437 :dem :sage :2007/08/23(木) 21:02:17 ID:2oBiNX9E(8)
ひた、ひた。
明かりこそ点いていて明るいが、もう寝てしまっている者もいるだろう廊下を歩く。
早く背中の温もりをあるべき場所に返さなければと少し足早になったが、同時にずり落ちそうになったので慌てて体勢を整える。
振動で起きてしまわなかったかと心配したが、肩に吹きかかる規則的な呼吸を感じ、ほっと息をつく。
そこから数メートル歩いた先には、私の目指していた部屋があった。
コンコン、バンッ!!
「ネギッ!!?」
「う、ア、アスナさん!しーっしーっ!」
「へ?…あ、ごめん」
ノックをすると同時に飛び出してきたアスナさんは、どうやら遅くになっても帰ってこないネギ先生を心配していたらしい。
慌てて小声になるアスナさんに、思わず笑みが零れる。
「な、何かあったの?」
「えっと…その、少し鍛練をしていたらネギ先生が疲れてしまったみたいで」
「ああ、寝ちゃったのかー。本当お子ちゃまなんだから!言ってくれれば私が行ったのに…とにかくありがと、刹那さん」
「いえ。私にはこれくらいしかできませんから」
「またそういう言い方するー!…まあいいわ。遅いけど上がってく?お茶くらい出すわよ」
「すみません。私も疲れてしまったので、今日はもう」
「ん、気にしないで。重いでしょそいつ。私が布団まで運ぶからさ」
「ありがとうございます」
アスナさんにネギ先生を引き渡そうと、背を向けてアスナさんが受け取りやすいようにする。
アスナさんの力が加えられたのを感じて腕の力を抜くが、何故かネギ先生は私の背中から離れなかった。
「ん?何よこいつ、刹那さんにしがみ付いて離れないわよ?」
「え、あ、あれ?おかしいですね、さっきは普通に…」
異常に気付いて自分の腰辺りを見ると、ネギ先生の足がしっかりと絡まっていた。
これでは、アスナさんが引き離そうとしても離れないわけだ。
何とか絡まった足を解こうと奮闘するが、どうしたわけかしっかり噛み合ってしまっていて解けない。
「…私が布団まで運んでも?」
「それしかないわね。全く…迷惑ばかりかけて、このガキんちょは。布団敷いてくるから適当に待ってて」
「はい。お邪魔します」
アスナさんが呆れたように溜息する。私も思わず苦笑いを零した。
何だかおかしなことになったなと思いつつ部屋に足を踏み入れると、台所から出てきたお嬢様と鉢合わせてしまった。
「アスナー?ネギ君やったん…って、わ!せっちゃん?ど、どしたん?」
「え、あ、ネ、ネギ先生が寝てしまわれて…」
「あやー。やっぱお子ちゃまなんやね、ネギ君」
少し動揺してしまったが、お嬢様が気にされた様子はない。
くすくす笑いながらネギ先生の頬をつついて、私にも笑みを向けてくださった。
つられて私も頬が緩んでしまう。お嬢様の笑顔は、見るだけで人を元気にする力がある。
私も誰かをそういう気持ちにさせられるような人間であったならと、何度も思った。万一そうであったなら…ネギ先生とも…
「刹那さーん!布団敷き終わったから、もう上がっていいわよー!」
「あ、は、はい」
危ない、危うく深みに入ってしまうところだった。
仮に私がそういう人間だったとしても、ハーフである私はお嬢様のようにはなれない。
わかりきっていたことだ。ネギ先生とも正しい関係に戻るだけ。何も悲しむことはない。
二人分の体重を支えられるか些か不安ではあったが、何とか梯子を上りきりネギ先生を横たえる。
今度はすんなり離れてくれてほっとした。しかし、そこで油断すべきではなかった。
一連の作業を終えて気が抜けた私の首にネギ先生の腕が回り、ぐいと力強く引き寄せられる。
「……え、んんっ!?」
咄嗟には何が起こったかわからなかった。
何故か私の目の前には目を閉じたネギ先生の顔があって、それも至近距離で、唇には何かやわらかいものが当たっている感触があって。
