最初に出てきた一機に高速で肉薄。新手のまったく同じ機体が後方から動こうとするが
一機がそれを右手で制するような動作をする。
「一機で十分って言うのか!?」
一機が迎撃体制に入る。左肩の大型火器ではなく右肩の誘導弾を発射。
二発の誘導弾はすこしづづ違う軌道をとりながら急速に距離を詰める。
ノーヴェはジェットエッジをさらに加速。直撃など受けはしない。先ほどのように近接信管が起動する前に
一気に距離を詰め、自分のリーチに入り込む。
「まずは一機!!」
至近距離なら外しはしない。ノーヴェには自信があった。
至近距離から相手がばら撒くパルスライフルの弾幕を左二の腕のシールドで防御。さっきのエネのハンドガンに
比べれば熱も持たなければ一発も重くない。
「もらった!!」
右手に意識を集中。金色に光る右の拳は通常でも威力のあるノーヴェの拳がさらに強化されたということを意味する。
必中の間合い、一撃で倒せなくても当れば確実にダメージは通る。
だが、赤と黒の機体は振り上げられたノーヴェの右手の動きを読むかのように後方にステップ。
ノーヴェの右手は空を切った。それを狙ったのかのように左手のブレードに刃を形成、ノーヴェを狙う。
今度はノーヴェが受ける番。だがノーヴェは落ち着いて身を屈めてブレードを回避。そのまま左足を起点に一回転。
右足のジェットエッジを点火、加速させる。狙うのは相手の胴体と脚の接続部分、つまり一番弱い部分。
「はぁぁーー!!」
気合を乗せて蹴りを打ち込む。当れば生身だろうと魔導甲冑だろうが只ではすまない、・・・筈だった。
「っが!!」
ノーヴェの右足は受け止められた。しかも右手一本で。
「くそ!!・・・こいつ、離せよ!!・・・ぐぁ!!」
掴んだ右足をさらに強く握りこみノーヴェを持ち上げると地面に向かって振り下ろした。
地面の衝撃にノーヴェの視界にノイズが走る。体が受け止め切れなかった衝撃が与えるダメージの警告が
表示される。痛みもダメージもすべてノイズとしてカット。
「・・くそ!!離せよ!!」
だがまだ掴まれたままだった。そのまま何度も振り上げられては地面に叩き付けられる。
まるで甚振れる獲物を見つけたの喜ぶかのように頭部のレンズが光った。
それを見たノーヴェの心を恐怖が支配する。
『くそ・・・、こんな所で!!』
必死に人間的な感情を押しつぶす。腹筋部分を使い上半身を上げ、拳を叩きつける。一瞬、右足を握る腕の
力が緩んだ。その一瞬を使い左足裏を打ち込む。そのまま必死に転がり距離をとる。
頭の中で警告が鳴り響く。そのすべてを消去し相手に集中する。骨格・関節はまだ大丈夫、神経接続、
人工臓器・筋肉もダメージはまだ許容範囲!!
『こんな所でやられる訳には行かないんだ・・・。ギンガ姉に教えてもらった技術がどこまで通じるか
証明してやるんだ!!・・・それがあたしなりの恩返しなんだ!!』
ノーヴェが構える。相手の赤と黒の機体は不気味なぐらい静かに、本当にボロボロの機体なのかと
疑いたくなるくらいに静かに、そして動いている。
「ちくしょう、余裕を見せてるつもりか!?」
それがノーヴェの癇に障った。自分は余裕をなくしていた。ギンガとチンクが、
姉達が一番心配しているノーヴェの性格的な欠点が危険なところで表に出てきていた。
「うおぉぉぉーーーー!!」
一直線に突っ込む。そこに誘導弾を打ち込まれ、さらにパルスライフルが火を吹く。
「うぉぉぉーーー!!」
左右両手のシールドで体の前面を防御。魔力片が当ろうが、破片が掠めようが、魔力弾が装甲を削ろうが
お構いなしに定めた相手を目指して突っ込む。
両手のガンナックルの先に力を集中。一撃で当らないのなら打撃を繰り返すのみ!!
