第7話「超獣の来襲」


「人の持つ負の心を力に変え、生きる悪魔か……」

時空管理局本局。
グレアムは自室にて、リンディから渡されたミライについての資料を眺めていた。
彼はヤプールと呼ばれる異世界人との戦いの末、異世界の崩壊に巻き込まれこの世界に来たという。
その時、ヤプールも彼と共に次元の裂け目に落ちたという……グレアムは、危惧していた。
もしかするとヤプールは、ミライと共にこちら側へとやって来ているのじゃないかと。
次元の狭間に落ち込んだとき、ヤプールは瀕死の重傷を負っていたというが……
ミライが言う限りでは、ヤプールは完全消滅させる事が不可能な、邪悪の化身という。
瀕死の状態から復帰する事は、不可能ではない筈だ。
もしも危惧している通りの事態になれば、管理局はヤプールと激突する事になるだろう。
超常の存在たるウルトラマンでさえも苦戦を強いられた強敵……はたして、勝てるのだろうか。

「……いや、あるかどうか分からない事を考えていても仕方ないな。
今はそんなことよりも、もっと大切なことがあるのだし……」

自分が知る限り、最悪のロストロギアである闇の書。
本日付で、教え子であるクロノ達の部隊がその捜索担当に当たる事になった。
恐らくこの事件は、本局にも―――自分のところにも協力要請がくるであろう程の規模になるだろう。
事実、過去にそれは起こった。
大切な友人を、多くの仲間を失うことになった……忌まわしき闇の書事件。
闇の書は、決して滅ぼす事が出来ない禁断のロストロギア……奇しくも、ヤプールと同じ性質を持っている存在である。
時空管理局が闇の書を取り扱うのは、実は今回が初めてではなかったのだ。
あの悲劇だけは繰り返させてはならない。

「そういえば……元気にしているだろうかな。」

実はグレアムは、闇の書に関する調査を、前事件の終結後にも極秘で続けていた。
あの事件の所為で多くのものを失ってしまったのだから、無理も無い行動である。
そして、これはつい最近の事なのだが……調査を続けているうちに、グレアムはある一人の男とで出会った。
出会ったのは、過去に起きたこれまでの闇の書が関わる事件に関しての聞き込み中。
その男は、自分と同じ―――闇の書によって、仲間を失った者であった。
それ以来グレアムは、その男と共に秘密裏に事を進めていたのだが……最近、彼と直接顔をあわせていない。
色々と忙しく、直に会う機会が無かった為であるが……

「ウルトラマンの事、話したら驚くだろうかな……
また、ゆっくりと酒でも飲みながら話したいものだ。」

今も自分と同じく、闇の書に関する調査を続けているであろう友人を思う。
彼の様な者の為にも……自分が、頑張らねばならないのだ。



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「いただきまーす♪」

丁度その頃であった。
ハラオウン家では、引越しの後片付けもすっかり終わって、夕食の最中であった。
勿論、夕食は引越しそば。
なのはとユーノの二人もお邪魔して、ご相伴させてもらっている。
すずかとアリサにも誘いはかけていたのだが、残念ながら用事の為に不在である。
なのはとフェイトにとっては、少しばかり残念だった。
まあ、二人とは昼間の内に一緒に過ごす事が出来たのだし、良しとしよう。
それに……明日からは、四人揃って同じクラスで学校に通う事になるのだ。
共に過ごす機会は、これから幾らでもある。

「ふぅ……おそばって初めて食べたけど、美味しいですね♪」
「え……ミライさん、食べた事ないんですか?」
「うん、僕が地球にいたころには、食べる機会がなくってね。
本当、地球って美味しいものが多くていいなぁ……」
「そうだったんですか……でも、気持ちは分かりますよ。
私達も駐屯任務とかで、現地の見たことも無い食べ物を食べた事が何回かありますし……」
「まあ、不味いものにあたることも何度かあったけど……去年のアレとか。」
「ああ、アレかぁ……アレは悲惨だったよねぇ……」
「アレって……?」
「そうだなぁ、なのはちゃん達にもわかりやすいように言うと……
納豆とクサヤと発酵ニシンを足して三で割ったみたいな、とんでもない臭いの食べ物?」
「……え゛?」

