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243 :『なにも見えない』1/10:2010/06/01(火) 13:29:25 ID:rd8dsz8j


「……っ」
じわり、と滲んだ痛みに構わず、冷たい水に手首を晒した。皺くちゃの制服の表面で、跳ねた滴が僅かな光源にきらきらと光る。擦り傷を丹念に流して水を止め、私は湿ったハンカチでそれをそっと拭った。
カバンを取って来なくちゃ、それで学校を出て、そうしたら全部終わる。
あの時よりもずっと簡単なことを、誰も巻き込まずに私は必ずやり遂げてみせる。
「……大丈夫」



「多軌さーん」
いきなり呼ばれて頁をめくる手が止まった。
私はやや右後方、影が静かに淀んだドア付近に目を凝らす。日没前独特の不明瞭さに包まれた図書室で、そこには一際濃い影が立っていた。
「……西村君」
「何してんの?」
「あ──夏目君を待っているの」
ふぅん、とよく見かける屈託のない笑顔で彼は私の横に立つ。「それ、面白い?」
「え、ええ……まだ半分くらいだけれど」
そっか、と首を傾げながら彼は隣に座った。
西村君の前で読み続けるのは躊躇われて、頁数を覚えて本を閉じる。
夏目君を介せずに話したことがないせいか、何となく気まずい。手首の内側で時間を確認しながら、私はわざとらしくない程度に声のトーンを上げた。
「西村君も夏目君に用が?」
「ん?まあ、そんなとこ」
「そう──見かけなかった?」
読書に集中しているうちに、約束の時間はとっくに過ぎていた。何かあったのだろうか、とふと不安になって顔が強張る。
「どっかで寝てたりして。チャイムなった時も爆睡中だったし」
授業は大丈夫なんかねー、と呆れながらも案じる西村君の言い方に口元が緩んだ。
「仲良しね」
「まあな、あいついい奴だもん。──多軌さんて、夏目と付き合ってんの?」
「え、な……なあに、突然」
「あ、否定しねーんだ」
そんなこと、と呟きながら私は本を手に立ち上がった。虚をつかれて染まった頬を髪で隠して、背表紙を指先で追う。
「──多軌さん」


244 :『なにも見えない』2/10:2010/06/01(火) 13:30:13 ID:rd8dsz8j
とん、と並ぶ本に手が置かれたのを目の端で捉えた。振り向こうとした背中が重くなって、書架との間に挟まれた。咄嗟に横にすり抜けようとした両手首が掴まれ押しつけられる。ハードカバーが床で響かせた重い音に私は首を竦めた。
「な、西村君、なに…」
「だからさ、夏目ならいいかと思った。でも──やっぱりだめだ」
いい匂いがする、と耳元で囁かれ私は顔を背ける。
「離し、て」
「多軌さんが好きなんだ」
な、とまた突然の告白に戸惑ううちに更に体重がかけられる。胸に何かが触れて、それは同じ温度でもって太腿を撫でた。制服の下に滑り込んだのが彼の手だと気づいて、全身が総毛立つ。
「い、やっ!何するの!やめてっ!!」
「ごめん、無理」
そう叫ぶ間にもブラを押し上げた彼の指は頂点を擽り始める。まだ柔らかなそこを摘んでは捏ねて引き、反応を求めて弄ぶ。膨らみは手のひらで押し潰された。
怖い。恐怖で凍りつきそうな私をよそに、あまりに一方的な好意は、いちばん敏感な場所へとその手を伸ばした。
「あんっ……い、嫌っ!」下着越しに股間をなぞられて、唇から思わず漏れたその声は甘い響きを含んでいた。
どうして、愕然としながら震える唇を噛んでももう遅かった。
「感じた?」
尾てい骨の少し上、ショーツの縁に指がかかった。あっ、と反射的に脚を閉じたが間に合わず一気に引き摺り下ろされる。丸まった下着が絡む膝に膝が割り込んで脚を開かれた。


