第5話「暗黒の魔の手」


アスカ=シン―――ウルトラマンダイナの乱入。
それも闇の書側につくという事態に、誰もが動きを止めて驚くしかなかった。
それは、もう一人のイレギュラー―――黒尽くめの男にとっても同様である。

「……多次元のウルトラマンか。
これは確かに、イレギュラーだな……」

メビウスがこの世界に現れたのは、重々承知していた。
その上でなおも、全ては筋書き通りに運ばれていたはずだった。
しかし、黒尽くめの男にとってこの事態―――ダイナの参戦は、完全な予想外であった。
この世界に、ウルトラマンは存在しない筈。
異次元での戦いにより、この次元世界へと転移してしまったメビウスが唯一の存在だった筈。
自らをダイナと名乗ったウルトラマンが、ならば何故存在しているのか。
その理由は一つ……彼もまた、別世界のウルトラマンであるということだ。

「出来る事ならば、まだ介入はしたくなかったが……やむをえんな。」

男の掌から、黒いガス状の何かが湧き上がってくる。
そのガスの名は、宇宙同化獣ガディバ―――男の意のままに動く、一種の生物である。
男が見つめる先にいるのは、結界を破壊すべく魔力を集中させているなのは。
予定よりも少しばかり早いが、驚異的な相手が増えてしまった以上、チャンスは今しかない。

(ましてやあのダイナと名乗るウルトラマンは、闇の書側にいる。
メビウスよりも下手をすれば危険だ……あの二人だけでは、役不足かもしれん。)



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「デャァァァァッ!!」
「ジュアッ!?」

メビウスvsダイナ。
ウルトラマン同士での争いという、まさかの事態……優勢なのは、ダイナであった。
ダイナの方が優勢な理由は、ウルトラマンの戦闘方法の根源にあった。
ウルトラマンは、人知を遥かに超える多彩な光線技や超能力を持つ。
ならば、何故それを駆使して最初から勝負に出ないのか。
その理由は、エネルギーの消費を抑えるためであった。
ウルトラマンとて、永続的に戦えるわけではないのだ。
かつてダイナは、人工的にウルトラマンを作り出す計画――F計画の為に、利用されたことがあった。
その結果、人造ウルトラマンテラノイドが誕生した。
しかしこのテラノイドは、実戦においてとてつもない失敗を犯した。
テラノイドは、光線技を乱発しすぎ……すぐにガス欠を起こして倒されてしまったのである。
これはテラノイドのみならず、全てのウルトラマンに共通する問題である。
事実メビウスは、かつてニセウルトラマンメビウス―――ザラブ星人と敵対した際。
テラノイドと同様のミスを犯し、後から現れた異星人に打ち倒されてしまった経験があった。
だから、彼等が光線技を使うのはここぞという時ばかりなのだ。
それ故に、二人は格闘戦において戦闘を繰り広げていたのだが……単純な身体能力では、ダイナが勝っていた。
彼の豪快なパワーに、メビウスは圧倒されていたのだ。
メビウスにとって、これ程格闘戦で追い詰められることは久しぶりであった。

(レオ兄さんやアストラ兄さん並だ……いや、パワーだけならもっと……!!)
「デャァッ!!」
(けど……それだけで全部決まるわけじゃない!!)

ダイナは加速の勢いに乗せ、全力の拳を突き出してくる。
命中すればタダではすまない……防御か回避か。
普通ならば、この二択のどちらかを取るのが当然である。
しかし……メビウスはそのどちらも取らなかった。
三つ目の選択肢―――カウンターを選んだのだ。
メビウスブレスの力が解放され、左の拳に集中される。
ライトニングカウンター・ゼロ。
メビウスブレスのエネルギーをプラズマ電撃に変えて、零距離から敵に叩き込む必殺の一つ。
ダイナの一撃に合わせ、メビウスは左の拳を突き出した。
狙いはクロスカウンター……当然ながら、命中すれば半端ではないダメージが乗る。
そして、先に攻撃を命中させたのは……


ドゴォォンッ!!


