「うん…」
体になにか違和感をおぼえて、木乃香は目覚めた。
枕もとの目覚まし時計に目やると時刻は午前二時を指していた。
「おかしいなー、いつもならこんな時間に目ぇ覚めることあらへんのに……」
もう一度寝なおそうと思い、壁側に向いていた体を寝返えらせたとき、木乃香は自分が目覚
めた原因を理解した。
「あれ?ネギ君やんか、何でウチの布団の中におるんやろ?」
そこには、若干9歳の男の子が、ちょうど木乃香と向かい合うような姿勢で、気持ちよさ
そうに寝息を立てていた。
「寝ぼけたんかな?故郷じゃ、お姉ちゃんと一緒に寝てたって、いうてたしなあー、
それにしても……こうしてみるとネギ君はホンマにかわええなー」
寝顔というのは、その人が持っている最も無防備な素顔だという話を木乃香は思い出した
「えへへ、じゃあネギ君いっしょに寝よか」
そう一人ごちて、布団をかけなおした木乃香は、まじまじとネギの顔に見入った。
長いまつげ、すっと通った鼻、赤みの差したほほに、ぷっくりした唇、イギリス人の血を
引くその表情は、天使が寝入ってるかのようだった。
「ネギ君、きれいな顔しとるなあ、やっぱり外人さんはうちらとつくり違うんやろか?」
そんなネギに見とれながら、木乃香はネギのほほにそっと手を添えた、まだ幼い少年の肌
はすべすべしていて、思わず指でプニプニしたくなるような感触を持っていた。
「ネギ君のほっぺた気持ちええな、やわらかくっておもちみたいや」
好奇心に負けて、木乃香はネギのほっぺたをプニプニし始める。
「弟がいたら、こんな感じなんかな?ネギ君みたいな弟がいたらうちは嬉しいなー、こう
やって一緒に寝たり、お風呂はいったり、遊んだり、きっと楽しいやろな」
そんなネギを見つめる木乃香の瞳はやさしかった、しばらくネギのほっぺをつついていた
木乃香の指はだんだんとしたに降りて、天使の唇に到達した。
唇は、ほほとはまた違った感触があり、暖かく湿っていて、弾力があった、半開きになっ
た口からは規則正しい寝息が聞こえてくる。
「ネギ君、唇もかわええな……、この唇はキスとかしたことあるんかな?」
木乃香はじっとその無防備な唇を見つめる、そうしているうちに彼女の中に、ちょっとい
たずらめいた気持ちが浮かんできた。
木乃香は、ネギの唇に当てていた指先をそっと自分の唇にあてた、指先に残った少
年の体温が自分に伝わってくるような気がした。
「…………」
木乃香は無言でネギと向かい合い、ゆっくりと顔を近づけていく、視界に入るネギ
の顔がだんだん大きくなり、吐息が顔に感じられるまでに接近し、そして…………
二つの唇は触れあった。
ただ、唇を付き合わせるようなだけの子供のキス、しかし、寝ているネギに内緒で
こんなことをしているという行為に、木乃香の心臓はトクトクと脈打つ。
------ほんの少しの時間がすぎ、木乃香はそっと唇を離した、その口元は、ちょっと
にやけている。
「ネギ君にキスしてもうた……、あれ?これってウチのファーストキスやないんか
な?アハハ、ウチの初キッスの相手はネギ君やったんや」
今日の占いはなんやたっけなー? 意外な人との素敵な恋の始まりやったかな?そ
んなことを考えながら、木乃香はもう一度ネギを見やった。
さっきからネギが起きる気配はない、疲れているらしく、深く眠っているようだ。
無理もない、自分達の「担任」という立場にいるだけの学力の持ち主とはいえ、彼はまだ子供-----本来ならば「児童」の年齢層である。
そんな彼が大人の先生達の中に混じって、さらに自分よりも年上の生徒達にものを教
えるというのは、どんな気持ちだろう?この子はそのことで、プレッシャーを感じた
りはしないのだろうか?木乃香は純粋にネギの心中を案じた。
「ウチがこんくらい時は、ネギ君ほどええ子やったろうか?毎日なんも考えんと明日
菜と遊んでばかりいたのとちゃうんやろか?ネギ君こんな小さい子やのに、しっかり
ウチ等の先生しとるもんなあ、ホンマええ子やわ」
そう思うと、木乃香はネギがとても愛しく思えてきた、左腕を伸ばしてネギの頭に手
