471 :461:2006/05/01(月) 04:51:06 ID:cUOaOq1x
先に誘ったのは少女のほうだった。
「……海、い、行きませんか…?」
男はすぐに返事をしない。口元に曖昧な微笑をうかべているだけだ。
無言は誘いかけたものにとって否定を示唆する。
やっぱり言わなきゃよかった――。
少女は過去を悔やみはじめ、たったいま訪れようとしている未来を振り払うかのように頭を二、三度ふった。髪を束ねる鈴がちりんちりんと鳴る。
男の口がゆっくりと開く。
「僕でよければ、ご一緒させてもらうよ。アスナ君」
少女は耳を疑う。信用のできないソムリエからそそがれたワインのように、少女は何度も何度も耳のなかで男の返事を転がした。
その意味を理解したとき少女の顔は晴れた。緊張が解け、表情は緩む。
まるでそのまま顔を構成しているパーツがポトポトと落ちてくるんじゃないかと思われるほどに。
「やったぁ。うれしいです、高畑センセイ……」
異なる色彩の瞳から光るものがあふれてくる。
「あたし、サンドイッチ作ってきますね! それにかわいい水着も買ったんですよ。
早く高畑センセイに見てもらいたいな。……って、ヤダ、なに言ってんだろう、あたし。あの、そんなつもりじゃ……」
気丈な少女が裏返した羞恥のなか、男はただ黙然と、彼女の肉体のあらゆるうちでもとりわけ抱いている物狂おしい欲望で、瑞々しい唇を照らしていた。
校庭に広がる最終下校時刻を告げるアナウンス。校舎のうらにたたずむ二人はしばらく見つめ合ったまま次の行動を忘れている。
空は赤い。タバコに火をつけられそうな夕焼けだ。
校舎を背にしているので二人の場所に夕日は照らない。視界は暗いが相手がそこにいることは見分けられる。影はうすく、目を離したすきに地面に吸い込まれてしまいそうに思える。
高畑はあいかわらず、目ではなく、口元だけで笑っている。
「あ、それじゃあ、そろそろ帰りますね」
アスナは言う。高畑はこたえない。
これが大人の間ってやつなのかしらと少女は無邪気な好奇心を覚えたが、同時に股のあいだがきゅっと締まる感じもした。少し守りに入っている。
なにかが始まるにはまだ早いと少女は思う。下腹部のなかで寝息をたてている痛みを知らない自分を起こしてはいけないと思う。
高畑の影が動く。少女はまぶたを閉じる。後頭部を襲うであろう力強い牽引を予想して。
しかし実際は、頭の上に大きい手のひらをぽすんと乗せられただけだった。
安心と落胆が交錯するアスナに、高畑は言う。
「海にいきたいならいますぐ連れて行ってあげるよ」
心の準備を待たない高畑の手引き。アスナは狼狽する。
「で、でも、そんないまからなんて……。水着だってもってないし」
「水着なんていらないさ」
ハッハッハと高畑は笑う。なにがおもしろいのかアスナにはわからない。ただ水着を必要としない姿、すなわち裸体を想像してちょっと赤面する。
「アスナ君。僕はずっと君のことを見ていた。気づいていたかい?」
急に笑い止んだ高畑がそんなことをきく。返事を待たずに男はつづける。
「とりわけ、君の唇にね。僕は君の唇を自分だけのものにしたいんだ」
それって、キス!? アスナの心臓がどきんとふるえる。
きっと高畑センセイはネギとするママゴトみたいなやつじゃなくて、呼吸ができないくらいすごーいキスをするんだわ。おぼれてしまうような……。
あっ、じゃあさっき高畑センセイのいった海に連れて行くっていうのはそういうことなのかしら?? えっ、どうしよう!? キャーッ。
そんなアスナの青写真を切り裂くように高畑は、少女の唇のうえへ人差し指を押しつけた。
「違うよアスナ君。僕がしたいのは君の顎の上にあいた穴にこれをねじ込むことなんだ」
高畑はそう言うと、アスナの右手をつかみ、自分の股間にそっとひきよせた。
「僕は君の口のなかにこれをぶちまけたい。もちろん、君はそれをぜんぶ呑むんだ。わかっているね?」
高畑は少女の唇を左右になぞりながら言った。その指先の(おそらくタバコのヤニだろう)、粘っこい分泌液をアスナはなにかいやらしい感情で迎えていた。
「人間は周知のとおり、海から生まれた。僕たちはまだそれを覚えている。探してみるといい。頭蓋骨をナメクジみたいに這い回ってごらん。感じるだろう? 海、海、海を」
男の表情は平常とあまり変わっていないように見える。そのことがかえって少女の背筋を凍らせた。
「センセイ、呑むんですか? それを……」
「当たり前だろう。この肉の猛りから湧き出る生命の泉を、君は海の超越的な運動として考えなくてはいけないよ」