一つ一つだけでも結構強烈な臭いを持つ食べ物ばかり。
それを足して割るって、一体どんな代物なんだ。
リンディ達の表情から察するに、どうやら味の方もアレな出来だったらしいが……
これでは、折角のそばの味も悪くなってしまう。
何とか、状況を変えねばなるまい。
そう思っていた……その矢先だった。

ピピピピピ……

「あれ……?」
「この音……通信?」
「あ、私の部屋からだ。
ちょっと行って来るね。」

「はいはーい、エイミィですけど。」
「あ、エイミィ先輩。
本局メンテナンススタッフのマリーです。」

エイミィ宛の通信は、時空管理局本局からのものであった。
引っ越し祝い……という様子ではなさそうだ。
どちらかというと、かなり困った顔をしている。

「うん、どうしたの?」
「実は、預かってるインテリジェントデバイス2機なんですけど……なんだか、変なんです。
部品交換と修理は終わったんですけど、エラーコードが消えなくって……」
「エラーって、何系の?」
「必要な部品が足りないって……このデータです。」
「えっと、何々……え?」

送られてきたデータを見て、エイミィは唖然とした。
そのエラーコードに記述されていたのは、予想外の一文だった。
それは、本来ならば絶対に出ない筈のエラーコード。

『エラー解決のための部品、”CVK-792”を含むシステムを組み込んでください』

「これ……何かの間違いですよね?
二機とも、このまま情報を受け付けてくれなくって……」
「……レイジングハート、バルディッシュ……本気なの?
CVK-792……ベルカ式カートリッジシステム……!!」

エラー解決用の部品。
それは何と、自分達の敵が用いていた代物―――ベルカ式カートリッジシステムだった。
2機がどうしてこんな要求をしてきたのかは、容易に想像がつく。
ヴォルケンリッターとの戦いにおいて、なのはとフェイトは手痛い敗北を負わされた。
その最大の敗因は……デバイスの性能差が大きかったから。
そしてそれが最も悔しいのは、他ならぬデバイス達自身だった。
自分達の力不足の為に、持ち主を傷つける事になってしまった。
もう二度と、あんな事態を起こさないためにも……2機は、この決断を下したのだ。



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「ふぁ~……」

翌日、早朝。
八神家では、一番最初に目を覚ましたはやてが、朝食の準備をしていた。
リビングの方を見てみると、シグナムがソファーに座ったままの体勢で眠っていた。
はやてはそんな彼女を見て微笑み、作業に戻ろうとする。
すると、その瞬間に丁度よく、彼女は目を覚ましたのだ。
つられて足元にいたザフィーラも、一緒に目覚める。

「んっ……」
「ごめんなー、おこした?」
「あ、いえ……」
「シグナム、ちゃんとベッドで寝なあかんよ?
風邪引いてまうやんか。」
「す、すみません……」
「ふふ……はい、ホットミルク。
あったまるよ……ザフィーラの分もあるよ、おいでー。」
「では……」

用意しておいたホットミルクを二人に手渡す。
程よい温度になっており、飲めば十分あったまるだろう。
その時、ドタバタと音を立てながら二階からシャマルが降りてきた。
そしてその後ろから、欠伸をしながらヴィータがついてくる。

「すみません、寝坊しちゃいました~!!」
「おはよう、シャマル。」
「はやてちゃん、ごめんなさ~い!!」
「ふぁ~……」
「ヴィータ、めっちゃ眠そうやな……」
「うん、ねむい……」
「……そういえば、アスカはまだ寝てるのか?」
「みたいですね……」

どうやら今日も、一番最後はアスカの様である。
これで四日連続のびりっけつだ。
仕方がないと、シグナムは立ち上がり彼を起こしにいこうとする。
すると、そんな彼女の行動を予知したのかどうかはしらないが、アスカが部屋へと入ってきた。

「ぅ~……おはよ、皆。」
「おはよう、アスカさん。
すぐ朝ごはん出来るから、待っとってな~」
「ありがと、はやてちゃん……じゃあ俺、郵便受け見てくるわ。」
「は~い。」

アスカは瞼を擦りながら、玄関へと向かう。
至って平和で平凡、しかしそれでいて幸せな朝の光景。
こうして過ごしていると、戦いのことを忘れさせてくれる。
そう……こんな日々こそが、自分達の目的なのだ。