必要以上に力を入れた動きほど読まれやすいものは無かった。
ノーヴェの続けて打ち込む拳を一機は簡単に避ける。面白がり、ノーヴェを弄ぶように・・・。
「・・こいつ!!こいつ・・・!!」
闇雲に拳を振り上げる。それが終わるのはあっという間だった。
「ぐっ!!」
相手の左拳が正確にノーヴェの胸を打った。思わず態勢が崩れるノーヴェ。そこに追撃で膝が伸びる。
膝が腹部に入る。ふらつきながらそれでも上半身を立ち上げるノーヴェの額をライフルの握把で叩く。
ふらつきながらなおも立つノーヴェの首を左手で掴み締め上げ、体ごと持ち上げる。
頭の中で警報音が鳴り響く。必死に振りほどこうとするが、まったく歯が立たない。
意識が遠くなり、耳も目も機能不全を起こしつつある体を赤と黒の機体は狙い、右手を構えた。
『畜生・・・!!うご、うごい・・・、から・・・だ・・・』
機能不全を起こしつつある体で一瞬轟音が耳に届いたような気がした。
次に感じたのは自分が振り回される感覚と左腕のごく至近で相手がパルスライフルを発砲したため、
知覚できた熱風だった。
その次に感じたのは自分が放り投げられ、飛んでいく感覚。
「私の妹を!!離しなさい!!」
一瞬誰かの声が聞こえた。だが先ほどのダメージでまだ体は麻痺していた。動けない。
頭から落ちればいくら頑丈な自分でも、もう・・・。
『ごめん、チンク姉、ギンガ姉・・・。ハチマキ・・・、出来の悪い妹で・・・』
機能が低下し、ぼやける視界に左肩のグレネードランチャーがこちらを向くのが見えた。
閉じた目でも感じれるほどの赤い光と爆発音、そして思ったより軽い衝撃。
最後には誰かにやさしく抱きかかえられる感触がした。固く結んでいた目を振るえながら目を開ける。
「・・・ハチマキ?」
「よかった・・・、首を掴まれてるのを見た時はもう駄目かと思った・・・」
スバルの展開したウイングロードの上でスバルはノーヴェをキャッチ、抱きかかえていた。
「スバル・・・姉・・・?」
「・・・大丈夫?・・・まだ痛いところはある?」
スバルの両目に涙があふれているのが見えた。自分のために泣いてくれている。本当の血の繋がった妹でもなく、
同じ遺伝子モデルを使っているわけでもない。幾度も血塗られた戦いを演じ、今でも些細なことから喧嘩をする。
「・・・ごめん、・・・スバル姉、ごめんなさい・・・」
「駄目だよ泣いちゃ・・・」
スバルが汚れるのも構わずバリアジャケットの袖で汚れたノーヴェの顔を拭いてやる。
「スバル、ノーヴェ、無事を確かめるのは後よ。今は目の前の敵を倒すわよ」
「うん、ギン姉!!」
まだ戦闘は終わっていない。ギンガは一機と相対し、遅れてドーム内に突入したなのはは様子見していた
もう一機に照準を合わせていた。
「ノーヴェはここで待ってて。すぐに終わらせるから・・・」
そういうと壁にノーヴェをもたれ掛けさせ、休ませる。戦闘の場所においておくのは危険だが
今はゲートの向こうに送り届けるのは難しい。
「大丈夫だ!!まだ・・・、まだやれる!!」
体内と装備品の状態をスキャン、損傷・大破した部位との接続・修復機能を停止。修復を切断された神経系、
破損の軽い人口筋肉・関節に集中。それでも体の動きは硬くぎこちない。
「ギンガ姉、スバル姉、わたしはまだ出来る、まだやれるから・・・!!」
それを聞いたギンガが振り返りやさしく微笑みながらうなずく。スバルは一瞬きょとんとした顔をしたかと思えばすぐに
いつもの精悍な笑顔を見せる。
「うん、それでこそ私の妹だよ」
「・・・ああ」
「スバル、私の右に、ノーヴェは左に」
ギンガが指示を発する。すぐにスバルが位置に付き、遅れてノーヴェが位置に付く。
二人のデバイスと直接リンクする。
<大丈夫ですか?>
リンクしたマッハキャリバーが心配して聞いてくる。
『大丈夫だ、けどうまく機動出来ないかもしれないからサポートしてくれ』
<了解。お任せください>
「ミッドチルダ方面管区、108捜査警ら隊・第一捜査中隊、ギンガ・ナカジマ曹長!!」
「スバル・ナカジマ陸士長、陸上総隊総監直轄、特別救助隊所属!!」
「末妹、ノーヴェ・ナカジマ、ミッドチルダ方面管区第757調査捜索部隊、えーと・・・本部班の備品!!」
名乗りを上げた後、三人がそれぞれウイングロードとエアライナーを展張。
「「「行きます!!」」」
三人同時に加速。一人たりとも遅れることは無い。すべてが一致した加速。
目標は一つ、末妹を傷めつけてくれた一機!!