245 :『なにも見えない』3/10:2010/06/01(火) 13:31:03 ID:rd8dsz8j
「嫌っ!いやぁっ!」
触れられてしまう恐怖に叫んで身を捩って抵抗しても、体格と力の差は埋められない。
探るように冷たい彼の指が差し込まれ、そこはくちゅ、と湿った音を立てた。羞恥と屈辱で噛み締められず私の歯がかちかちと鳴る。
「んっ!いやっ!!触らないでっ!」
「──濡れてるよ」
押さえられていた上半身が緩んで肩が引かれ、どん、と今度は背中が書架に当たる。向き合った西村君は、私の谷間に沿って指を上下に滑らせながらごめん、と目を逸らした。
「嫌だよな」
「こんなことして…手に入るとでも…っ」
「……もうやめらんないよ」
西村君はセーラー服をたくし上げて胸に吸いつく。強く吸われて私は大きく喘いだ。彼は上目遣いで私に微笑む。
「胸、けっこうあるんだ」
謝っておきながらまた笑えるのは、この怖さが理解出来ないからか。
「夏目にもここ、舐めて貰ったんだろ」
嫌。初めてそこに触れた舌の温度が蘇り、こらえた顎が上がって息が弾んだ。やめて、お願い。
「どんな風におねだりしたのか、見せてよ多軌さん」「あ、あんっ!いや、嫌っ!」
先端にくるりと舌が触れるたび快感がはしる。小刻みに吸われれば脚の奥が疼く。
また肩で強く押さえ込まれ、彼の左腕が腰に回った。スカートがめくられてその意味を悟った私は目を見開く。
「嫌っ!離してっ!」
髪が乱れるのも構わず、腕を振り回し足をばたつかせて、全身で抗う。
「いやっ!嫌!やめて西村君!お願い!」
「ごめんな」


246 :『なにも見えない』4/10:2010/06/01(火) 13:31:49 ID:rd8dsz8j
嫌だ。咄嗟に伸ばした右手に触れたものを掴み出して、思いっきり振り下ろす。「ごめんっ!」
鈍い音がして西村君の上体が窓の方に傾いだ。突飛ばした勢いでついた膝と爪先で床を蹴る。
床の上の分厚い本が視界を掠めて、文庫のコーナーでなくて幸いしたと私は変に感動した。
絡まったショーツをとりあえず引き上げスカートを翻して走る。椅子に躓いて上履きが脱げて、前のめりになったのをどうにか持ちこたえて──あと、あと二歩。
指が冷たいガラスに触れたのとほぼ同時に、横ざまに床に叩きつけられて息が止まった。縮こまって痛みをこらえる私を覗き込み、西村君がにっこりと笑っている。
足を払われたのか。セーラー服の襟ごと引き倒されたのか。
「残念でした」
本気だ。直感がそう告げてぞっ、と心が冷える。
「おれ元サッカー部でさ。夏目からだったら逃げられたかもしんないね」
「い、やぁっ!」
髪を掴まれ頭が浮いて、痛みに声が上擦った。引き戸に伸ばした手も踵で落とされて引き摺られる。嫌だ、待ってお願い。
遠ざかる入り口のガラスには、指の跡が三本、縦に並んでいた。


247 :『なにも見えない』5/10:2010/06/01(火) 13:32:45 ID:rd8dsz8j
西村君は私を書架と机の間に突き飛ばし、もがく腰に馬乗りになって、乱れたセーラー服を手首まで引き上げた。重ねた両手の上で一巻き、作りつけの机の脚にもう一巻き結ばれて、上半身の自由が奪われる。
「いや……西村君、やだよ…っ」
「だって多軌さんまた逃げるだろ?」
「夏目君が……来るよっ」
彼は手を止めず、スカートも器用に脱がされ爪先に落ちた。ずれたブラもショーツも丁寧に外して、乾いた音に身を竦めた私に微笑む。
「来ないぜ。ちゃーんと言っといたから」
「な……にを」
「『夏目ーっ!多軌さん急用で帰るから夜電話するってさ!そこで会って頼まれたぞ……っつうかまたお前多軌さんとっ!』やれば出来るもんだなー」
そうだ。大体今日の放課後は地域の高校の連絡会で、先生も生徒も校内には残っていないはずだった。でも西村君は現れた。
おかしいと思わなかった。気づけなかった。夏目君の友達だからと疑いもしなかったことを今さら悔やんだ。
「なんで、そんなこと……」
「さっき言ったぜ?」
「好き……だからなんて理由、おかしいよ……っ」
「夏目なら仕方ないかって思ったさ。でも、でもさ」
彼は俯く。真下の私からも表情は見えない。
「離…して」
もしかしたら。砂粒みたいな希望に縋った懇願には、救いなんて微塵も無い答えが返された。
「だめだよ。やっぱり多軌さんは──おれのだ。夏目にもやらない」
私を見つめるのは、暗い瞳とこの期に及んでまだ無邪気な笑顔だった。
「にしむら、く…」
「夏目みたいに、それよりずっと気持ち良くしてやるからさ、おれのになってよ──多軌さん」
「い…嫌っ!嫌よっ!離して!離してお願いっっ!!」
どんなに引いても腕は解けない。開かれた脚には彼のしっかり押さえ込まれている。