「……あたたかいな。」

必ず、手にしてみせる。
大切な主と、大切な家族との日常を……



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「はい……ありがとうございます、レティ提督。」

そして、時刻は昼頃になる。
ハラオウン家では、学校にいるフェイトと、買い物中の為不在のリンディとアルフを除き、全員が作業に取り掛かっていた。
クロノは本局との連絡等を、エイミィは周辺探査ネットワークの整備を。
そしてミライは……メビウスに変身して、ベランダにいた。
彼は仲間との連絡がつくかどうか、一か八かで試している最中だった。
事件解決まではこの世界で戦うことを決意したとはいえ、流石に連絡の一つも入れないのはまずいからである。
手を上空へと向け、光を発した。
すると空に、光の国で使われている特殊な言語―――ウルトラサインが浮かび上がる。
普通の人間には、それを見ることは出来ない。
一部の怪獣や宇宙人、そしてウルトラマンでのみ、ウルトラサインを目視することは出来るのだ。
これを使い、ウルトラマン達は緊急時に連絡を取るのである。
別世界であるから、果たして仲間達がその存在に気づいてくれるかどうかはわからない。
だが、やらないよりかはマシである。
ミライは変身を解き、そして部屋の中へと戻っていった。
勿論、この時の彼の姿は誰にも見えていない。
ばれない様、ちゃんと細心の注意を払ってミライは行動している。

「ウルトラサイン、一応送ってみました。
これで兄さん達が気づいてくれるかどうかは、まだ分かりませんけど……」
「ん、OK。
クロノ君の方は、どうかな?」
「グレアム提督とレティ提督の根回しのおかげで、武装局員の中隊を借りられた。
捜査を手伝ってもらえるよ……そっちは?」
「良くないね……夕べもやられてる。
今までより少し遠くの世界で、魔導師が十数人と野生動物が約四体。」
「え、野生動物ですか?」
「魔力の高い、大型生物。
リンカーコアさえあれば、人間でなくてもいいみたい……」
「へぇ~……あ、でも考えてみたら、ユーノ君とかアルフさんも……」
「いや、それはちょっと違うよミライ君。」

エイミィはスクリーンに映像を映し出し、襲われた大型生物の映像を出す。
ユーノやアルフとは、はっきり言って程遠い外見の相手ばかりである。
確かにこの二人は、こっちに来てから動物形態で過ごす事が多いが、一緒くたにしたら可哀想だ。
しばらく行動を共にして分かったが、ミライはかなり天然が入っている。
素直で純粋なのはいいが、こうどこかが普通の人とずれているような感じである。

「まさになりふり構わずだな……」
「でも、闇の書のデータを見たんだけど……何なんだろうね、これ。
魔力蓄積型のロストロギアで、魔導師の魔力の根元となるリンカーコアを喰って、そのページを増やしてゆく……」
「全ページである666ページが埋まると、その魔力を媒介に真の力を発揮する……次元干渉レベルはある力をね。」
「本体が破壊されるか、所有者が死ぬかすると、白紙に戻って別の世界で再生する……と。」
「様々な世界を渡り歩き、自らが生み出した守護者に護られ、魔力を喰って永遠を生きる。
破壊しても、何度でも再生する……停止させることのできない、危険な魔導書。
それが、闇の書だ。」
「……絶対に消す事が出来ない存在。
まるで、ヤプールみたいだな……封印とか、そういうのは出来ないの?
兄さん達は前に一度、ヤプールを消滅させるのは不可能って考えて、封印に踏み切った事があるんだけど……」
「今までにも、それを試した人はいるみたいなんだけどね。
あまりに闇の書の力が大きすぎて、封印するのが無理だったみたいなんだ。」

ミライは、奇しくもグレアム提督と同じ感想を抱いていた。
何度滅ぼそうとも、執念を以て地の底から蘇る不死身の悪魔ヤプール。
何度消滅させようとも、転生を繰り返し永遠に行き続ける闇の書。
この両者は、どこかが似ている。
そう考えてみると……この戦いは、決して他人事ではないと思えてしまう。
ここまで首を突っ込んだ時点で、既に他人事では勿論無いのだが……どうしても、重ねてしまうのだ。
闇の書と、あの悪魔とを。

