119 :1/9 :sage :2007/07/16(月) 16:20:17 ID:HooibsCv
「ぼうやは忘れているようだが……私は悪い魔法使いだ」
「え……」
修学旅行を終え、弟子入りの嘆願をしにきたネギ・スプリングフィールドに、
ベッドの上の花粉症吸血鬼、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルはその口の
端に邪悪な笑みを浮かべて応えた。
「悪い魔法使いにモノを頼むときにはそれなりの代償が必要だぞ……」
抑えきれない、と言うように喉の奥で「くくく……」と笑い、エヴァンジェ
リンはベッドの端に座り直す。クッションに背を預け、頬杖を突き、組んだ素
足をネギへと差し出した。
「まずは足をなめろ。我が下僕として永遠の忠誠を誓え。話はそれからだ」
膝を突き、頭を下げたネギが見上げるエヴァンジェリンの表情は加虐の悦楽に
上気し、薄い唇は紅く、血まみれの三日月のように吊り上っていた。
「……わ、わかりました」
ネギは一瞬ためらったが、すぐに決心した。
覚悟は済んでいる。
誰かを守る力を得るために、どんな苦難も乗り越えると決めている。
……まあ、その一番初めがこんな形になるだろうとはさすがに予想していなかったのだが。
ネギは羞恥に頬が染まるのを感じながら、ガラス細工でも扱うようにエヴァン
ジェリンの足へ手を添える。少年の手はまだ柔らかく、かすかに震える感触と
合わせて、エヴァンジェリンはかすかに顔をしかめた。
「ぼうや、くすぐったいぞ。手が震えているのか?」
だが、それすらも愉悦。怯え震える少年に声を投げかけ、びくりと肩が震える
様を見れば内なる興奮は際限なく高まっていく。
「……い、行きますっ」
問いには答えず、ネギは行動に移る。
ぎゅっと目を塞ぎ、閉じた唇をゆっくりとエヴァンジェリンの足の人差し指へと。
ちゅっ
音がしたわけではない。少年の唇は乾いていた。だが、ネギの唇が触れた瞬間、
エヴァンジェリンは確かに水気を含んだその音を感じた。
口は堅く閉じられているが、それでも未だ幼さを残す少年の唇は柔らかく、外気
に冷えた指の先から唇を伝わって、少年の熱が伝わってくるようだった。
ネギはしばらく口を閉じたまま、エヴァンジェリンの足指に唇を押し付けていく。
爪に、関節に、指の甲に。エヴァンジェリンの足を両手で押さえ、目をつぶったまま
何度も口付ける。
「……はぅ、……くっ」
エヴァンジェリンは、その姿から目を逸らせない。少年の唇の感触に背筋を震わせ、
されるがままに任せている。
しかし、そんなエヴァンジェリンの内心にはドロドロとした欲望が渦巻いていた。
この足を少年の口の中に捻じ込んで、その幼い口内を散々に蹂躙したい。
蹴り倒して押し倒し、仰向けになったネギの口の中に無理やり足を突き入れる。
突然のことに戸惑い驚いたネギはどんな表情をするだろう。必死に足を吐き出そう
とするだろうか。それとも涙を流して首を振る? あるいは、そうされても従順に
舐め続けようとするだろうか。
想像するだけでエヴァンジェリンの胸の鼓動は高鳴り、吐息は熱くなっていく。
だが、胸の奥から湧き上がるその衝動を今は押し留める。もう少しこの少年のする
ことを見ていたかった。
全ての指に口付けたネギはそこで一旦唇を離し、エヴァンジェリンの表情を伺った。
自分の膝の向こうから上目遣いに見上げてくるネギの視線をまっすぐ見返しながら、
エヴァンジェリンは何も言わない。ただ淫蕩にとろけた貌を見せ付けるように、笑って見せる。
ネギにはそれだけで十分だったようだ。さっと目を伏せ、また足の甲を見つめ
ている。
そして、舌を伸ばした。
否が応にも、エヴァンジェリンの期待は高まった。速く、速く、速く。その濡れた
舌で私の足を……っ。
ぴちゃり
「は……ぁぁぁぁぁ……ッ!」
ネギの舌が足の甲へと触れた瞬間、エヴァンジェリンの背筋に鋭い感覚が走り
抜ける。それまで上半身を支えていた両腕からは力が抜け、背中からベッドに倒
れこむ。