先頭は長女のギンガが受け持ち、相手に向かって突撃する。右翼、やや下がった位置にスバル。
『ノーヴェは立ち位置を変えて、ギン姉と私のシールドの内側に!!』
『了解、スバル姉!!』
目標となった一機は誘導弾と火器で弾幕を張り、中量二脚の利点を活かし高機動を活かして左右に上に動く。
動き回る相手の張る弾幕を大きいダメージを受けているノーヴェには破片ひとつでも致命傷に
なりかねないための処置。
『接近すればグレネードランチャーは使えないわ。接近戦で撃破します!!』
『『了解!!』』
三人で息を合わせて正面と左右から相手の逃げ場を無くしつつ追い込み、相手を撃破する。
三姉妹の特性を活かしたは取れないが、三姉妹がリンクしおそらくは誰にも真似が出来ない正確に動きは出来る。
「トライシールド!!」
まずはギンガが近接戦闘を挑む。シールドでパルス弾に誘導弾、すべてを受け止め肉迫。
『すごい・・・。やっぱり防御魔法が使えれば・・・』
それを見たノーヴェが感想を漏らす。
ギンガは飛び上がる相手を逃さないようにウイングロードを展帳、さらにブリッツキャリバーで加速。
つづいて左手のリヴォルバーナックルのカートリッジをリロード。
魔力の籠められた左手の拳を打ち込む。
それを相手は右手の篭手で正面から受け止める。だがまだギンガの連撃は終わってはいない。
「ブリッツキャリバー、カートリッジロード!!」
左手のリヴォルヴァーナックルを下げ、もう一度打ち込む。同時に右手に魔力を収束。
『ギン姉、それって・・・』
『スバル、ちょっと参考にさせてもらったわよ』
右手の魔力塊が形になっていく。スバルのように純粋な魔力弾ではなく杭のような芯を有した魔力弾。
「さすがに・・・、女の子にドリルは恥かしいわよ!!」
一応、あのドリルは恥かしいらしい。
サーベルが振り下ろされる。後退して回避。髪の毛が何本か焼かれる。
「ボディブレイカー!!」
収束した魔力弾を左手で打ち込む。細い一本の黄色の軌跡を残して飛んで行く。狙ったのは腰部。
一直線に飛び命中、直撃。だが当ったのは狙った腰では無く、左足の大腿部。
『慣れない事はやる物じゃないわね・・・。ノーヴェ、次!!』
「了解!!」
ノーヴェが目標のやや左正面、上側からブレイクライナーで接近
「さっきのお返し!!」
右手が光る。先ほどは外したが相手は元々ボロボロの機体。しかも左足は損傷、動きは制限されている。
「私だってやってみせる!!・・・ハンマーダウン!!」
相手がギンガにかまけていた隙を使って接近する。
隙を利用し思いっきり横合いから殴りつける。相手の左胸が思いっきりへこむ。
中の人間は間違いなく気絶する程の衝撃が入るはず。。
「まだまだ!!」
右を打ち込んだ反動を使い今度は左手を下からアッパーで打ち込む。
今度は相手の機体の鳩尾に入った左手を深く打ち込む。
『・・・何だ?この感触?』
一瞬動きに迷いが生まれたノーヴェを掴もうと両腕が動く。
「させないよ!!」
スバルが接近してくる。
「まだ早ぇよ!!」
言いながらノーヴェの右足が見事な軌跡を描き、回し蹴りが飛ぶ。
恐ろしいほどの衝撃が襲い掛かっているはず。それでもふら付きながら立つ、黒と赤の機体。
「なんて奴・・・」
「どんな構造してんだよ・・・」
ギンガが感嘆しノーヴェがあきれる。
「私が行くよ、ギン姉、ノーヴェ、離れて!!」
ギンガとノーヴェが離れ、目標と距離をとる。
それに換わって一直線に伸びるのは青い空の架け橋、スバルのウイングロード!!