「デュアアァァァッ!!??」
「セヤァァァァッ!!」

紙一重の差で、メビウスの一撃が先にダイナを捉えた。
ダイナはパワーこそメビウスに勝っているものの、テクニックではメビウスに劣っていた。
ライトニングカウンター・ゼロの直撃を受け、後方のビルへと勢いよく吹き飛び、派手に激突する。
粉塵が巻き起こり、ダイナの姿がその中へと隠される。
今の一撃で、確実に怯んだ筈……倒すならば今しかない。

「ハァァァァァァァッ……!!」

メビウスは右手をメビウスブレスに添え、大きく腕を開きその力を解放する。
その瞬間、∞の形をした光が一瞬だけその姿を見せた。
そして、メビウスは腕を十字に組み、必殺の光線技―――メビュームシュートを放った。

「セヤァァッ!!」

ダイナを殺すつもりはない……だが、手加減して勝てる相手ではない。
そう判断したが故に、メビウスは敢えて全力で挑んだ。
メビュームシュートが直撃すれば、ただではすまないだろう。
今まさに、命中の瞬間が迫ろうとしていた……しかし。

「デュアァッ!!」
「!?」

粉塵を突き破り、蒼白い光線がその姿を現した。
ダイナは怯んでいなかった。
いや、怯んではいたかもしれないが……すぐに復活を果していたのだ。
そして、メビウスがメビュームシュートを放とうとしたのを感じ……とっさに同じ行動を取っていたのだ。
ダイナ必殺の光線―――ソルジェント光線。
両者の光線が、空中でぶつかり合った。
威力は互角……両者共に、鬩ぎ合っていた。

「クッ……ウオオオオォォォォォッ!!」
「ハアアァァァァァァァァァァァァァッ!!」

二人は光線に全力を注ぎ込み、相手に打ち勝とうとする。
光線の勢いは強まるが……それでも互角。
このままでは埒が明かない。
そう思われた……その瞬間だった。
二つの光線が、鬩ぎ合いに耐え切れなくなったのか……爆ぜたのだ。
強烈な爆発が起こり、メビウスとダイナはその余波で大きく吹き飛ばされる。

「グゥゥッ!?」
「ガハッ!?」

二人は建造物を三つほどぶち抜き、四つ目にぶち当たったところでようやく止まった。
どうやら、光線の破壊力は相当なものだったようだ。
しかし、まだカラータイマーの点滅にまでは至っていない。
戦いを継続する事は十分可能……そう判断するやいなや、二人は勢いよく空へと飛んだ。
守るべき一線がある……この戦いは負けられない。
二人が、眼前の敵を打ち倒すべく攻撃を放とうとするが……その時だった。

「ん……これは!?」
「凄いエネルギーだ……これが、なのはちゃんの……!!」

膨大なエネルギーが、一点―――なのはのいる場所へと集中しつつある。
それを感じ取った二人は、思わず彼女へと顔を向けてしまった。
なのはは既に、スターライト・ブレイカーの発射態勢に入っていた。
レイジングハートが、発射までのカウントダウンを読み上げている。

「Ⅸ、Ⅷ、Ⅶ……」
「あいつ、魔力を収束させているのか……!?
くそ……何かは分かんねぇけど、止めなきゃやべぇ!!」

ヴォルケンリッター達も、ダイナ同様に収束されつつある膨大な魔力に気づいた。
一体なのはが、これだけの魔力を使って何をするかは分からない。
単純に攻撃を仕掛けるつもりなのか、結界を破壊するつもりなのか―――どちらにせよ、嫌な予感がする。
皆がそれを阻止すべく、奇しくも同時に動こうとした。
しかし……当然ながら、その行動は阻まれる。
ダイナはメビウスに、シグナムはフェイトに、ザフィーラはアルフに、ヴィータはユーノに。
行く手を阻まれ、彼等は歯がゆい思いをしていた……かのように、思われていた。
だが、事実はそうではない。
何故なら―――

「補足完了……!!」

なのは達に存在を知られていなかった伏兵―――シャマルが、ヴォルケンリッター側にはいたからだ。
クラールヴィントの二本の糸が、空中で円を形取る。
そしてその内部に出来上がった空間へと、彼女は勢いよく手を入れにかかった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「そこだ……!!」

シャマルが行動を起こそうとした、まさしくその瞬間。
レイジングハートのカウントダウンが、残りⅠとなったのと同時だった。
黒尽くめの男が、勢いよく掌を突き出し……ガディバを解き放った。
ガディバは真っ直ぐに、なのはの背後から凄まじいスピードで接近する。
当のなのはは勿論、他の者達もそれには気づかない……いや、気づけないでいた。
そして、なのはがスターライトブレイカーを放とうとしたその時。
シャマルが、手を突き入れたその時。
ガディバはなのはの体内へと侵入を果し……そして。

