―――繰り返す
―――干渉は許可できない
―――全力で回避せよ
『リリカルホーク・ダウン ~あるいは彼はいかにして干渉を決意したか~ 』
管理外世界『地球』、それも武力紛争地帯の一大武装勢力が持っているというロストロギア回収任務に行った管理局古代遺物管理部機動一課の一部隊。
歴戦の彼らは、今回も「30分で終る」と言いながら出撃した。
隠蔽魔法と変身魔法で駆使し、ロストロギアを持っている武装勢力のアジトへ向う部隊。
「気付かれてもバインドとチェ-ンで拘束しちまえば手が出せない」
「気絶させちゃいば無用な混乱なんて無くて済んじゃう」
軽口を言う余裕を見せる、歴戦の隊員たち。
が……。
オリンピックビルと呼ばれる建物内部まで侵入しロストロギアを確認。
封印処置を施そうとした、その時!
ロストロギアが突然作動し、その力で(AMF発生装置か?)でバレてしまった!
麻薬で異常な興奮状態になったゲリラや、暴徒の群れが、『部隊の人員が白人』だったと言う理由で恐るべき勢いで攻めてくる!
少年兵を殺傷設定の射撃魔法で殺してしまったショックで呆然としたまま女性隊員が、暴徒に混じっていた妊婦が撃ったカラシニコフの銃弾で殉職。
ただひたすら非殺傷設定のバインドやチェインで敵を行動不能にさせながら防御フィールドを唱え続けていた青年隊員は、
すぐ近くまで迫ってきた女の子が持っていた遠隔操作式の爆弾で……
十字砲火に捕まり、圧倒的な数の弾幕の前に、シールド魔法もBJも、防御力が銃弾一発、RPGの爆風を食らうごとに確実に削られていく……。
夜間、光り輝く魔法弾を撃つ部隊は格好の標的だ!!
周辺からどんどん敵兵の他に、ほぼ素手の暴徒とかした民兵の大群が迫ってくることを察知し、絶叫で隊長に報告した魔導師は、対物ライフルで長距離でBJごと頭部を吹き飛ばされた。
彼は無限書庫のスクライア司書長に憧れて、この作戦後は書庫へ転属する予定だった。
「転送魔法も飛行魔法も使えないんだ!!なのに戦艦はッッ!?何で俺たちを助けに来ないんだ!!」
叫んでいるのは聖王教会から機動一課に出向してきた若い騎士。
強力な近代ベルカ式保有者で、部隊の中で一番実戦能力の高い隊員が、敵(もはや敵としかいえない)の大集団を近づけまいと、
奪いとったDShK38重機関銃を撃ちまくる。
ベルカ式を生かして、大群の中に吶喊!……など、出来るはずがない!!
近代ベルカ式の使い手で、シグナムに師事させていただき鍛えてもらったというのが自慢話の18歳の少女騎士は、
暴徒を全員気絶させようと、短刀型デバイスで集団の中に躍りこんだ途端、
友軍誤射などお構い無しに、360度から銃弾を浴び、BJも防御魔法も全て文字通り『磨り潰された』。
隊長も残り少ない部下を叱咤激励し……足元に転がっている質量兵器を使用する激を飛ばした。
魔法と違い、面白いようにバタバタ倒れていく。
血しぶきをあげながら、ドミノ倒しのように。
男女区別なく、老人も子供も、赤ん坊を抱いてライフルをこちらに向けていた女性ごと、なにもかも……。
現地質量兵器を使わなければならないのには理由があった。
部隊の者全員が、既に魔力が尽き掛けているのだ!
出なければ、彼はこんなことを出来るはずがない!!
殺さなければ、こっちが殺される!そうしたら回収したロストロギアはどうなる!?
12.7㎜弾を横凪に撃ちつつ、彼は聖王教会の贖罪の詩を口ずさんみ……罵声を上げて撃ちまくった。
彼は、師の自慢をしていた少女と仲が良かった。
滅茶苦茶に撃たれてしんでもなお、その少女の亡骸に暴行しようと、服を剥ぎ取ろうとする敵たちにむけて集中して撃つ。
……言い分ならある。
彼らは非殺傷設定で三千人以上気絶させた!
なのに……やつらは気を失った者を無理矢理起こすと、また突き進んでくるのだ!!
そして、とうとう奴らありったけの対戦車砲と迫撃砲を繰り出してきた!
彼らは魔法で防御されているため、銃弾が数十発当たっても死なないから本気を出してきたんだろう。
『隊ッ長ォオオオオオオ!!!』
部隊長の頭の中に、最後の一人からの念話が……。
直後、爆発音。見ていないから彼がどうなったかわからないッ!
だが生体反応は自分ひとりを除いて無くなった。
そうなのだ、生き残れる……わけがない!
たとえ強力なシールドを展開させれば、それで完全に“尽きる”……BJもなにもない。
狂乱は日が昇っても続く……。
あちらこちから無分別に銃声と現地住民の雄叫び声が聴こえてきた。
さらに管理局の全滅した部隊と武装勢力の戦闘が引き金となり、紛争が再燃してしまったのだ。
政府軍、国連PKFを巻き込み泥沼化へ……。
廃墟の町をロストロギアを抱え隊長ただ一人が逃げ惑う。
考えている暇はない。
残されたギリギリの魔力でスキャン。敵は居ないか?
