230 :小笠 ◆q0WnNvkpLQ :sage :2007/07/30(月) 03:26:34 ID:hW8ZLrVO(5)
「コンビニ幽霊」
夏、ですねぇ…。
見事なほど、誰も来ません。
暇、ですねぇ…。
コンビニ、行こうかな…。
最近、「アレ」にはまっちゃってるし…。
いや、万が一バレると不味いんですけどね…。
やめられないんですよ。
誰にも見つからない私ですけど。
朝倉さんとかザジさんとかいらっしゃるかもしれないですし。
ああ、でも、暇、ですし。
………。
うん、行ってきます。
なんだか癖になりそうで、怖いんです。
もし見つかったら、って思うと。
でもまた、そのスリル、がね…。
彼女は、自らの痴態に自身半ばは呆れながら、しかし半ばは劣情を抑えられずにいた。
ここは人々が二十四時間集まる場所。
夜でも明るい場所。
しかも今は夏。
それは、彼女がよく「利用」するコンビニエンス・ストアであった。
夏休みとあって学生など、普段よりも行き交う人の数は多い。
それなのに。
そんな公衆の場で。
「…はぁ、ん…」
彼女はまだ日の当たる時分から、スカートをたくし上げ、下着のうえから秘部を指でなぞっていた。
所謂、「露出…」とかいうものだった。
この間読んだ官能小説に丁度そんなことが書いてあった。
彼女は、一応は人の目を気にするように、コンビニの裏手の陰になる、人一人分がようやく入り込めるスペースにいた。
いつからかそこは彼女のお気に入りの場所になっていた。
一体、人に見られたいのか、見られたくないのか。
自らの矛盾にふとどうでもいい疑問が浮かび、しかしそれは買い物を終えて出てきた客がすぐ横を過ぎたことで消えた。
…気づかれた?
しかし買い物客は彼女を見るそぶりもなく、大通りのほうへと歩いていった。
意外なほどに気づかれないものだ。
また妙なことに感心しながら、悪乗りする自分の指先を止めることはしなかった。
学校では器用に鉛筆をまわす指が、汗以外のものでじっとりと濡れるそこに少しずつ、そこに侵入を開始していた。
「…んぁぁっ!」
意図しない声が、吐息が、通行人に聞こえた気がして必死に声を殺した。
今やレトロな旧い形の制服。
しかしそれも反対の空いた手が胸元をまさぐり、形を崩していた。
まだ、誰も触ったことのない自らの内の感触。
指先が内側を掠めて刺激する度に、ちゅっ、ちゅっ、と淫靡な音が、響いていた。
「んふぅ、んぅぅ…、はぁ…」
自らの指先に感じる声が、彼女の外見に不釣合いであった。
学校では自他共に認める、目立たない彼女。
そんな彼女が、今やクラスの誰もやったことのないであろう大胆な行為に及んでいた。
通る人々のことなど忘れたように、彼女の行為が激しさを増していた。
普段目立たない自らを主張するように。
見て欲しい、というように。
寂しさを紛らわすために。
願わくば、憧れの、あの先生に見て欲しくて…。
他の子なんかじゃなくて…。
ビニール袋がガサッと音を立てて、夢現の彼女を現実に引き戻した。
「…何を、し、してるんですか…」
「……!!」
真夏にスーツを着た彼は、まさしく「先生」その人であった……。
……。
「きゃーーー!……この後は?…もう、早く次のページめくって下さい!」
聞こえる筈がない声を荒げて、さよは立ち読み客の官能小説を肩越しに覗き込んでいた。
コンビニ、っていいところですね。
いつでも明るいですし。
誰か居ますし。
立ち読みで時間潰せますし。
それにしても、あの小説の子、なんだか私にそっくりな気がしました。
挿絵といい。
私がモデル?
いえいえ、勿論そんなことはありませんね。
フィクションですね。
きっと。
ああ、それから。
コンビニで立ち読みをする際は、私みたいなのが他にも居るかもしれませんので、皆様どうぞ、コンビニに長居する時はお気をつけて…。
(了)
最終更新:2012年01月31日 12:06