「え……!?」
「あっ……しまった、外しちゃった。」

突然、なのはの胸から一本の手が生えた。
クラールヴィントを通じて、シャマルの手が彼女を突き破ったのだ。
とはいっても、なのはには肉体的なダメージはない。
シャマルの目的は、それとは別にあった。
彼女は狙いが外れたのを感じ、すぐに手を入れなおす。
直後、その手には赤く煌く光球が握られた。
これこそが、魔道士にとっての力の源。
その者が持つ魔力の中枢―――リンカーコア。

「リンカーコア、捕獲……蒐集開始!!」

シャマルはもう片方の手を、闇の書へと乗せた。
その瞬間……白紙だった筈の書物のページに、文字が次々に浮かび上がり始めた。
10ページ、いや20ページぐらいは一気に埋まっただろうか。
それに合わせて、なのはのリンカーコアが収縮をし始めていた。

(魔力が……吸い取られていく……!?)

なのはは、リンカーコアの正体は知らない。
しかし、今の自分に何が起きているのかは、十分に理解できていた。
魔力が失われつつある―――吸い取られつつある。
このままではまずい。
全てが無駄になるその前に、やらなければならない―――なのはは、精一杯の力を振り絞った。
その手のレイジングハートを、勢いよく振り下ろす……!!

「スター……ライト……!!
ブレイカアァァァァァァァァァァァァァァッ!!」

桜色の光が、砲撃となって撃ち放たれた。
メビュームシュートやソルジェント光線すらも上回る破壊力を持つ、強烈な必殺。
それは、海鳴市を覆い隠していた結界に直撃し……見事に風穴を開けた。
結界が崩壊していく……なのはは、結界の破壊に見事成功したのだ。
とっさにシャマルは、手を引っ込めた。
そして、それと同時に……なのはは地に膝を着き、そのまま前のめりに倒れこんだ。

「なのはぁっ!!」
『結界が破壊された……!!
離れるぞ!!』
『心得た……!!』
『うん……一旦散って、いつもの場所でまた集合!!
ヴィータ……アスカさんをお願い。』
『分かった……アスカ、お前はあたしと一緒に来てくれ。
集合し終えたら、全部改めて話すから。』
『……うん、分かった。』

結界が破られた以上、時空管理局の更なる介入は確実。
ヴォルケンリッター達は、早々の撤退を決め込んだ。
事情をいまいち飲み込めていないダイナは、ヴィータについていく形となる。
逃げていく彼等を追いかけようと、とっさにメビウスも動くが……

「待ってくれ……どうして、こんなことを!!」
「メビウス……ハァッ!!」

ダイナは二発目のソルジェント光線を、後方へと振り返り発射した。
とっさにメビウスは、メビウスディフェンサークルで防御をするが……耐え切れずに吹っ飛んだ。
その隙を突き、彼等はそのまま戦域を猛スピードで離脱していった。
完全に……逃げられてしまった。

「どうして……同じ、ウルトラマンが……
そうだ、なのはちゃん!!」
「アルフ、アースラに連絡急いで!!
早くなのはを!!」
「分かってる、もうやってるよ!!」

すぐさま皆が、なのはの元へと駆けつけた。
メビウスは着地すると同時に、変身を解き元のミライへと戻る。
なのはは完全に意識を失っている。
ユーノが回復呪文で応急処置を施してはいるが、これで元通りには流石にならない。
フェイトとアルフがアースラにすぐさま連絡を入れ、医療班を寄越すよう要請する。
自分達の、完全な敗北……そうとしか言えない結果であった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「それで、皆……」
「アスカさん、隠してごめんなさい。
でも、アスカさんを危険な目にあわせるわけにはいかなかったし……」

