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280 :『甘くて酸っぱい』1/9:2010/06/24(木) 00:21:51 ID:/aawEmGA


浴衣を着るたびに思い出すことがある。
仲の良かった祖父との、それは遠く懐かしい記憶。



「髪、よし。帯、よし。浴衣は……一人で着付けたにしてはまあ上出来」
仕立て上がったばかりの生地は濃い桃色だ。派手な気もするが夜祭りにはかえっていいのかもしれない。はぐれないだろうし、そう呟いてタキは姿勢を正したた。
「似合う……かな」
鏡の前でくるり、と回ってみる。涼やかな夏の夕の風が袖と軽くまとめた髪を揺らしていった。
(何て言うかしら、夏目くん)
隣の区の祭に夏目を誘ったのは三日前だ。妖のこともあるし、とダメ元でかけた電話で快諾されてからそのことばかり気にしていた。タキにしては珍しくわがままを言って浴衣の仕上げを早めて貰ったほどだ。

「わたあめを半分こして、あとはりんご飴と、甘いのばっかりになっちゃうからたこ焼きとかかな……金魚すくいもしなくちゃ」
思わず指を折って数えてはっと気づく。
「ああダメよ、手が繋げない……どうしよう!」
些細なことで早まる胸を押さえて深呼吸していると、庭先で訪う声が聞こえた。

濡れ縁に用意しておいた下駄を素足につっかけてタキが門へ回ると、浴衣姿の夏目が何やら申し訳なさそうに立っている。
「いらっしゃい。早かったね、どうしたの?」
「悪い、少し蔵を借りてもいいか?実は──頼まれごとをしてしまって」
「ええ、どうぞ。手伝うね」
タキはほっと息をつく。一瞬行けないと言われるのを覚悟したのだ。浴衣の感想がないのはちょっと残念だけれど、急いでいる様子の夏目を見ては致し方ない。
(それに……緊張が解れそうだし)
そう思いながらタキは分厚い漆喰塗りの扉を押し開けた。


281 :『甘くて酸っぱい』2/9:2010/06/24(木) 00:22:39 ID:/aawEmGA
蔵の中の空気は昼間とは異なる。そこかしこに溜まる闇、行李の陰に階段の下。何かがじっと息を顰めてこちらを窺っているかのような錯覚は昔と変わらない。

「ニャンコ先生は?」
火をつけた蝋燭を床の隅に注意深く立てながらタキは尋ねた。
「めんどうだって家に。……すまないな、タキに手伝わせて」
「ふふ、いいの──懐かしいし」
え、と和綴じの書物から顔をあげた夏目にタキは微笑む。
「祖父がね。こんな風に蔵の整理をしながら色んな話を聞かせてくれたの」
幼い頃は怖かったけれど、書斎で、庭の土に絵を書きながら、祖父があまりに楽しげに語るのでいつしかタキも興味を持つようになった。
「お祭りも好きだったのよ。私はりんご飴が欲しくて屋台を指差してるのに、祖父はきっと妖が混じってるってうわの空なの。──紹介したかったな、夏目くんのこと。驚いただろうなあ」
ああでも夏目くんが引いちゃうかも、熱心だった祖父の姿が浮かんでタキは苦笑する。
黙って聞いていた夏目が小さな、でもはっきりした声で答えた。
「タキのおじいさんなら──会ってみたかったと思う」
「ふふ、有り難う」


