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1-505  緋色の椅子

505 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2009/06/13(土) 22:09:26 ID:NXlxVnDI]
ドリィとセツ


満天の星空の下、外套にくるまって草の上に転がる。
王都まではあと一日。
大祭が近いせいか、王都の空はぼんやりと明るい。
「なぁセツ……」
同じように隣りで丸くなっていたセツが、もそもそと顔を向けた。
「……そのルカって奴は……」
そんなに大事なのか。
自分で愚問だと気付いて、言葉を続けられなくなる。
「……ルカは……わたしの全てだ」
僅かに笑みを見せて静かに、だがはっきりとセツは言う。
「……もし、生きてるなら、どうしてお前に連絡しないんだ」
浮かぶ疑問をそのまま口にする。
傷付くだろうか。
けれど、それでも構わない。
「お前がルカを思うほどにはお前を大事に思っていなかったんじゃないのか」
そうでなければ、もはや生きていないか。
言葉は途中で止めたけど、たぶん伝わっているだろう。
セツは少しだけ眉を寄せた。
「でも、探したいんだ。わたしが、ルカに会いたいんだ」
真っ直ぐな、セツの視線と言葉が胸を突く。
「……セツ……」
その真っ直ぐなところに好感を持っている。
ただ前を、ルカだけを見ているから、そんなに真っ直ぐなんだろうか。
けれど。
「なぁ……お前だって、自分の好きなように生きたっていいんじゃないか……」

506 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2009/06/13(土) 22:11:02 ID:NXlxVnDI]
逢える可能性なんて、本当はもう、ないのかもしれない。
見つからないかもしれないのに、それでも探さずにはいられない気持ちも理解している。
それでも、そう言わずにはいられなかった。
「……ドリィ、わたしは好きなように生きているよ」
セツは温かい笑みを浮かべて言った。
問答なんて必要なかった。
セツは全てでルカを求めている。
出会った時からそうだった。
いつの時も、セツの行動の原点にはルカがいた。
それでも、自分が過去に縛られるよりもセツと共に在る事を望んだように。
セツも望んでくれはしないだろうか。
「……セツ……」
伸ばした腕に、セツはおとなしく捕われてくれる。
けれど何度名を呼んでも届かない。
こうして触れているのに、セツはルカのものだ。
「……はぁ、心が寒ぃ」
諦め混じりの溜め息の後、おどけてくしゅんと鼻を啜る真似をすると、セツはくつくつと喉を鳴らして小さく笑った。
「……わたしは、ドリィが好きだよ」
望んだ言葉ではあったが、望んだ想いではない。
理解した上で、それでもセツの言葉は嬉しかった。
抱き締める腕に緩やかに力を入れる。
セツの体は思ってたより細くて、柔らかかった。

507 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2009/06/13(土) 22:12:21 ID:NXlxVnDI]
「……ドリィは温かいな」
抱きしめられているのに何の気負いもないセツの言葉に、自然に力が抜けて口の端が上がる。
「まぁな。だけどセツ、褒めても次はお前の番だからな」
「別に褒めてないけど」
言って、セツは自分の刀に手を伸ばす。
「……しかし多いな」
セツは起き上がって剣を構える。
「もう王都のそばだし、大祭も近いからなぁ。手伝おうか?」
外套にくるまったまま問う。
「……手出し無用!」
駆け抜ける背中を、少し懐かしく眺めた。

届かぬ者を追う。
心の在りようが、少し似ているのかもしれない。
だからこんなにも気に掛かるのだろう。
そう思って、ドリィは静かに目を閉じた。


おわり

最終更新:2010年03月01日 10:49
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