なるべく出会わないように、聖王に祈りながら。
頭上をこの世界の最新鋭軍用ヘリが轟音で飛び去った。
部下を全員失った隊長は、悔恨で膝を屈しそうになりながら逃げ回る。
(ロストロギアさえなければ……)
そういった恨みは確かにあった。
それよりも宇宙にいる次元艦と連絡を。
それが不可能ならば、完全に破壊する算段をつけなければ……。
地上でたった一人となってしまった今、責務を放棄するという言葉は彼に無かった。
前触れも無く突然の発動。
全く予測の出来ない異常な能力。
隠された能力の可能性。
これらシステムを完全に分析しなければ、最悪壊した瞬間にこの世界で言う『核兵器』並みの爆発が起きるかもしれないし、
事実、過去そういう例は後を絶たず、官民区別無く甚大ならざる犠牲者を出してきた!
疲れてきた。
魔力はもうない。民家の中に入り込み、安全と思われるその場で腰を下ろした。
乾燥地帯で飢餓状態のこの地では飲み水の確保も難しい。
顔も体中も埃と血でグチャグチャだった。
外の看板には、この建物は果物屋さんのはずだ。
……なのに、なのになんでマシンガンやライフルの弾が並べられているんだ?
真っ先に“殉職”した部下の言葉を思い出す。
ここでは救援物資のトウモロコシの粉よりも、武器の方が安いらしいですよ。つまり……
考えれば考えるほど吐き気が出てきた。
(質量兵器が食料よりも多いということか……なんという酷い場所なんだ!
エース・オブ・エースの実家の地域社会はまるでミッドの田舎と同じ平和だったのに……)
すぐにこの場所から、戦場から離れたい。
そう思いながら、重い足を引きずるようにして歩き出した。
そして、どこまで歩いたのか判らないまま気絶した。
体をゆすられて隊長は眼を覚ました。
ベットの上だったので艦の医務室かと一瞬思ったが違った。
点滴の針をつけられた左手が痛い。ミッドの医療点滴装置はこんな原始的なものではない!
まわりを見れば一目瞭然。蒸し暑いテントの中だった。
至るところに赤い十字のマークがつけられ、現地語で書かれていた。
地球に派遣される前に、基礎知識として学び、それがどういう意味なのか知っている。
自分を起こした、ベッドの左右にいる質量兵器を掲げた軍人の姿を見て彼は思った。
(厄介なことになった……)
2人の内の一方が話しかけた。
「休んでいる所、申し訳ない。いろいろと聞きたい事があるんだが……。まだ君も回復しきっていないというのは良くわかる。
だが上の連中がカンパニーが来る前に、とにかく何でもいいから聞いてくれってうるさくてな。
とにかく暫定的でも良いから話をしろと、と言うわけだ」
「ゲーリー!まずは落ち着いて自己紹介といこうぜ?あ~英語分かるよな?
俺はランディ、ランディ・シュガート。で、こいつは……」
「ゲーリー・ゴートンだ。ところで、コレ、ペプシしか用意できなかったんだが飲むか?
望むんなら食い物もミネラルウォーターもスグに持ってこさせる。
それと、俺たちは国際連合の要請で派遣されたソマリア平和維持軍を構成するアメリカ合衆国陸軍の兵士としか言えない。今はね……」
尋問の心得があるのか、まずは相手の緊張を解そうとする2人を見て、部下を全滅させた隊長は思った。
コイツらは……プロだ。殺しに慣れている正真正銘のソルジャーだ。何かコトを起こせば、一瞬で取り押さえられるだろう。
……恐らく、アフリカの紛争地帯のど真ん中で、地球とは全く異なる材質で作られた衣服を着ていた私に興味を持ったのだろう。
ひょっとしたら戦闘を起こしたのも我々だと言うことは、とっくに知られているかもしれない……。
「……私を頭から引きずってくれたのは君達、というわけなんだね?」
「あ、覚えてた?」
「いや、だから俺はちゃんとランディに言ったんだ。ちゃんと担架を待とうって」
その後、紆余曲折がありながらも隊長はなんとか救援に駆けつけた次元艦の乗組員により救出された。
救出方法は手荒く、とにかく隊長の居る統合タスクフォース指令センターを含めた周辺に非殺傷設定で広範囲攻撃魔法を仕掛け、ECMを撒きながら武装局員を突入。
ロストロギアと隊長を救出したのだった。
………後日S級危険度に認知されたロストロギア回収は成功した。
そして本局に戻ってから、直に査問会が開かれた。
恐らく所持したヤツラはただの装飾品としか考えていなかっただろうし、この世界の科学では発動させることも解明させることも不可能だ。
魔法を使いながら接近した局員に反応したのだ。
つまり、こういうことだった。
「最悪の場所で、最悪のロストロギアが、最悪のタイミングで発動してしまった故の悲劇」
管理局はむしろ隊長に同情的だった。
世間は、マスコミを含め殉職者に哀悼の意を表した。
そして管理外世界で何が行われていたのかは、殆ど報じられなかった。
危険度が非常に高いロストロギアを、大きな犠牲を払って、成功した。
それだけだった。
いや、彼を唯一救ったことが一つだけあった。
殉職した部下の家族、親族、知人からの怨嗟の眼差し……。
そして隊長は、それゆえに時空管理局と管理世界そのものを危惧し始めた。
彼らは誰も管理外世界を見向きもしない。
いや、管理外世界の存在を意図的に思考から外している節がある……。
これでは、何のために自分の部下が死んだというのか!
もっと、何か良い方法があったはずだ!!
何故質量兵器が蔓延している管理“外”世界を放置するのか!
数年後、地上本部と本局の確執を眼にしてしまった彼は確信してしまった。
つまるところ、本当の戦場を管理世界の誰も知らないのだと。
ならば、起こせばいいのだ。
戦争を。
< 続く? >
最終更新:2007年10月23日 21:45