当SSには大変卑猥な表現、簡略に言うと「うほっ」な表現が含まれます。
そのような表現に嫌悪感を抱く方は精神衛生上のために迅速な避難を勧告します。
魔法伝令犬リリカル☆マー君 ~絶倫ファイヤー狼の巻~
通称マー君ことマーキュリー号(♂)伍長勤務特別上等伝令兵はイイ男である。
伝令兵といっても彼は伝令犬であるので「イイ男」という表現には若干の語弊があるかもしれない。
しかし様々な見地を鑑みた場合、どう控え目に表現しても「イイ男」としか彼を言い表す言葉が無いの
である。
まず彼は非常に優秀な伝令犬である。
彼の所属する帝国陸軍情報部では未だ隠匿性の高い電気通信技術が確立されておらず、また長距離通
信網も整備されていない。そのため電話が普及し始めたにも関わらず、機密情報通信おいて伝令犬は帝
国軍の主流であり続けている。そのような事情から帝国陸軍情報部にとって伝令犬の練度は重要な課題
であり、情報部は伝令犬の訓練に余念が無く、時には伝令犬に人間より高い階級を授ける場合もある。
その点マーキュリー号は実に優秀な伝令犬である。伝令の確実性はもとより速度においても非常に高
いレベルにある。それだけでなく大型犬の体格を生かした対人戦闘能力も有しており、凶器を持った人
間を制圧したこともあった。さらには、どこで身につけたかは不明であるが、麻薬などの特定薬物を探
し出すことすら可能なのである。
新たに設立され未だに伝令犬の確保が十分でない陸軍情報部第3課が、その業務を問題なくこなせて
いる背景には隊員の高い練度だけでなく彼の働きもあるのである。
しかし、これだけでは「イイ男」とは言えない。あくまで「優秀な伝令犬」である。
では何をもって彼を「イイ男」と表現するのか?
それは――――――――――彼がプレイボーイだからである。
いや、この場合はプレイドッグと表現するのが正しいか。
とにかく彼は唯のプレイボーイではない。ものっっっそいプレイボーイなのである。
どれくらいプレイボーイなのかと言うと、
「お嬢さん、俺に触れると火傷するぜ?まあ最も――――触れなくても俺が火傷させるんだがな!」
もしくは
「いいのかい?ホイホイ尻を向けちまって。
俺はチワワだろうがセント・バーナードだろうが構わず喰っちまう犬なんだぜ?」
なのである。
これは誇張ではない。実際彼は多くの同僚伝令犬(♀)を寿退職させており、新たに配属される新人(
犬)も片っ端から(性的に)イタダキマスなのである。
まさしく彼は伝令犬界のダブルでオーかつセブンな英国エージェントであり、ジェー○ズ・D(ドッグ
の意)・ボ○ドの二つ名を持っているのである!!
申し訳ない、最後のは嘘である。
そんな(性的に)スーパードッグなマー君であるが、常にその生活が潤いを持つとは限らない。
この物語は、そのような状況において起きた一つの悲劇である。
マーキュリー号は酷く乾いていた。
乾くといっても水分不足なのではない。長距離任務でも問題無いよう彼は水源捜索・食料確保の訓練
を受けている。何よりここは栄えある帝国陸軍情報部中央管理局、水も食料も入手には一切問題無い。
では何が乾いているのか。
――――――――――女っ気である。
昼前に帝都郊外のダムで同僚の眼鏡(部隊内での立場は低いようだがマーキュリー号は彼を高く評価
している、あの男からは性的に野獣の臭いがするからである)から受け取った報告書を即日中に帝都の
情報部中央管理局に居る上司に届け、彼の妹分であるステッキン曹長を苛めたジジィを頭蓋骨まで甘噛
みしてやった頃には夜になっていた。
――――暇だ。
それがマーキュリー号の思考の大半を占めていた。普段暇な時は3課の隊員が遊んでくれるが、現在3
課の隊員のほとんどがダムの調査に出ている。現在3課のオフィスにいるのは上司のハンクス大尉と頭
部に噛み跡の残る1課課長(名前は知らない)、それと妹分のステッキン曹長である。
誰が遊んでくれるか?