足の小指を戸棚の角にぶつけたみたいな痛々しい眼差しを少女は向ける。その風情が一人前の女というよりは、あまりにも子供っぽかったので、いささか哀れな感情を男に与えた。
しかしいかなる憐憫も月の引力に魅せられ満ちていく潮のようにたかまる男の欲望を沈めることはできない。
右手をそっと添え、高畑は少女の目をつむらせた。もう一方の手でしばらく彼女の顔を愛撫し、少女の唇に指を走らせる。
小さな歯。尖った犬歯。さらには奥歯に触れ、いたずらな舌と歯茎に触れた。
顎をまったく閉じようとしないことは、少女の服従を意味する。やはり少女のまぶたを閉じさせたままで、高畑は裸になる。少女をしゃがませ、頭を自分の肉棒の位置に据えた。
そして彼女の口の盃のなかに突入した。
アスナは空気のぬけた浮き輪みたいに、高畑の暴力に身をまかせる。
挿入を終えてしばらくしてから、高畑は少女のまぶたを抑えるのをやめた。開かれた少女の目に映るのは自分の口を犯す血走った器官。
だがその視線はすぐにそらされ、自失と服従の表情をこめて、高畑の視線に重ねられた。
高畑は片手で少女の頭を支えると、軽い緩やかな、規則正しい腰の動きを押しつけた。もう一方の手は制服の下の少女の体を愛撫するため独自に動いている。
夏服のシャツは、高畑の教育指導もむなしく、学園に蔓延しているだぼだぼしたものだったが、そのおかげで男の手は介入を許された。
さらに男は制服のリボンをほどき、ボタンをはずした。愛撫にまったく支障がないようにするために。
そのままシャツをまくり上げるのはいとたやすかった。なぜならアスナが、不服を唱えるはずなどないことは明らかだったから。
とはいえ襟元も胸元もはだけた哀れな服は、少女をまるで奴隷のように装わせ、
すばらしく蠱惑的に見えた。これ以上の横暴さは美を欠き、情を失い、感を落とす。高畑の加える力はやさしくなる。
高畑は今まさにふくらもうとしている少女の乳房をつかんだ。
……くぅん。
雌犬のような吐息が口腔と肉棒のあいだから洩れる。
逆の手を細い胴にまわし、高畑はすべすべした腹の下部までくだらせた。被いの下の初々しい縮れた個所を目指して。
だがそこに茂みはなく、せっかちな奔流によって穿たれた峡谷のような割れ目があるだけだった。
そこで高畑はようやく少女の陰に育つ叢はまだ発芽していないことを思い出した。
指先から直に感じ取れるアスナの体温に、高畑はささやかな、むしろ心地よい程度の、背徳を味わった。
アスナの秘部はぬれている。しぼりとれる液体からあらたかな霊験を感じずにいられようか?
「波に乗るんだ」と男は言った。「耳を傾けるんだ、自然の言いつけに。自分を合わせるんだ、潮のリズムに」
和訳の例文でも読むように高畑は言い、そしてゆっくりと少女の頭を往復させた。その動きはまさに波の満ちひきを連想させる。
高畑はさらに力強い腰の一撃を加えたが、それは少女の口を傷つけたとみえ、少女は小さな呻きをもらした。
つづいて彼女はいっそう狭く唇をすぼめた。高畑は無抵抗な貝を犯しているような気がして、蒼ざめた桜貝の中心へ向かって進むところを想像する。
目の奥に赤い川が見えた。高畑は絶頂が近づきつつある警告であると悟った。
夜の色をした鳥が鳴く。校舎裏で潮の香りを嗅いでいる二人には、カモメの歌にきこえる。
人々はすでに帰宅したのだろう。深い闇が昼間の雑踏を洗っている。
男の注意力はアスナの体へ戻り、リズムを速めながら愛撫を強めた。こらえかねた少女の唇が唾液をこぼし、口元に罪人を救うための糸をひく。
緊張は極みに達した。もうすぐ湧き出す旨を、男は告げる。
「う……ぅ、ん……」
少女は身振りで受け入れる構えができたことを伝える。高畑は全身に鬱然たる幸福感を味わった。
肉棒をしめつけるやわらかい唇。その吸引が強まった一瞬、高畑はアスナの口のなかに至福をぶちまけた。
自分の喉がそれによって満たされる瞬間を心得ていたため、この荒々しい海嘯にもアスナはめげなかった。一滴も無駄にすることなく彼女はすべてを呑み下した。
少女は肩で息をする。乱れたシャツを高畑が先ほどの愛撫よりもやさしくならす。
「わざわざ海まで行く必要はなかっただろう?」と高畑は言う。
「はい」とうつむいて少女は言う。「でも……」
「なんだい?」
「でも、やっぱり海に行きたいです。だって高畑センセイにかわいい水着、見てもらいたいから」
アスナの頬は遅れてきた夕焼けのように、赤く染まった。
最終更新:2012年01月31日 15:59