もう、逃げられないんだ。

絶望が隠すものの無い肌に突き刺さって、体中ががくがく震える。
怖い。嫌だ離してお願いだからもうやめて嫌よ夢なら覚めて────いや。
「いやああああーーっっ!!」


248 :『なにも見えない』6/10:2010/06/01(火) 13:34:18 ID:rd8dsz8j
懇願も拒絶も渇いた私の抵抗も何もかも押し退けて、硬く滾ったものがあてがわれ、その熱い塊を私の体は飲み込んだ。
「い……っっ!!」
血の匂いがする。
傷つくのなんてお構い無しに、西村君は私を蹂躙する。
膝裏を抱えられ、強く突かれて腰が浮いた。お尻に打ちつけるみたいに何度も奥まで突き上げられた。乾いた音が薄闇に谺する。ああ、もう夜が来たんだ。
西村君がなかを混ぜるように動けば、襞の奥は引き摺られる。
「い……やぁ…っ!」
痛い。痛いよ西村君。
「な、んで……っ」
どうしてこんなことされなきゃならないの。滲む涙で視界がぼやけた。拭いたくても手はおろか指も届かなくて涙は止まらない。
揉むは相応しくない、掴むか握るかという強さで胸に爪が立てられた。痛めつけるような愛撫。
まとわりつく舌が這いまわって、やっとありついた餌みたいに先端に齧りつく。
「や……!い、やぁ…っ」
痛い。どこが痛いのか分からなくて痛い。
先端を咥えたまま西村君が果てた。灼けるように熱い私のなかに、嫌なものがこの行為と好意の象徴みたいに乱暴に出された。
ず、と虚ろな感覚の後に、脚の間から粘つくものがぼたぼたと床に滴る。
染みる痛みに私は身を捩る。涙が流れて、耳の後ろの髪が濡れて気持ち悪い。
「なつめ、くん」
あまりに細い自分の悲鳴にまた涙が零れた。


249 :『なにも見えない』7/10:2010/06/01(火) 13:35:14 ID:rd8dsz8j
西村君が大きくため息をついて、息を整えることも許されない私は手首を軸に俯せにされた。皮膚が捻れて擦れてひりひりして、叫ぼうとした口に何かが詰め込まれる。
「んんぅっ!」
「夏目、とかまた呼ばれちゃ興醒めだからさ」
そう言って彼は、台にきつく結んだ制服を上方に滑らせる。腰が高く上げられ床にあたる頬が冷たい。力を振り絞って脚を閉じたのに、傷だらけで熱をもった私の真ん中は呆気なく曝された。
指で広げるにちゃ、といやらしい水音が不快で、ぎゅっと目を瞑る。
差し込まれた指がなかを掻き回す。襞の少し上の突起を探りあてられ、私は、私の体は────また思い出してしまった。
「ん……っ、んんっ!」
だから、今まで触られなかった小さい、でも敏感な私のそれは彼の執拗な責めに耐えられなかった。
嬲られたばかりで痛みに息も絶え絶えなのに、繊細な部分を摘まれ擽られ爪で潰される。程なく溢れたものをくちゅくちゅと音高く塗りつけられて、びくっ、と私の腰は跳ねた。
「はは……気持ちいいんだ、多軌さん。すごいよ、多軌さんのここ」
「んん、んんぅっ!」
「無理矢理でも、いいんだ」
背中に落ちる嘲りの混じった嬉しそうな彼の言葉に、身をくねらせて私は首を振る。髪がさらさらと鳴る。口の端が涎でべたつく。
気持ちよくなんてない。違う、違うよこんなの。違うんだよ西村君。
つぷ、と今度は奥を引っ掻くみたいにして、指が細かく抜き差しされる。
「んっ!んんっ!ん、んっ!」
私は喉を反らしていやいやをした。ぞくぞくと体が震える。
また熱いものがうつ伏せの私のなかに挿入り込む。
背中に覆い被さった西村君の荒い息が頬にかかる。十本の指が絡みつくように胸を揉み、つんと硬い先端を捏ね回す。
「ふぅっ……ん!」
抗う意思に反して体は快感に溺れ、溢れたものは内股を伝い膝までびちゃびちゃだ。激しく突かれれば嬌声をあげ悶えようとそこがひくつき、内壁が収縮して爪先が反る。
「んぅ、んんっ!…ん、んんっっ!」
声にならない声で喘ぎ善がる自分に吐き気がするほどの嫌悪を抱いて、私は私の女の部分を拒絶した。それでも絶頂から逃げられなかった。


