アットウィキロゴ

2-107 103の後編

107 :後編1/8:2010/03/22(月) 00:07:21 ID:fsuW/P5/
笹田は席に突っ伏していた。
(私、何やってるの)
時雨さまに逢う方法はわからず途方に暮れた。それを理由に夏目に八つ当たりなどもってのほかだ。
(…最低よ)
自己嫌悪で吐き気がしてくる。
「…謝らなくちゃ」
「いいんだ、笹田」
起き上がってこぼれたため息に返事があった。
夏目と五組の多軌、一組の田沼もいる。西村君と北本君はいないのね、的外れの感想が頭に浮かんだ。
「明日、金曜の夜。これを持って旧校舎跡に行くんだ」
机の上に置かれた小さな鈴が可愛らしい音を立てた。
「…え?」
「鈴を鳴らして祈れ。時雨さまに逢えるかもしれない──頑張れ」
茫然とする笹田の前で、残された鈴がちりんと鳴って、誰かに呼ばれた気がした。



108 :後編2/8:2010/03/22(月) 00:08:10 ID:fsuW/P5/
「うう…来てみたけれど」
腰の丈の雑草と夜に、丸い光は心許なくて泣きそうだ。
でも逢いたい。そのためにこわがりと逡巡は家に置いてきたのだから。
開けた場所で懐中電灯を置くと、制服のスカートで微かな音がした。
闇はただ深くて曖昧で、笹田は手のひらの窪みにぴったりとおさまった小さな鈴を握る。
冷えた夜気を吸い込んだ。
(…祈って。時雨さまに逢いたいの、お願い)
伸ばした指先で澄んだ音が響く。
風が出てきた。
ちりん、と儚い音に縋るように笹田は祈り続ける。言葉を覚えたての子どもみたいに、時雨さま。それだけを繰り返した。

どれくらいそうして居たろうか。腕は付け根まですっかり冷えた。
静けさに落胆し、笹田は閉じていた瞳を開いて───息を呑んだ。

月を背にしてしんと佇むのは無い筈の旧校舎。入り口は笹田を招くかのように開かれている。
背をぞくり、と驚愕や恐怖ではない何かが通って足が震えた。
ちりん、と。
呼ばれて笹田は飛び込んだ。床板を高く軋ませ、迷わずにひとつの教室を選び、息も整えず引き戸に手をかけた。ついに逢える、なのに。

そこには、置いてきた筈の逡巡が待っていた。
──不浄のもの。
八つ当たりにすり替えた感情は妬みではないか。その上で、渡された厚意に素知らぬ顔で甘えるのか。
躊躇いは手を退かせ、後退りに変わった。
(…逢えない)
震える手を胸元で握りしめ笹田は唇を噛んだ。これは報いだ。
ひとつお辞儀をして踵を返したその背中に、いちばん聞きたかった声は──届いてしまった。



109 :後編3/8:2010/03/22(月) 00:09:02 ID:fsuW/P5/
「そこにいるね?」

涙が零れた。
逢いたい。ただ逢いたい。どれだけ願ったのか。
「また…泣いていたのか」
瞬きの間に気配はすぐ後ろになる。
すう、と月が陰った。笹田は空を見ない。
「ごめんなさい、夏目君を妬んで穢れてしまった私は、あなたに逢えません」
「…君はあの時と変わらない」
潰れそうな笹田の胸に響くその声も、あの時と変わらない。
「それでも…君がそう言うのなら、私もやはり不浄なのだね」
「時雨さまは違います!あの時どれほど私が嬉しかったか、ずっと伝えたかった!あなたの優しさに私は救われたのに、不浄なんかじゃないっ」
白くなる程握りしめた笹田の手に何かが触れた。
「君も私を救った。ならば同じだ、穢れてなどいない」
強く手を引かれ、一歩、二歩。教室内によろめく。
雲が流れて月が戻った。
目の前に───もう一度と望んだ姿。また救ってくれたひと。
「時雨さま…っ」
喉から声を絞り出す。呼びたかった名、聞いて欲しかった名、応えを求めた名。
「時雨さま、時雨さまっ」
息をすれば消えてしまいそうで、教室中を充たす程に何度も笹田は愛しいひとの名を呼んだ。
「聞こえていた、ずっと。もう…君に触れてもいいのだろうか」
「はい」
笹田ははっきりと答えた。やっと逢えた──ならば、触れてはいけないなんて神様にだって言わせない。