「これで・・・、最後!!行くよ相棒!!」
<了解、ロードカートリッジ>
右手のリヴォルバーナックルのカートリッジを二発。
相手は安定せぬ機体を必死に安定させ左肩のグレネードランチャーが発射体勢に入る。
命中時の爆風で自身もダメージを受けるはずだが、もはや形振り構っていないらしい
だが、そんなモノを気にもしないでさらに加速、突っ込む。
「リヴォルヴァー・・・」
さらにカートリッジをロード、魔力を高めて右の拳を振り上げる。
さらに至近まで近接した瞬間、相手はグレネードランチャーを発砲。
だが、それを殆ど一心同体のマッハキャリバーに身を任せて回避する。マッハキャリバーは
スバルの動きを阻害しない最低限の動きを算出、実行。
「ナッコォォォーーーー!!」
正面から相手を吹っ飛ばす勢い・・・、実際に相手を吹き飛ばし、標的となった赤と黒の機体は
派手に地面を転がりながら壁に当って止まり、完全に機体をダウンさせる。
「やった?」
「スバル、まだ油断しない。ノーヴェ、相手の状況をスキャンして」
「・・・機体は停止してる、中のヤツまではわかんねぇ」
「了解。二人とも散開、警戒しつつ近づいて」
三人がゆっくりと近づく。
「再起動?気を付け・・・」
相手が立ち上がった。不気味なほどの執念のなせる業か、それとも何も感じることが出来ない者が扱っているのか。
「その機体でまだやるの?」
「どうしてもと言うのなら介錯して上げ・・・って、あれ?」
相手は片膝をついた。ゆっくりと倒れこむ。倒れこんだのと同時についていたセンサー類の
光も点滅を繰り返し、消えた。
「終わったぁ・・・」
ノーヴェがへたり込み、そして横になる。
「なのはさんの方も終わったみたいね」
「ノーヴェ、大丈夫?」
ギンガとスバルが心配して駆けつける。
「ごめんちょっと無理しすぎたみたい・・・」
「いいよ、ゆっくりして」
スバルはゆっくりと横になったノーヴェを楽な姿勢をとらせてやる。
ギンガはノーヴェの頭を撫でて妹の戦いを労ってやる。
「姉達・・・、ありがとう・・・」
ノーヴェが一言とポツリとつぶやく。
それを聞いたギンガとスバルは顔を見合わせると姉として最高の笑顔をノーヴェに返してやる
「ちょっと・・・ちょっとだけ、セルフチェックしてもいい?」
「いいよ、何かあってもお姉ちゃん達が守ってあげるから」
「・・・ごめん。セルフチェック開始、重要部品の破損箇所に対して自動修復モードを起動・・・」
そういうとノーヴェは目を閉じる。ひどく無防備な安らかな表情。
「寝ちゃったね」
「酷くやられちゃったみたいだからね。ゆっくり休ませてあげましょうか」
「うん!!」
スバルが横たわっていたノーヴェを持ち上げて背中におんぶしてやる。
「いい夢を見なさい・・・」
「・・・って、ええ?」
三人が落ち着いてた時、なのはの声が聞こえた。
二人が振り返るとなのはが潰した筈のもう一機がしぶとく立ち上がっていた。
「まだやる気なの?どんな精神構造してるのよ!!」
ギンガが率直な感想を漏らした。
「やっぱり時代劇とか見過ぎなの・・・」
ナカジマ三姉妹の名乗りと正面からの突撃を横目に見ながらもう一機の赤と黒の機体と向かい合う。
「・・・力を持ちすぎたもの」
「・・・へ?」
突然、相手がしゃべり始めた。野太い男の声で。
「・・・秩序を破壊するもの」
今度は若い女性の声。
「プログラムには不要だ・・・」
同時に完全に重なった男と女の声。よく聞くと雑音やノイズが混ざっている。
「あっちと男女二人組みって言うことね・・・。いいよ、どちらか分からないけど相手してあげる」
なのはは静かにレイジングハートを構え、相手に向ける。
「レイジングハート、ブラスタービット展開!!」
<展開します>
支援用にブラスタービットを二基、設定は火力支援。レイジングハートは射撃モードへ。
それに併せて同じく自身の周囲にアクセルシューターの射撃スフィアを展開。
「アクセルシューター、シュート!!」
先手を仕掛けたのはなのは。誘導弾のアクセルシューターで相手を包囲し、さらにブラスタービットで
