会富が好きです
51 :名無しさん@ピンキー:2010/03/10(水) 10:30:59 ID:i1SPy24+
『屋上の対決』
「辛島君。…ちょっと来てほしいの」
呼び出し、そう友達に言われて廊下に出てみると待っていたのは女の子。
「…会富か。話なら今」
「話せないから来てっていっているんだけど。ちなみに拒否権は無いわ」
目つきが険しい。間違いなくおれに腹を立てている、たぶん──国府さんのことで。
仕方なくついていくと屋上に連れて行かれた。髪を攫うような風に鼻をつまむ。
「…寒い」
「我慢して」
さて、と腕組みする姿がかっこいい。
「国府を避けてる理由を説明してもらうわ」
「避けてない。バイトが忙しくて会えないだけだ」
用意してあった答えを返す。ひねりも何も無いから騙されなくて構わない。知られなければいいだけだ。
「甘いわ。私は国府に白状させたのよ」
意図したものもまとめて、爽快なまでに一蹴された。
「一度キスしたらそれから避けるってどういう心理よ、男として。…大体想像はつくけれど」
「どうつくんだ」
「あのタヌキ顔に何か吹き込まれたんでしょう?おそらく…国府に会ったら妄想が止まらなくなるようなことをね」
「的確過ぎて何者だって気分だよ、会富」
「一介の国府好きよ」
ふざけてる場合じゃないの、とまた切り捨てられる。
「国府、どうしてると思う?」
答えられない。顔を合わせるのも気まずくて徹底的に避けていたのはおれだから。
ため息をついた会富は悔しげだ。
「泣かないのよ。理由も聞かされてないのにこれくらい平気よ、大丈夫よって笑うの。窓の外ばかりみて、辛島君の姿を探したりしないのよ?
どんな気持ちで笑ってるのか分かってるの?泣かないほうが辛いって知ってるの?男のくだらない妄想で私の大事な国府に何我慢させてるのよ!」
声を荒げ肩で息をしている。
返す言葉も合わせる顔もないとはまさにこのことだ。無言のおれに息を整えた会富が指を突きつけた。
「言って、妄想を全部。国府に話すから」
「それは」
「言ったでしょう、拒否権は無いの」
観念して鼻をつまむ。元はと言えばこれが全ての原因だ──おれの声。
52 :名無しさん@ピンキー:2010/03/10(水) 10:31:58 ID:i1SPy24+
「キスくらいしたのかって坂本に言われたんだよ。無視してもバレたけど」
女の子相手に話していいのかとした僅かな逡巡は厳しい目で打ち消される。
「次はあれだなって。いいな、使えるぞお前の声、妄想をリアルで実現させるチャンスだ、ってさ。本気で聞いてないの前提での冗談だ。おれが坂本のこと信用してないの知っててからかわれているのなんてわかってる」
だが、一旦インプットされた情報はことあるごとに再生された。
もちろん、国府さんの姿で。
「この声使えば国府さんにキスして、服を脱いで、そこに寝て……全部思い通りに出来るんだ。抱きしめてくれても、それはもしかしたら彼女の意思じゃないかもしれない」
妄想で終われば良かったのに気づくと避けていた。国府さんではなくて自分が信じられない。
とっくに越えてきたはずの壁がまた目の前にある。
「ばかみたいよ、辛島」
その葛藤すら一言で終わりにされた。
「妄想ぐらい誰だってするわ。何の為に口があって声が出るのよ?怖いなら国府に話せばいいじゃない。どうしてか説明してどうするか考えなさいよ、恋人なんだから」
はあ、と改めてため息をつかれた。
「言葉は届かなければ空しいだけだけれど、言わなきゃわからないことの方が多いわ。国府は言ってた。『辛島君と離れることのほうが辛い』って。か弱い女の子が全部ひっくるめて覚悟してるのよ」
男って本当に子どもね、そう吐きだして会富は踵を返した。
「日曜日のホワイトデー。バイトは殴られても休んで。すごくすごく特別にデートのお膳立てをしてあげる。……ちゃんと国府に話して」
ドアに手をかけ会富は一瞬だけ振り返った。
「私の大事な国府にもう一回でもこんな思いさせたら、返してもらうわ。覚悟してね、本気よ」
後ろ手にドアが締められ、足音が降りて行く。
「…完敗だ」
全部、全部真っ向から叩き落とされた。強い強い想いに。
「勝てるかな」
自分の情けなさに苦笑いしたくなる。でも、負けてはいられない。
おれは国府さん、君と生きていくと決めたんだから。
最終更新:2010年03月20日 02:01