「あれ?ノーヴェ、スーツのデザイン変えたの?」
「ああ、ギンガ姉のアドバイスでな」
「へぇー。装甲を増やしたの?」
ナンバーズ共通のスーツは変わらず、両肩に取り付けた装甲板に自身の名前である数字の9をペイントし、
右側だけだったジェットエッジを左右に装備、の二の腕と体の正面を守る目的で増加装甲のプレート。
「一応、着脱できる・・・って、何でお前に教えなきゃいけないんだよ!!」
「ノーヴェは突撃型じゃなくて、汎用前衛を目指すんだ?」
ノーヴェは認めたくないがもし禁じ手無しで真っ向勝負をスバルとした場合、IS・振動破砕を持つスバルには
勝機は無い。しかも経験や技のレパートリーでも大きく水を開けられている。
おかげで何度もスバル挑んでは連敗記録を更新していた。
紙装甲でも一本道な突撃が出来るのが防御魔法も使える姉二人。それと比べると同じ紙装甲でも魔法による
強化が出来ないノーヴェには同じ戦術は出来なかった。
そんな時、稽古をつけいたギンガが、
『スバルと同じスタイルを目指すより自分自身のスタイルを見つけなさい』
そういわれて考え、試行錯誤の末辿り着いたのが現在のデザインだった。
相手の射撃に臆することなく突撃、機動、回避、防御、確実に相手に打撃を打ち込む。
そのために今までの機動を邪魔しない範囲内で装甲を増やす。
高速を突き詰めても防御魔法が出来なければ同じ装甲でも意味合いが違う。
『ほう、ノーヴェ、デザインを変えたのか?よいデザインだ。しかしうらやましいな、姉も変えてみるか』
チンク姉に褒められたからである。
「まあな」
そうやってお茶を濁す。今度こそ勝ってやると思っている相手にあまり見られたくない。
「ノーヴェ、がんばって」
そういうスバルに背を向け、ノーヴェはアリーナの入り口に向かった。
ゲートが開き、アリーナ内に足を踏み入れる。そこは広い円柱状の施設だった。
『高さはあるが狭いな』
ノーヴェにとっては閉所戦闘は得意な戦場となる。ジェットエッジによる機動力と腕のガンナックルによる打撃力を持つ
自分のほうが有利。そうノーヴェ踏んだ。
「・・・時間通りですね」
「ふん・・・」
ノーヴェの入ってきたゲートの正面のゲートより先に入場していたエネが話しかける。
相手の武装は軽量二脚型。武装はハンドガンにサーベル。左肩に用途不明の箱、右肩にチェーンガン。
目指す戦闘スタイルは同じか近いモノらしい。
「ギンガさんにお話を聞きました。ただの魔導士じゃないそうですね?」
汎用魔導甲冑の頭部ハッチから顔を出すエネの言葉にノーヴェの口元が引きつく。
「戦闘機人、強化人間ですか?」
「だったら?」
「話に聞く強化人間は壊れた人たちが多いものですから・・・」
「・・・わたしはそんなんじゃない」
上の方の窓から見下ろすギンガ達を見る。
自分を製造したジュエル・スカリエッティ博士。
今では何人か欠け、出会わなかった姉もいる、共に居れた時間も少ないが確かな家族だった十二人。
JS事件終了後、自分達戦闘機人に世界で生きるための知識を教えたギンガ。
無理を承知で頼み込んだ自分を本当に養女にしてくれたゲンヤ。
壊れるような理由がどこにあっただろうか?博士もゲンヤもギンガも自分に意味を与えてくれた。
「わたしはノーヴェ・ナカジマ。お前は?」
名前なら最初に教えてるてるのに・・・。きっと上で見ている三人と一人はそう思っているのだろう。
「エネ。ピースフルウィッシュ、いきます!!」
エネも乗ってきた。同やらノリの良い性格らしい。
<Get Ready Set>
エネのデバイス、ピースフルウィッシュが頭部ハッチを閉鎖し、スターター役をする。
<Ready Go!!>
開始と同時にジェットエッジのローラーを使って一気に相手との距離を詰め、一気にケリをつける。
それがノーヴェの選択した戦術だった。
だがエネも初動で距離を詰めようと右手のハンドガンを打ちながら接近。
「・・・ちっっ!!」
数発がごく至近を通過。射撃の腕は少しはやるらしい。
「そこ!!」
エネが左手のサーベルを展開、右側、やや下側から横薙ぎに切りつける。
ノーヴェは左にに半身を取ってその斬撃を軽く受け流す。
。同時に右足のジェットエッジを加速、そのまま振り上げ
エネの開いた胴体を蹴り上げる。
「っく!?」
