『ドラなの』第5章「脱出」



「『ひらりマント』!」

見覚えある二頭身のロボットはその黒と赤のマントを手に、女との間へ割って入った。
それでも構わず放たれる砲撃。だが猫型ロボットはそれを

「ひらり!」

という掛け声とともに反らして見せた。
その砲撃は目標である自分を大きく反れて近くの壁に着弾。壁に穴を穿ち破壊の嵐を撒き・・・・・・いや?散らさなかった。
それどころか着弾したという確信が持てぬほど、そこには何の影響もない。

「(今の非殺傷(破壊)設定やったんか・・・・・・?)」

まだ自分に利用価値があると思っていたのだろうか?
しかし事態は考える間を与えなかった。
続いて後ろから「ドッカァーン!」という聞き覚えのある野太い声が。そしてそれとともに空気圧とは名ばかりの強烈な衝撃波が頭越しに通過して、浮き足立った敵に着弾した。
それによって敵は一時高空へと退避する。

「はやてちゃん!大丈夫か!?」

振り返るとそこには、手に黒光りする筒を装備した剛田武がいた。

「た、たけしくん!?それにドラちゃんも!?」

「説明はあと!ジャイアン、はやてちゃんをおぶってあげて」

「任されよう!」

駆け寄った彼は疲弊した自分を背負ってこれまた謎のプロペラの付いた道具を自分に取りつけると、異議を唱える間もなくビルから“飛び降りた”。

(「えっ!?ちょっ、待ーーーーー」)

ここが何階か分からぬが2階とか3階というレベルではないことは確かだ。
はやてはスレイプニール(飛行魔法。翼を媒介とするため、一度作動させればある程度デバイス抜きでも継続運用できる)の緊急フルドライブに備えるが、いつまで経っても落下の感覚はやってこなかった。

「・・・・・・と、飛んどる?」

一瞬もう死んだかと思ったが、身体中に走る痛みはこれが現実であると訴えた。

「たけしくんも魔法が使えるん!?」

「・・・・・・魔法?なんだそりゃ?」

武はあまり考えた風もなく下から応えると、筒から

「ドカンッ!」

と叫んで敵へ衝撃波を放つ。
直後巨大な平手打ちでも喰らったかのような莫大な反動で大きく姿勢が乱れ、落ちそうになった。

「うぁぁぁーーー!ってありぁ?」

突然かかった急制動に武が怪訝な声をあげる。
その場は瞬間的な慣性制御によって背中の翼からたくさんの羽根が抜け落ちて、ちょっとした桜吹雪を現出していた。

「大丈夫か?」

呼びかけてみると、ようやく彼も何が起こったのか理解したようだった。

「あ、ああ。はやてちゃんか。助かったぜ」

「反動には気ぃつけてな。わたしはこの状態やとあんまり飛行の制御できへんから」

「わりぃ。―――――だがもうちょっと辛抱しててくれよ!」

言いつつもその筒をつけた右腕を横に旋回し、容赦なく放つ。
再び襲う反動。
しかし意図したことは攻撃ではなかったようだ。
彼にしっかりと掴まりつつ、さっきいた場所を見返す。すると舞っていた黒い羽根の桜吹雪を柱のような黄色い魔力砲撃が貫いていた。
武はドラえもんの防衛ラインを越えてくると踏んで、緊急回避にその反動を利用したようだった。
しかし所詮は素人の付け焼刃。護衛のドラえもんとは目的地以外のコースの同調ができない(事前にうち合わせていない)らしく、満足な予備回避機動(ジグザグの回避運動など)ができずにデフォルトは直線飛行してしまう。
おかげで敵も偏差砲撃がいともたやすく行えるようで、どうしても緊急回避が多用されてしまっていた。

「(わたしが指揮してたらこんな綱渡りな機動させへんのに!)」

もしドラえもんが敵の1人に火力拘束されて、もう1人が攻撃してきたらと思うと気が気でない。
しかし何度試しても2人には念話は通らなかった。

「(まさかリンカーコアを持ってないんか?いや、でもこんな魔法みたいな科学がありうるはずないやないか!)」

ここ(第97管理外世界)より科学が進んだミッドチルダでさえこんなことは出来ないはずだ。
しかしその思索は敵の強力な魔力砲撃が自らの帽子を吹き飛ばしたことによって中止させられた。