それらを総合してようやく今の状況に気付いた。大慌てでネギ先生の腕を振り解き後ずさる。思わず口元に手を当てると…少し濡れていた。
そして、ギギギ、とかなりぎこちない動きで視線を感じる方向に目を遣ると。
ロフトの手すりに座り目を見開くアスナさん。梯子から顔を出し、少し頬を染めてこちらを見つめるお嬢様。
これは…見られた。ばっちり。しっかり。一部始終。
「しっ、失礼しまひゅっ!!!」
咄嗟に瞬動まで使い、文字通りその場から逃走した。
今私の顔は真っ赤だろう。手を伸ばすと、まるで高熱を出したとき並みの熱さだった。
意気地のない自分が本当に嫌になる。諦めると誓ったはずだ。離れると誓ったはずだ。それなのに。
キスされたことが嬉しかった。
私だとわかってしたのか、それとも寝ぼけたのか。
真相はわからないが、ドキドキと通常以上に脈打つこの心臓が憎らしかった。
諦めろ、私。ネギ先生のためだ。先生は立派な魔法使いになるために頑張ってるんだから。
私などにかまけている暇なんてないんだ。
「龍宮っ!!!!」
勢いよくドアを開けて、ルームメイトの名を叫ぶ。
されど部屋の中はしんと静まりかえっていて、月明かりが僅かに影を落としているだけだった。
「…そうか。今日はいないんだった、な……」
私は馬鹿か。今日は少し遠方の任務で、帰れないと言っていたじゃないか。だからネギ先生を呼んだんだ。
鍵を閉めるのすら億劫で、どうせ盗られるものもないしという理由から、ドアだけを閉めてその場を後にした。
胸の中がもやもやする。身体が疼く。
「……久しぶりに…誰か、適当につかまえようか」
ぽつりと人気のない廊下に向かって呟いて、寮の出入り口へと足を進める。
男子校エリアにでも行けば、誰かまだ外でふらふらしてるかもしれない。
誰でもいい、このもやもやを何とかしたい。誰か誰か誰か。
誰かいないのか。
「…刹那君?」
「………高畑、先生…」
名を呼ばれ振り返った先には、見知った顔があった。
ああ、この人なら丁度いい。私のことも知っているし、きっと口も堅いし。
ぼんやりそんなことを考えながら、私は高畑先生の胸にゆっくりと倒れこんだ。
何だかんだ考えても、結局は理由付けでしかない。
誰でもいいのだ。この持て余している身体をどうにかしてくれるなら、男性だろうが女性だろうが。
ただ、男性の方が遥かに与し易いと言うだけの理由で。
「抱いてください…」
するりと服越しに性器を撫でる。
高畑先生は少し驚いた様子だったが、私が身体を絡めるようにすると、すっと背中に腕を回してくる。
密着しながらスーツに手を滑り込ませてシャツのボタンに手を掛けると、少し慌てて私を引き離そうとした。
「待つんだ。いくらなんでも外でという訳には…」
「どうせ顔なんて見えません。声くらい聞かれても、構いません」
場所なんて何処だっていい。何処でもすることは変わらない。
とにかく今は、早くこのもやもやをどうにかしてしまいたいんだ。
さすがに高畑先生は私の心情に気付いたのだろう、何も言わずに私を抱き上げて、少し目立たない林の中に移動した。
スーツを脱いで芝の上に広げ、その上に私をそっと横たえる。スーツが汚れると思うが、いいのだろうか。
何処かあさっての方向に向けられてしまっている意識の片隅で、高畑先生が私に覆いかぶさってくるのが見えた。
「……もっと、自分を大切にして欲しい」
そう言って私の耳朶を甘噛みする高畑先生に、心の中で謝罪しながら同時に嘲笑っている自分に気付いた。
口ではそう言っても、随分とがっついてるじゃありませんか。
私の制服を肌蹴させて胸を嘗め回す舌と、太腿を撫で回す大きな手を感じながら、私は暑い吐息を吐いた。
高畑先生は潔癖そうだから、もしかしたらかなりご無沙汰なのかもしれない。
せめて満足させてげようと、私にしては珍しく積極的に奉仕をした。
最終更新:2012年01月31日 12:14