3 :名無しさん@ピンキー:2010/02/22(月) 02:45:48 ID:Bh56oH93
『遠い約束』
―その壱―
──お願いね、斑───
「また泣いているのか、夏目」
閉じた瞳は密な睫毛に隠され、涙はその隙間にぽつりと現れる。それは見る間につうと頬に流れては次々に零れ落ちていく。
「夏目。…おい、夏目」
短い手で肩を揺すると、目覚めた夏目がぼんやりと先生を見つめる。
「(レイコと同じ顔なのにこいつはどうしてこうも…)」
───ねえ、そこの妖さん、勝負しましょう。ふふ、決まってるじゃない、暇潰し───
どうしてこうも弱く儚げに見えるのかといつも思う。
「ああ、先生…」
「また泣きおって。冷たいだろうが」
「夢を見て……ごめん」
髪で顔を隠す様に俯く。
先生はふう、と息をはいた。
ふわ、と花の香りが深夜の部屋を満たす。
「まったくお前は世話のやける奴だな」
「…先生?」
「依代の姿ではお前に届かんからな、特別だ」
後で礼をしろよ、そう言って先生は人を模した腕で夏目を抱きしめてやる。
「…何でレイコさんなんだ?」
「そうか、中年が良かったか」
「いや、そうじゃなくて…以前もレイコさんだったから」
夏目の無垢な疑問に先生が答えてやる気になったのはどうしてだろうか。
「少し、昔話に付き合え夏目」
「話?」
「レイコの話さ」
4 :名無しさん@ピンキー:2010/02/22(月) 02:47:02 ID:Bh56oH93
―その弐―
春だったな。森の奥に蓮華草が一面に咲く野原があって──ちょうど川沿いの道によく似た場所だ──私はそこでいつも昼寝をしておった。
「ねえ、斑にお願いがあるんだけれど」
鈴のような声に似合わず、ぶっきらぼうな調子で話しかけてきたのはレイコ。
その頃はすでに挑まれた勝負を断っていたから、まあお互いに気が向けば暇潰しに付き合ってやる様な間柄だった。
「勝負ならせんぞ」
「つれないわねえ、あなたは」
面白そうに笑うレイコは蓮華など霞む程美しかった。妖は美しいものを好むから、恐れられつつも慕われていたのさ。まあ、それだけが理由ではないだろうが。
「人の相手は面倒なんだ」
「へえ、じゃあこのお願いも面倒かしら。私を抱いて?」
見ればレイコは普段通りの薄笑いを浮かべて、その余りにもさっぱりとした物言いに私は呆れたよ。
「…何の冗談だ」
「大真面目よ」
「もっと質が悪い」
「いいの?駄目なの?今決めて頂戴」
「お前な…人が妖に抱いてくれと頼むのは喰ってくれと言うと同じだぞ」
「構わないわ。私は斑が良いの。嫌いな人より好きな妖の方がずっといいじゃない」
人も妖も嫌うレイコが理由もなく口にする事とも思えなくてな、私は試しに聞いてみた。
「……何があった」
「何も。いつもと同じよ。お腹が空いたら食べてもいいわ」
「本気か」
「もちろん」
にこにこと屈託なくレイコは笑って、後ろ手に隠していた物をばっと放り上げた。
ちぎられた蓮華の花がレイコと私にはらはらと散りかかって夢のようだったよ。
「ふふ、お礼よ。あなた花が似合うわ、斑」
「くだらん。何の得にもならんな」
私はそう言って昼寝を続けようとしたが、レイコは諦めない。
「そうね、なら抱いてくれたら約束してあげる」
「約束だと?」
「ええ、何を約束するかは斑が決めていいわ。どう?悪くない取引でしょう?」
レイコが私の鼻先を撫でると、ちぎった花の香とレイコの匂いが何とも言えぬ甘さになって白い指先から漂ってきた。
「…友人帳でも、構わないわよ」
今にして思えばくだらんことかもしれん。ただな、あの時のレイコは、本当のレイコを深く沈めていつも通りの「ふり」をしている様に見えて──そこから掬い上げてやりたくなったのさ。私の独りよがりと言えばそれまでだがな。
「友人帳はいらん。……約束とやらに興味が湧いた」
「じゃあ、お願い聞いてくれるのね」
