165 :小笠 ◆q0WnNvkpLQ :sage :2005/12/27(火) 20:57:48 ID:p76FBzUM(4)
「楓」
冬空に一陣の風が音を立てて、人気の無い森を舞う。
人里離れた森の中、一軒ぽつんと建つコテージには古風な言葉遣いの少女がいた。
お主も大概、奇特でござるな。
こんな寒い冬空の中、拙者なぞに逢うためだけにやってくるとは。
寒かったでござろう。
まずは一杯いかがかな?
…なに、拙者からの「クリスマスプレゼント」でござるよ。
遠慮なく呑むでござる。
ふむ、いい呑みっぷりでござる。
…では拙者も失礼して一献。
…堅いことは言いっこなしでござるよ。
世間ではもうクリスマスなのでござるな。
拙者恥ずかしながら、真帆良学園に入るまではこの行事、知らなかったのでござるよ。
ただキリスト教の祝日ということぐらいしか、知らなかったでござる。
…それだけ修行に没頭していたでござるよ。
そのときは忍の修行こそが拙者の全てだと思っていたから。
真帆良学園に来てようやく、日本中全体のイベントだと知ったのでござるよ。
…いやはや、なんとも世間知らずで、恥知らずなことでござる。
それっきりしばらく会話は途切れた。
酒を注ぐ音が、木の香りのする部屋の中に響く。
そういえばお主が持ってきてくれたこの箱、そろそろ開けてもかまわぬかな?
…これは?
クリスマスケーキ、でござるかな。
ふむ、元々キリスト教では教会で祈りを捧げて過ごす一日らしいでござるが。
こういう風に二人っきりで過ごすのは日本でだけらしいでござるな。
これはこれで、悪くないでござるよ。
……お主と二人でなら。
コテージの中に新たなキャンドルの光が灯る。
余計な生活音は聞こえず、それだけに楓の存在を強く、暖かく感じる。
それでは。
メリークリスマス、でござる。
…なかなか美味なものでござるな。
プリンとはまた違った甘さでござる。
世間に疎い拙者には、お主の存在は…貴重でござるよ。
それだけ今までの拙者は視野が狭かったのでござろう。
…いつの間にやら、お主の影を追い続けるようになっていたでござるよ。
とはいえ、どうしたら好いものやら、皆目見当もつかなかったでござる。
拙者には、恋愛の経験は全くなかったでござるからな。
こうしてお主といるのが、今でもなんだか信じられない気分でござるよ。
…さ、もう一献。
夜は更けて日付も変わろうとしていた。
クリスマスの後は、年越しを待つばかりでござるな。
来年もよろしく頼むでござる。
…おっと。
少しばかり、呑みすぎたようでござる。
…すまないが、ちょっと介抱してはくれないか。
………。
…ベタベタでござるか。
ふふ、やはり酒を呑むだけでは大人にはなりきれないでござるな。
そう…拙者は、まだまだ未熟者の子供でござるよ。
…お主の手で、大人にしてくれ。
……お手柔らかに頼むでござるよ。
……ニンニン♪
(おわり)
最終更新:2012年01月31日 18:46