183 :G・Pen上の逆襲 ◆dJdsFLhxhM :2008/01/30(水) 21:59:06 ID:25009vSX
犬用の扉から、全裸の女性が身をかがめて入って来た。
ぞろりと長い黒髪が垂れて顔は分からないが、横から見える体つきは高校生かそれ以上か、
十分女に成熟した若い娘と言う感じだった。
「この、か?」
その声に、木乃香の喉が引きつった。
「…ハルナ!?」
木乃香を見た顔は、紛れもなくハルナだった。
思わず駆け寄ろうとする二人の間でパアンと竹刀が床にたたき付けられ、二人は体を震わせる。
「ほらっ、しつけの悪いワン公やなあっ!」
「ごめんなさいごめんなさいっ!」
「やめてえっ!」
千草がハルナの背中に竹刀を叩き付け、悲鳴を上げた木乃香も竹刀で打たれる。
「ほら、自分は犬やっ、犬は犬らしゅうせんかいっ!」
「はっ、はいっ。ワン、ワンワン、ワンッ」
「ほーら、お回りや、そのままくるくる回らんかい」
「ワン、ワンッ」
木乃香は目を閉じ耳を塞いでうずくまっていた。
「ほら、よう見んかい、あれがお前の後のメスイヌや」
千草が木乃香の髪の毛を引っ張って言う。
ハルナは、体を抱いてガクガクと震えていた。
今のを別にしても、全身痣だらけ。木乃香の知る快活な印象はまるで伺えない。
ここに来るまで、ハルナがどんな目に遭って来たか、
ここで木乃香が受けて来た仕打ち、
図太く見えても中学生の女の子であるハルナの事を考えればそれは当然の事と言えた。
「良かったですなぁお嬢様…おおこわ」
「このかっ!つっ!」
木乃香に睨まれた千草が平手を張り、悲鳴を上げたハルナの背中にも竹刀が叩き付けられる。
「新入りが犬待遇やからな、これでお嬢様は晴れて犬から囚人に格上げや。
あの犬も、まあぎゃんぎゃん喚いて十連続二十連続参加の貫通式済ませたばかりですからなぁ、
しまいに白目剥いて通ったばかりのオソソからどろどろ男はんの元気いい子種汁溢れさすの、
なかなか壮観でしたえお嬢様」
「嫌あっ!」
ハルナが叫んでうずくまりガタガタと震える。やはり、そうだった。
人一倍耳年増で若干方向性が違っても知識も豊富そう、カラカラと笑っているハルナ。
そんなハルナでも、そんなハルナだからこそ作り物とは切り分けた、
ちゃんと友達の恋路も理解する部分がある事を木乃香は知っている。
ちょっと御下劣にも見せているハルナが胸の中に秘めていた綺麗なものは、もう無惨に破壊されてしまった事も。
「さ、お嬢様」
「?」
木乃香の目の前に、音を立てて竹刀が落ちる。
「お嬢様がこのバカ犬のしつけしとくんなはれ」
「え?」
「遠慮のう、思いきしバシバシやったらええんです、それで二度と逆ろう気起こさないさかい」
「うちが、うちがするん?」
「そうや、ここできっちり上下関係示さんとなぁ」
千草がにいっと笑みを見せた。
「い、いやや、そんなんいやや…」
「それは通りまへんえお嬢様、ここではお嬢様は人であれは犬や、いや、きょうびあれは犬以下やな、
きっちりしめたらなあきまへん。あれが犬やないんやったら、代わりの犬が要りますさかいな。
それは当然、あれの次に新入りなモンになるですやろ」
千草が立ち尽くす木乃香に竹刀を握らせる。
ぽんと後ろから背中を押され、木乃香はゆっくりハルナに近づく。
うずくまり、涙を流して震えていたハルナが焦点の合わない目で木乃香を見る。
治癒魔法が効いているとはいえ、まだ痣の残る抜ける様な白い肌、
成熟し切らない少女の体で全裸を晒し、竹刀を下げて木乃香は呆然とハルナを見下ろしている。
「こ、こ、このか、このか…」
ハルナには、その先の言葉は舌が震えて出なかった。
千草の事は最後の所では直接関わらなかったハルナも聞いている。
ここで自分に起きた事を考えると、
今のやり取りからも先に入ったと言う木乃香が今までどんな目に遭って来たのか考えも及ばない。
今、自分がそれを交代し、木乃香から死ぬ程殴られないと、木乃香が同じ目に遭う。
だからと言って、友達の代わりにそれを我慢出来る程、自分には根性は無い筈だとハルナは思うのだが、
それでも口が動かない。
「嫌だ」とも「殴って」とも言えない、只、震える事しかハルナには出来なかった。
ハルナは、無理に訴えようとするのをやめて、がばっと顔を伏せた。
もう、自分にはどうしようもない、木乃香に任せるしかない。
いや、普通の人間ならばここでの選択は当然の事として分かる、誰にも責められるものではない。
最終更新:2012年01月28日 20:03