最初の一撃はこっちがもらった。不用意に突撃し、右の胴蹴りを受けたエネは足裏を滑らせながら下がる。
最初の一撃からこっちのペースに引き込むことで有利に立つ。
もし相手がこちらより高ランクであっても低ランクであっても先手をとることが重要。
新しい戦いの師、ギンガに教わった戦い方だった。
「・・・やりますね」
「お前じゃ勝負にならねえよ」
「そうですか・・・」
言葉とは裏腹にエネは機体を立て直す。まだまだやれるという意思表示として。
「まだ始まったばかりですから!!」
言うが早いか即座に行動を開始するエネ。それに合わせてノーヴェも動く。
ノーヴェがローラーでダッシュしつつ左手篭手部に装備された発射口から光弾を連続発射。
相手を削り消耗させ追い込もうとする。
それをダッシュと機体の動きで回避するエネ。機を見てこちらは正確な照準の発砲、連射。
今度はノーヴェが攻撃を受け止める番。両腕部のシールドで攻撃を受け止める。
「意外と一発が重い!?しかも熱!?」
「はぁぁ!!」
右手のハンドガン、それに右肩の単装チェーンガンで弾幕を張り動きを制約する。
相手の動きを固め、高速で接近、寸での所で飛び上がり相手を切りつける。レイブンの常套な近接戦闘法。
プレート状のシールドに電気的な負荷を掛ける。今回はサーベルをかわさずシールドで受け止めるため。
エネルギーとエネルギーの接触する音。
コア・デバイスの甲冑の機能でいくらか軽減される中のエネと違い、ノーヴェは直接エネルギーの衝突の
余波を受ける。
「・・・っと!!」
「まだまだ!!」
一瞬だが固まるノーヴェ。機を逃さずブレードで斬りつけるエネ。
だがノーヴェが右手でレーザーブレードの本体がある左の二の腕を手で止める。
「熱・・・!!」
ブレードの部分の至近は放散される前のエネルギーが残り空気が高熱を持つ。
それでも素早く左手で胸部にブローを一発、機構的な限界まで左手を捻り上げ、振りほどこうとするエネを押さえ、
今度は足を払い相手をあお向けに倒す。
「これでとどめ!!」
ノーヴェの右の拳が振り下ろされようとした瞬間、今度はエネが機体のブースターを点火し転がりながら逃げる。
ブースターを付けぱなっしにしながら立ち上がると最高速度で相手に接近。
「まだいけます!!」
今度は機体自体の質量を武器にしたショルダーアタックを敢行。降ろし打ちが外れ、追撃に移ろうとした
ノーヴェと正面からぶつかり合う。
「がはぁ!!」
軽量二脚型とはいえ重量はそれなりにある。それを加速つきで受けたのだ。戦闘機人のノーヴェといえど唯ではすまない。
吹っ飛び、転がってゆくノーヴェ。無理にとめようとせず勢いが弱るタイミングを計る。
弱ってきたタイミングを計り、左肩と腕で、手のひらに力を集め左手一本で数メートルを一気に跳躍。距離を稼ぐ。
「やりますね・・・」
息を切らせながらエネが口を開く。
「おまえこそ・・・。どんな相手でも油断するなとギンガ姉に教えられていたのを忘れてたぜ」
体内の損傷箇所をチェック。機能不全を起こした部分の維持装置をカット。ゆっくりと構えに戻るノーヴェ。
「まだまだいけるな?」
「勿論!!」
エネがうれしそうに答える。
ノーヴェはエアライナーを展張。
「いくぞ!!」
「いいでしょう、空中戦でも!!」
エネもブースターに点火し飛び上がる。
交差する一瞬で一合結び合う。それを何度も繰り返しながらも互いに一歩も譲らない。
自由に空を移動し360度を攻撃できるエネのピースフルウィッシュとコースは限定されるが強力な足場を自由に設定し、
機動の自由を持つことが出来るノーヴェ。
二人の戦いぶりを見ながらスバルとギンガは驚嘆していた。
「最初に名乗りあげてから戦うなんてさ、一騎打ちみたいだよね」
「家でよく時代劇よく見てましたから、・・・父さんと」
「ギン姉も一緒に見てたような・・・」
「・・・スバルなんか言った?・・・でも、レイブンとはいえ、ノーヴェが下位にここまで苦戦するとはね」
「すごいよ、あの子・・・」
「そりゃそうだ、あれぐらい出来なければレイブンを名乗れんよ」
地雷伍長が口を挟む。
「伍長はかつて“不死鳥”の戦いを見たことがありますか?」
同じように観戦していたなのはが伍長に聞く。
「俺はやつに簡単に踏み台にされただけだからな」
