第十三話「悪あがき」
12月14日 0910時
???
今、海鳴市で一番怒っている人は誰か?と問われたら八神さん家のヴィータちゃんと答えるだろう。
それも、まあ仕方の無いことではある。
今日の朝になって、あの傀儡兵を使うこの世界の傭兵と共同戦線を張ることになったと
ヴォルケンリッターのリーダーたるシグナムから、いきなり告げられたのだ。
アタシは何にも聞いてないぞ!と突っかかってもシグナムは、さらりと受け流すだけだった。
(アタシだけハブられてたのかよ!?)
話を聞いていくうちにシャマルやザフィーラもこの件について知っていたらしい。
まさか、自分が仲間から隠し事をされるとは夢にも思っていなかったヴィータの怒りは最高潮に達していたのだが
はやてがいる前で言うわけにもいかず、そのまま家を飛び出してしまったのだった。
さて、今ヴィータの回りは闇に包まれている。
かといって、落ち込んで雰囲気が暗くなっているわけではない。
物理的に光が入ってこないだけなのだ。
(シグナムやシャマルを騙せてもアタシは騙せないぜ)
重度のバトルマニアである烈火の将や、どこかうっかりとした所がある泉の騎士が
騙されているのだということはすでに紅の鉄騎の頭の中では決定事項であった。
(必ずシッポを掴んでやるぜ・・・あ、イテッ)
グッと拳を握り締めるヴィータ
だが、その直後ヴィータのいる所がガクンと縦に揺れ、ヴィータは頭を強く打ってしまう。
その衝撃に涙目になりながらも、ヴィータは証拠を掴む為にここに潜伏し続ける。
そう、宗介が運転する車のトランクの中に・・・・
さて、何故ヴィータが宗介たちの車のトランクに乗っているのか?
時間は少し前に遡る。
宗介が出発の準備を終え、泉川に向けて発進しようとした時に
うっかり自分の部屋の鍵をセーフハウスに置きっぱなしにしているのを思い出したのだった。
幸いにして出発前に思い出したので、ドアを爆破して部屋に入るなどということは回避されたのだが
宗介は自分らしくないと自戒しながら鍵を取りに行くためにクルツたちがいるビルに戻った。
そして、その光景を見ていた一つの小さな影・・・
た ま た ま、この道を 散 歩 していたヴィータは宗介が帰ってくる前に車に近寄り遠隔操作でトランクのロックを開け、中に入ろうとする。
しかしトランクの中には大量の火器が入っており、ヴィータは思わずウゲっと顔を歪めるのだが
エレベーターが動き出したのを見て、慌てて銃器の隙間に体を押し込めトランクを閉める。
それと同時にエレベーターのドアが開くのだが、まさにタッチの差でトランクが閉まるところは宗介の目に入らなかった。
宗介自身も、まさか武器が満載しているトランクの中に護衛対象が隠れているなど夢にも思っていなかった。
12月14日 1356時
時空管理局無限書庫
あれからレティ提督に管理局の制服を無理やり着替えさせられ無限書庫に連行された。
なんだか提督の目が異様に輝いていたが、気付かないふりをすることにした。
「あの~」
「なあに、ユーノ君?」
大量の書類を捌きながら、無限書庫の古文書を読むユーノは作業の手を休めてレティ提督に声をかける。
「なんで管理局の制服に着替えさせられたんですか?」
「仮にも管理局の内部文書に目を通すのよ?一般人に見せれるわけないじゃない」
もちろん知る権利を行使すれば管理局に資料請求してある程度の書類に目を通すことはできる。
しかし、時空管理局は混沌とした次元世界に睨みを利かせている軍事組織としての一面も持っている。
機密の二文字の元に目を通すことを阻まれる書類もたくさんあったりする。
ユーノが目を通しているのはそういう物だ。
「それは理解できるんですけど・・・あ、この書類とこの書類の数字が一致してない」
何か言いたそうになるがうまく言葉にならず、作業を再開するユーノは書類の不備を発見する。
のちにこの数字の食い違いから、巨大横領事件が発覚するのだがそれはまた別の話である。
「スクライア一族って、みんなこんなに優秀なのかしら?うちの部署にもうニ、三人ほしいわ」
「僕の一族は論文を読むか書く以外で机に座るのが苦手なんですよ
だから多分、勧誘しても無理だと思いますよ?」
スクライアは遺跡から遺跡へと渡り歩く流浪の一族
一箇所に落ち着くということを全くと言っていいほど考えていないのだ。
「それならユーノ君はスクライアの中でも変わり者の部類に入るのかしら?」
「そうかもしれません」
苦笑いしながらユーノはレティ提督の意地悪な言葉に答え、新しい古文書に手を伸ばす。
分厚い古文書を僅か十数分で読み終えることができる検索魔法と速読魔法
スクライア一族の門外不出の秘術である。
「僕からもいいですか?」
「なあに?できる限り答えるわよ?」
「今回の事件で、身内を疑ってるんですよね?」
古文書から目を離し真っ直ぐ提督を見据えるユーノ
「・・・念話に切り替えましょう」
無限書庫は無人だが、どこに人の耳があるか分からない
こうして分かりやすいように調査しているのだから、後ろ暗い奴が一人や二人が監視してる可能性もある
(じゃあ、話すわね。身内といっても管理局にも派閥はあるのよ。穏健派に武闘派、海と陸
その他諸々・・・
今、海は穏健派がイニシアチブを握ってるけど、それをよく思わない連中は無視できない程度にはいるの)
(その人たちが、『闇の書』を手に入れようとしていると?)
