「……聖魔王杯?」
はやての告げた言葉にスバルは首を傾げた。それは周りに立つ機動六課の仲間達も同様だ。
「せや。第666管理外世界って知っているか?」
続く言葉に答えるのはフェイトだ。執務官の膨大な知識から算出された答えは、
「確か、今確認されてる世界の中で最大級の内包型次元世界だよね?」
「内包型……?」
「一つの次元世界の中に、更に複数の小型世界が存在する種類の事よ」
ちゃんと勉強しなさいよ、と忠告するのは稀代の親友ティアナ・ランスター。そして二人の補足に続くのはスバルが敬愛して止まぬ魔導師、高町なのはだ。
「それで……聖魔王杯って何なの?」
なのはの質問は、はやてを除く全員の総意だ。要するにそれは何なのだ、と。
「一言で言えば大会なんやけどな? 問題はその優勝賞品なんよ」
「優勝賞品…?」
「一体何が貰えるんですか?」
問うのは幼い少年少女、エリオとキャロだ。
「――これよ」
言葉と共にはやてがエリオとキャロに一枚の紙を渡した。冒頭には“聖魔王杯”とあり、参加者募集の広告である事が解る。
どれどれ、といった具合に周囲の人間がそれを覗き込む。そこに記されていたのは、
聖魔王杯
参加資格①人間と、自律した意思を持つ人間以外の種族のペア
②告知開始より一年以内に会場に入る事
大会期間:優勝者が決まるまで
優勝資格:勝ち続ける事
勝負方法:問わず
優勝賞品:聖魔王と聖魔王杯(この世界を支配する権限)
「…………」
それを見た全員が沈黙する中、はやてが溜め息をついた。
「えーと、つまりこれは?」
沈黙を破ったのはスバル。広告から読み取れる意味が信じられず、はやてに問うた。
だが返された言葉は、広告の肯定だった。
「――要するに、内包世界が百を超える次元世界の支配者を決めようっていう大会なんよ」
一拍の後、機動六課隊舎に驚愕の叫びが轟いた。
「まぁ次元世界の平和と秩序を守る時空管理局としては、これを見過ごす訳にはいかないよなぁ」
ティーカップの紅茶を飲み干しつつクロノが言う。
「管理局としては、これを機に666管理外世界を治めたいって腹づもりだろうね」
「内包世界の数は勿論、あそこには単体で人類を何回も滅ぼす様な存在が数十体はいるものね」
応じるのはヴェロッサとカリムの義姉弟。どちらも苦笑と溜め息を含んだ言葉を投げ出す。
「しかしそれを考えるのは管理局だけではないでしょう?」
「勿論。既に他次元世界から666管理外世界への侵入者が多数確認されている」
「やっぱり、666管理外世界の支配が目的なんだろうねぇ」
シャッハの指摘にクロノとヴェロッサはうんざりとした様子で答える。
「だから管理局も潜入してそれを阻止、出来るようなら優勝して支配権を得ろと?」
「それが時空管理局上層部の指令だよ。――JS事件を止めた実力者集団、機動六課への、ね」
「ペアを組む相手ってデバイスじゃ駄目なんですか?」
666次元世界へと向かう中でスバルが挙手した。その手には待機状態のマッハキャリバーがある。
「んー問題は無いと思うけどな。でもデバイスって自分の戦闘力として使うやろ? やったら持ち込み武器って事にして、それ以外の誰かと組んだ方が得やろ?」
一見すれば二人組、その実は三人組相当やー、とはやては笑う。
「……さすがは管理局で“チビタヌキ”と噂される人だね」
「陰謀と詭弁にかけては管理局随一ですね」
「そもそも能力限定で私とフェイトちゃん、ヴィータちゃんにシグナムさんを一つ所にまとめたのはやてちゃんだもん…」
「そこ! 聞こえとるよ!?」
こそこそと話すスターズ分隊にはやての声が響いた。
――かくして機動六課は到着、各自の協力者探しが始まった――
「うわぁ何これ、ロボット?」
『――ゴ』
「え、しゃ、喋るの!?」
スバルは丸みを帯びた鋼鉄の大型ロボットと出会った。
「ヘイ! そこの君、――オレとラブテスターしない?」
「結構です。っていうかそれナンパですか?」