282 :『甘くて酸っぱい』3/9:2010/06/24(木) 00:23:28 ID:/aawEmGA
はにかむタキの、くるりと結うように上げた髪から白い項に後れ毛が落ちて、その下の軽く抜かれた襟からはなめらかな背中が僅かに覗く。
(ああ──似合うな)
見慣れないその姿は艶っぽい。左側の触れそうで触れない距離を変に意識してしまいそうで、夏目は慌てて手元の書物に目を落とした。隅の方に擦れた書き込みが頁をまたぐように続いている。
(……本当に見てみたかったんだろうな)
祖父の残した書き付けと、祖母の遺した友人帳で二人は出会ったのだ。
たくさんの思いを知っているタキと、まだ知らない自分を思って夏目は少しだけため息をついた。
その肩をとん、と突かれて振り向く。
「見つかったかい、夏目」
「……ヒノエ!」
「斑は先に行くとさ。また辛気臭い顔してるのかい、まったく」
どうせ何やらうじうじ考えてたんだろう、はすっぱな口調の女妖に図星をつかれて夏目は返答に詰まった。
「こけしを持ってくるなよ……魔除けなんだぞ、それ」
言い返せない代わりにつっこむとヒノエは鮮やかな錦の袖を振る。
「気に入ったんだよ、行きがけの駄賃代わりにいいじゃないか」
「いや……タキの祖父のだから。戻して来てくれ」
「夏目くん、どうかした?」背を向けて行李を漁っていたタキが立ち上がって目を瞠った。「……何でこけしがここにっ?!」
「あ、いやその……」
説明でもたつく夏目を横目に、ヒノエがつ、とタキの方へと動いた。吐いた煙が流れるように白い線を描く。手のひらを煙管で軽く打って艶やかな唇を僅かにあげた。
「へえ、夏目にはもったいないくらい綺麗な娘じゃないか。ああ──そうだ。ちょいと私が面白くしてやろうかえ」
くつくつと笑ったヒノエが袂を探って何かを取り出すと、夏目に向かって思い切りタキを突き飛ばした。


283 :『甘くて酸っぱい』4/9:2010/06/24(木) 00:24:17 ID:/aawEmGA
突然の衝撃によろけたタキは思わず夏目に縋りつく。
「きゃ、ごめんなさ……きゃあ何っ!」
浴衣の裾が大きくめくれたのを押さえる間もなく、ひんやりとしたものが直に股間に触れた。
「ひぁっ!」
それはとても繊細な動きでそこを刺激してくる。襞をそっとかきわけ谷間を滑り、探り当てた突起を小刻みに擦った。気づかぬうちに下着は取り払われ、けっして無理を強いないその感覚に抗えずタキは夏目の胸元を強く掴んだ。
「あ……やぁっ」
「タキっ!止め………!」
夏目が何か叫んだ。状況を把握できないまま、タキのそこは快感に囚われとろとろに溶け始める。
「や……だ、めぇ……」
ぐちゅ、と湿った音とともに何かがゆっくりと差し込まれた。それは最初はひやりと固く、抽送を繰り返すほど徐々にタキの体温で緩んでいく。
──熱い。
じわじわと確実にタキを襲うのは未知の感覚だった。
「あ……っ、は……」
声に反応するようにそれは引き抜かれるもタキの体には激しい焦燥感が残される。
(なに……熱い……っ)
体中が火照って呼吸は酸素が足りないみたいに浅く早い。その吐息すらも熱くて喉が灼けてしまいそうだ。
「……あ」
身を捩ればみっちりと張った胸が浴衣に擦れて、甘い声がひとりでに漏れた。
そしてそのどこよりもタキのいちばん奥が疼いた。早くはやくと淫らな感覚がタキを急かす。
(……だめ……そんなの)
こめかみから頬へと伝った汗が顎の先からぽつん、と一滴、軽くはだけた夏目の胸に落ちた。
それを契機にタキは蕩けた息をはいた。
「夏目くん……」


284 :『甘くて酸っぱい』5/9:2010/06/24(木) 00:25:02 ID:/aawEmGA
止めるはずだった。
「ヒノエっ!タキに何をした!」
「あ、ぁん……っ」
叫んだ胸でタキが喘ぐ。身動ぎのせいか襟が崩れ、なめらかな鎖骨と白い肌が零れていた。密着した二つの感触がいつもより柔らかで、下着が見当たらないことに気づいた夏目は動揺する。
「善いことさ」ヒノエはまるで惜しむかに長い舌で唇を舐め言を重ねた。
「こんなに悦んで──可愛いねえ。夏目、あとはおまえが善くしておやり」
にい、と滴るほどの妖艶な笑みを浮かべ、頼んだものは急がないよ、と立ちこめる白煙を残して女妖の姿は闇に溶けた。
「な…待て!」
「な……つめ、くん……」
タキの甘い声が呆然とした夏目を呼ぶ。大丈夫か、と問う首筋に熱い頬と唇が押しあてられる。
「私……おかしい……あつい、の」襟を掴んだタキの指にぎゅ、と力がこもってため息ともつかない声が漏れた。「離れて……おねがい」
「え、でも」
「もう……だめ……」
「タキ?大丈夫か?」
抱えた体すべてが熱い。弱々しく震えたタキがゆっくりと夏目を見上げる。瞳は潤んで蝋燭の淡い光が揺らめくその表情は、鮮やかに朱を散らして恍惚として──鳥肌が立つほどなまめかしい。
「──がまんできないの」
鎖骨からはだけた胸へと降りた唇の感触に狼狽えた夏目は、そのまま押し倒された。


