りたいんだ」
エドは機械の右腕を撫でた。彼が想っているのは失くした本来の右腕なのか、それとも――。
大切な人と離れ離れになって会えなくなる辛さ。それを今、初めて実感を持って想像できた気がする。そして彼がたまに見せる寂しげな表情の意味も。
- 同上 『アルフォンス・エルリック×ティアナ・ランスター』
物陰から大きな影が一つ、語らう二人を覗いている。
「ティアナさん。あの二人ってもしかして……」
「どうかしら?あの子はその手のことに鈍いから……」
「兄さんもそっち関係はとことん疎いからなぁ……。ところで……何でティアナさんは僕の中に入ってるんですか?」
「……隠れる場所が一つしかなかったからよ」
「そんなに覗きたかったんだ……」
ホムンクルスが徘徊する街をカズキと斗貴子は駆け抜ける。面倒だが、一軒ずつ失敬してホムンクルスとゾナハ病の罹患者を確かめる。その内の一軒で彼はそれを見た。
ゾナハ病に罹り倒れている母親と、扉の向こうで泣いている双子の子供。
扉を開くと、まだ1歳か2歳程度の双子が這いながら母親に寄り縋って泣き出す。
「この子達はゾナハ病じゃないのか……?」
「そうみたいだ。この人は子供を守ってたんだ……。でもどうやって?」
化け物が徘徊する街で、自分のことも顧みず、たった一人で子供を守る。それがどれほど恐ろしいことか想像するまでもない。
暫く俯いていたカズキが顔を上げて、双子の頭に手を置いた。泣き喚く双子をあやすようにそっと撫でる。
「オレにはお母さんを助けてあげることはできないけど……。でも、絶対にこれ以上傷つけさせないから。
こんな病気をばら撒くのを止めさせてみせるから……」
「カズキ……」
「大丈夫!何を隠そう、オレは『正義の味方』の達人だ!」
彼は子供達の為に笑って見せた。その妙な日本語も彼が言うと何故か説得力がある。
ただ、斗貴子には子供達に見せたその笑顔は今にも泣きそうな顔に見えた。
背後――玄関の辺りでガラスの割れる音が聞こえた。ゾナハ病の人間を喰わないよう作られたホムンクルスが食物を漁りに来たのだろう。
「斗貴子さん……三人を頼む」
双子は不安げにカズキを見上げ、斗貴子は双子の前に回りこんでそれを遮った。
この子達が今のカズキの顔を、怒りの形相を見る必要はない。この子達が見るのは、ただ山吹色〔サンライトイエロー〕のキレイな光だけでいい。
「大丈夫だから……。君達はお母さんに付いて笑っていてあげなさい。きっとそれが一番嬉しいだろうから」
斗貴子は優しく頬を撫で、カズキの分も微笑む。双子は気持ちよさそうに目を細めた。
玄関には案の定、醜悪な蝶整体の姿。カズキはきつく、握りつぶさんばかりに強く左胸を掴んだ。いつになく昂っていることが自分でも解る。
「武装錬金!」
闘志に呼応して形を変える突撃槍〔ランス〕の武装錬金『サンライトハート』は、現在そのほとんどをエネルギーで形成し、身の丈以上に巨大化している。
カズキはゆっくりとサンライトハートを構え、山吹色の光を噴出させた。
「貫け!オレの武装錬金!!」
瞬間、そこに爆発的な速度が生まれる。蝶整体の動きよりも速く、巨大な光の槍はそれを粉砕した。
貫いた勢いのまま外へと飛び出すと、外には既に無数のホムンクルスが集まっていた。
カズキは怒りの眼で睨みつけると、再びサンライトハートを構える。槍は彼の心を表して、更に強くエネルギーを迸らせる。
「エネルギー全開!サンライトスラッシャァァァァァ!!」
無数の機影を前に彼女はたった一人だった。左手で喉を押さえ、荒い息を吐いている。
「(なのはさん!無理です、戻ってください!)」
通信の声になのはは首を振る。空間モニター越しの彼女の顔は泣いていた。
「(駄目だよ、シャーリー。陸の局員のほとんどがゾナハ病で動けないんだから……。〈ぜひ〉私がやらなきゃ……)」
「(でも……なのはさんだって!!)」
「(フェイトちゃんもはやてちゃんもいないんだもん……。〈ぜひ〉私しかいないから)」
言葉に出すことで改めて実感する。共に戦ってくれる、支えてくれる仲間がいないことを。それでも泣いている彼女に向かってなのはは力無く笑った。
「(皆の帰ってくる場所はここなんだから……。〈ぜひ〉だからもう少しだけ守らせて、ね?)」
「(はい……)」
彼女は一言だけ答えて通信を終了させた。きっと向こうでまた泣いてるだろう。
「行くよ……!レイジングハート!」
『All right.』
この病気が広がってから、皆が笑うことが少なくなってしまった。それもそう、大事な人が苦しんでるのに笑うことなんてできるはずない。
「スターライトォ――」
だから、せめて病気の私が笑ってあげたい。大丈夫だ、って。
今は近くに笑ってくれる人はいないけど、こうやって戦っていればきっと――。
「ブレイカァァァァァ!!」
私にじゃなくても、いつか誰かが笑ってくれるから。
静まり返った舞台。道化が舞台の袖より中央へと歩み出る。恭しく右手を差し出して一礼。
「病に倒れた高町なのは。今は翻弄させるばかりの加藤鳴海。ミッドに鍵を求めるエドワード・エルリック。そして未だ姿を見せぬ才賀勝と武藤カズキ。
果たして彼らの運命はどのように交錯してゆくのか、どのような形で相見えるのか……。
これは高町なのはの復活の物語」
そこで道化は一旦言葉を切って咳払い、懐を探り出す。
「さて、ここに於いて皆様のお目を"これ"に転じていただきたい」
道化が握っているのは小型の通信機のような物。片側には小さなタービンが付いている。
「そう、アクセルラーで御座います。覚えておいででしょうか?それはもう一つの物語。
果て無き夢を追い求める冒険者、その意味に思い悩む烈火の将と鉄槌の騎士の物語。
未だ答えを見出せず苦悩する二人は、続きを綴られるのを今かと待ち望んでおります。次回よりはその続きを追っていただくとしましょう。
彼女らの冒険を望むゴールへと導く為に。そしてこの物語をより昇華させる為に、どうか暫しのお時間を。
この続きはその後に語ると致しましょう。
どうぞ今後とも鷹揚の御見物を御願い申し上げます」
左右から緞帳が迫り、やがて舞台を覆い隠さんとする。
「では、『なのは×錬金』はこれよりほんの暫くの間――『一時閉幕』と相成りまする」
閉まりきる直前に道化は火花を散らしてタービンを分厚い緞帳に走らせ、同時に完全に幕を閉め切る。
幕の隙間から垣間見えたのは、真赤なアクセルスーツを纏った冒険者――。
⇒『なのは×錬金』
最終更新:2007年09月30日 15:58