しばらくした後。
海鳴市から離れた人気のない場所で、ヴォルケンリッター達は再集合を果していた。
その後、ヴォルケンリッターはアスカへと、自分達の事情の全てを説明した。
自分達は、闇の書の意思によって作り出された守護プログラムだと。
闇の書の主を守り抜くことこそが、自分達の役目であると。
そして、主を―――闇の書に蝕まれつつあるはやてを助ける為に、自分達は戦っていると。
リンカーコアを蒐集し、闇の書を完成させればはやては回復するかもしれない。
少なくとも、病の進行を止める事は十分に可能である。
主の未来を血に染めない為に、命を奪いまではしない。
だが……主を助ける為ならば、如何なる茨の道をも進んで歩もう。
そんな強い覚悟の上で自分達は行動していると、ヴォルケンリッターはアスカに告げた。

「すまないな、アスカ。
我々の戦いに、お前まで巻き込んでしまう形になって。」
「いや……それは構わないよ。
そういう事情があるんなら……いや、事情云々じゃなくて、皆を助けたいから俺は戦ったんだし。
……俺の事も、話さなくちゃいけないな。」

騎士達が全てを話してくれた以上、自分には事情を話す義務がある。
そう判断したアスカは、隠していた全てを話すことにした。
これまで度々話題に出していたウルトラマンダイナとは、実は自分自身であると。
ふとした切欠でダイナの力を手に入れ、ずっと悪と戦い続けてきたと。
暗黒惑星グランスフィアとの最終決戦後、ブラックホールに飲み込まれ、そしてこの世界にやってきたと。
話せることは、何もかもを話したのだ。
全てを聞かされたヴォルケンリッター達は、やはり驚きを隠しきれないでいる。
驚くのは、無理もないだろう……アスカもそう思っていた。
そして、この次に騎士達がどう質問してくるかも……大体想像がついていた。

「どうして……正体を隠していたんだ?」
「確かにあれだけ強い力があるのなら、不用意に明かせないのは分かるが……」
「目立ちたがりのお前にしちゃ、なんかなぁ……」

予想通り、騎士達は正体を隠していた理由について聞いてきた。
これに対しアスカは、少し間を置いた後に答える。
かつて自分の正体に気づき、そして同じ問いをしてきた仲間達にしたのと……同じ答えを。


「俺、確かに目立ちたがり屋だけど……それ以上に、照れ屋なんですよ。」


「……」
「………」
「……今の答え、変だった?」
「……はは。
いや……お前らしいよ。」
「ったく……しょうがねぇ奴だなぁ。」

アスカの答えは、予想を大幅に裏切ってくれた。
これに対しヴォルケンリッターは、流石に苦笑するしかなかった。
どんな深刻な理由があるのかと思ったら……アスカらしい理由である。
しかし……彼等の笑みも、すぐに消えた。
お互いの事を話し合った以上、今後は互いにどうするのかを話さなければならない。
もはや、今までどおりというわけにはいかないのだ。
しばらくの間、五人とも沈黙せざるを得なかったが……アスカが、その沈黙を真っ先に破る。

「……俺は、魔法とかそんなのはよく分からないけど。
闇の書さえ何とか完成させれば、はやてちゃんを助けられるんだよな……」
「アスカ……いいのかよ?
この戦いはあたし達守護騎士の総意だけど、お前までそれに……」
「はやてちゃんが危険な目にあってるってのに、助けられないなんて俺はごめんだから。
俺には皆と同じように、戦う力が……ダイナの力があるんだ。
そしてそれを使うのは……きっと今だ。」
「アスカ……」
「だから……これから、よろしく!!」
「……ああ、こちらこそよろしく頼むぞ!!」

アスカの決意は固かった。
この世界にきて天涯孤独の身であった自分を、彼等は家族として扱ってくれた。
自分の大切な家族である者達を、この手で助けたい。
ダイナの力は、大切な人達を助ける為にあるのだ。
それを振るうチャンスは、正しく今である。
アスカは強い決意を表し、真っ直ぐに拳を突き出す。
それに合わせ、ヴォルケンリッター達も己の拳を合わせた。
この時アスカは、新たなる騎士となった。
はやてを守るためにその力を振るう、5人目のヴォルケンリッターとなったのだ。

「あ……そういえば、聞き忘れてたけど。」
「ん?」
「アスカ、あのメビウスって言うウルトラマンの事は何も知らねぇのか?」
「あいつか……ああ、ごめん。
俺もあのウルトラマンの事は、何も知らないんだ。」

