レリック事件から数年…

ミッドチルダ首都・クラナガン。
半ば廃墟と化したこの都市を占領するのは、巨大な球状の要塞・マシーンランド。
噴き出される二酸化炭素によって、クラナガンの気候は、「奴ら」の世界のものへと作り変えられつつあった。

「――フレースヴェルグゥゥゥゥーッ!」
放たれる魔力弾が、数頭の異形の魔物を殲滅する。
爆発の衝撃によって煽られた自動車が、人っ子1人いないビルのショーウィンドーをブチ破った。
街にはびこる魔物の姿は、まさしく太古の恐竜。
ところどころが機械化されたそれらは、名をメカザウルスという。
メカザウルスのうち、翼竜のような姿をしたモノが、宙に浮く1人の女性目掛けて爆弾を投下した。
「きゃっ…!」
爆発によって生じた黒煙が、女性の身体を瞬時に包み込んだ。
陸からは2頭のメカザウルスが煙の側へと近寄る。
しかし、それらもまた、魔力弾によって撃破される。

「…長かった…」
マシーンランドの頂に立つ影があった。
「太古の昔、降り注ぐ魔力によって地の底へ追いやられて幾世紀…」
幾つもの恐竜の頭部が生えた異様な玉座に立つそれは、人と呼ぶにはあまりに巨大な姿を持っていた。
「叫び、吼え、呪い、のたうち…過去の栄光と地上の生活を求めて、夢見て死んでいった同胞達よ…」
否、その姿もまた、人のものではなかった。
その身は青い鱗に覆われ、瞳は赤く光り、口は四つ叉に裂けている。
帝王ゴール。
かつて魔法を手にした人類との戦いに敗れ、地下への退避を余儀なくされた、「奴ら」の王。
「愚かなる人類に代わり、今こそ! 我らハ虫人類が地上に、楽園を築くのだぁぁぁっ!」
真紅のマントをたなびかせ、巨大な口を開き、ゴールが高らかに号令した。
「行けぃ! メカザウルス!」
「恐竜帝国の輝かしい未来を、創造するのだぁっ!」
バット将軍、ガレリィ長官の2大側近の指揮の下、恐竜帝国のメカザウルスが、大挙として人間の女性へと襲い掛かる。

「黙っとれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーっ!」
女性――時空管理局所属SSランク魔導師・八神はやて二佐が雄たけびを上げた。

一方、クラナガン周辺に滞空するアースラ艦内では、多くのスタッフが右往左往していた。
「何故だ! 何故起動しない!? まさか、我々にも理解できない、未知の何かがあるのか…!?」
提督クロノ・ハラオウンが苦々しく呟く。
外には数多くのメカザウルスが迫り、アースラに攻撃を仕掛けている。
ヴォルケンリッターの面々が応戦しているが、じきに押し切られてしまうだろう。
『お兄ちゃん!』
「フェイト!」
『急いで! このままじゃ…!』
『…いやあああぁぁぁぁぁぁっ! やめてぇ! もう放してぇっ!!』
モニターの向こうに映るフェイトが懇願し、なのはが絶叫する。
今、彼女らはある事情により、出動できずにいた。
理由は、恐竜帝国との戦いに備えて更なる改良を加えられた、レイジングハートとバルディッシュ。
その新機能が、全く動く気配を見せないのだ。

「アーテム・デス・アイゼスッ!」
はやてが放つ冷気の魔法が、襲い掛かるメカザウルスを次々と凍結させていく。
うち1頭の放った鉄球がはやての足元を捉え、大地を揺さぶった。
「くぅっ…まだまだぁ!」
この程度でうろたえるわけにはいかない。このクラナガンで戦うのは、今では彼女1人なのだから。
アーテム・デス・アイゼスの気化氷結魔法が、次なる鉄球ごとメカザウルスを凍てつかせた。
しかし、背後からの強烈なドリル攻撃が、はやてを襲う。
「きゃあぁぁぁっ!」
とっさに防御魔法を展開したものの、その衝撃は相当なものだ。はやてはもんどりうってアスファルトに倒れこむ。
「ぬぁはははは…降伏しろ! この帝王ゴールにひれ伏し、許しを請うのだ!」
勝ち誇った声でゴールが言う。
既に満身創痍のはやては、しかし土ぼこりを払うと、よろめきながらも立ち上がった。

