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2-103 前編 058のおまけ兼

委員長×時雨さま

夏タキホワイトデーのおまけ兼です キスのみ


103 :前編1/4:2010/03/22(月) 00:02:40 ID:C63EM6zm
『そうして君は恋をする』

「西村ぁ、夏目ー」
教室前方の引き戸に片手をかけ、半身を騒つく室内に傾けるようにして北本が呼んだ。
これ幸い、と二人は鞄を抱え逃れるように席を立つ。
「助かった…」
大きく五、六歩。廊下を進んで西村は息をはいた。横で深呼吸する夏目に至っては顔色が悪い。
「何急いでんだよ?」
「どうしたんだ?」
小走りで追いついた北本と田沼が怪訝そうに訊ねた。
「いや、それがさ…」
頭半分近く背が高い二人と目線を合わせて話すのに、西村は背筋を伸ばして顔をしかめた。
「うおお…凝ってた…」
ちょっとおっさんくさい。
「委員長が今朝からなーんか夏目を目の敵にしててさー、すっげえの。視線が刺さる刺さる」
首を回しながら器用に続ける。こき、と関節が鳴った。
「授業中も休み時間も教室移動も関係なしだぜ?一緒のおれまで全身ガッチガチだよー」
「大丈夫か、夏目。何かあったのか?」
田沼が心配そうにのぞきこむ。
「何もない、と思う…」
すれ違う部活へ自宅へと軽やかな生徒達とは対照的に、夏目は肩を落とす。
「何もなくて一日中睨んでるって、おかしいだろ。笹田に聞かなかったのか?」
「ああ…こわくて」
無言の圧力に気力が尽きたか、夏目の声はかすれていた。
「まだ月曜だぞ?そのままのがこわいだろ。明日おれが聞いてやるよ」
「…いや。自分で聞くから気にしないでくれ、北本」
「お前はまーたそうやってー!一人で解決しようとするなって言ってるだろ」
今度はぐるぐる肩を回していた西村が、その勢いで夏目の背中を叩いた。
ばしっといい音が響き、反動で俯いていた顔が上がった。
「一人より二人、二人より三人、な」
「おれも入れて四人」
「…そうだな。でも女の子ひとりに男四人はどうかと思うぞ」
「委員長なら足りないかもなー。ま、明日の朝ジャンケンってことで!」
にししと笑う西村、任せとけと肩を叩く北本、良かったなと微笑む田沼に、「有り難う」と夏目は真っ直ぐ前を見た。



104 :前編2/4:2010/03/22(月) 00:03:47 ID:fsuW/P5/
「おっと。五組通り過ぎちまうぞ」
見上げたプレートに足を止め、西村が教室内を覗いてにこやかに手を振った。
「多軌さーん♪」
「どうしたの?みんな揃って」
クラスメイトと額を寄せあっていたタキがはしゃいだ声で振り返った。
夏目は一瞬胸が鳴る。
「帰宅のお誘いでーす♪」
きゃあとまだ華やかに騒ぐ女子達に明日ね、と手を振り、タキは教室を出た。
ごく自然に夏目の隣に並んで階段を降りる。
「大丈夫だったのか?」
邪魔しなかったかという意味だ。
上履きを揃えながらタキはくすぐったそうにした。
「ええ。いいなー美形と帰れて、って言われたけれど」
「え、おれ?おれのことだね多軌さんっ」
「どんな自信だ西村」
つっこむ北本に合わせたように鶯が拙い声で鳴いた。
「ほら、あり得ないってさ」
ひでぇなー、泣き真似をする西村も一緒に皆で笑った。
今日は暖かい。校舎の中にも外にも近い春が溢れている。

蕾がほころびかけた校門脇の桜の下で、西村が歌うように振り向いた。
「さて、多軌さん。麗しき君におれから愛を込めたプレゼントが…」
「おれの彼女に勝手に愛を込めるな」
芝居がかった台詞に夏目が苦笑いすると、間髪入れずリアクションが返った。
「ちょっ、聞いたか北本!田沼!こいつさらっと彼女って言い切ったぞ!」大げさに頭を抱える。「うわ何だこの感じ!『女なんか興味ねえ』ってスカしてたくせに余裕?見せつけ?!」
「おれは娘を嫁に出す父親の気分だな。あ、ちなみに夏目が娘な」
「あの夏目がと思うと…感慨深いな」
夏目の『彼女発言』は言わずもがな、北本と田沼が腕を組んでうんうん、と頷きあっているのがタキには面映ゆい。
「そ、それで!何の話だったの西村君っ」
「そうそう、忘れちゃならないお返し♪多軌さんの為に心を込めて選びましたー」
満面の笑みで西村ががさがさと包みを取り出すと、北本と田沼も続いた。
「サンキューな、美味しかったよ」
「おれも。有り難うな」
「わ、有り難う。これってすごく得した気分ね」
にこにことお返しを抱えるタキの姿に、夏目は目を細めた。(おれまで嬉しいって…幸せだな)
そんな夏目の横で田沼がそうか、と首をかしげた。
「夏目はもう渡したのか」
「昨日な。喜んでくれた」
「そりゃ良かったな」
「感謝しろよ夏目ー」
「ああ、有り難う。西村、北本」
「うわこそばゆっ!お、バス来たぞ」
幸福感から素直に出た言葉に照れた二人は、用があるんだとバス停に走った。



