(枝ルート1)
桜咲刹那は、女子寮に戻る途中、飛来した小石を両断すると植え込みに駆け込んでいた。
「千雨、さん?」
そして、胸倉を掴み上げた相手の顔に目を見張った。
「悪い、丁度近衛が一人でいて助かった」
「どうしたん?」
「ちょっとさ、買い物の帰りに酔っぱらいの喧嘩巻き込まれてさ、結構腫れて来てんの。
なんつーか、こんな面、あのガキ…ネギ先生にでも見つかったら色々うるさいつーか心配つーか、
ちょっとちゃっちゃと頼むわ」
「分かった、でも、大丈夫なん?」
「大丈夫大丈夫、うっかりキレたオヤジの側通っちまってよ、パーンッて、参った参った、アハハ」
幸いと言うべきか、女子寮の部屋の近くまで多少の通行人は別にして珍しくこの三人だった。
千雨は愛想良く笑って手を振り部屋に入る。
「…うっ、うううっ、う…」
鍵を掛けた千雨は、ずるずるとくずおれた。
ドアの前でブルブルと頭を振った千雨は、そのままバスルームに駆け込む。
「ひっ!?」
一時間以上経過した後、バスタオルを巻いて廊下に出た千雨は、気配にぎょっとした。
見ると、そこには刹那が床に正座していた。
「な、なんだ、桜咲…」
刹那は、黙って立ち上がると、そのままバスタオルを引っぱがした。
「いやっ!」
千雨が、普通同級生には決して聞かせない様な悲鳴と共に身を抱いてうずくまる。
「千雨さん、私も裏に生きる人間、傷、臭い、気付かぬものではありません」
「近衛は?」
痛々しく震えながら、千雨は尋ねた。
「話しました。お嬢様は決して鈍いお方ではありません。そして、あなたが望むならば決して口外は致しません。お話、頂けませんか?」
刹那の真摯な口調を聞くだけで、千雨の目からは見る見る涙があふれ出た。
「…よく、話して下さいました。ナンバーを覚えていただけでもやはり千雨さんです」
取り留めのない話を聞いていた刹那が手帳を閉じて言った。
「ど、どうすんだ、桜咲?」
尋ねる千雨を前に、刹那は首を横に振る。
「千雨さんが知る必要の無い事です。私を、あの戦いを共にした私を信じて下さい」
刹那は、うんうん頷く千雨にハンカチを貸しながら携帯電話を取り出す。
「ああ、私だ、そうだ、この間の仕事で借りがある筈だ…」
数日後、千雨は空き地に座り、目の前に積まれるパソコンや周辺機器、携帯電話の山を呆然と眺めていた。
「メイプル・ネイプル・アラモード…」
山の下で魔法陣が光り、見る見る炎に包まれる。
「美化委員仕様の浄化炎ですから有害ガスも出ない筈です」
「お手間を取らせました」
刹那が言い、事情も知らない愛衣はぺこりと頭を下げて去っていく。
「それから、最近若者の無謀運転が相次いでいますね」
刹那が白々しい口調で言った。
「まあ、ロクでもないチンピラの悪ガキ連中の様ですが、何れも詰まらない事故が続いている様です」
「死んだ、のか?」
「いえ、手足と見る聞く話すと生殖の機能がほぼ完全に破壊されて、
ああ、そうそう、記憶の一部、特に○月×日を中心にした部分が完全に欠落して回復の見込みか皆無であるとは
聞いていますが、まあ、千雨さんが知る必要も無いちょっとしたよくある下らない事故です」
刹那は、震える千雨を抱き締める。
「千雨さんは何も知る必要の無い事、世の中には因果応報という言葉がある、それだけの事ですから」
(枝ルート1終わり)
最終更新:2012年01月31日 11:07