を添えると、優しくその頭を撫でた。
薄いブラウンの髪の毛はサラサラしていて、なでるごとに木乃香の手のひらに心地よ
い感触を与えてくる、額に手を置いて髪を上に上げると、サラサラのちいちゃなおで
こが現れ、いつもとは違うその顔がまた可愛いらしかった。
そのとき、ネギがうーんと身じろぎし,ポツリと寝言をつぶやいた。
「………お姉ちゃん……」
一瞬、ネギが目を覚ましたのかと思い、あわてて木乃香はネギを見やった。
しかし、眠り姫ならぬ、眠りの王子様は相変わらず夢のなかだった。
「なんや……寝言やったか、でもこの状態で目覚ましたら、ネギ君どう思うやろな」
木乃香は以前、ネギが故郷にいたときの習慣のまま、寝ぼけて明日菜のベットで
寝ていた時のことを思い出してほほえんだ。
「あの時ネギ君は真っ赤になって、あわてて明日菜にあやまってたっけ、けどホン
マはもっと寄り添ってたかったのかもしれへんな……」
聞けば、明日菜はネギの姉に似ているという。
遠い異国の地で、周りに頼る人もほとんどいない中、どこか姉に似た面影を持つ
明日菜にネギがなつくのは、家族と一緒にいたい年頃の少年としては当然かもし
れない。
実際、明日菜に比べてネギが木乃香に接する態度は、まだ仰々しい感じがする。
そんな事実に木乃香はちょっとだけ、明日菜をうらやましく思った。
「ネギ君、ウチはぜんぜんかまわんから、もっと甘えてくれへんかな………………
よっしゃ!!明日はネギ君の好きなもん作ったろ、また目玉焼きがええかな?
それとも今度はオムレツ-----」
そこまで言いかけて木乃香はハッとした。
ネギの閉じられた両眼の目じりから、白く光るスジが流れていたからである。
----------涙だった。
それに続くように、ネギの頭はふるふると震えだした。
唇はゆがんで、眉はぎゅっと寄せられ、吐息は引きつけを起こしたかのように
変化した。
ネギは泣いていた、その両目から行く筋もの雫が流れ落ちていく。
「ネギ君、どないしたんや!?具合でも悪いんか!」
木乃香はネギの体を揺さぶった、しかしネギに起きる気配はない、なんでやろう?
と木乃香が不思議に思い首をかしげていると。
「……ちゃん………おねえちゃん……やだよう……」
-------それは少年が始めて見せた、年齢相応の素顔だったのかもしれない
彼は自分の夢の中の出来事に涙していた。
木乃香は胸の奥が切なくなり、思わずネギを抱きしめた。
「大丈夫、だいじょうぶや、なんも不安なことはあらへん、大丈夫……」
呪文のようにそう唱えながら、木乃香はネギの体をトントンとやさしくたたきつづけた
少年は夢を見ていた。
最初は楽しい夢だった、姉や友人のアーニャと談笑してうれしそうに過ごしている自分が
いた、そこはなんてことはないけれど、かけがえのない自分の幸せな日常だった。
しかし、突然世界が代わり、自分を除くすべての物が遠ざかっていく。
人も物も色も音も世界のすべてが少年の馴染み深いものから、見知らぬ異国のものへとっ
て代わり、周囲の景色は一変した。
灰色の建物、薄曇りの空、集団なのに孤立した人々、モノトーンで統一された無声映画の
ような世界に彼だけが取り残された。
さびしさと不安で泣きながら走った、五感のすべてが知らない世界に飲み込まれ、自分も
背景に同化してしまうのではないかと思った、彼はたまらなくなり大好きな姉の名を泣き
叫んだ、そのときだった。
「大丈夫、だいじょうぶ、何も不安なことはないよ-------------」
その声と供に世界は色を帯び、失ったすべてを取りもどしていく。
顔あげると少年は一人の女性に抱かれていた、相手の顔はよく見えない、しかし不思議と
不安は感じず、柔らかなぬくもりと安心感につつまれて、彼の意識はゆっくりと現実へと
浮上していった。
「ん………」
だから、ネギが目を覚ましたとき、最初これは夢の続きだと思った。
彼は誰かに抱きしめられ、なだめられていたし、頭は混乱していて状況がよくわからなか
