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322 名前:『消えぬ光は』1/2[sage] 投稿日:2010/08/20(金) 01:49:17 ID:QJG21WXp [2/4]


「おれは章史さんじゃないよ」
「でも、見えるよ、おれには」
「聞こえるよ」
お前の姿も、お前の声も。だから蛍。
こんなことは何の意味も持たないのかもしれない。けれど、あの人の代わりに出来るのは──触れることくらいだから。


しっかりと絡められていた手を引いて、ひやりと薄い体をかき抱いた。驚いたように震えた蛍の腕からはすぐに力が抜けた。
首筋をそうっと唇でなぞり、着物の前を緩めていく。蛍が密かにため息をついた。
仄かな光を遮って手のひらと舌を胸に這わせる。上になった蛍のそれは柔らかく自在にかたちを変える。
ぽつりと固い感触を夢中で転がしていると、面の向こうから切なげな声が漏れ、それは徐々に激しく弾んだ。

悦ばせ方など知らない。
たとえ一瞬でも、たとえそれが錯覚でも、あの人が触れているのだと思ってくれれば。ただその一心だった。
抱き寄せるようにして畳の上に微かな衣擦れを落とすと、着物の代わりに淡い光を纏った蛍が夜に仄白く浮かび上がる。
すごく、すごく綺麗だった。
見えることが辛いほどに。
言えないことが痛いほどに。
細く締まった太腿を膝で割り、胸から鳩尾、なだらかな下腹部を舐め、同じように淡い陰影を宿したそこに辿り着いた。
「あ……っ」
谷間にゆっくり指を差し込む。びくり、と蛍の体が跳ね、閉じかけた脚を肩で開く。
ぬるぬると滑るなかを探るみたいにして、たぶんとても不器用に必死に愛撫を重ねた。
蛍はそれに応えて何度も何度も腰を震わす。髪を乱し身を捩る。指を噛みいやいやをする。高い声を上げ善がる。
冷たい肌に薄ら滲んだ汗をおれは丁寧に舐め取った。
溢れたものが手のひらを伝った頃、蛍が細い声で呼んだ。
「……章史、さん」

優しくて切ないその声に少しだけ安堵して、それ以上に悲しかった。



323 名前:『消えぬ光は』2/2[sage] 投稿日:2010/08/20(金) 01:50:05 ID:QJG21WXp [3/4]

唇を噛んで、腰を支えて蛍のなかへ入る。
「あ、ん……っ」
喘ぐ蛍の、布団についた手を、長く艶やかな髪の間からすくい上げ指を絡める。そうして面に口づけて一度だけ。
「……蛍」

「章史さ、ん」
繋がった部分から淫靡な水音を響かせ、儚げな蛍の体は不規則に蠢き強く吸いつく。
おれはその儚い存在を確かめるように一つになった体を揺らした。
荒れた息遣いに合わせて、激しく喘ぐ声に重ねて、呼ばれる度に深く深く強く奥へと。
透きとおった声が甘い色を含んで、腰の動きに連ねて髪が胸が揺れる。白い喉が反る。そこからはいとおしい人の名が絶え間なく溢れて、闇を満たしていく。

章史さん、章史さん。
好きよ──好き。好きよ、すきよ。章史さん。

「……んっ」
蛍がは、と大きく息を吸って背を反らした。重なった手が強く握られる。光を放つ肌を淡く淡く、まるで月明かりが照らす花のように薄紅に染め上げて、崩れ落ちた。
その体を抱いて昇りつめたおれに蛍が囁く。

笑って。
「──笑って、章史さん」
頬を撫でる手に手を添えて、おれは笑った。
蛍、見えるよ。聞こえるよ。触れているよ。
「好きだよ」
「ああ──笑ってくれる」
そう呟いた蛍の面はさらさらと闇に溶けた。現れた笑顔も、ふわりと暗い夜空に舞った姿も、本当に本当に綺麗だった。


触れ合った肌よりも、もっと優しくて、あたたかいものが見えた気がした。
蛍が見せてくれたそれは、きっと──消えることのないもの。
あの人の中からも、おれの中からも。

最終更新:2010年12月09日 22:35
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