288 :「裕奈」 ◆FePZUCQ9Q6 :2006/03/29(水) 22:56:57 ID:6UBtZCGq
4
通勤ラッシュのピークであるこの時間はまさに天国と地獄である。
シートに座ることができた者は読書に耽るなり目的地まで居眠りするなり、それなりに快適な通勤(通学)時間を過ごす
ことができる。一方、立ち続けている者は高温多湿かつ閉塞したスペースに押し込まれた状態で、何もしなくても疲れてい
く状態にある。
それはまさに天国と地獄。
しかし、そんな地獄側にいるのにも関わらず、一人天国に昇りつめようとしている少女の姿があった。
(まずい……こ、こんなことになるなら、止めとけば良かった……もう、足が、がくがくして……!)
「っく……ふう……うう……ぁ、ぁあ……は、ぁあ……ぁは……ああ」
バイブを股間に突き刺したまま満員電車に乗り込んだ裕奈の表情は、今や後悔の色ばかりが目立っている。
電車の楽しみである吊り広告を見上げる瞳は恥辱に歪み、喘ぎ声を漏らすまいと緊張した唇はからからに乾いている。
周りの人間はみんな数十センチ以上背が高い男性で、裕奈の華奢な身体は彼らに押し潰されているように埋もれてい
た。それどころか、彼らの手が隙を見ては裕奈の身体に伸びてくるのである。集団痴漢に囲まれていると気付いた時に
は、裕奈は既に彼らに絡めとられていた。
(何が楽しいのよ……こんな、ことして……)
音もなく近づいてくる手が、最初はスカート越しに裕奈の尻をなぜ回してきた。
裕奈は何とか逃れようとしたが時は既に遅く、下着なしでバイブを刺していることが彼らにばれてしまった。
もし大声を上げたら、自分が痴女的な行動をしているのもいっしょに露見するだろう。そうなれば、痴漢たちを鉄道警察
に引き渡しても、裕奈自身もただでは済まない。いや、明石教授の立場がただではすまない。
裕奈は抵抗もろくに許されず、逃げ場のない電車の中で彼らに弄ばれるままになるしかなかった。
(は、早く……早く駅に着いて……このままじゃ、本当に、電車の中でイかされちゃうよ……)
刺していたバイブは痴漢たちに掴まれていて、今もゆっくりと裕奈の肉唇を上下している。
慣れてないどころか使うのさえ初めてのイボイボが、膣壁を甘く擦りつつ愛液の海を動く。
刺激はすぐに快感に変わり、背中や胸という性感帯を起こして熱を与えながら、頭に芯まで駆け上がってくる。
お小遣いをこつこつ貯めて買ったバイブが値段相応の働きをしていることが、皮肉にも裕奈を追い詰めていた。
(まき絵、亜子、アキラ……助けて……誰か……誰でもいいから……)
しかし自分のしている淫行を考えると、実際に助けてくれと訴えることもできない。痴漢たちの手はそんな裕奈の身体を
好き勝手に弄る。
引き締まった尻の肉の感触を楽しむ手や、制服越しに乳房を揉み潰してくる手から、裕奈は必死に意識を切り離そうと
する。
(こんなの、いやぁ……! お父さん、助けて……!)
やはり、思い浮かぶのは大好きな父親の顔だ。
自分の乳房や尻や女性器を性的な欲望の慰み物にされることに、裕奈の中で嫌悪感が爆発した。
自慰で弄る分にはかまわないし、恋人に触らせるのもいい。
しかし、顔も分からない変質者たちにいいように玩具にされることは我慢ならない。
キレイだった自分の身体が汚されていくイメージが、裕奈の頭の中ではち切れんばかりに広がり続ける。
(……ああ、私、バカだ……こんなバカなことしたからっ!)
もはや裕奈にできることは、もうすぐ到着する駅まで我慢するしかないのだった。
(でも、もうすぐ解放される……! もうちょっとで……)
5
それは時間にして、裕奈が電車から降りて数十分が経過したころだった。
「あれ? 裕奈どしてんやろ? 今日、学校に来れへんて……」
裕奈の携帯からメールを受け取った亜子は首をひねった。メールには今日学校に行かないと書かれているだけで、その
理由がないのである。さすがに不自然なメールであることは否定できない。
「せっかく、1時間目が自習になったのになあ……山田オルタナティブのおかげで」
どういう意味かも知らないその単語を呟きながら、亜子は爽やかな笑顔で大騒ぎしている3Aの中に戻っていく。
黒板には大きな「自習」の文字。
現在、緊急職員会議が開かれている最中である。
麻帆良学園ではずる休みした可能性のある生徒がいる場合、魔法先生たちが密かにそれを確認して後日罰を課すのが
常である。しかし、今回の裕奈の場合はそれがされなかった。
原因は巷で話題のウイルス「山田オルタナティブ」である。麻帆良学園の生徒の個人情報や写真、成績などのデータが
流出していることが昨日確認され、1時間目に教員を集めて対策会議が開かれていた。
「誰じゃあああ! うぃにーとやらを使っておった馬鹿者は! 正直に名乗り出い!」
職員室では学園長の大声が響き渡っており、先生たちは視線を逸らしながらお互いを探り合っている。
裕奈を助けにいく者はいなかった。
(続)
最終更新:2012年01月31日 15:50