250 :『なにも見えない』8/10:2010/06/01(火) 13:53:56 ID:rd8dsz8j

「────っ!」
声にならない悲鳴をあげた私の口の中の詰め物が取り出され、床にべちゃ、と張りつく。噎せる唇から顎から涎が糸を引いた。
「はっ……ああっ!」
息を吸い込んだ瞬間思い切り突かれた。何度も何度も、私のいちばん奥まで叩き込むみたいに入ってくる。
「あんっ!…あんんっ!」
大きく喘げば刺激されてか彼の動きも早まる。
「夏目ともこうした?」
「知らなっ……く、うっ」
痺れるような感覚が下半身に集中する。私のなかがきゅう、ときつく狭まると目の前で西村君の喉がごくん、と鳴った。
「思い出して──いっちゃったか」
「そん……なっ」
図星だ。
まだ一度だけの優しい行為が浮かぶ。
嫌。悦ぶ笑い声もいやらしい音ももう聞きたくない。無理矢理犯されて喘いで、その上夏目君のことを思い出すなんて。
嫌だ。こんな風に感じるのはもうご免。お願いだから離して。嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だこんなの。
「やめ、て……もう、お願いっ」
喉が痛くてかすれた私の言葉は全然届かない。西村君が満足気に呻くと、また私のなかにどろどろと欲望が溢れた。
もういいでしょう、それは声にならなくて私はふらふらと首を振った。


251 :『なにも見えない』9/10:2010/06/01(火) 14:00:11 ID:rd8dsz8j
手首の戒めが解かれ、仰向けに寝かされた。やっと、と薄ら開きかけた目を私は次の瞬間瞠る。現実はただただ残酷だった。
「まだだよ」
乾いた声で脚が大きく開かれる。血と精液と私の粘液で滴るように濡れた部分が曝され、また無理矢理繋がれた。
「ひ、ああっ!」
私のなかはぐちゅぐちゅと濁った音を響かせ、襞は知らない生き物のように蠢く。
「はっ、あっ、あんっ、ああっ!」
もう、喘ぎをこらえるのは無理だった。襞のなかは細かく痙攣して硬いものをしっかりと咥え込んでいる。
「あっ…ああっ!」
激しい水音の中が響く。私の腰は欲しがるみたいに浮いて、彼の腰に密着する。なかは彼自身に絡みつき締めつける。
体が火照って、奥がじんじんと熱い。
一層深く突かれ続ける振動で頭がぼんやりして、力がすうっと抜けていく。
もっと、と。気持ちいい、と。信じたくもないけれど、私はその時たぶんそう感じていた。
「あん!あっ、あっ、は、あぁっ……ん……っ!」
とろとろに蕩けたそこはきつく締まり、爪先まで痺れるような快感が駆け上がる。冷たくて滑る床に私は背中から崩れ落ちた。なかにはまた、もっと熱いものが吐き出された。
「……やっと、おれのだね、多軌さん」
西村君がそう呟いた声は、朦朧とした私の耳には泣いているみたいに響いた。


252 :『なにも見えない』10/10:2010/06/01(火) 14:06:25 ID:rd8dsz8j
動けない私は書架にもたれて座らされた。
何時だろうもう遅いわでもきっと心配しているもの電話をしなくちゃ探しに来る前に。
そうだ。
やることがある。涙で張りついた睫毛を剥がすように目を開けて、私はかすれた声を必死に紡いだ。
『帰って西村君』
『もういいから。私は何も言わないからあなたも黙っていて、お願い』
『私は必ず守るから。約束よ』
返事の代わりにか、頷いた彼にも意味は通じたのだろう。
そっと姿を消した西村君のように、暗闇の中、全身を引き摺るようにして私は凌辱の痕跡を消していった。
本、書架、机、床を、そして私自身を。ひとつひとつ、手探りの体より重い後始末をこなした。何度廊下の水道までを往復しただろう。指の跡が歪んで見える、ガラスの填まったドアを何度開けただろう。
カバンを抱えて学校を背にする。さあ、早く帰ってこう電話をするの。

「ごめんなさい、忘れ物で戻ったらなかなか見つからなくて」
「うん、大丈夫。また月曜日にね。おやすみなさい」

あの時よりずっと簡単なことだ。やり遂げるのに必要なのは忘れることだけだ。
夜空は真っ暗でただ静かに風が吹いて、黒一色に見える木々を道を微かに鳴らしていく。虫も鳥も、月も星も、私も、何も見えない。
塗り潰したみたいな闇夜で良かった。月明かりがなくて良かった。
誰も見ないで。今だけは照らさないで。
私は黙って泣いた。嗚咽を隠すため唇にあてた手首の傷はさっきよりずっと染みて、痛くて痛くてたまらなかった。
何故、水みたいに何もかも流れてくれないんだろう。それだけ空に呟いた私には。
なにも見えない。
最終更新:2010年10月29日 18:06
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