285 :『甘くて酸っぱい』6/9:2010/06/24(木) 00:25:53 ID:/aawEmGA
馬乗りになったタキはわずかな刺激にも身を捩る。こらえるように左の人差し指を噛んだ。
「ね……浴衣、似合う……?」
夏目を覗きこんで囁く。
(こんな風に聞きたかったんじゃないのに……でも……)
心とは裏腹に疼く体はもうどうにもならない。勝手に息が弾む。
(お祭り……行かなきゃ……探しものだって)
「……タキ」
驚きを含んだ声で夏目がタキを呼んでいる。
(でも……だめ)
「……あついの……」タキは裾をたくし上げてうっとりと尋ねた。「夏目くん……は?」
つ、と指を這わせ探りあてたものはしっかりと硬い。
(……あ)
羞恥に頬を染めるが欲情はそれに勝った。首を軽く傾げねだるように夏目を見つめる。
「だめ?……いい、よね」
返答を待たずにタキは夏目を深く深く飲み込んだ。
ぢゅぷ、と卑猥な水音がひっそりと静かな蔵の空気に混ざる。
快感と充足感で全身が痺れるがただそれだけでは足りない。夏目の薄い腹の上に手をついてタキは腰を揺らし始めた。
「あ……はっ、あ、あっ」
ぬるぬるに濡れた内壁は夏目の屹ったものをきつく咥えている。顎を背を反らしてタキは激しく喘ぎ乱れる。
動けば動くほどなかは感度を増し、絶え間ない快感の波にタキは飲まれる。
熱い。
背中を幾すじも汗がつたう。素足が下駄の上で滑る。汗ばんだ手のひらで握りしめた夏目の浴衣はきっと皺になっているだろう。
「あ、あんっ、んっ」
絶頂はすぐに訪れた。タキは息を荒げたまま夏目の胸に倒れこんだ。


286 :『甘くて酸っぱい』7/9:2010/06/24(木) 00:26:59 ID:/aawEmGA
目を閉じたタキが夏目の上で浅い呼吸を繰り返している。流されるように挿入したものを引き抜こうと身動ぎすると、擦れた声でタキがかぶりを振った。
「だめっ……まだ、ぬ、抜いちゃいや……っ」
「えっ」
「……お願い、もっとして……」
色っぽく潤んだ目つきで必死に縋りついてくるタキの姿が夏目にも火をつけた。抱き起こすと壁に手をつかせる。
「いくよ」
覆い被さってなんの抵抗もなくタキのなかに入り込んだ。びくん、とその背が反った勢いに上げた髪が解れた。
「あんっ!」高く鼻にかかった喘ぎをタキが漏らす。「やっ……深い……っ」
普段なら言いそうにもないことを口にするタキが可愛くて眩暈がしそうだ。
強く突き上げつつ夏目は前に回した手で浴衣の襟を広げ、素肌の胸をやわやわと掴む。
「下着……つけてないな」
「んっ……一人で着た……からっ」
「……このつもりで?」
あり得ないだろうことをわざと尋ねてみる。違うわ、と激しい息遣いに重ねて答えがあった。
「違うけど……そう、かも……んっ」
「かも?」
手のひらで丸みを味わいながら親指の腹で先端を弄ぶ。尖ったそれを摘んでそっと捻るとタキが敏感に反応する。
「あんっ……浴衣、見せたかったから……ちょっとは」期待してたかも、とタキが恥ずかしそうに呟いた。いとおしくて背後から思い切り抱きしめる。
「……苦しいよ、夏目くん……っ」
「……似合うよ、浴衣。すごくエッチだ」
「や、そんな言い方じゃ……はんっ!」
タキの可愛い抗議を遮って夏目はより深く突き上げる。動きに合わせてタキが甘い声を響かせた。
「じゃあ何て言えばいい?」
ぐちゅぐちゅと溢れた蜜を鳴らしながら夏目はタキを責める。
「んっ……ちゃんと、見て言って……っ」
「見てるよ……エッチなタキの色んなとこ見てる」
「それじゃ、だめ……っ」
被さった夏目を押し戻してタキが身を返した。
髪は乱れてほつれ、大きく開いた合わせで露な胸が揺れた。桜色に上気した肌から鳩尾に珠になった汗が一粒流れる。
「きて」
挑発するみたいに言ったタキが夏目の唇を塞いだ。仰向いて激しく舌を絡めてくる。