ったから、しかしややたって、自分が数日前に麻帆良学園にやってきたこと、教師として
この学校で教えていくことになったことを思い出し、ああ、自分は夢を見ていたんだなと
自覚した。そして故郷を思い出して、また涙がひとつ瞳からこぼれ落ちた。
「ネギ君、起きたか、だいじょうぶ?」
「え?木乃香さん!?」
顔を上げると、すぐ目の前に木乃香が心配そうな表情で自分をのぞきこんでいた。
寝ぼけた頭は懸命に状況の理解に努め、そして理解すると同時に、体のほうはあわてて
ベットから飛びだした。
「ごっ、ごめんなさい、僕また寝ぼけて今度は木乃香さんのベッドに」
謝るネギに体を起こした木乃香は、とがめる様子もなくやさしく言った。
「ええんよ、ネギ君、このまんま寝ていき」
「え!?で、でも」
ネギは木乃香の真意を図りかねて、そう言った。
「ネギ君、泣いてるやないか、こないなちっこい男の子が泣いてるのをウチは一人で寝か
せておくことなんかできへん」
「あっ」
木乃香が腕を伸ばして、ネギのほほに伝う涙をぬぐった、自分が泣いていたところを見ら
れたことを思い出し、ネギは気恥ずかしくなった。
「うちはもう、ネギ君の寝顔も泣き顔もみてしもたから、ネギ君は何も恥ずかしいことなん
かあらへんよ」
そういって笑って木乃香はベッドの端により、自分の隣に人一人分のスペースを作るとポ
ンポンと布団をたたき、ネギを促した。
それでもネギは戸惑っていた、しかしそれは遠慮しているというよりは、一歩踏み出せな
いといった感じだった、それを見越して木乃香はちょっと強引な手に出た。
「えいっ!」
「うわっっ」
ネギの手を取るやいなや、そのまま自分のベットに引っ張り込む、ボフッと音を立てて二
人は布団の海に沈んだ。
「ええから、ええからナンも遠慮せんで、ウチが好きでこうしたいと思ってるんやから」
木乃香はお互いの体に布団をかけなおし、横になる。
もうこうなってしまっては逆らえないとネギは思い、おとなしく観念することにした。
「ごめんなさい木乃香さん、お邪魔させてもらいます」
そういってネギは木乃香の隣にもぞもぞと落ち着いた。
しかし、ネギはどきどきしてまともに木乃香の顔を見れない、お姉ちゃん以外の女の人と
一緒に寝るということ、さっき自分が木乃香に抱きしめられていたこと等から、ネギは気
恥ずかしくなり、思わず木乃香に背中を向けてしまった。
「ネギ君どうしたん、どっか調子わるいんか?」
「なんでもないです、大丈夫ですから」
ネギがそう言うと、木乃香がスッと近づいて、背中越しに自分の体に手をふれた。
木乃香の体温がパジャマ越しに伝わってきて暖かい、それは先ほどの夢の中で、自分
を包んでくれたぬくもりに似ていた。
「こっちむいて」
木乃香はやや強い口調でそういうとネギに触れる手にちょっと力を入れる。
「ネギ君はウチのこと嫌いなんか?やっぱり明日菜の方が好きやねんな、ウチショックや」
「えっ!?な、なななに言ってるんですか!」
あわててネギが振り向くと、木乃香はにこにこした顔でこっちを見ていた。
は、はめられた、気づいたがときすでに遅し、いまさら背中を向けるわけにも行かずネギ
は木乃香と向き合わされてしまった。
「なあ、ネギ君」
「は、はい、なんですか木乃香さん?」
「故郷から遠く離れて、やっぱりさびしいと思うことある?」
「--!」
単刀直入に聞かれて、心の準備ができていなかったネギは動揺した、おそらく表情にも
出てしまったのだろう、木乃香が心配そうな顔をしていた。
「どうして、そう思うんですか?」
精一杯の虚勢をはって、無理やり作り笑いをうかべてネギは言った
「さっきのネギ君泣きながら、『お姉ちゃん』いうてたから、さびしいのやろかと思って」
そんなことないですよ、と言おうとしてネギは言葉に詰まった、木乃香が真剣な目をして自
分を見つめていたからだった、そんな木乃香をネギは初めてみた。
どうせ嘘をついてもこの状況じゃ余計に心配をかけるだけだろう、それならいっそ打ち明け
たほうが木乃香さんに余計な気を使わせなくていいかもしれない、それに、これはそんなに