同時に跳ね上がった足がネギの顔を軽く蹴り、ネギの舌が触れる強さと面積が
増え、それに比してエヴァンジェリンの体の内を走る快楽も増大する。
力の抜けた両腕は自然と自分自身を抱きしめるように交差し、両肩を強く握り
締める。そうでもしていないと、意識が飛んでしまいそうだった。
指で触れる程度でしかないネギの小さな舌が、エヴァンジェリンを完全に狂わ
せていた。
しかし、それはネギも同様だった。
エヴァンジェリンの、数百年のときを生きてなお少女の滑らかさと弾力を失わ
ない肌に舌を這わせると、触れた部分から痺れが脳へと伝わってくるようだった。
跳ね上がったエヴァンジェリンの足が顔を叩くのもかまわず、ネギはエヴァン
ジェリンの足を舐め上げていく。
はじめはゆっくりと、舌を押し付けたまま顔ごとスライドさせ、唾液をエヴァン
ジェリンの足へと塗りつける。
薄く広がった少年の唾液はログハウスの窓から入る光を跳ね返し、同時に少年の
吐く熱い息に晒され、熱く冷たい不思議な感覚となってエヴァンジェリンへと伝わっていく。
表面を舐め尽くすと、今度は舌先を尖らせ指と指の間や付け根、うっすらと浮かび
上がった血管に沿って舌を這わせ、今までとは違うことを試す。
「んくッ……、あふぁぁ……」
そうしたネギの行動の一つ一つに反応するエヴァンジェリン。思考は既に定まらず、
口は悩ましげな吐息を吐くことしか許されない。
それでも脳裏に描き出されるネギの舌使いは鮮明で、今はどこをどの様に舐められて
いるかはおろか、どんな表情をしているのか、次はどこへ舌を向けようとしているのか
すら感じられる。
そうして、ネギはエヴァンジェリンの足を舐め尽くしていった。
「はぁ、はぁ、はぁ……ぼ、ぼーや、もう、いいから……」
先に限界を告げたのはエヴァンジェリンだった。肩を抱いていた手をベッドに
つき、何とか上半身を起こす。その顔からは先ほどまでの余裕は既に消え去り、
ネギの舌と唇の感触に顔は赤々と首まで染まり、四肢は緩く痙攣してすらいる。
「あ……、エヴァンジェリン……さん……」
だが、ネギはまだ限界に達していない。
エヴァンジェリンは見た。足を舐めろと言う自分の命令に戸惑っていたときと同じように
こちらを見上げる少年の瞳に、幼いながら確かに燃え上がる情欲の炎を。
ネギは一度唇を離し、エヴァンジェリンに向かって微笑んだ。いつものような無垢な笑顔。
しかし、その後の行動は常とはかけ離れたものだった。
「あは」
少年の喉からもれ出たのは吐息だったのか、はたまた笑い声だったのか。いずれに
せよ、ネギは先ほどとはまったく違う表情をしていて、エヴァンジェリンの足を離そ
うとしなかった。
ネギは再びエヴァンジェリンの足へと口を寄せる。だが今度は足の甲ではなく、指。
唇は軽く開き、だが舌は出していない。
「ま、まさかぼーや……やめっ、……はぁんっ!」
エヴァンジェリンの制止の声も聞こえていない様子で、ネギは、エヴァンジェリンの
足の親指を、咥えた。
キスとも舌とも違う感触。ネギが首を動かすたびに唾液に濡れた上下の唇の
内側の粘膜が指を扱き上げ、時折小さな歯で甘噛みされる。
引き抜こうとしても、エヴァンジェリンの足はネギの両手でしっかりと掴ま
れている上、もはや見た目どおりの少女以下に力の抜けたエヴァンジェリンで
は、ネギに抗うことなど出来はしなかった。
動けないのは足だけではない。ネギの舌に狂った体は機能を失い、エヴァン
ジェリンに残された唯一の抵抗はその小さな手でシーツを強く掴むことのみ。
数百年の時を生きたヴァンパイアが今、一人の少年に為す術もなく弄ばれて
いた。
「やぁ……、も、もぉ……やめへぇ……」
ネギの愛撫は続いている。もはや哀願の響きすら混じってきたエヴァンジェリン
の声にも耳を貸さず、一本一本丹念に少女の足指を嘗め上げる。
ネギの唇に含まれた指は隙間なくその口内で蹂躙される。唇は根元から先端まで
の全てを、時には滑るように優しく、またの時には唇で千切らんばかりに扱き上げ、
一時もその感触に慣れさせない。
舌の動きも休みはない。口内の指に舐められていない部分は毛先ほどもあらず、