「…どんな男がいい」
私の問いにレイコはああそうか、と合点のいった顔をする。
「斑のままじゃ駄目なのか。…なんでもいいわよ」
「お前は本当に…」
ため息が出たよ。娘にとっての初めての男だぞ、それをあいつは「なんでもいい」だ。
見た目が良いのに越したことはないだろうと、結果、顔はレイコで体は昔に見たどこだかの跡取り息子を模して化けた。
思えば──お前そっくりなのが出来たな。
5 :名無しさん@ピンキー:2010/02/22(月) 02:48:31 ID:Bh56oH93
―その参―
「なあに、それ。私と同じ顔じゃない」
興味深げにレイコは私の顔を覗き込む姿が珍しく隙だらけだった。だからそのまま抱きすくめたら、レイコの白い頬は見たこともないくらい朱に染まってな。
「可愛いところもあるじゃないか」
「なによ、斑のくせに」
強がっても体は微かに震えていて、それが何故か──そうだな、わかっていたよ。私はレイコがいとおしかったんだ。
「ここからは艶っぽい話になるが、聞くか?」
「ああ。…レイコさんの話だから」
真摯に答える夏目をちらりと見やり先生はまた過去を語る。
服を脱がしてやりたかったが生憎どこをどうするかわからなくてな、手間取っていたら立ち上がったレイコは自分で脱ぎ始めた。
これがまたらしくて、何の躊躇いもなく一気に全裸さ。
草の緑と蓮華の紅とレイコの透き通った白い裸体と、その凄まじい様な情景は今でもはっきりと浮かぶよ。
「少しは恥じらえ」
苦笑する私にレイコはさらりと返す。
「どうせ脱ぐのに勿体ぶってても仕方ないわ」
「情緒のない奴だ」
「あら、斑は人を食べる時にいちいち情緒とやらを気にするの?」
「…一糸纏わぬ姿で憎まれ口とは気の強い」
小憎らしいレイコを私は草の上に押し倒し、唇をふさいでやった。
そのあたたかさと甘美な匂い──強い妖力のせいかもしれんが──に頭の芯が麻痺する思いだった。
舌を絡めてやると物怖じすることなく返してくるのがまたレイコらしくてな。
とろりとしたその唾液は美味で、私は貪るように吸ったよ。
息苦しさで離れるとレイコも息を弾ませていた。ほんのりと薄紅色に上気した肌が美しかった。
「気持ち、いいのね」
「そうか」
次は白く滑らかな乳房を吸った。
「あんっ」
軽く舌先でつつくだけでもレイコは声をあげてな、人の娘とは随分感度が良いものだと思った。
お前もそう思うだろう?──どうした、顔が赤いぞ。
左の指先で右の乳房の先端を摘み、円を描く様に撫でる。口に含んだもう片方は唇と舌で挟んでゆっくりと転がすと、すべての動きに反応してレイコの体が震えた。
「あ…あっ…」
普段の勝ち気な声からは想像がつかない切なげな喘ぎと、目をつぶり陶器に似た頤を逸らして快感に悶える姿はなんとも艶めかしかった。
あれを妖艶と言うんだろうな。
左手はそのまま愛撫を続けて、右手でつるつると滑らかな手触りのレイコの片足を持ち上げ、爪先からゆっくりと舌で舐めていった。
きめ細かな肌に陽の光が反射するのがやけに蠱惑的でな。
6 :名無しさん@ピンキー:2010/02/22(月) 02:49:49 ID:Bh56oH93
―その四―
「な…にするの…斑」
「いくらお前でも準備が必要だろう」
両足を押し広げ、『人』も触れたことのないであろう秘所を露にすると、レイコが軽く首を振りいやいやをした。さらさらとした髪が草と蓮華の上に乱れ散る。
「嫌なら止めるか?」
「……いいえ、続けて」
腕は頭の横に投げ出し、顔は私から背けたままでレイコは答えた。
柔らかい茂みに舌を沿わせ、襞の間にそっと差し入れる。
「ひあっ」
レイコが悲鳴を上げた。
しっとりと濡れ始めていたそこは柔らかく、レイコの百合の花の様な甘い匂いが一層強く満ちていた。
舌をゆっくり上下に動かしとろりと濃い蜜を舐めとると、またじわりと溢れ出してくる。