「(今のは危なかった・・・・・・と、ともかく魔法かどうかの議論は後回しにして2人に話しかけんと!)」

かといって反動による無制限の急加速、急制動の繰り返しで口を開ければ舌を噛み切ってしまいそうだ。
どうやら今できるのは、同年代とは思えないほど大きな背中を持つ友人に掴まることだけらしい。
半ば諦めにも似た気持ちになりながら歯を食いしばり、首に回した腕を必死に保持する。
何回目だろうか?数える事すらままならぬ緊急回避に頭がフラフラになってくる。
それでもなんとか敵の位置と武の砲の位置を把握し続ける。
なぜならそうしないと武の機動の予想が立たず、緊急回避に備えることができないからだ。
左舷後方に静止した敵。どうやら照準に入ったようだ。気づいた武の右腕が真上に旋回し発射される。
普段なら難なく掴まり続けていられたはずだ。しかし大きなダメージを負った上で不規則な機動で脳をシェイクされ続ければ、その体が彼女の意思を一瞬でも裏切ってしまうのは仕方のない事だった。

「わ!」

回避の際の加速度に煽られて首に回していた腕が解かれ、武の左腕に保持されていた左足も抜けてそのまま空中に取り残されてしまった。
飛行魔法で落ちることはなかったが、デバイスがないので弱った飛行魔法の復旧ができず、回避と呼べるような機動はできない。
しかし予想された第2射はやって来なかった。見ると1筋の青白い光線が横切って、敵がそれの回避に躍起になっている様が見てとれた。

「遅いぞのび太!」

「ごめ~ん!思ったより深く刺さってて・・・・・・」

下界よりやって来た彼がおもちゃのピストルのようなそれを武に投げると、もう一丁をポケットから取り出して装備する。どうやら左手は長い得物のせいでふさがっているようだ。
あれはーーーーー

「はやてちゃん大丈夫?」

「ウ、ウチは大丈夫やけど・・・・・・」

「良かった」

のび太はそう言って安心すると、その得物をこちらへ差し出してきた。

「えっとこの棒、たぶん大事な物なんだよね?落としたみたいだから拾っておいたよ」

彼の左手に握られていた細長いポール、『シュベルト・クロイツ』がそこにあった。

「それ、ウチのデバイスや!のび太くんホンマありがとう!」

「うん。でもあんな高い所から落ちたのに壊れないなんて丈夫な─────」

「のび太くん危ない!」

ドラえもんの警告。
話していて完全に敵の存在を意識の外に置いてしまったらしい。のび太の弾幕が止まった事で隙のできたこちらへ敵の砲撃が放たれたようだ。

「盾!」

主の命に蒼天の書が副唱。受け取ったばかりのシュベルトクロイツが魔力を出力して、彼と砲撃との間に遠隔展開された魔力障壁は無事彼を守―――――れなかった。
デバイス搭載の魔力コンデンサのチャージが受け取ったばかりだったために全くなく、通常出力のみでは耐えきれない。
ベルカ式の三角形のシールドは、ダムが決壊するかのように着弾点から瞬時に砕けて散る。
だが稼いだその零コンマ何秒はのび太に回避の隙を与え、光の鉄砲水が彼の頭にのっていた竹トンボのような奇妙な機械を吹き飛ばすにとどまった。
―――――はやては知らなかった。その機械がやられる事がこの状況では彼にとって致命傷に近い事が。
だからそれが吹き飛ばされた事自体には何とも思わなかったが、彼が自由落下し始めたのを見てようやくその重要さに気づく。

「(あれがデバイスやったんか!?)」

となればこうしてはいられない。しかしもはや通常の飛行魔法では間に合うまい。はやては即決すると蒼天の書に書かれた最終兵器を呟いた。
瞬時に白いミッドチルダ式魔法陣が展開されて

