『手をつないで~君の傍おまけ~』
697 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2009/12/24(木) 14:22:17 ID:xVQU5fvj]
―その八―(おまけ)
淡く射し込む朝日で、夏目は目が覚めた。隣にはタキがまだ眠っている。
「(…あったかい)」
人の温もりとはこういうものなのか―静かに微笑み、タキの柔らかな髪をそっと撫でた。
「やっと起きたか。ふん、なんだその弛んだ顔は」
「まあまあ斑様、夏目様もお疲れでございましょう」
妖二人が枕元にいた。
「…いっ、何時からそこにっ!」
慌てて起き上がると、布団がずれたせいかタキも目覚める。
「…夏目君?…おはよう…っきゃあ!」
座るニャンコ先生と明石を見つけ、タキの顔が見る間に朱に染まる。
思わずタキを後ろに庇い、夏目は言った。
「…人の寝顔を黙って眺めてるなんて、ニャンコのくせに悪趣味だぞ」
精一杯の照れ隠しだ。
「なっ…!高貴な私にむかって悪趣味とはなんだ悪趣味とは!それにニャンコではないといつも言っておるだろうが!」
怒る先生と明石を追い出し、夏目とタキは身支度を整える。何となく気恥ずかしくて、まだお互い目が合わせられない。
タキを気遣って、夏目は障子の向こうに移動した。
「…ふぅ。」
微かにため息をつく。どんな顔をして話したらいいのか全然わからない。
何気なく外を眺めて、着替えの手が止まった。
「(…やっぱり夏目君て優しい)」
移動した夏目を目で追って、タキは思う。
昨夜の事が蘇り、タキは着替えつつも自分の体に目がいってしまう。
「(ここを夏目君の唇が…)」
「(手があんなに優しく…)」
「(あ…ここは…は、恥ずかしいっ)」
真っ赤になりながら着替えを終えると、障子の向こうで待っていてくれた夏目が声をかけてくる。
「タキ、こっちに」
熱い頬をぺちぺちと叩きながら近づくと、
「…海が、綺麗なんだ。すごく」
タキは息をのむ。澄んだ冬の大気を透して陽の光は海に降り注ぎ、小さな波の表面が揺れて輝く。きらきら、きらきらと。
「…きれいね、とても。とても」
この景色を自分に見せようと呼んでくれたことがただ嬉しかった。
「…タキ、ありがとう」
夏目が呟き、ふと指先が触れ合う。
夏目の顔が少し赤く見えるのは朝日のせいだけではないだろう。
自然に笑みがこぼれてくる。なんだか、すごくすごく嬉しい。
「どういたしまして」
顔を見合わせ、クスクスと笑いあう。
698 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2009/12/24(木) 14:26:37 ID:xVQU5fvj]
と思いきや2レスでした…ごめんなさい
―その九(おまけ続き)―
「夏目、飯が来たぞ!私の分もちゃんとあるんだろうな!」
騒がしく入って来た先生をなだめ、朝食をとる。
夏目から一夜干し、タキから卵焼きをせしめた(口止め料?)先生は、満足げに日向ぼっこなどして、タキに撫でられている。
隅に座していた明石がすう、と夏目の傍に寄ると、
「夏目様、この度は本当にありがとうございました。無事、呪も新しい力を得る事ができました」
深々と頭を下げた。
「つきましては、私めの名前、友人帳に差し上げたいと存じます」
「いや、いらないよ。お前を従えるつもりは無いし、どちらかと言えば名前を全て返してしまいたいくらいだし」
夏目はさらりと答える。妖を物の様に使いたくはない。祖母もそんなつもりで友人帳を作ったのではないのだから。
「…何か御礼をしたかったのですが」
「…ならこれからは、お前の呪で誰かが幸せになるような使い方をしてくれないか」
望まぬことで涙する人がいないように。
「…かしこまりました。夏目様は本当にお優しい。では私めはそろそろ失礼いたします。帰路、お気をつけてくださいませ」
艶々と笑った明石は、微かな琴の音とともに消えた。
「お土産でも買って、帰ろうか」
荷物をまとめ、宿の人達に見送られながらまた海沿いの道を駅へと辿る。
風は少しあるが、きらきらと輝く海を背に。
僅かに後ろを歩くタキは、両手いっぱいに紙袋やら何やら下げている。
「(お土産、色々選んでたしな)」その姿が可愛らしくて思い出し笑いをしてしまう。
「(こういう時はきっと男が荷物を持つんだろうな…言ってみようか)」
意を決して声をかける。
「…タキ、少し持とうか」
その声で海を見ていたタキは夏目を見、花が咲く様に笑った。
「ありがとう。でも大丈夫。夏目君もお土産、たくさんあるもの」
夏目の両手もタキと同じ状態だ。
「(…本当は夏目君と手を繋いでみたかったんだけれど)」
きっと夏目は照れながらも手を出してくれるだろう。
でもそれをからかう相手がいる時に言うことで、優しい夏目を困らせるのは嫌で、言えなかった。
だから代わりにタキは言った。
「…また、またいつか来られるといいなあ」
もちろん、一緒に。
夏目は少し驚いた顔をした後、タキを見て笑った。
「そうだね、また一緒に」タキも驚いた顔になり、そして二人で笑った。
先生は欠伸をしている。
今度は暖かい春の日に来よう。
お土産は一つだけにして、手を繋いで君と歩こう。
並んで。
どこまでも。
最終更新:2010年03月01日 12:16