爪の付け根や爪と指の隙間にも尖らせた舌の先端を深く差し入れ、その表面を舐め
尽くす。さらには指を限界まで口の中に咥えた上で舌を伸ばし、足の裏にすら舌を
這わせていた。
もしもエヴァンジェリンがうつ伏せになれば、足の裏すら舐め尽くす。ネギの舌
使いはそう言っているようだった。
「あ、……だ、ダメ……来る、来ちゃう……ッ!」
エヴァンジェリンは、もはや抵抗する気力すらない。ただただネギの口に心奪われ、
空っぽの頭に響くのは少年の舌使いの音だけ。顔ごと前後させて激しく指を扱かれれば
唇を噛み、一転してねっとりと舌を絡められてはのどを逸らして舌を長く突き出した。
「はっ……はぁ……エヴァンジェリン、さんッ!」
ここにきて、ネギもついに限界を迎えていた。顎にはもう力が入らず、呼吸も忘れて
エヴァンジェリンの足を舐め尽していた肺は酸素を求めて騒ぎ出す。
だから、コレを最後にしよう。
少年は最後に、思いつく限り最も激しい方法で、エヴァンジェリンの足指を
攻め立てることにした。
荒々しくエヴァンジェリンの足指を舌で舐りながら口の中に唾液をため、足
の親指を深く深く、喉を突けとばかりに深く飲み込み、
吸い上げた。
ズ……、ズチュルウウウゥゥゥッ!
「はっ? ……あ、きゃはあああぁぁぁぁぁ!!!」
一際高い声をあげ、エヴァンジェリンは気を失った。
「……あ、はぁ……ふ、はぁっ……」
事を終え、ネギとエヴァンジェリンは疲労の極地にあった。
エヴァンジェリンはベッドから体を起こそうともせず、ネギはエヴァンジェリンの
足を抱えたまま彼女の膝に額をつけて、ただ呼吸を繰り返す。
だが、エヴァンジェリンの足から微かに伝わる震えと小さな声に意識を取り戻した。
「……ぅ、……っひ、……っく」
「エヴァンジェリン……さん?」
気だるく重い体をなんとか持ち上げ、ネギはベッドの上に顔を上げる。
そこで、エヴァンジェリンは両腕を交差させて顔を覆い、しゃくりあげていた。
「エ、エエエエヴァンジェリンさんッ!?」
その姿を見て、ネギは頭に上っていた血が全て落ちる音を聞いた。
自分はなんと言うことをしたのだろう。弟子入りに来た相手の足を舐め、あまつ
さえ我を忘れた末に泣かせてしまうなどと。
あまりの事態にどうすることも出来ず、ネギはベッドの上で疲れも忘れ右往左往
することしか出来なかった。
「……ぼ、ぼーや」
「はっ、はい! エヴァンジェリンさん!」
エヴァンジェリンは、顔を隠したままネギに呼びかける。未だ彼女の意思に
応じようとしない横隔膜は、時折声を震わせる。
そんなエヴァンジェリンの様子にますます血の気が引くのを感じるネギに、
エヴァンジェリンは言った。
「……契約」
「……へ?」
今度の言葉ははっきりと聞こえた。その代わり、かろうじて見えているエヴァン
ジェリンの頬が、わずかに紅みを増したように見える。
「だから、契約。……私の弟子になるんだろ」
おずおずと両手を胸に下ろし、視線を逸らして不満そうにしながら言うエヴァ
ンジェリンの顔は、ネギに足を舐められていたときと比べてもなお紅かった。
「……い、良いんですか!?」
「良いもなにも……。ぼーやはちゃんと私の言うとおり足を……んだから、
してやるよ。……弟子にっ! だからほら、契約……」
そう言って、エヴァンジェリンはちらとだけネギの目を見た後、慌てて目を
閉じた。
それを見てネギは、不謹慎かとも思ったが、エヴァンジェリンに気付かれない
ほど微かに笑った。
今日から、このとても可愛らしい人がボクのお師匠様だ。
ベッドに横たわるエヴァンジェリンに、ネギはそっと顔を近づけていく。
古来、魔法使いの契約の仕方は決まっている。
ベッドの上の影は、一つになった。
なんだかお姫様みたいだ、とネギは思った。
順番滅茶苦茶じゃないか、とエヴァンジェリンは思った。
ちなみに後日、このときの「順番」という言葉の意味を深く考えてしまった
エヴァンジェリンが悶々と眠れぬ夜を過ごすことになるのは、また別の話。
~了~
最終更新:2012年01月31日 12:01