『フラッシュ・ムーブ!』

という復唱とともに疾風と化すと、急降下して落ちるのび太を抱くように救助する。

「止まってぇぇぇ!!」

飛行魔法を具現化する翼が折れんとするほどの急制動を掛けて、降下速度を殺していく。
本来この魔法の開発及び使用者であるフェイトは特別な方法によって直ぐに減速が可能だ。しかしはやてはまだその方法まで教わっていなかったのだ。
迫る下界。
次の瞬間には叫びもむなしく自転車クラスに減速したスピードで“着弾”した。

「あいたたた・・・・・・のび太くん大丈夫か!?」

ガサガサいう動きにくい足場と立ち込める悪臭に顔を歪めながら、救助したはずの友人の名を叫ぶ。
すると彼は『海鳴ゴミ焼却場』と書かれた看板の近くで自分と同じく大量のゴミの山に埋れていた。

「あ、うん。ごめん。ありがとう・・・・・・」

「ええよ。お返しや」

はやてはそう言って、ニッコリ微笑んだ。

(*)

「ところで何でみんながここにおるん?」

のび太救出後制空権を完全に奪われて、件の場所で防空戦闘を行う中、はやては皆に問う。

「それは―――――ひらり!こっちが聞きたいよ!ここはどこなの!?」

ドラえもんの反らした砲撃が積み上げられた生ゴミの山に飛び込んで、吹き上がった腐敗物が自分達に降り注ぐ。
はやては頭に乗った鶏の骨らしきものを払い落としながら彼の問いにどう答えたものか瞬間的に逡巡(しゅんじゅん)するが、隠しても仕方ないと本当の事を言うことにした。

「結界の中や。管理局・・・・・・わたしの仲間の救援が来ないってことはよっぽど強力なもんやと思うけど・・・・・・」

「結界?・・・・・・そうか、わかったぞ!」

「・・・・・・何がわかったの?」

「22世紀にもこれと同じような道具が売り出された事があるんだ!」

「じゃあ出る方法もわかるんだろ?」

しかし武のセリフに、ドラえもんは苦い顔をして首を振ってみせた。

「それが・・・・・・この道具は空間を切り取る道具なんだけど、もし内側で事故があっても救助隊が入れないとか欠陥だらけで発売中止になっちゃったんだ・・・・・・」

「そんなぁ~!」

「もう、この役立たず!」

「ごめん・・・・・・」

しかしはやてにはこの会話に腑に落ちないことがあった。

「せやけど『なかなか入れん』ちゅう話なのに、どうやってみんなは入って来たん?」

「それは・・・・・・たぶん僕らは『壁紙秘密基地』の“超空間”にいたから、結界からの排除を免れ・・・・・・あっ!?」

彼の頭の電球的なものがピカッと光を放った。―――――ような気がした。

「出れる!出られるよ!この結界は超空間には干渉出来ないんだ!だから超空間を経由して秘密基地の出入口を結界の外に作れば─────!」

「晴れて星空が拝めるってわけだな。よぉーし!はやてちゃん、こっちだ」

武は先読みすると手招きと共に基地へと向かおうとする。しかしドラえもんは

「待って!」

と呼び止めた。

「基地の場所がバレるのはまずい。まずあの敵を何とかしないと!」

敵は上空を遷移したままこちらの出方を窺っている。基地とやらがどんなものか知らないが、そんな状態で下手に動けば砲火を雨あられと降らされてあっという間に動けなくなることは必至だった。

「じゃあ、足止めならわたしに任しとき。でも、ちょっちあのごっつい攻撃を何とかしてくれるか?」

牽制なのか近くの地面に着弾した魔力砲撃に視線に投げて言う。

「そういう事なら」

「「任しとけって!」」

武、そしてのび太とドラえもんが応じ、のび太の『ショックガン』からは少なくともクラスA相当の魔力砲撃が。
武の『空気砲』からは魔力で包んだらしい空気圧の塊を

「ドカンッ ドカンッ」

と連続的に撃ち出した。
ドラえもんも引き続き超低空にて、『ひらりマント』による全員の直掩(護衛)に入った。
(なおそれぞれのデバイス(道具)の名前はこの対空戦闘中に知りえたもので、ドラえもん達にばれないように行使した蒼天の書の簡易解析魔法によって魔力を使ったものだとわかっていた。)

