高町なのは、フェイト・T・ハラオウン、八神はやて、共に19歳。アリサ・バニングス、月村すずか、と同様に私立聖祥大学の1回生である。
夜空を見上げる度になのはは思う。この空が偽りでさえなければ或いは、と。

昼は変わらなくとも、青みの少ない夜空は飛んでいてもどこか濁っている様な気がして閉塞感を感じさせる。
輝く星達は不規則に瞬き、流れていく。透き通る様に青い本当の空と美しい星は彼女の前から、いや世界から失われた。
何故そう思うのかは解らなくとも、確かに薄紫に曇った今の空は昔の空とは違う。
誰もが理由は知らねども原因は知っている。それは10年前に地球を貫く光と共に突如開いた巨大な穴、東京の地獄門〔ヘルズ・ゲート〕、ブラジルの天国門〔ヘヴンズ・ゲート〕。
この二つの門が世界から本物の空と宇宙への道を奪った。空は人類を拒絶し、人が行けるのは成層圏まで、人工衛星は使い物にならなくなってしまった。
政府はヘルズ・ゲートのその最奥にあるものを隠すかの如く、壁を築いた。直径にして10kmの範囲が500mを越す巨大な壁で覆われ、更に外側2kmも立ち入ることはできない。
故にその最奥に何があるのか、誰も知らない。

門の出現によって奪われたものは空だけではなかった。おそらく、知っているのはなのは達だけだろう。
惑星を覆う天蓋は別世界への道をも閉ざした。
偽りの空はなのは、フェイト、はやて、その家族、そしてなのはを訪ねたユーノ・スクライアごと人々をこの世界へと閉じ込めてしまった。全ての通信手段も転移魔法も通用しない。
10年の時が流れても管理局が動いた気配はない。動いていても解るはずもない。
もしも空がこうでなければ、今頃ミッドチルダで本格的に管理局の仕事に就いていたかもしれない。そう思うと少し胸が疼く。
今でも錆び付かない程度に魔法の訓練は怠っていないし、人を助ける為にこの力を使うこともあった。だが仕事と呼ぶには程遠くほとんど趣味に近い。
考えて答えの出ることは無いが、この空が自分の未来を変えてしまったのかもしれない――そう思えてならない。

だが、人はどんな状況にも慣れてしまう。空が変わっても、人々の営みに起きた波紋はやがて収束し、日常を適応させていった。それはなのはも例外ではない。
唯一『天国戦争』と呼ばれたヘヴンズ・ゲートを巡っての戦争を除いては。
5年前に起きた激しい戦争は謎の発光現象、それにより門から半径1500kmが世界から分断された不可侵領域へと変じた『天国門消滅事件』によって勝者のいないまま終結した。
その夜のことは今でも鮮明に覚えている。記憶にあるのは空を埋め尽くす流星群。
あの夜、なのはも無数に流れる幾千万の星を一晩中眺めていた。一つ一つ消えていく星の輝きはまるで消えゆく命のように哀しげで儚げだった気がする。

10年前、不可解な事件や犯罪が急増した。常人には到底不可能なはずの事象が世界中で起こり出したのだ。
なのはもそれを目の当たりにしたのはつい最近だったが。
ひょんなことから、ある事件を独自に追った際、黒衣に身を包んだ仮面の男と出会う。仮面の男は腕から青白い電気を発生させ、なのはの追っていた犯罪者を殺害。
男は息絶える寸前に仮面の男を指し『黒の死神』と言い残した。
仮面の男も犯罪者も、『契約者』と呼ばれる存在だと知ったのはずっと先の事だ。

次の日、翠屋に新しいアルバイトの青年が雇われた。名前は李舜生〔リ・シェンシュン〕。
留学生らしい彼は大人しく、且つドジで放っておけないような、そんな好青年。
彼が現れた日から、彼女と彼の頭上にはある星が瞬き出す。昏い輝きを放つ星は見上げる度、何故かなのはの気を引いて止まない。
その星の名〔メシエ・コード〕――『BK201』と共に。

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最終更新:2007年10月14日 12:39