メビウスの正体に関しては、アスカが一番気になっていた。
彼が知るウルトラマンは、己を除けばたった一人―――ウルトラマンティガだけである。
一応、異星人が変身を遂げたニセウルトラマンダイナや、人造ウルトラマンの様な存在もいるにはいる。
だが……メビウスは、明らかにそんな紛い物とは違う感じがした。
ティガやダイナと同じ、本物のウルトラマンである。
しかし、アスカが知らないウルトラマンがいることに関しては、大した不思議はない。
元々ティガやダイナの力は、ある遺跡の中に、彼等の姿をした石像と共に眠っていた。
その遺跡には、他のウルトラマンらしき者達の石像もあったのだ。
もしかするとメビウスは、そんな別のウルトラマンなのかもしれない。
少なくとも、アスカはそう考えていた。

「多分、あいつとはまた会う事にはなるだろうけど……その時に何か分かるかもしれないな。
この世界に俺以外のウルトラマンがいること自体、おかしいんだし。」
「そうだな……おかしい、か。
そういえばシャマル、さっきリンカーコアを捕獲しようとした時に、失敗していたな。」
「お前にしては、随分珍しいミスだな。
捕獲を失敗した事など、これまで一度もなかったというのに……」
「うん……手を入れたときに、何か妙な違和感があったの。」
「違和感?」
「リンカーコアとは別の、何かがあの子の中にあったような感じがしたの。
でも……気のせいだったかもしれないわね。
今考えてみたら、アスカさんの事でちょっと戸惑ってたし。」
「そうか……無理はしないでくれ。
もしも体調が優れないようならば、すぐにでも言ってくれ。」
「ええ、分かっているわ。」

シャマルが捕獲を失敗したという、これまでにないミス。
それに、ヴォルケンリッター達は少しだけ不安を感じていた。
だが、どんな人間にも100%はありえない……失敗は十分に起こりえる。
今回の失敗は、たまたまその僅かな可能性に当たっただけだろう。
シャマル自身も、アスカの変身により少しばかり戸惑っていたからだと言っている。
その為、皆もこの話題に関しては打ち切る事にした。


しかし……この時、誰が予測しただろうか。
闇の書の中には、今……彼等も知らぬ、未知の存在があることを。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「上手くやったようだな……」
「ああ……予定より少しばかり早くなってしまったが、問題はない。」

結界が消え、元通りとなった海鳴市。
その一角で、黒尽くめの男ともう一人―――仮面をつけた謎の男が対峙していた。
敵対しているという風な感じはなく、どちらかというと協力者同士の様な印象が強い。

「あの魔道士を介して、私は切り札を闇の書に送り込んだ。
本来ならば、予め憑依させておいた生物を蒐集させる事で、憑かせるつもりだったが……」
「綱渡りな方法であったとはいえ、結果的に成功した。
成果は得られたのだから、それで十分だ。」
「ああ……万が一の際には、これで力を押さえ込むことが可能だろう。」
「……すまないな、助かる。」
「気にするな……我々とて、闇の書によって同胞を失った。
あれを止めようと願う気持ちは同じだ……」

黒尽くめの男は、懐から一枚のカードを取り出した。
それは、起動前の形態を取っているデバイスだった。
黒尽くめの男はそれを、仮面の男へと確かに手渡す。

「約束の品だ、受け取ってくれ。
我等の技術を結集させて作り上げた……性能は保証しよう。」
「ああ……これから我等は、闇の書の完成を急ぐ。
万が一の時は、そちらに任せるぞ。」
「分かった……お互い、気をつけるとしようか。」

仮面の男はデバイスを懐にしまい、そしてその場から姿を消した。
場に残された黒尽くめの男は……一人、笑っていた。
仮面の男を嘲笑するかのように、確かな笑みを浮かべていた。

「そう……気をつける事だな。
我々は暗黒より生まれ、全てを暗黒へと染める悪魔……そんな我等と、貴様達は手を組んでしまった。
御蔭で、どの様な結末になってしまうのかも知らずになぁ……」

全ては悪魔の筋書き通りだった。
唯一イレギュラーがあるとすれば、やはりそれはダイナの存在である。
未知数の力を持つウルトラマンが相手なだけに、全く今後の予想がつかない。
だが……それでも、問題はない。
何か厄介な事態が起ころうものならば、強引に修正するだけである。
全ては……力を手にし、光をこの世より消し去る為。

「ふふふ……はははははははは……!!!」

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最終更新:2007年10月18日 19:59