たいした問題じゃないんだ、一人前の魔法使いになるための修行でみんなやってることなん
だから、さびしいなんてただの弱音だ、雑談に紛らわせてしまえばいい、そう自分に言い聞
かせるようにネギは考えた。
「-----ときどき、ふっと考えることがあります。お姉ちゃんやアーニャ……友達はな
にをしてるんだろうって、元気かなって、でもそれはそんなに深刻なことじゃなくてその」
「ネギ君」
小さいけど、しっかりとした声で、木乃香はネギの言葉をさえぎった。
「あかんで、自分に嘘ついたら、ネギ君最もらしいこと考えて自分を納得させとるやろ」
「な!」
自分でも紛らわせていた部分を指摘され、ネギは思わず絶句した。
「自分もだませへん嘘はついたらあかん、それにな、その考え方は世の中でに生きていくよ
うになりよった大人の考えや、大人は自分の思うようにならへんことにそうやって折り合い
つけて納得をするんや、でも子供は素直にならなあかん。子供は自分のしたいこと、してほ
しいことちゃんと言わなければいけへんのや。そりゃ、全部が全部思い通りにならへんのは
大人といっしょやけどな、子供は自分の思いを人に伝えられへんとな、みんながみんな手の
かからへん『良い子』に思われてしまうんや」
「良い子?」
「そうや、言いたいことも言えなくて、『良い子』にされてしもた子は回りの期待通りに動
く様になってしまうんや。自分がどないに苦しんでても、周りはいつもええ結果しか自分に
見なくなってまうからな、そうしてるうちに、子供の心はだんだんと死んでゆくんや………」
「心が…死ぬ?」
ネギはぞっとした、おそらく木乃香は言葉のあやのつもりで言ったのだろうが、ネギにはそ
れが恐ろしい魔法の呪文に聞こえた。
「子供は甘えるのも仕事のうちや、甘えて、我侭言って、ほんで怒られる時はちゃんと怒ら
れて、そしてだんだん大人になっていくんよ、ネギ君は頭は大人でも『経験』はまだ9歳の
子供や、こればっかりはどうしょうもあらへん」
ネギは木乃香が『今、ネギが子供であることの大切さ』を解いているだとわかった。
「ネギ君は確かに立派な先生や、せやけどまだウチの5つも下なんやで、ウチかて不満なこ
とがあったらちゃんと自己主張するわ、そうせんとつぶれてまうよほんまに……」
いつもと違って饒舌な木乃香に、ネギはただただ驚くばかりだった。正直、木乃香がここまで
物事を深く考えている人だとは思わなかったのだ、同世代でこれほどの思想の持ち主は、自
分の知る限り、知人の魔法使いの中にもいなかったはず、そうネギが感心していると---
「---まあ、じーちゃんの受け売りなんやけどな」
そういって木乃香は、ぺロッと舌を出していたずらっぽく笑った。
なんだかそこにいつもの木乃香を見たようで、安心したネギも思わずつられて笑ってしまった。
「なんだかホッとしました、木乃香さんが、木乃香さんじゃなくなったような気がして」
「なんやーそれ、ひどいなーウチかて、いっつも『ぽえぽえ』してるわけやないんよー」
そう言って、お互い楽しそうに笑ったあと、木乃香がポツリと、しかし真摯な声でささやいた
「あんなあ、ネギ君…」
「はい?なんですか木乃香さん」
「もしよかったらなんやけど、ウチ…ネギ君のお姉ちゃんの代わりになれへんかな?」
「え!?」
ネギは突然の木乃香の申し出にびっくりした、そして自分の心の奥にどきどきする不思議な気
持ちが湧き上がるのを実感した。
「あ、あのそれは、どういう」
「そのまんまや……」
「えっ、でも僕は先生で、生徒と先生はあの、そのなんていうか………」
木乃香の申し出に、月並みな返答しかできない自分をネギは恨だ。
オックスフォード卒の学力もこんな時には何のアドバイスもしてくれない、これが木乃香の言
った『経験』の不足なのだということを早くもネギは実感した。
しどろもどろになるネギに、木乃香は諭すように言う
「ガッコの中ではネギ君は先生や、でもそれ以外のところじゃ子供に戻ってもええんとちがう?