そういうと豪快に笑った。
「だが、やつのアリーナ内の戦いはこの特等席から見ていたよ。やつは、そうだな、奇に衒わない装備と機体を
使っていたよ。戦術もそれ相応のものだった。確実にマシンガンを打ち込まれ削られ、動きを掴もうとすれば
いつの間にか誘導弾が飛んでくる。弾幕を掻い潜れば今度は斬り付けられる」
そういうと地雷伍長は拳を作りなのはの目の前で開いてみせる。
「ボン!!・・・どうやって勝てばよかったんだろうな?」
「砲戦タイプじゃない?」
「時々、グレネードやレーザーランチャー積んでるを見たが接近戦の手数を好んでいたようだな、あいつは」
「あれ?なんだろ?」
「エネさんのお仲間かしら?」
最初に気づいたのは二人の戦いに見入っていたスバルとギンガだった。
言葉につられて四人の視線が集まったのは黒と赤のツートンカラーに染められた魔導甲冑だった。
「な・・・、何であいつが・・・?あいつはやばい!!エネ、それに遊んでる嬢ちゃん!!すぐに脱出しろ!!」
それの意味に気が付いたのは地雷伍長だけだった。
「どうしたんですか?」
突然焦りだしたなのはが地雷伍長に聞いた時だった。
『館内放送、管理者権限を有するプログラムの指示により施設内の全隔壁を閉鎖。敵性侵入者を排除します。
繰り返します・・・』
「「「っい!?」」」
館内の灯が消え非常用電源に切り替わる。そして分厚い耐衝撃ガラスをサンドイッチする形で
厚い装甲シャッターが下りる。
「まって!!」
あわててドアに駆け寄るスバル。だが簡単にドアにはシャッターが降りる。
耳を澄ませば多数のシャッターが下りる音が響いてくる。
「閉じ込められた?」
「そうみたいだね・・・」
なのはは落ち着いて状況を考える。敵性の侵入者とはおそらく自分達しか居ない。
「ギンガ、スバル、バリアジャケット着用!!おそらくさっきの魔導甲冑が排除用の抗体だよ。すぐにノーヴェと
エネさんを助けに行くよ」
そういうとすぐにレイジングハートを起動。続けてスバルとギンガもマッハ・ブリッツの両キャリバーを起動。
三人ともバリアジャケットを着用。
「どうしますか?」
ナンバーズのスーツを自分仕様に仕立てたバリアジャケット姿のギンガが聞く。
「とりあえずノーヴェとエネさんを助けに行かないと!!」
こちらは殆ど代らぬデザインのバリアジャケットを着装したスバル。
「この壁を抜いてすぐに行こう」
早速先ほど窓があった壁にレイジングハートを向ける。
「やめとけ、ここの壁は基本的に両面AM処理済の素材だ。ドーム内での下手に強力な魔力放出に耐えれるようにな」
そういうと同時に壁の向こう側から大音響で爆発音が部屋に響く。
「しかも内側は魔力を拡散放射するミラー入り」
「私の砲撃なら!!」
「はじき返せなかった分はミラー内で流れるからな他の壁が爆発する。外側にも逃がそうそうとするから・・・、
内部の人間はえらい目にあうだろうな」
「ドアは?」
「・・・只の対爆仕様だよ」
「・・・スバル!!」
「はい!!」
ギンガが聞き、地雷伍長が答え、なのはが指示し、スバルがナックルでドアを吹き飛ばす。所要時間は三十秒。
四人が部屋を出る。廊下は非常灯だけが点灯し、分厚いシャッターが下りていた。
「ノーヴェの方のゲートのほうが近いです。そっちにいきましょう」
「奇遇だな。俺のデジャーマインもそっちにあるんだが・・・」
「スバルとギンガ、シャッターはすべて吹っ飛ばして。無理だったらISの使用も許可するよ」
「「了解!!」」
二人がキャリバーを加速。一気に二人を置いてけぼりにして進んでいく。
「二人とも、早いもんだな」
「伍長は後から来てください。ではお先に!!」
そういうとなのはもジャンプ。一気に加速して飛ぶ。
「やれやれ急いで行く事もなさそうだな・・・、やつが簡単にくたばるとは思わなかったが・・・、
あいつがしくじったとも思えん・・・」
三人を見送り、言葉を区切って自分の歩いて行くべき道を見つめ一人つぶやく。
「アリーナの、レイブンズ・ネストの亡霊か・・・」
<ボス、甲冑を着用しますか?>
「いや、まだいいよ、ゆっくり行こう」
<ラジャー、ボス>
胸元からぶら提げる地雷の形をしたネックレスに答える。少し考えた後、地雷伍長はゆっくりと歩き出した。