相手の動きをけん制。自分は横に動き回り込む。
アクセルシューターの命中したことを示す明るい魔力光が照らす。
だが相手の機体はそんな事を気にも留めないかのように加速、残弾を回避し、誘導弾を連続発射。
なのはは自分を標的にした誘導弾を残さずアクセルシューターでたらい上げ、破片すら近づけない。
「射撃戦なら負けない!!」
カートリッジを一発リロード。回避した相手に向けて収束した魔力砲を発射。
しかし最小限の動きで回避され、背後の壁に着弾、爆発。
避けた相手は左肩のグレネードを連続発射、今度はなのはが回避する番。
「やるね!!」
一発目を回避。だが回避する機動を読んでいたのか二発目を正面から受ける。
<プロテクション>
レイジングハートがオートでシールドを展開。この一人と一基のコンビの生み出す硬いシールドを
一撃で抜けるものは少ない。それが広く普及しているただの炸裂弾ならなおさら。
プロテクションの隙を突き高速で接近してくる機体。だがなのは落ち着いて対処する。
「レイジングハート、魔力刃を展開、接近戦を受けるよ!!」
射撃モードのレイジングハートの下部に銃剣のような魔力刃を着剣、槍のように-杖の筈だが-構えて
接近する相手に向かい合い、ついでアクセルシューターを展開。
袈裟懸けに下ろされる相手のサーベルをレイジングハートで相手の左二の腕を抑え、鍔迫り合いで受け止め、
アクセルシューターを後ろから回り込ませて相手を狙う。
今度は多数が命中、体制を崩す相手からアクセルフィンを使用して頭の上を取りカートリッジをリロード、
注ぎ込まれた魔力の薬莢は三発分。
「ディバイン、・・・バスター!!」
ブラスタービット収束された桃色の魔力砲が標的となった赤と黒の機体を包み込み、吹き飛ばす。
<命中、直撃です。大分至近でしたが大丈夫でしょうか?>
「大丈夫だよ、殺傷設定じゃないからちょっと痛いぐらいだから・・・。あっちも終わったみたいだしね」
そういいながらゆっくりと構えを解く。
<マスター!!>
突然頼りになる相棒が警告を出す。
「レイジングハート、どうかした・・・って、ええ!?」
もう一機がグレネードランチャーを向けていた。
「まだやる気なの?」
なのはが驚きながら再び構える。
『なのはさん、離れて!!』
突然通信が入る。なのははその言葉に反応、アクセルフィンで一気に上に飛ぶ。
次の瞬間、一条の光が通り過ぎた。それは直進し、グレネードランチャの砲身の中に入る。
瞬間、大音響と共に爆発が起こる。すぐ背中で起きた爆発にまた吹き飛ばされ、しこたま体を打ちつけながら
転がっていく機体。
「うわー・・・、絶対中の人って生きてないよね・・・」
スバルがもっともな感想をこぼす。
「エネさん?大丈夫?」
『何とか・・・生きてます・・・』
だがその瞬間、ピースフルウィッシュは機能を停止、強制的にエネを除装。
「・・・ごめんね、うまくつかってやれなかった・・・」
<気になさらずに>
「うん、修理代かかっちゃうね・・・」
<まったくです。あなたの治療費も>
「そうだね・・・。直ったら・・・、またお願いね」
<了解そのときはご協力いたします。システム待機モードへ移行>
エネ自身の少なからず怪我を負っていた。ピースフルウィッシュもまた大破、全損に近い被害を受けていた。
「生きていたのね、よかった・・・」
ギンガは負傷したエネを気遣う。
「はい、気が付いたのは本当にさっきですけど・・・」
「体は大丈夫なの?」
「私よりこっちの方が・・・」
エネがドックタグ型の待機状態となったピースフルウィッシュを掌に乗せ示す。
「コアデバイスは基本的なコアさえ生きてれば修理は出来ますが、使用しているパーツによって
お金はかかりますけど・・・」
「・・・よければ管理局で負担してあげようか?今回の発端はうちのスバルみたいなものだしねぇ・・・」
なのははノーヴェの世話をしているスバルの方を見る。良からぬ視線にスバルは気づかないふりをした。