「(いい腕とチームワークや)」

はやては普段の生活では想像できない彼らの手際を横目に、巨大なベルカ式魔法陣を展開して魔力のチャージに入った。

「うわ!なんだこれ!?」

どうやら突然足元に出現した魔法陣に驚いたようだ。ドラえもん達が敵の攻撃と勘違いして逃げようとする。

「大丈夫や!これはわたしがやっとるから!」

「そ、そっか・・・・・・」

「なんだ、驚かすなよ」

敵もこちらの魔力チャージに感づいたの攻撃の嵐が吹き荒れる。しかしそれはドラえもんによってそのことごとくが反らされた。
逆に武の範囲攻撃的な空気砲と、運動神経に似合わず射撃の得意なのび太のショックガンによって満足な射撃位置にすら着けないようだった。
しかしチャージも8割を超えようという時に、反れた砲撃が近くの塀に着弾。爆発を起こして比較的大きな破片が飛来してきた。
ドラえもん、のび太、武は動けるので対応も効くだろう。しかしチャージ中の自分は魔法陣の中央から動けないし、他に魔法も使えないので完全に無防備だった。また、今の状態のバリアジャケットでは防ぎ切れまい。
ひらりマントで防ごうにも敵の砲火が止まらないので、ドラえもんにもどうしようもないだろう。
はやてはあんな凶悪な破片が自分当たらぬよう祈りながらチャージ作業を続ける。

「(今動いたら今までの苦労が水の泡や!それに敵の狙いは元々私。関係ないドラちゃん達は命を引き換えにしてでも、元の世界に戻してみせる!!)」

しかし『そんな決意、絶対に認めない!』とでも言うような真っ直ぐな男がいた。
視界に横切る自分の肩幅の2倍はありそうな同級生の姿。
彼は自分と破片の間で身構えると、

「ドカンッ!」

と叫ぶ。
それを発射キーとして発砲された空気圧は、見事に致命傷を負わすような大型破片の飛来を防いだ。しかし影響を免れた小型の破片が素通りし、彼の衣服を、肌を切り裂いた。

「たけしくん!」

あまりの光景に悲鳴のようになってしまった叫びに、武は振り返って不敵に笑ってみせた。

「友達も守れなくて、ガキ大将名乗れっかよ!」

威勢よく聞こえる声。しかしはやてにはわかった。滴り落ちる血と飛び散った血。それらから彼が決して軽くない傷を負わされた事が。
だがはやてはそれを努めて気づかなかったふりをした。それが彼のプライドを傷つけぬ唯一の方策なのだから。
そしてついにチャージが完了した。

「みんな行くで!発動したら急いでその場所に向かうんや!」

「「わかった!」」

ドラえもんとのび太が応答し、武も頷いた。同時に“スッ”と杖を敵のいる空に向ける。

『遠き地にて、闇に沈め!』

最終詠唱。そして高らかに技名としての発射コードを宣言した。

『デアボリック、エミッション!』

リィンフォースより受け継ぎし無属性・無差別空間攻撃魔法。それが自らの遠隔発生という資質によって敵の目前数メートルで炸裂した。
炸裂地点から爆発的に真っ暗な空間が四方に広がって敵を、そして灯りという灯りを完全な闇へと塗り潰していく。それはまるで噂に聞くブラックホールが輝く星星を呑みこんでいくような印象を見たものに植え付けた。
しかしそんな光景を眺めている場合ではない。見とれるのび太達に

「早く!」

と檄を飛ばして移動を促すと、迷わず武の元へ。やはり動けないようだった。

「先に行っててくれ。すぐに追いつく」

そう言って強がる彼を無視して体を、特に移動に必要な脚(あし)の状態を確認する。

「(ひどい・・・・・・)」

素人目にもそれはわかった。
ぱっくりと開いた大きな切り傷からは恐ろしいほどの血が出ている。
しかしそれにめげず以前勉強した応急措置マニュアルを必死に思い出す。
そしてここが戦場であることを考慮して、とりあえず止血だけでもとバリアジャケットのリボンを引き抜いて脚にきつく結ぶ。
圧迫で痛むのか苦悶の表情を浮かべる武にかまわず、短く詠唱して彼に浮遊魔法をかけた。
デバイスの専売セキュリティ機能である『他人の魔法を拒絶する』というオートバリアがないため、ほとんど時間はかからない。