ドーム内ではノーヴェとエネが戦闘を中止し、正体不明の乱入者と相対していた。
「お仲間を呼ぶとはな。いい性格してるじゃねえか!?」
ノーヴェがエネに対して凄む。
「知らないわよ!!・・・ちょっと、いきなり乱入するなんていったい誰よ!?」
どうやらあちらも知らないらしい。
そしてこちらも知らないということは・・・。
「まあ、どっちにせよ、ぶっ倒すだけだ。エネ、お前の相手は後だ。こいつはわたしが相手してやる」
「該当なし?旧式のパーツで構成された機体って事だけ?・・・まあ、邪魔されたお礼はしないとね。
私も倒すのは手伝うわ。勝負はその後で。いいですか?」
もちろん、そうノーヴェは首肯する。
ノーヴェとエネ、両者ともに戦闘体制で構える。
相手は動かない。装備は右肩に誘導弾ポッド、左肩にグレネードランチャー、右手にパルスライフル、
左手のサーベル、どう見ても普通のレイブンの装備だった。機体も非の打ち所が無いほどバランスが
取れた中量級機動型。肩には黒い⑨のマーキング。
「仕掛けてこないなら・・・」
最初に仕掛けたのノーヴェだった。
「こっちから行く!!」
エアライナーを展張、目標の黒い機体の周囲に広げ足場を確保。常人では耐え切れないような加速で突撃。
「では私も!!」
それに合せるかのようにエネのピースフルウィッシュが動く。こちらは自身の定石通りの相手の動きを
固めてから弾幕を張り動きを封じる。一応ノーヴェがいるが、あまり気にはしていない。
「・・・上等!!」
火の中に突っ込むノーヴェ。相手は固まっている。そう考えたノーヴェが一気に距離を詰める。
「え・・・?」
一瞬の動きだった。弾幕の中で動かなかった相手が突然、動いた。一番危険であろうノーヴェでは
無くエネに向かって。
「こいつ・・・、くそ!!」
ジェットエッジで緊急制動を駆け、ターン。だが後ろを振り向いたとたん襲って来たの誘導弾二発。
開始しようとするが近接信管が起動。大量の破片と魔力片をばら撒く。
上半身の装甲で受け止めるが大幅に姿勢を崩す。
姿勢を直しつつ体内と装備の状態をチェック。異常なし。まだやれる!!
「このこの!!当らない?なんで!?」
エネが必死に機動し、ハンドガンを放つ。チャンスを作ろうとするがあざ笑うかのように敵は近づいてくる。
敵機が右手を構え、パルスライフルの銃口がこちらを向く。
「そんな豆鉄砲で!!」
発砲炎が見えた。その次の瞬間には右手の機能異常を知らせるアラート。
「・・・嘘、間接を一発で?でもまだ!!」
そう吐き捨てながら前方を睨む。いた。もう目の前に左手を振り上げた黒と赤の機体が。
「そんな・・・」
次に感じたのは衝撃で倒れる感覚と地面を滑っていく感覚だった。
ノーヴェから見えたのは一瞬だった。左手を腹に打ち込み相手を倒し加速していく背中。
次の瞬間、機体は左へターンし、円形のドームを一周。赤と黒の機体はノーヴェの背後に回るする。
ノーヴェの正面には股関節部分を打ち砕かれたエネの姿が見えた。
「ごめんなさい・・・、戦闘機動は無理そうね・・・」
「そいつじゃ勝負出来ねえだろうが、下がってな。こいつはわたしが相手にする」
「・・・了解、お願いするわ」
さすがはレイブンの端くれ、引き際は早い。
「すぐにギンガ姉たちが助けに来てくれる。それまで待ってろよ」
そういいながら相手に振り向いたとき、ゲートの開く音が聞こえた。それに続いてきたのは・・・。
「きゃぁぁぁーーーー」
エネの悲鳴。ゲートの開いた先にいたのはまったく同じ機体がもう一機、いた。
「な、てめえ!?」
機体はほとんど動けないエネの胸元をつかむと軽々と持ち上げ投げ捨てる。
そして左肩のグレネードランチャーを伸ばす。狙いは・・・、エネとピースフルウィッシュ。
「おい、待てよ?そいつはもう動けね・・・」
容赦なく引き金を引いた。真っ赤な火球が轟音とともに一瞬発生し、静寂に戻る。
残ったのはノーヴェと二機の敵、そしてくすぶるエネとピースフルウィッシュ。
「2対1か上等!!やってやるよ!!」
ノーヴェは構える。
『・・・ギンガ姉とチンク姉に私はここまで成長したって言ってやるんだ。
それでハチマキにだって勝ってやるんだ!!』
ブレイクライナーを発動。狙いを一機に絞りノーヴェは加速した。
最終更新:2007年12月09日 20:30