「でもどこから出てきたんでしょう?エネさんのゲートから出てきたみたいですけど・・・」
スバルが違う話を持ち込む。
「そうだね、どこから出てきたんだろ?ギンガ、ちょっと見て来てくれる?」
「わかりました」
ギンガは一言言うとそのままブリッツキャリバーを転がし、ゲートを開放、奥へと向かった。
「何だ終わっちまったのか?」
入れ替わりで黄色の汎用魔導甲冑に身を包んだ地雷伍長がようやく合流した。
「遅すぎですよ、伍長・・・」
エネがぼやく。
「まあ、そっちの嬢ちゃんもヤツを相手に死ななかっただけ運が良かったと思っとけ。ヤツが伝説のレイブン、
アリーナの不死身のトップ・ナインボール、つまりハスラー・ワンだ」
その言葉を理解できたのはエネだけだった。
「あれがナインボール・・・?まさか・・・、何年も前に消えたと聞いてましたが・・・」
「まあ、生きてたのかどうか知らんが顔を拝んでみようか」
なのはとエネが倒した一機に近づいてハッチの開閉ノブに手をかけ、まわす。
「どんな顔をしてるか知らんが・・・、こいつはなんだ?」
除装した機体の中は空だった。
「スバル、そっちも開けてみて!!」
なのはの指示を受けスバルがノーヴェを負ぶったまま、接近、同じように開閉ノブをまわす。
「・・・なのはさん、こっちもです!!こっちも空っぽです!!」
「そんな・・・、確かに会話をしたよ?そうだよね、レイジングハート?」
<はい、間違いなく>
『なのはさん?』
「ギンガ?どうしたの?」
割り込みでなのはを呼ぶギンガの通信が入る、だが全員に受信できるようにしてある。
『先ほどは気づかなかったのですが、隠しゲートがありました。ここから出てきたんじゃないでしょうか?』
その通信にその場に居た全員が顔を見合わせた。
「ここ?」
「はい。よく見ると表面に滑ったような跡があります」
「どこに繋がってるんだろう?」
「こんな所にゲートがあったなんて・・・。伍長は知っていましたか?」
「いや、初めて知った。ここは古い施設らしが、大体調査は終わっていると聞いていた」
六人はギンガの発見した隠しゲートの前に立っていた。因みにノーヴェはまだセルフチェック中。
「古い施設なんですか?」
なのはが地雷伍長に聞き返す。
「ああ、話によると旧暦時代の施設らしい。新暦になってから付け足された施設もあるがな」
「へー・・・」
「セルフチェック終了。戦闘機動に制限つきで許可・・・」
「あ、ノーヴェ起きた?」
スバルの背中で寝ていた、セルフチェックを実施していたノーヴェが起きた。
「うん、大体大丈夫みたい・・・って、ハチマキ!!何してやがる!!」
どうやらおんぶされていたのが恥ずかしいらしい。顔を真っ赤にして暴れだす。
「わ、こら、そんなに暴れると・・・、わぁ!!」
暴れた表紙でノーヴェがスバルの背中から落ちる。だが落ちる前にギンガがノーヴェの体をキャッチ、
ゆっくりと下ろしてやる。
「もー、さっきはちゃんと『スバル姉』って呼んでくれたのに・・・」
「呼んでねぇよ!!」
「ちゃんと言ったよねー、マッハキャリバー?」
<はい、確かに。記録もちゃんととってあります>
「いや、あれはその・・・」
ノーヴェが顔を真っ赤にして俯く。
「ノーヴェ、体は大丈夫?」
「はい、制限付の戦闘機動でしたら可能です」
一応は指揮官であるなのはが確認する。
「あまり無理したら駄目よ?」
「うん、ギンガ姉・・・」
やっぱりギンガ姉は優しいな・・・。ノーヴェはそう思った。
「予定外の行動だけど・・・、とりあえず潜ってみようか?いくのは私とスバルとギンガで行こう。
なのはが決定を下す。
「そんな・・・、あたしはまだやれるって!!」
「ノーヴェ、指揮官の決定には従いなさい。今はなのはさんが指揮官なのよ?」
「・・・ギンガ姉、でも本当に大丈夫だから・・・、足手纏いにはならないから!!」
「伍長はここで誰も入らないようにしておいていただけますか?」
「それでこれは出るんだろうな?」
地雷伍長が親指と人差し指をあわせて丸いサインを作る。