さっきネギ君の顔見ながら、ネギ君がウチの弟やったら嬉しいなとホンマに思った、やからネギ
君も先生の時間以外はウチのこと、お姉ちゃんと思ってくれへんやろか?」
「…………」
「ウチはネギ君の支えになりたい」
はっきりと強い意志を秘めた口調で、木乃香はそう告げた。
ネギは混乱していた、いろんなことが頭の中を駆け巡って、ゴチャゴチャになっていた。
木乃香さんの申し出は嬉しい、でもいいんだろうか?お姉ちゃんはこんなときどうしろと言っ
たっけ?女の人には優しくしなさいと言ったけど、この場合は違うような気がする。
彼女は僕の生徒で、僕は彼女の先生で、でも彼女は見た目よりもしっかりしていて、僕のこと
を心配して、とても優しくしてくれて------- 理解らない、わからない、ワカラナイ
いくら考えても模範解答のない難問に、混濁したネギの意識は、そのまま闇へと沈んでいった。
気がつくと、もう空は明るくなっていた。
自分でも知らないうちにあのまま眠ってしまったらしい、なんて失礼なことをしてしまったん
だろう、ネギは深い後悔に襲われた。
「あっ、ネギ君おきたんか、おはよう」
えっ!?
一瞬自分の耳を疑ったが、木乃香はいつもと変わらずに自分に接してきた。
ちょうど朝食を作っていたところらしく、テーブルの上には二人分のオムレツが湯気を立ててい
る。明日菜はもうバイトに出かけたらしく、部屋には見当たらなかった。
「あの……木乃香さん…」
「ん?なんやネギ君、はよう起きて顔洗っといで、朝ごはんさめてしまうで」
昨日のことは夢だったのだろうか?一瞬そう思ったが、自分が木乃香のベットに寝ていたこと
からあのやり取りは現実のものだったことがわかる。
洗面所で顔を洗いながら、ネギは昨夜、木乃香が言って言葉を思い出した。
『ウチ…ネギ君のお姉ちゃんの代わりになれへんかな?』
やっぱりどうしたらいいか自分には判らなかった、木乃香さんのことは好きだと思う、でも何
かが引っかかる、それは自分が先生だからということではなくて、もっと何か根本から思い違
いをしているかのような気がする、それが判らなくてもどかしい、まったく見当違いの公式に
数字を代入して解を求めているような気分だった。
とりあえず昨日のことは謝ろう、そう考えてネギは木乃香の作ってくれた朝ごはんをいただく
ことにした。
「いただきます」
木乃香のつくってくれたオムレツはおいしかったが、昨日のことが引っかかって、ネギは味も
ろくにわからなかった。
「あの、木乃香さん…」
「ん?なに」
「昨日のことですけど、本当にごめんなさい、話の途中で寝てしまうなんて」
「ええんよ、ウチなんかネギ君に悪いことしたなあ、あの時ネギ君ウンウンうなりながら気絶
するように眠ってしもたんで、びっくりしたわ」
「えっ!?そうだったんですか?」
「ほんまや、ネギ君の寝顔、『考える人』みたいやったよ」
そういって木乃香は笑った
その笑顔を見るとネギはなんだか不思議な気持ちになった、心の奥があったかくなり、ドキドキ
する。
もっとこの笑顔を見ていたい、もっとこの暖かさに触れていたい、その気持ちはなんなのか解ら
なかったけど、それはどこか心地よかった。
「あ、あの、それで昨日のことなんですけど、やっぱり僕よくわかりませんでした、申し出は
嬉しかったんですけど、正直どうしていいか」
「ネギ君はどうしたいん?」
「えっ!?」
「大事なのはネギ君本人が『どうするか』じゃなくて『どうしたい』のかってことや、一番大切
なことは自分の『気持ち』なんよ、うちはネギ君の支えになりたい言うたけど、これはうちの『