ティアナの前に革ジャンを着込んだ銀髪ロンゲの青年が現れた。
「あら坊や、ひょっとして迷ってしまったのかしら?」
「ち、ちちちちち違います!」
「ふふ、何もとって食いやしませんわよ。……私が食べるのは主様だけですもの」
獣の耳と尾を持つ三つ編みの女性がエリオに迫った。
「ごしゅじーん、どこに行ったっスか~?」
「え……カバが空を飛んでる!?」
浮遊するカバ似の霊獣にキャロが驚愕した。
「タッキュウドオッ!!」
「――速い! 彼と共にならば……勝てる!」
瞬間移動を行った鎧の男にシグナムが出会った。
「わふー! るっぷるどぅ!!」
「だー! 何言ってる解んねぇんだよお前ッ!?」
青い帽子と服をした人型の黒い獣にヴィータがキレた。
「こにゃにゃちわー……ってうわなんやお前! 急に抱きつくな!?」
「やーん何これめっちゃ可愛いわー!」
はやては羽を生やした関西弁の小動物を抱きしめた。
「おやおやお嬢さん、ビューティフォー!! ……パンツ見せてもらってもよろしいか?」
「見せませんッ!!」
ぼろぼろのスーツを着たアフロの骸骨にフェイトが赤面した。
「いひひひひひひっ! 僕だけ蚊帳の外っていうのもさびしぃぃからねぇっ! さあ、一緒に戦おうじゃないかぁっ! ドリル魔法少女となって!!」
「いやーっ! 人体改造はいやーっ!?」
やたらと絶叫する痩身の医者によってなのはは危機に瀕していた。
――会場に集まる選手達――
「ふん、世界の覇者とはな。――オレを除いて他にいるものか」
「全くです、ぼっちゃま!!」
トンガリ頭の少年と大柄な武将の幽霊が、
「ねーねー! 苦労しないで勝てる道具出してよー!!」
「何言ってんだい、そんな事言ってないでいくよ!」
眼鏡の小学生と青い耳無し猫型ロボットが、
『さやま かつ いっしょに』
「ああ勿論だとも。……まぁ神に等しい私がいるのだから勝利は確定事項だね?」
草の体を持つ獣と女物の指輪をした高校生が、
「ねぇ、優勝すれば本当にジンに会えるの?」
「あったり前だろぉ? オレを信じろって(世界を支配出来るっつぅなら嘘にゃなんねぇだろ…)」
シャツに短パンという軽装の少年と人型のカメレオンが、
「世界の支配者、ねぇ……。ま、酒にも飽きたし良いかもね」
「ヒヒヒッ! 酒の合間に国取り合戦たぁ良いご身分だなぁ、我が愛しのブッ!!」
人語を放つ巨大書物を肩から下げた眼鏡にスーツの美女が、
その他多くの強豪と奇人達が集う。
――開始される激戦の数々――
「行くぜ! ジーク、ブレードライガーッ!!」
『ゴォォォォォォォンッ!!(ギュォンッ!)』
「こっちも行くぞ、龍神丸!!」
『おぉうっ!!』
青い機械の獅子と単身の人型ロボットが徒競走をする――!
「ボクが君の食べ切れないぐらい料理を作れば勝ちだからね!?」
「がんばれー! ミーくーん!!」
「ふふふ、飲食に関して私に勝とう等笑止千万ッ!!」
「ああ、これで今日の食費が浮く……」
機械仕掛けの猫と騎士王を名乗る少女が大食い対決をする――!
「勝つぞ、ヴィラル!!」
「当然だ!!!」
「行こう、雲七」
『――言われるまでもねぇや』
全身からドリルを生やした巨大ロボットと人面の白竜が激突する――!
――そして立ちはだかる最強の敵――!
「あーはっはっは!! リリー・オブ・バレイ参上!!!」
「ライフル担いだ覆面メイド!?」
――ジャンルも設定も時間軸も一切無用!?
―――史上稀に見るスーパーカオスストーリーが今ここに!?
――――『魔法少女城塞マスラヲ』!!! 余裕ができたら始まるかも!!?
「あ、お隣さんですか? 私スバルって言いま……目つき恐ッ!!?」
「……あなたは、とても、正直な人だ。――相手が、傷つく程に」
「ああっ、マスターがビニール紐で首つり自殺をー!?」
―――合い言葉は、「どんだけーッ!?」
最終更新:2007年11月17日 15:11