「一定額を捜査協力費でお支払いできるでしょう。ですが後払いですよ?」
指揮官役ののなのはが一応契約を取りまとめる。
「構わんよ、だが期待はするな。俺はなんて言ったってアリーナの万年最下位だからな」
そういうと豪快に笑った。
『『『『・・・万年最下位なのにどうやって機体を維持したり生活してるんだろ?』』』』
エネ以外の四人は同じような疑問を頭に思い浮かべた・・・。だがそれを口に出すほど野暮ではなかった。
「あの私は・・・?」
「エネさんは無理しない方がいいわ。控え室に戻って休んでいたほうがいいよ」
「そうだよ。修理費とかは大丈夫、エネさんの分もちゃんと払ってあげる。・・・スバルのお給料からね」
「そんなぁ・・・」
「自業自得だろ・・・。わたしはそれで死にかけたんだからな・・・」
ギンガがエネを心配し、なのはが報酬を請負い、ノーヴェが恨めがましく言う。
「先頭はギンガ、マークスマンはスバル、次に私。ノーヴェは後衛で警戒。前進速度はそんなに速くなくて
いいよ。壁とかに隠されている通路とかに注意。ノーヴェはレイジングハートと
キャリバーズと直接リンクしてマッピングしておいて。みんな準備は良い?」
「「「はい!!」」」
三人が各々の利き腕を突き上げ返事をする。本当の姉妹ではないはずだが本当に良く似ている三姉妹である。
「よし、じゃあみんな行こうか」
なのはがレイジングハートを隠し通路にむけた。それを合図にギンガを先頭に暗い通路内に入る。
次にスバルが通路に入り自分の番になった時、後ろに立つノーヴェを振り返る。
「本当に大丈夫?」
「大丈夫です、戦闘機人がこんな事で倒れません」
「なにかあったら…、チンクちゃんやセインちゃんが心配するよ?冷たい事ばかり言ってるけどトーレさんも…」
「はい…、でも大丈夫です。戦って倒れたなら戦闘機人の本望だって、きっとみんな言ってくれますから…」
そういうとノーヴェは笑った。
『普段の生活の中で番感情表現が豊かな娘に育ったんだね。ナカジマ家の教育がいいのかな?』
自身の弟子とも言うべき子は相変わらず感情の起伏が表に出ない娘のままだった。
<マスター、彼女のポテンシャルは落ちています。やはり置いて行くべきでは?>
『彼女なら大丈夫だよ、レイジングハート。でも目を離さないであげて』
<お任せください、マスター>
「じゃあ行くよ。しっかり付いてきてね」
アクセルフィンを展開、一気に加速して先発した二人を追う。
「遅れるかよ…!!」
ノーヴェは三人の後を追う。ジェットエッジを加速させ通路の闇へと消えていった。
「さて、じゃ仕事をするとしますか・・・」
四人が通路に消えた後、地雷伍長がぼやき機体を着座させる。
「仕事って・・・、なんで座ってるんですか、伍長?」
「まあ仕事はここで監視してろって事だろ?それに今、この施設に入ってこれるやつは居ると思うか?」
「それはそうですが・・・」
今現在、シャッターが施設の通路の大半を閉鎖している。今頃来たレイヴンは必死に開けようと苦労しているのだろう。
「分かったらお前もとっとと控え室に戻って応急処置して休んでおけ」
「そうですね・・・、じゃあいったん戻ります」
エネが踵を返して戻る。
「ああ、ちょっと待て」
地雷伍長が呼び止める。
「入っていったあいつらが帰ってきた時の為に茶とか軽食を用意しておいてやれ。それと・・・」
一瞬区切って考える地雷伍長。
「誰か来たら軽食と魔法瓶に入れたコーヒーを俺のところに持って来させてくれ。ただ待つのは勘弁だ」
それを聞いて了解の返事のつもりか崩れた敬礼と笑顔を返すとエネはそのまま通路を歩いていった。
歩いていったのを確認して地雷伍長は頭部ハッチを開放腰部の雑具箱から器用にタバコとライターを取り出し、
一本吸い始め、紫煙を吐き出す。
「まさかとは思うが・・・、こいつは本部か例の秘密工場への隠し通路じゃなかろうな?」
地雷伍長の呟きを聞いたモノは彼のデンジャーマイン以外、誰も居なかった。
最終更新:2007年12月09日 20:31