たっぷりと濡れた襞の隙間まで丁寧に舌を這わせ、小さな突起を唇の先で含んで突くように転がした。
「は…っあ……」
悲鳴は徐々に喘ぎに変わって、私の舌の動きに合わせてレイコの体もそこもひくひくと震える。
「あっ…はあっ…んっ…」
舌を奥まで差し込むとちゅぷ、と音を立てて更に粘度を増した液体が流れ、レイコの喘ぎは絶え間なく続いた。
「そろそろ、良いな」
濡れた唇を舐め私が言うと、レイコは一瞬体を硬くする。しっかりと抱いてやると薄らと汗ばんだ肌と肌が合わさり、柔らかな乳房は吸いつくようだった。
「恐いか」
抱いたまま、乱れてなお艶やかな髪を撫でてやる。
「…斑だから平気」
「随分と嬉しいことを言ってくれる」
快感に肩で息をしつつも気丈なさまが可愛らしくてな、軽く口づけた。
既に固くなっていた自身を支え、ゆっくりとレイコの中に挿入る。時間をかけて解しておいたせいか、思ったより抵抗はないが、レイコは痛みをこらえ美麗な顔を歪ませる。
「辛いな、少しの辛抱だ」
声も出せずに微かに頷くのが今にも消えてしまいそうに儚げで、知らず知らず抱く腕に力がこもったよ。
ゆっくりと、少しずつ動くとレイコの中も馴染み始め、苦しげな表情が緩んできた。鮮やかな紅唇からは吐息が漏れる。
「は…っ……あっ」
「可愛いな、レイコ。人にしておくのは勿体ない」
お前は本当に美しい、そう囁く私を潤んだ瞳で見つめてくる。長い睫毛を雨露の様な涙が飾って、淡い色の瞳が空の蒼を映してな、それはそれは綺麗だった。
動きを早めるとレイコの吐息は甘やかな喘ぎに変わった。
「あんっ…んっ…」
抜けるように白い肌が内側から桜色に染まっていくのをずっと眺めていたかったが、初めての娘にそれも酷だろう。
「レイコ、終いだ」
「は……斑っ…斑…」
くずおれそうになる華奢な体を支え、私はレイコの中で果てた。
7 :名無しさん@ピンキー:2010/02/22(月) 02:50:40 ID:Bh56oH93
―その伍―
そのまま眠ったレイコは日暮れの頃に目を覚まして、妖の姿に戻っていた私の鼻先を撫でた。
「女の子を裸のままにしておいて、先に戻るなんてずるいわ」
「喰われなかったのを感謝しろ」
寒いだろうと包んでやっていた優しい私に向かってその言い草だ、本当にあいつはひどい娘だろう。
頬を染めてくすくすと満足そうに笑って服を着終えると、レイコは私の顔に両手を添えて囁いた。
「約束、忘れないでね」
夕陽をたたえて煌めく瞳で私をじっと見つめ、花開くように微笑むと身を翻し手を振って走っていった。
「じゃあ、またね斑」
「…本当に勝手な奴だ」
私は後ろ姿を見送りながら思ったよ。
レイコがぱたりと来なくなるまで、それから何度逢っただろうな。
レイコがあんな様子だったのは後にも先にも一度きりだった。何があったのかは今でもわからんよ。
「これで昔話は終わりだ」
先生はふう、とひとつ息を吐く。夜のしんと冷えた空気が心地よい。
「約束はどうなったんだ?」
「さてな、忘れたよ」
じっと組んだ膝の上に視線を落としていた夏目が、静かに言った。
「先生は……」
続く言葉は言わずとも二人には通じる。
「……レイコに似る理由さ」
「…そうか」
夏目は下を向いたままだ。微かに震えるその背を先生はもう一度しっかりと抱き寄せた。
今となっては行く先も無いが、レイコに話したら何と言うだろうか。
──らしくないわね、斑。ちょっと感傷的過ぎるわよ──
ああ、その通りだな。でもお前に似たこれに話してやりたくなったのだ。私しか知らない夏目レイコの思い出をな。
──へえ、物好きね──
長く生きるとそんな気分にもなるのさ。この頼りない人の子の傍らにいると余計にな。
──そう、約束だものね。斑。
夜の中から、レイコの声が聞こえた気がして、私は耳を澄ました。
──お願いよ。
最終更新:2010年03月09日 23:23