110 :後編4/8:2010/03/22(月) 00:10:19 ID:fsuW/P5/
支えられた腕から胸に縋りつく笹田の真摯な瞳に、時雨さまが戸惑った。
「…こんなに近くであなたに触れた」
桜貝の様な唇で笹田は言葉を紡ぐ。
「私もあなたも、穢れないのね」
だから。月明かりの下、頬は決意の色で仄かに赤く、きびきびとした光を浮かべた切れ長の瞳は揺るがない。
「さわってください」

笹田は時雨さまの両手で自分の頬を包んだ。
「…まだ冷たい」
ここから先の意味なんて覚悟の上、でも心臓は身体中にあるみたいだ。
頬から降ろした手を制服の下へ誘う。下着の上から胸に触れた瞬間、時雨さまが困った様な顔をした。
「そんなことをしてはいけない」
「時雨さまは、嫌なの」
「…もっと大事にするものだ」
「好きなひとに触って貰う以上に、大事にする方法なんて知らないわ」
時雨さまが苦笑した。
「知らぬ間に人の娘は随分と大胆になったようだ」
「笹田純です、時雨さま。ちゃんと呼んで」
胸に置いた両手が制服の中で背に回り込み、しっかりと抱きしめられた。
「純。私は君がいとおしい。…逢いたかったよ」
そのまま笹田は服を脱いだ。



111 :後編5/8:2010/03/22(月) 00:11:42 ID:fsuW/P5/
(…恥ずかしい)
好きなひとが見ている、それだけで全身が火照る。
(でも…時雨さまに)
触って欲しいのだ。
忘れられないように、消えないように、恋しい神様を人の力でこの世に繋ぎ止めたい。
『笹田純』を『時雨さま』に刻みたい。
もしかしたらそれは、この若神様を閉じ込めた商人と似て。
「すごく…傲慢かも」
「…何を心配している」
包む様に抱きしめてくれていた時雨さまが笹田の頤に指をかけた。
「神をその気にさせておいて…ひとは可愛いものだ」
優しく優しく、笹田の唇の初めては奪われた。
割り入ってくる舌の感覚に、笹田は身を固くした。それを宥めるように時雨様の手が項から背をそっと撫でさする。
驚きは徐々に快感に変わり、おのずと息が弾む。
(気持ちいい…)
裸の胸に手が触れた。
「ひあっ」
笹田の声にも時雨さまの手は止まらない。程よい膨らみを撫で、包むように揉まれ触れられた快感に固くなった頂点を摘み──口に含む。
「は、あ…あっ」
舌で捏ねられ吸われ、笹田は生まれて初めての喘ぎを何回も何回も繰り返させられた。
「あっ…あぁっ…あ」
「良い声で啼く」
ちゅっ、と音をたてて唇を離した時雨さまが笹田の耳に囁いた。
かああっ、と顔から火が出るほどの恥ずかしさに襲われて。
笹田は何故か、耳を優しくなぞる時雨さまの腕を掴んでいた。