(それはまだ分からないわ。でも、魔法文化のない第97管理外世界の軍人が結界内に侵入できるのは
何者かの手引きがあるんじゃないかって、私やクロノ君は考えてるの)
(でも、それでなんで身内を疑うことになるんです?)
(あまりにうまく行き過ぎてるからよ。こんなに見事な術式の改竄なんて見たことないわ。
だから管理局の手口を一番よく知っている連中が絡んでるんじゃないかと思ったの)
管理局が捜査の手口、人避けの結界を張って当たり一帯を封鎖するなどなど
これらの手法を一番よく理解してるのは、誰であろう管理局をおいて他にない。
「まあ、そうでなければ一番いいんだけど。私の仕事は身内を疑うことだから」
運用部と監査部を統括するレティは少し悲しそうにため息をつき、机の上に置いてある紅茶を啜った。
12月14日 1516時
セーフハウス
宗介はラジオを聞きながら自分のリビングに並んだ火器と睨めっこしている。
どの武器が、あの非常識の塊に対して有効であるかを考えていた。
M9の戦闘記録を見る限り、チェーンガンレベルなら問題なく奴らの装甲を抜くことができそうだ。
ゆえに同じ12.7㎜弾を使う対物ライフルは持っていくことを決めていたのだが
サイドアーム関連も真剣に考えとくべきだ。
「あの黒衣の魔導師相手・・・シャマルが言うには執務官とやらにサブマシンガンの弾は利かなかった。
しかし、不意打ちで貫通力の優れた武器ならばあるいは・・・・」
そういって100メートル先にあるボディアーマーを貫くことができるとされるベルギー製の自動拳銃を拾い上げケースに収める。
その他にもC4爆薬やクレイモア地雷、グレネードランチャーなど色々な武器を見繕っていく。
「単純に大火力で相手をねじ伏せるのも、一つの手だが・・・」
12.7㎜弾を使う重機関銃は歩兵が持って撃てるものではない。
反動や火器そのものの重さなど、様々な問題点があるのだ。
「俺たちも奴らのようにバリアジャケトなるものでもあればな」
いや実際ASは乗る兵器ではなく着る兵器、つまり強化服のようなものなのだ
いわば、こちら側のバリアジャケットがASという考えもあながち間違っていない気もする。
「AS、強化服・・・・・」
あるではないか、ASのパワーアシスト機能と高い防弾性を兼ね備える装備品が
宗介は手をポンと叩き、近くの貸し倉庫に眠っているとある売れ残り商品を引っ張り出す必要が出てきた。
ちょうどそのとき、ラジオからあるニュースが流れてきた。
どこぞの国で開かれている国際会議で、とある兵器を廃絶する為の条約が結ばれるようだ。
その兵器は広い範囲の敵を殲滅するのに非常に有用だが、不発弾となる割合が多く
民間人に被害が出るため非人道的だというのが理由らしい。
「排除されるべきもの・・・」
では、『闇の書』はどうなのだろう。
12日に起きた戦闘で自分達は『闇の書』力の一端を見た。
あの魔力爆撃での物理的被害はなかったが、シャマルに言わせればそういう風に設定したからだそうだ。
つまり、物理的被害も出そうと思えば出せると言うことだ。
しかもまだ『闇の書』は完成していない
もし完成した時どれほどの破壊力を発揮するのか宗介には想像もできなかった。
「忘れろ。俺は最後まで任務を果たすしかない」
頭を振り、必死にそのことを頭から消そうとしたが脳裏にこびり付いたそれを忘れるのことは無理だった。
ピリリリ・・・ピリリリ…ピリリリ
着信音、自分の携帯が鳴っていることに気付いた。
「相良だ」
『ソースケ?私』
もう二週間以上聞いていない声だが、それが誰であるか宗介はすぐに分かった。
「千鳥か。どうかしたのか?」
『いや、どうかしたのか聞きたいのはこっちよ』
かなめの言葉に首をかしげながら、宗介は話を聞く。
なんでも今日の学校に自分とクルツの写真を持った男が来たらしく
この人達のこと何か知らないか?とかなめに聞いてきたという。
『一応、曖昧にとぼけといたけど』
「賢明な判断だ。それでその男はどうした?」
『さあ?そのまま帰っちゃったけど』
不機嫌な声が携帯の向こうから聞こえてくる。
どうやら、ハイジャック事件での嫌な記憶が蘇ったらしい。
「それについては謝罪する。すまなかった」
「・・・もういいわよ。特に変な事されたわけでもないし
それより、あんた今度は何したのよ?」
宗介はしばらく押し黙った。
任務内容は話せない。
当然だ。情報漏洩になる上に、どこに耳があるとも知れない。
だが――――――――――――
「千鳥・・・俺は今、護衛任務についている」
俺は何をしている?こんなことを千鳥に話しても何になるというのだ?