気持ち』や、『理屈』やなくてな」
「あっ…」
疑問は氷解した。
(僕は勘違いしていた。木乃香さんの申し出に対して『どう返していいのか』ばかり考えて、自
分は『どうしたいのか』をまったく考慮に入れてなかった、木乃香さんの申し出に嬉しさは感じ
ていながらも、自分の気持ちを考えの中から抜いてしまっているんだから、答えは見つかるはず
がなかったんだ)
しかし間違いには気づいても、木乃香の申し出そのものに対しては、ネギはまだ答えを見つけら
れなかった。
「いそがんでもええよ、一番大事なのはネギ君本人の気持ちや、無理せんといてな」
木乃香はネギの苦悩を察してか、そう言ってくれた。
姉の代わりになりたいという気持ちを正直に打ち明けながらも、それを押し付けずに自分に選択
を任せてくれる木乃香の気遣いを、ネギは嬉しく思った。
「ご馳走様」
「ごちそうさまでした」
そうしているうちに朝食も終わり、木乃香は後片付けの準備のため台所に向かう。
「あっ、ボクも手伝いますよ」
そう言って、木乃香に続いて台所に入ったとき、ネギは敷いてあったキッチンマットで足をすべ
らせバランスを崩した。
「うわっ!!」
「ネギ君!」
とっさに手をのばし助けようとする木乃香だったが、育ち盛りの子供の体は思ったよりも重く、
引っ張りきれなかった木乃香は、一緒に転んで倒れこんでしまった。
「いったー、ネギ君大丈夫?頭打ったりしてへんか?」
「は、はい、なんともないです、ありがと-------」
見上げたすぐ目の前に、木乃香の顔があった。
ドキン
さきほど以上に自分の中の不思議な気持ちが大きくなる、密着した互いの体を体温が行き来し、
心臓は早鐘の様に鳴り、なんだか胸の奥がきゅっとなった。
----ああ、そうか------僕はこの女性を-------好きになってしまったんだ。
『like』か『LOVE』かはまだ判らない、でも、彼の中で迷っていた答えは出た。
「ネギ君?」
ふと見上げると、先に起き上がった木乃香が、立ち上がろうとしないネギに、心配そうに手を差
し伸べている。
「木乃香さん…」
「なに?」
「あ……何でもないです、ちょっとボーッとしてました」
「アハハ、変なネギ君やな、じゃあ片付けの手伝いたのむわ」
二人は台所に入り、木乃香が食器を洗い、ネギが拭いて片付ける分担作業で茶碗洗いを始めた。
二人でやると作業も速い、もともと少ない食器は五分程度で片付け終わった。
「これでおわりっと」
最後の皿を棚に戻し、ネギの仕事は終わった。
木乃香さんの方は、と見ると、フンフンと鼻歌交じりに、最後のまな板を洗っているところだった
背中では蝶結びにしたピンク色のエプロンの紐が、リズムに乗ってひらひらとゆれている。
「………………」
ネギは木乃香に近づくと、そのまま背中にそっと抱きついた。
「ん?どうしたんネギ君」
「突然ごめんなさい、木乃香さん。…でも、そのまま聞いてもらえませんか?」
身長差のせいで、自分の背中から聞こえる声に、木乃香は答えた。
「ええよ、言ってみい」
「昨日、木乃香さんが僕に言ったこと、あれ、答えが出ました。」
「そっか、それでどないした?」
「僕、本当は甘えん坊なんです」
「--?、ええやん、そんなの」
「意気地なしなところもあるし」
「かわいいもんや」
木乃香は、ネギが何をこれから言おうとしているか解った。
「ごねて暴れるかも知れません」
「そん時は、ウチがしからなあかんな」
ネギの木乃香に抱きついている手に力が入る
「木乃香さん、ボクの------」