112 :後編6/8:2010/03/22(月) 00:12:43 ID:fsuW/P5/
「されるがままは性にあわないの」
「異なことを」
「時雨さまも脱いで貰います」
言うが早いか帯に手をかけ襟をはだけ、さほど手間はかからずに時雨さまは裸にされた。
「で、どうする」
「こうするの」
時雨さまの胸に頬を寄せて、ひとつひとつ捧げるように口づける。それはとても拙くて、とても烈しい。
「…純には、かなわない」
黙って眺めていた時雨さまが、笹田の脇の下を支えて少し腰を上げさせた。その隙間に素早く指が滑り込む。
「は…んっ」
「純、私は君を傷つけたくない」
「は…い」
谷間を指の腹で擦られ、笹田は息も絶え絶えに頷いた。時雨さまの指先は、ちゅぷ、と優しくゆっくり笹田の中に入る。
「ひ、あぁ」
初めて探られた粘膜からはたっぷりと蜜が溢れだす。掬い上げたそれを小さな花芯に塗りたくられ、笹田は気が遠くなりそうだった。
軽く開いた柔らかな唇からは喘ぎと荒い息だけが漏れる。
肌は絹を薄紅色で染めたように上気して美しい。
栗色の髪がほつれて一筋額に落ちた。
それをかきあげて時雨さまは笹田に口づける。そっとそっと、まるで壊れ物に触れるように。
「おいで、純」
「時雨、さま」
膝の上に抱き上げられて、笹田は熱く固いものが自分の中心にあたるのを感じた。
途端にぐっ、と痛みというよりも強い衝撃で全身が固まった。声が出ない。唇を噛みしめそれに耐える。
「…辛いね」
髪が撫でられ、指はそのまま頬に滑り、滑らかな頬にひとすじ流れた涙を掬った。
潤んで艶やかに光る瞳には時雨さまが映る。
「だい…じょ、うぶ」
時雨様が好き、まだそれは言葉にならなかった。



113 :後編7/8:2010/03/22(月) 00:13:33 ID:fsuW/P5/
ゆっくりと、本当にゆっくりと労るように時雨様が動き始める。
笹田の綺麗な瞳を見つめて、乱れた髪を指で梳いて整えた。
目をきつく閉じ眉を寄せた笹田の苦しげな息遣いに、時雨さまは体を離す。
「…これくらいにしよう」
傷つけたくない故の時雨さまの提案は瞬時に却下された。
笹田が激しくかぶりを振る。
「嫌、いやです…っ。私の虜にして、それで…っ」
──消えないで、時雨さま。
笹田の方が消えてしまいそうな声だった。

時雨さまは笹田を強く抱きしめた。
人に絶望し、穢れたと憎み、妖に堕ちた若神を救ってくれたのはこの華奢で無垢な人の子だ。
「有り難う、純」
笹田を抱いたまま、また繋がった。
笹田が僅かに眉根を寄せる。その想いを、たったひとり愛しくてならないひとを、時雨さまは慈しむように抱いた。

「あっ…あ…」
微かに喘ぎを漏らす笹田の涙は、嬉しい痛みを知った証。
逢いたかった、本当に。
消えないでいてくれる。
また──また逢えるのだ。いとおしいひとに、好きなひとに。
私の言葉で、私の心で、私の体温で。繋ぎ止めたのだ。ならばそれは決して傲慢などではない。

それは──恋です、神様。

「あ…っ…ああっ!」
笹田が初めての絶頂に身を委ねた時、時雨さまも同時に果てた。
そして、恋人達はもう一度しっかりと抱き合い、キスをした。



114 :後編8/8:2010/03/22(月) 00:14:50 ID:fsuW/P5/
「あの、時雨さま」
「なんだ」
動かない体を優しく介抱して、服まで着せてくれたその胸に笹田は抱かれている。
安堵で眠ってしまいそうだが、朝になる前に帰らなくてはならない。
「もう…何処にも行かないで」
「…私はもうここから離れられない。今までで最上級の捧げものを貰ってしまったからね」
苦笑いみたいな微笑みだったけれど、笹田は嬉しかった。
「夏目君達にお礼を言っておきます」
「そうか、夏目が」
はい、そう頷いて笹田は時雨さまの背中に腕を絡めた。
──有り難う、夏目君。私、逢えたわ。幸せだからごめんねって言わせてね。

「私…ここから、を君からにするわ」
少し前まではお礼を言う為だった。
いつからかただ逢いたくなった。
そして今は離したくない。
なんて欲張りで身勝手な感情。でもそれは。

呟いた額にそっと唇が触れた。
「逢いにおいで。純が呼べば出て来よう」
「はい。また…また来ます。毎日来ても、帰れとかはなしよ」
「…君も飽きない」
その笑顔がすごく綺麗で、笹田は本当に、心から。
「時雨さまが好き」
そう言って。
空に浮かぶ下弦の月と競って笑った。

たぶんこの世に、かなうものなどない最強の感情。たとえ神様が相手でも。

それをきっと、恋と呼ぶ。
最終更新:2010年05月03日 22:50
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。