287 :『甘くて酸っぱい』8/9:2010/06/24(木) 00:29:54 ID:/aawEmGA
タキは夢中で夏目にキスをした。
いつもされているみたいに歯列をなぞってあますところなく咥内を味わう。唾液が口の端から顎へと溢れてやっと離した。細い粘り気のある糸が蝋燭に照らされ淫靡に光る。
「ちゃんと見て……ね」
タキは上目遣いで夏目に体を開く。襟は二の腕に絡み激しい息遣いに上下する胸がこぼれている。弛んだ帯はかろうじて腰の上に、裾は大きくはだけて太ももまで丸見えだ。着崩れた浴衣ははしたなくてこの上なくいやらしい。
(私……なんて格好……でも)
緊張ではなく嬉しさと羞恥でタキの心拍数は上がる。
「……見て、夏目くん」
(──見て欲しい)
腰が掴まれ夏目のものが激しく挿入ってきた。
「あんっ!」
爪先立ちになるほど強く奥まで突き上げられる。溢れていたものが内股へ流れていくのをはっきりと感じる。
肌と肌は汗でぴったりと張りつき互いの呼吸も心臓の音も混ざりあう。
「あ、あんっ、やっ……ちゃんと、言って……っ」
「タキに──似合うよ」
「ふふ……良かっ、た……は、あっ」
耳朶に直接悦びを注がれタキは身悶える。上擦った声でもっとして、と夏目にねだった。
それに応えてなかの熱さを増すかのごとく奥深くを突かれた。早くなる動きにつられ快感は高まっていく。
「あ、ん……っ!」
タキは夏目と一緒に火照った体が溶けるような最後へ昇りつめた。


288 :『甘くて酸っぱい』9/9:2010/06/24(木) 00:31:18 ID:/aawEmGA
「染みとか……なってないかな」
「皺にはなってるぞ」
うう、やっぱりとタキは肩を落とした。さっきまでの痴態とはまるで別人のように浴衣の状態を気にする。
ぐちゃぐちゃに着崩れていた夏目の浴衣を直して、タキは今自分の方を終えたところだ。手櫛で梳かした髪をなんとかまとめる。
その一部始終を夏目はそばで眺めていた。
「ええっ?!どこいっちゃったの?!」下着がないと慌て、
「……汗っぽいわ」襦袢の汚れを確認して、
「ああ!よく見えないっ」浴衣の皺を蝋燭の灯りで見ようと騒いで、
「夏目くんも手を貸してっ」斜めによれた帯を懸命に手のひらでのばして。
そのたびに笑いをこらえる夏目にタキは抗議した。
「もう、他人事だと思ってるでしょうっ」
「暗いし、そんなに気にしなくてもいいんじゃないか?」
「そうかな……はっ!汗くさいかも!」
ついに夏目が吹き出した。
「あ、笑った!夏目くんだってきっとそうよ!」
確かめようと袖を掴んだ手が引かれタキは夏目に抱きしめられた。
「悪い、微笑ましくて。大丈夫だって」
「……ほんとに?」
「ああ」
タキは夏目の肩にとん、と頭を乗せた。
「お祭り……行けなかったね。ごめんなさい」
「──走れるか」
タキの髪に顔を埋めたまま夏目が囁いた。
「えっ」
「間に合うかもしれない。買うぞ、りんご飴」
ぐっ、と手が握られる。タキと夏目はこけしにぶつかりそうになりながら蔵の扉を閉じて、慣れない下駄で門を駆け抜けた。
遠くの空がまだ明るい。



頁をめくるように重ねられた新しい浴衣の記憶は、きっとりんご飴の匂いがする。
それは甘くて、たぶん少し酸っぱい。

最終更新:2010年12月08日 01:24
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