105 :前編3/4:2010/03/22(月) 00:04:45 ID:fsuW/P5/
追い越す窓の西村達に手を振って、三人は並んだ。
「で、夏目。心当たりはないのか」
「おれになくても…たぶん笹田にはある」
「妖のこと、ね」
妖が原因なら西村と北本に相談は出来ない。まだ。
(ごめん)
軽く俯いた夏目を挟んで、田沼と事情を聞いたタキが推測を始めた。
「きっかけはバレンタインとホワイトデー、じゃないかしら」
「え?どういうことだそれ」
首をかしげる田沼と一緒に夏目も首を捻る。全くわからない。
「笹田さん、その…時雨さまに逢いたいのよね?だからじゃない?」
「何でだからなんだ?」
「逢って。チョコをあげて。ちゃんと自分の声でお礼を言いたかった」
タキが立てた人差し指を、並べた何かを数えるように振った。
「なのに唯一の頼り、と思っている夏目くんは知らんぷりを決め込んでいる。自分は女の子からチョコを貰ったりしてね」
「相手は神様だぞ?」
「恋をしたら女の子にそんなこと関係ないわ。好きなら人だって妖だって神様だって同じよ」
「…それは」
「予想外の解答、というか…さすが」
夏目も田沼も想像もしなかった答えに唖然とした。
鈍い男が寄り集まっても役立たずなわけだ。
「じゃあ簡単だ、仲介してやればいい…とはいかないしな」
たとえ友人の為であっても妖が見えることは話せない。
夏目だって出来るものならそうしてやりたいが、時雨さまはもう旧校舎跡にはいないのだ。
『逝くよ』そう言って消えたのだから、存在すら不確かだ。
「…神様を呼び戻す方法もわからない」
「何というか……前途多難だな」
「良い方法があるかしら…」
揃ってううん、と唸る。
「あ、おれはここで。今日ためしに父に聞いてみるよ」
橋の手前でじゃあな、と田沼が手を上げた。



106 :前編4/4:2010/03/22(月) 00:05:55 ID:fsuW/P5/
ここから夏目の家まではタキと二人きりだ。
「笹田は…やっぱり逢いたいのかな」
「そうね」
夏目が呟いてタキが頷いた。
「私なら。例えば…例えばよ?夏目くんが妖だったら、私はどんな手を使っても逢いにいく」
「え…」
頬を赤らめる夏目に気づかずタキは続ける。
「好きなひとに逢うためならどんな代償を払っても構わない、笹田さんもきっとそう。でもその方法すらわからない。それって…辛いわ」
ああ、とタキは頬を押さえて目を閉じた。眉が寄せられ顔が歪む。
「私、何も知らないで浮かれてた自分が嫌になりそう」
「…優しいな」
夏目はタキの頭にそっと手を置く。毛先まで梳くように撫でると甘い香りが漂った。
肩を引き寄せてキスをする。ちょっとだけ舌を絡めたら、手を回したタキの頬が熱い。
「んっ…な、夏目くん」
僅かな抵抗があったが構わず、好きだと抱きしめる。幸せな胸が痛かった。
「タキ。笹田も同じかな」
「…きっと」
タキの体からすっと力が抜け、夏目の体に心地よい重みが加わった。
余計なお世話なのかもしれない。分を過ぎたことかもしれない。神と人の事に手を貸そうなんておこがましいのかもしれない。
でも、もし同じ立場だったらと思う。
つい先月、タキと並んで歩いたこの道にも春は訪れ始めていた。
満開の梅も、今にも咲き出しそうな桜も、芽吹いたばかりの淡い緑も。
笹田の想いに重ねたらそれはただ──切なかった。
「…やれることはあるだろうか」
「出来ることをしましょう?」
彼女と、優しい神様の為に。
最終更新:2010年05月03日 22:50
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