ハンクス大尉――――除外。いつも面倒臭そうにしている大尉が自分と遊ぶことなど碌にない。むしろ
笑顔で「ほーらマーキュリー号ー、取ってこーいっ!」などとフリスビーを投げられたら対応に困る。
ぶっちゃけドン引きする。あと煙管の臭いが嫌だ。
1課課長(だから名前は知らん)――――論外。なんなら風通し良くしてやろうか?
ステッキン曹長――――遺憾ながら不可。彼女は大尉と1課課長の話し合いに同席している。どうせ会
話の内容など理解できないのだから止せばいいのに。どちらにせよ、自分の欲求のために彼らの邪魔を
するほど自分は子犬ではない。
――――メスでも引っ掛けるか。
ある意味当然の帰結であった。ボール遊びが駄目なら次はメス犬とニャンニャンである。
犬なのにニャンニャンとはこれ如何に?
むしろこちらの方が本命である。今回の任務のせいで、ここしばらくメス犬にありついていない。
思い立ったら吉日である。さっそく彼は今宵の相手を探すために局内を闊歩し始めたのであった。
ここで問題が発生した。相手がいないのである。ここでマーキュリー号の名誉のために弁明するが、
相手にありつけなかったのは彼の魅力が足りなかったのでは無い。物理的に他の伝令犬(♀)が居なかっ
たのである。むしろ魅力や相手の意向など関係なく速攻でニャンニャンするのが彼のセオリーだ。所詮
犬畜生である。
こういうものは一度思い立った直後にお預けされるのが一番堪えるものである。もはやマーキュリー
号の割り合い冷静だが性的な事柄にはトコトン弱い理性はメルトダウン直前であった。
――――もうこの際猫でも狼でも何でもいいや。
ここで人間なら局舎から抜け出して町にでも繰り出そうものだが、マーキュリー号はそういった面で
は非常に真面目であった。伝令犬は軍事機密を扱う、そのため許可無く官舎を出ることを許されていな
いのである。下半身の理性はゆるゆるなマーキュリー号であるが、仕事に関する理性はプロフェッショ
ナルなのである。流石はジェ○ムズ・D・ボン○、体は犬でも心は英国諜報員。
いつだって――――――悲劇は僅かな偶然の積み重ねである。
突如出現した臭いをマーキュリー号の鼻は逃さなかった。人間のソレより数万倍の嗅覚と訓練によって
培った判断は突如出現したアンノウンの情報と位置を瞬時に解析する。
――――っ犬だ!!!
どのようにして警備の厳重な情報部に、それも突如として侵入したかは分からない。だがマーキュリ
ー号の嗅覚は侵入者が犬であること、侵入者は官舎の庭の隅にいることを知らせていた。流石にオスか
メスかの判断は付かない。だが彼はこれが最後のチャンスであることを本能で知っていた。
走る。走る。何よりも迅く駆ける。
廊下を有り得ない速度で疾走する彼に驚いた職員が躓き持っていた書類を床にぶちまける。背後から聞
こえる罵声を気にも留めずマーキュリー号は疾走する。
――――早く!速く!なによりも迅く!!