「たけしくん、ちょっと強引に運ぶけど堪忍してな」

一言断ると彼を空中に仰向けで寝かし、自らの右腕を彼の右脇から通して反対側の服をしっかり掴んだ。
本来は海難救助で使われる輸送法だが、運びやすさ、安全性などの条件全てに叶うものだった。
はやては即座に最加速をかけると手招きするのび太達を追う。
まだ空では魔法の効果が続いている。何とか自分達がそこに行くまで足止めが効くだろう。

「えっと3丁目のタバコ屋を右に・・・・・・」

「のび太くん!そこは来た時に右なんだから戻るときは左でしょ!?」

のび太の暴走をドラえもんが寸でに止めた。
前言撤回。間に合わないかも・・・・・・
はやてはそんな頼りない友軍に頭を抱えたくなったが、とりあえず目標の場所には向かっているようだ。
海鳴町中央空き地を通り抜け、あとは真っ直ぐ4、500メートル先らしい。

「はやてちゃん!」

安心するのもつかの間、突然搬送中の武の声が自らを呼ぶ。そして右腕から彼の右腕の重さが消えた。
瞬時に彼の意図を察すると、武の浮遊魔法を反動に備えてフルドライブする。

「ドッカーンッ」

一際大きな叫び声と共に地面へと莫大な力が襲うが、浮遊魔法と踏ん張った両足で何とか彼の高度を維持した。
振り返ってみるとあのネコが武の発射した砲撃を回避している所だった。
どうやらAAクラスのリンカーコア出力ではあの程度の阻止が限界だったようだ。
しかしここまで攻撃なく来れたことだけでも僥倖に違いない。そう思い直すと飛行魔法と浮遊魔法の出力を最大へと持っていく。
空気中に白い魔力光が飽和し、重力を完全に打ち消す。

「2人とも掴まって!」

伸ばした左手にドラえもんが掴まり、対空射撃中ののび太はドラえもんに掴まった。

「行くで!」

言うが早いか最加速。周囲の風景がF1クラスの超スピードで流れていく。
直後後方から爆音が轟く。しかしそれを無視して直進を行い、ドラえもんの

「ストップ、ストップ!」

という声で魔力コンデンサの大出力でごり押ししつつ制動。慣性をなんとか抑えて5メートルほどで停止した。
ドラえもんは止まるとともにそのまま建物の陰へと入っていき、のび太も続く。
振り返ってみると先ほどまでいた場所には大威力魔力砲撃が着弾していたらしく、膨大な土煙がキノコ雲を形成していた。

「はやてちゃん、急いで!」

建物の陰から静香の声。どうやら秘密基地とやらはここらしい。
武の方は負傷の影響か既に気を失っていた。しかし心臓の鼓動は確かに感じるのでまだ大丈夫だ。
建物の陰は狭かったが、静香の助けもあって何とか武を運び入れることに成功した。

「はやてちゃん、先に!」

静香がショックガンを手に空へと発砲しながら促す。

「ありがとう!静香ちゃんも早く!」

「ええ!」

秘密基地の入り口から手を伸ばし、彼女を引っ張り込んだ。
しかし静香は大事なことを忘れていたようだ。

「シャッターは閉じた?」

階段の先で待っていたドラえもんの問いに静香が

「ああ!」

と声を上げる。
どうやら基地の入り口は閉まるようになっていたらしい。

「じゃあわたしが─────」

振り返るとネコが既にこちらへと飛び掛かっている所だった。

「(シールドは間に合わん!)」

反射的に持っていた蒼天の書を横薙ぎに振るうと、確かな手応えが書を支える腕にフィードバックされる。一瞬ホームランを打つ野球選手の気持ちがわかったはやては慣性に任せるまま書を振り切った。
一時理想的な放物線を描いたネコだが飛行魔法で空中停止して再び飛び掛かろうとする。しかし─────