『お兄ちゃん! このままじゃはやてが…お願い、行かせて!』
アースラのブロックからフェイトが叫ぶ。
『どうせ死ぬなら一緒に…!』
「馬鹿もんっ!」
しかし、クロノの隣に立っていたゲンヤ・ナカジマがそれを一喝した。
「甘ったれるんじゃねぇ! お前達には、もっと残酷な未来が待ってるんだ!」

「く、うぅぅぅ…っ!」
メカザウルスの一斉射撃にさらされたはやては、じりじりと後退る。
「デアボリック・エミッション!」
何とか反撃を繰り出し、襲い掛かる3頭のメカザウルスを吹き飛ばした。
しかし、そこまでだ。
後方や側面、死角から伸びるメカザウルスの触手により、はやては遂に自由を奪われてしまった。
「ぬぅぅあははははははは…! とどめはこのワシの手でさしてくれるわ!」
勝ち誇った笑いを上げながら、ゴールがその巨大な脚を1歩踏み込む。
「ゴール様!」
「どうした?」
しかし、それは腹心バットの声によって遮られた。
「様子が変です」
「何!?」
見ると、はやてを拘束するメカザウルス達の身体が、次々と溶けていくではないか。
「魔導師が高熱を発しております。完全にオーバーヒートです!」
「ばぁかなっ! マグマの熱にも耐えるメカザウルスが溶けるわけがない!」
「…攻撃魔法だ…!」
「何っ!?」
「御覧なさい、機械だけを残して溶けていく!」
ガレリィが示すとおり、溶けているのは恐竜の生身だけだ。機械のパーツは、そのままガラガラと落ちていく。
「熱い血潮も! 涙も流さへん冷血野郎のトカゲども!」
いつからあったのか、その手に握られていたのは、赤い光を放つ宝石が詰め込まれたカプセル。
「アンタらなんかに、この地上は渡さへんわ!」
高らかに掲げたそれは、レリック。
歴史からも抹消されていた、かつて対恐竜帝国用として用いられた魔力エネルギー体。

「っ!?」
丁度その瞬間、なのはの脳裏に未知なる感覚が宿る。
今までびくともしなかったレイジングハートが――そしてバルディッシュが、少しずつ赤い光を発しはじめた。
アースラ全体をスパークが駆け巡る。
『うおっ!?』
『これは…!?』
クロノとフェイトが同時に声を上げた。
そしてなのはは…
「…はやて、ちゃん…!?」
その目に映るのは、1人戦場で戦う、友の姿。
「…はやてちゃああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーんっ!!!」
なのはは絶叫した。
2つのデバイスが、強烈な光を放つ。
アースラそのものからも漏れ出すほどの光は、ヴォルケンリッターを傷つけず、メカザウルスのみを消滅させた。
肉体が瞬時に分解され、その骨のみが虚空に残る。

「ば、馬鹿な…!」
光で満たされたのはアースラの空域だけではない。
それどころか、クラナガンで発せられた光は、その何倍もの範囲に広がっていた。
さながら、クラナガンの全てを照らすかのように。
「アンタらの祖先を絶滅させた、エネルギーの源や!」
光の中心で、はやてが叫ぶ。
「…こいつで滅びぃやああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーっ!!!!!」
絶叫と共に、カプセルが握りつぶされた。
大爆発を起こしたレリックは、その眩い光を広げていく。
自動車を、ビルを、メカザウルスを、全てを際限なしに分解させながら。
「ば…馬鹿なっ! 下等な人類ごときに、我が恐竜帝国がぁっ!」
それがゴールの最期の言葉となった。
マシーンランドさえもかき消しながら、赤い光は、クラナガン全域を、静かに包み込んだ。



魔法少女リリカルなのは4(仮題) Coming soon...(嘘)

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最終更新:2007年11月17日 16:39