最早マーキュリー号は一陣の風であり、走るという機能のみを追求し進化したサラブレッドであり、
その疾走を止めることができる者など存在しなかった。
見事な馬鹿犬である。
官舎を飛び出し庭に躍り出る。夜も深まり始めたこの時間帯に庭にいる職員はおらず、ただでさえ人が
まばらな庭には沈黙の帳が下りている。一見人間はおろか動物さえいないと思える沈黙の中、マーキュ
リー号は確実に対象を察知していた。目線は50メートル先の繁みへ。
――――獲物はあそこだ――――
気配を消し、繁みに近づく。やがてマーキュリー号の耳は『人の声』を捉えはじめた。
「こ……ザフィ……主…………潜入に……功…………しま…………これよ……調…………」
断片的にしか聞こえないが、声が成人男性であることは分かる。だが分からないのは繁みからは『人の
声』がするのに、そこからは『犬の臭い』しかしないことである。臭いのしない生物など存在しない。
なにより犬の鋭い五感が、そこにいる存在が1匹の犬のみであること示している。
マーキュリー号は違和感を感じながらも繁みに近づいていく。犬にとって最も信頼すべきは聴覚より
も嗅覚なのだから。
――――たとえ人語を話そうが、相手が犬ならば自分にとって委細無い。
なんだかカッコイイ台詞を吐きながら前進を続けるマーキュリー号。これが任務ならば惚れそうなも
のであるが、あくまで目的はニャンニャンである。
「……っ!何者だ!!」
『人の声』の主がマーキュリー号の存在を察知し、警告の声を発した。同時にマーキュリー号も繁み
を抜け、目標と対面する。
そして――――あってはならなかった邂逅が果たされる。
青い狼であった。
大型犬の自分よりも大きな体格、鋭い鼻、口元からのぞく牙。犬などという野生から離れ人間に飼わ
れた動物など足元にも及ばない、誇り高き野生動物の風格があった。最も、『彼』には人間の臭いが付
いており人に飼われている狼であることが分かる。自分が『彼』を犬だと勘違いした理由がそれであっ
た。
だが問題はそんなものでは無い、今この状況で最も重大な問題。
――――それは――――青い狼は『彼』――自分が待ち望んだメスでなく『オス』だったのである。
もう一度マーキュリー号の名誉のために弁明しておく。
彼に『そういった気』は無い。そもそも動物にとってニャンニャンとは生産的なものであり、結果を
生み出さない『そういった』行為は意味を持たない。無論マーキュリー号も例外ではない。
だが状況が状況であった。先ほど述べた通り、良しと言われた直後のお預けほど悲惨なものはない。
マーキュリー号はついさっきお預けを食らったばかりである上での、この仕打ちである。さらに彼は性
豪である。とてもじゃないが彼に3度目のお預けなど耐えられるはずがない。
「…………ふむ、すまぬが暫く邪魔をする。お前には決して迷惑は掛けん」
『彼』はマーキュリー号を警備の犬かと思ったらしく、しばらく警戒していたがマーキュリー号から
敵意を感じなかったため警戒を解き、『彼』なりの謝意を示していた。
――――悲劇はいつだって僅かな偶然の積み重ねである。
もし――――マーキュリー号と『彼』の行動日程が半日ずれていたら。
もし――――官舎にメスの伝令犬がいたら。
もし――――ステッキン曹長がマーキュリー号を構っていたら。
もし――――『彼』が警戒を解かなければ。
もし――――そもそも帝国が『インヴィジブル・ナイン』など考えなければ。
――――いつだって『もし』という言葉ほど悲しいものはない。その言葉が使われるときは何時だって
後悔と悲しみが付き纏うのだから
もはや物語は悲劇にしかならない。なので簡潔に言おう。マーキュリー号は『彼』に対してある判断を
下した。
――――まっ、オスでもいっかー
突然湧き上がった殺意に『彼』は完全に虚を突かれた。
瞬く間に組み敷かれ、首根っこを押さえられる。
「っっっ!!!何をする気だ!!!!」
ナニをする気です。
『彼』は非常に困惑していた。先ほどまで敵意の欠片すらなかった相手(最も妙な気配は感じていたが)
が突如自分に襲い掛かってきたのだ。
それだけではない。本来体格で勝る狼であり、歴戦の守護騎士である自分が唯の犬に完璧に組み敷か
れているのである。
「クソっっ!離せ!!これ以上やるのならば、こちらも相応の対処を取るぞ!!」
どう足掻いても相手の拘束から逃れることができない。バインド系魔法を得意とする自分にとって屈
辱極まりないことであるが、これ以上は任務の妨げとなる。唯の犬に魔法を使わざる己の未熟を主君に
詫びつつ、『彼』は現状を脱するために魔法を起動しようと――――
あらためて言おう。
マーキュリー号の戦術は、相手の意向など完全無視の速攻である。
『彼』が警告を発した時間、『彼』が主に己が未熟を恥じた時間。
それらは完全なデッドタイムである。
――――つまり、この要素を持って既に勝負は決していた。
伍長(勤務特別上等伝令兵)の
ドアノッカーが
盾に
「あ゛っーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!」
かくして物語の幕は下りる。
ドンテン返しなどは存在しない。
何故なら
――――――悲劇は救いようが無いから悲劇なのだから
いろいろなものが完
最終更新:2007年10月27日 10:17