「ドカァーン!」

武ほどの声の迫力はないが威力は変わらぬ砲撃がネコの横から直撃。出入口から衝撃波とともに排出され、同時に走り込んだ砲撃主が出入口のシャッターを閉鎖した。
間髪入れずにドラえもんがコンソールパネルのボタンを押す。
ディスプレイに『指定座標に転移開始』という表示と、転移中の証なのか低周波の振動で唸る基地。そこに1つの声が洩れた。

「僕だって・・・・・・やれば出来るんだからね・・・・・・」

あれほど勇気ある行動をしたスネ夫だったが、シャッターを背に腰を抜かしていた。
そんな彼に歩み寄ると、

「スネ夫くん、ありがとうな」

とその勇気に感謝した。

(*)

「はやてちゃんのデバイスより回答信号!第97管理外世界のGPS(グローバル・ポジショニング・システム)に接続、間もなく位置信号を受信します!」

エイミィの報告に、アースラ全体が魔法のようにストップモーションした。
どのような事態になろうとアースラの全能力を発揮するのために臨戦態勢の武装隊各隊が、医療室の医師が、機関室のエンジニアが、転送スタッフが、そして艦を指揮するクロノ・ハラオウンが続く報告に身構える。

「信号受信。出現位置、海鳴町内の海鳴山(海鳴小学校の裏山)中腹付近。バイタルは安定なるもバリアジャケットのダメージ大!」

「はやてをロックして直ちに医療室に転送!なのはとフェイト達に未知の敵に警戒するよう打電!」

クロノの指示にアースラが動き出す。

「艦長!指定された座標に6つの生体反応。位相変動による障害と近接状態のため個人を特定出来ません!」

転送スタッフの報告。クロノはスタッフの意図を察して指示を出す。

「ならば転送位置を中央転送室に改めて生体反応を持つ全て転送しろ!武装隊は急行、なのはとフェイトも来てくれ!私も向かう」

「了解!」

返事を聞くと同時に長年連れ添った愛機、ストレージデバイス『S2U』を片手にアースラのブリッジから駆け出した。

(*)

クロノが中央転送室に着いた時は、間もなく転送が終らんとしている所だった。
展開し終わっていた武装隊隊長とアイコンタクトすると全員がデバイスを構えて敵に備える。
中央転送室はちょっとした体育館並みに大きな空間にある。それは武装隊を一度に大量に転送するためだが、今のように中央を360度武装隊で堅めて敵を転送と同時に確保、逮捕する。それもまた常套手段だった。
クロノの隣に2つの個人転送魔法陣が立ち上がる。そして瞬時になのはとフェイトが転送されてきた。
次元位相を異にするらしい特殊な所からの広域転送魔法より通常時空からの個人転送の方が遥かに早いのだ。
中央に展開される白いミッドチルダ式の魔法陣から人影があらわれ始める。
その中にはやての姿を視認した。エイミィの報告通りバリアジャケットの損害は酷いらしく、帽子やあらかたの防御機構がパージされている。
一方敵と目される5人ははやてと同年代ぐらいの少年少女、そして謎の青い何かだった。
しかし変身魔法で化けの皮を被っているかも知れない。
クロノは油断なくデバイスを照準したが、具現化と同時になのはとフェイトが構えを解いた。

「静香ちゃん!?」

「それにのび太くん達も?」

少年少女達もこちらを見て驚いた様子で応える。

「なのはちゃんにフェイトちゃん?」

「ど、どうなってるの?ここはどこ?」

しかしそんなファーストコンタクトを事態の中心人物である八神はやてが遮った。

「みんな、説明は後でゆっくりするからまずたけしくんを助けて!」

具現化中には気付けなかったがはやてがバリアジャケットを血に染め、大柄の少年を担いで呼び掛けてくる。その少年の傷は確かに酷く見えた。
どうやら彼らはなのは達の顔見知りらしいし、敵意も見られない。
クロノは武装隊の警戒を解かせると、その少年を個人転送によって医療室に送った。

「・・・・・・さて、何があったんだ?」

クロノはバリアジャケットを解除して、残った4人となのは達と共に友人懇談会を開くはやてに問いかけた。

To be continue・・・・・・



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最終更新:2012年01月07日 18:22