「だから私達にできるのは、完成前の闇の書を捕獲する事になるね。」
「あの守護騎士達とウルトラマンダイナを捕獲して、さらに主をひきずり出さないといけない。
……かなり、厳しい戦いになるだろうな。」
「そうだね……守護騎士達はなのはちゃんやクロノ君達、魔道師組が相手するとして。
当然ダイナは、ミライ君に割り当てられちゃうよね……勝算ってありそう?」
「はっきり言うと、分かりません。
僕も、そしてダイナも……この前の戦いだと、出さず終いに終わったのがありますから。」

ウルトラマンダイナは、恐らくあの戦いではまだ本気を出してはいない。
何か隠し玉があるに違いないと、ミライは直感的に感じ取っていた。
そしてそれは彼も同じ……メビュームブレードにバーニングブレイブと、ダイナに見せていない力がまだある。
次の戦いでは、ダイナも本気で来るに違いない……力を使わなければならないだろう。
ダイナの実力が未知数なだけに、ミライは少しばかりの不安を覚えていた。
だが……戦う前から、マイナスなイメージを持っていては駄目だ。
ミライは気を奮い立たせ、はっきりと答えた……己の、勝負に向けての意気込みを。

「でも……僕は勝ちます。
必ず、勝ってみせます……!!」


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「……ウルトラマンダイナ、か。」

黒尽くめの男は、建物の屋上に立って風景を眺めていた。
その視線の先にあるのは、闇の書の主―――八神はやて。
彼女は今、アスカに車椅子を押されながら、友人であるすずかと楽しそうに話をしていた。
その様を見て、男は全てを察する。
調べによれば、はやてには家族が一人もいないという。
その為、ヴォルケンリッターがその元に現れるまでは、一人暮らしだったはず。
だが……今車椅子を押しているアスカは、ヴォルケンリッターではない。
なら、彼が何者であるかはすぐに分かる。
先日の戦いで、守護騎士と共になのは達と対峙していた、あのウルトラマン―――ダイナだ。

「何故、奴が闇の書側にいるかは分からんが……頃合を見て消すべきだろうな。
最悪の場合でも、ヴォルケンリッターどもは操ろうと思えば操れる……一番厄介なのは敵は奴だ。
……いや、奴だけというわけではなかったな。」

時空管理局―――特に、先日メビウスと共に現れた者達はかなりの凄腕だった。
最後に放たれたスターライト・ブレイカーが、その全てを物語っている。
実力が分かっているメビウスは別にして、他の魔道師達が全員、あのレベルはあるとすれば……

「……闇の書を一気に完成へと導けるな。」

男の手から、どす黒いガスが噴出す。
そのガスの見た目は、彼が使役する寄生獣―――ガディバに酷似していた。
だが、それはガディバではなく……そもそも、生物ですらなかった。
そのガスを眺め、黒尽くめの男は微笑を浮かべる。

「ほう、もうページは半分を超えている……あの白い魔道師だけで、随分と稼げたものだな。
全員分を吸収できれば、間違いなく闇の書は完成する……」

リンカーコア自体は、死亡した生物からも採取は可能。
そろそろ、本格的に動き出しても問題は無いだろう。
唯一不安要素があるとすれば、やはりメビウスとダイナになる。
特にダイナは、実力が未知数……慎重に相手せざるを得ない。
手のガスが、より勢い強く噴出される。
とてつもなくどす黒い……暗黒という呼び名に相応しい色だった。

「さて、どう始末をつけてくれようか……」


「じゃあね、はやてちゃん。」
「うん、すずかちゃん、またね。」
「帰り道、気をつけてね。」

日も暮れ始めた頃、三人は帰路に着いた。
アスカは嬉しそうなはやての様子を見て、笑みを浮かべている。
今度の休みに、すずかが家に遊びに来てくれることになったのだ。
今から、その日はどうしようかと、はやては色々と考えていた。

「じゃあ、俺達も帰ろっか。
きっと皆、待ってるだろうしね。」
「うん。」

車の助手席にはやてを乗せ、アスカも運転席に座ろうとする。
だが……その時だった。
アスカの全身に、強烈な悪寒が走った。
例えるならば、喉元に刃物を突きつけられたかのような感じ。
額から、冷や汗が零れ落ちる。
とっさにアスカは、後方の建物―――黒尽くめの男がいた場所へと振り向いた。
だが、そこには……誰もいない。

「!?」
「……アスカ、さん?」
「あ、いや……ごめん。
なんでもないよ。」
「そっか、ならよかった。」
(……なんだ、今の……嫌な感じは……?)


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最終更新:2007年10月29日 12:33