それにこれは重大な機密漏洩をしているのだぞ。これではプロ失格ではないか。
だが、それでも宗介は喋らずにはいられなかった。
それから宗介は自分が今していることを、かなめに話しはじめた。
その護衛対象達が所有している物が危険なものであること
過去、何度もそれのせいで被害が出たらしいということ
しかし、それを完成させなければ一つの命が失われてしまうということ
そのために護衛対象のうちの数人が、東奔西走しているということ
細かい説明は省いている上に、言ってることは滅茶苦茶だということは承知だ。
それでもかなめは黙って、話を聞いてくれている。
「今までの俺なら、何の疑問もなく護衛対象からその危険物を奪取して破壊しただろう。
だが、今回はどうしてもそれができなかった。こんなことは初めてだ」
一、二分の沈黙の後、かなめはそっと話し始めた。
『・・・あたしには深い事情がよく分からないし、あんまり要領を得ないけど
ソースケは、あたしを殺したいと思ったことはある?』
「何を馬鹿なことを、俺が君を殺そうなど・・・」
かなめの問いに宗介は、即座に否定の言葉を返す。
北朝鮮の山中で確かに自分たちを置いて一人で行かなければ殺すと言ったが
それは彼女に行動を促すための脅しの部分が多かった。
『でもね、ソースケ。あたしはウィスパードなんだよ』
ウィスパード―――ラムダドライバなどを支えているブラック・テクノロジーの源泉
その技術を欲しがる連中から自分は千鳥を守るためにミスリルから派遣されたのだった。
『実感はないけど、あたしの中にも、それがあるわ。
その知識が悪用すれば、どんな酷いことも起こせる・・・』
そう例えば、西太平洋戦隊が運用している強襲揚陸潜水艦は、あの米海軍ですら探知できない。
それはつまりテッサがその気になれば世界中のありとあらゆる都市や基地を
誰にも気付かれずに消滅させることが可能ということだ。
冷戦を灼熱の最終戦争に変えることもできるだろう。
『あたしはその人達のことをよく知らないけど、結局は使う人によるんだと思うの。
・・・それにそういうことはソースケが一番よく分かってると思ってたんだけど?』
その言葉にハッする。
そうだ。自分は戦場でその様な光景を幾度も見てきたではないか。
危険性?
確かにそれはいつでも付きまとう。
そう、いつだって何にだって付きまとうのだ。
『って、なに偉そうに言ってんだろ、あたし。ゴメン、今のは忘れて』
「いや・・・・」
千鳥と話して自分が何に迷っていたのか分かった。自分は、あの騎士達と自分を重ねて見ていたのだ。
どんなことをしても、どんな困難に遭おうとも大切な人を守りたいと思うその姿に自分もこうありたいと、思っていたのだ。
だから、彼女達から『闇の書』を奪うということに迷った。
それをしてしまえば自分と千鳥も同じような運命を辿るのではないか。そう漠然とした思いに自分は圧迫されていた。
「いや、千鳥。ありがとう」
どうやら自分は諦めが良すぎたようだ。全く、北朝鮮の山中や香港で一体、何を学んだのか。
確かに『闇の書』は危険なものかもしれない。
だが、それはそういう風に使おうとする意思があってこそだ。
ならば自分達は、彼女たちが『闇の書』を使わなくていいような環境になるまで
つまり『闇の書』が完成するまで、今の任務を続ければいい。
それでも不安なら大佐殿に自分達が海鳴を去った後でも情報部が彼女たちを護衛、監視できるように頼めばいい。
もしくは自分達が手引きをしてミスリルの庇護下に入ってもらうか・・・これは相手の同意が必要だが。
とにかく打てる手は、まだまだたくさんある。諦めるには早すぎる。
ならば自分は続けるべきだ、悪あがきを・・・・
『そう?まあ、あんまりクヨクヨ迷ってるのはソースケらしくないもん。
いつもみたいに、問題ないって感じにしてればいいのよ。
あ、あと早めに帰ってきなさいよ。追試を合格しなくちゃ一緒に3年に上がれないんだからね?』
その言葉に宗介はフッと笑い、かなめの注文どおりこう答えた。
「問題ない」
最終更新:2007年10月14日 07:52