そこでネギはちょっと間をおき、
「ボクの大事な人に、なってもらえますか?」
しっかりとした言葉で、自分の『気持ち』を伝えた。
木乃香はゆっくりと振り向いて、少年の目線の高さにまで顔を下げ、そして-------
「もちろん、ええよ」
太陽のような満面の笑みを浮かべ、そう答えた。
その笑顔を見たとき、ネギは胸がまたドキドキと高鳴るのを感じた、自分がこんな気持ちになる
なんてぜんぜん知らなかった、この鼓動が聞こえたらどうしよう?そう思うとますます胸の鼓動
が早くなった。
あったかくて、恥ずかしくて、どこかこそばゆいような変な感じ、でも嫌じゃなくて、なんだか
嬉しい気分だった。
「じゃあネギ君にウチからのお願いや」
「はい、なんですか?」
「ネギ君は、ウチの事『お姉ちゃん』てよんでな」
「え、『木乃香さん』じゃあだめですか……」
「だめや」
きっぱりと断言されてしまう。
「そういうわけやから、早速よんでみてくれへん?」
木乃香はさあさあとネギに促す。
「木乃香………ゃん」
「なあに?よく聞こえへんよ、もう一回」
「木乃香……お姉ちゃん」
「大きな声で」
半ば叫ぶような感じで、ネギは言った。
「木乃香おねえちゃん!!」
その瞬間、木乃香の背中に、えもいわれぬ感覚がゾクゾクッと走る。
「あーーーーーもう!、ネギ君ホンマにかわええわー!!」
木乃香はガバッとネギに抱きつくと、すりすりとネギにほお擦りした。
「わわっ!」
恥ずかしいやら、くすぐったいやらで、ネギは無性に照れくさくなった。
「は、恥ずかしいからはなしてくださいよー!!」
ネギはバタバタと腕を振って主張するが
「えへへー、もうちょっと」
まるで小動物を可愛がるような感じで、木乃香は解放してくれなかった。
ネギは学園に来た当初、ホレ薬で今と同じようになった木乃香を思い出しながら、今は彼女が素で
自分にそういう一面を見せてくれることが、なんだか嬉しかった。
----しかし、そんなことを考えていられたのは最初のうちで、ずっと抱き続けられているネ
ギの身体は、木乃香の体温、身体、香りに、五感をいやがうえにも刺激される。
若干10歳の少年とはいえ、『男』であることには変わりない彼の本能は、それらに揺さぶられず
にはいられなかった。
----木乃香おねえちゃん、いい匂い………それにあったかくって、やあらかい……ボクなんだ
か意識が遠くなりそうだよ…
だんだんぼーっとしてくる頭でそんなことをぼんやり考えていると、すぐ近くで自分に顔をスリ
スリしている木乃香の唇が目に映った。
----やわらかそうなくちびる……キス……したいな…
少年はふとそんな思いに駆られ、自然な動作で顔を横に向けると、そっとおねえちゃんの唇に口
付けた。
木乃香は最初、ネギが自分に何をしたのかはわからなかった、でもやわらかい感触が自分の口に
触れたのを理解すると、なんだかとても嬉しくなった。
しかし、今の行為のいきさつをネギの口から直接ききたくて、木乃香はとぼけてたずねた。
「ネギ君、今ウチになんかしたんか?」
ニコニコと無邪気な笑顔で問いかける。
「あっ!?、その、あのっ」
とたんに正気に戻り、しどろもどろになるネギ
「ううん、別に怒ってるとかそういうわけやないんよ、----------うれしかったんよ」
最後のほうは小声でそうつぶやいて、ちょっと頬を赤らめる
「え!?ほ、ほんとに」
「はんまや、でも不意打ち気味だったから、よくわからへんかったんよ、だ・か・らネギ君が今
ウチに何したかったんか、ネギ君の口から聞かせてくれへんかな?」
ん?というような表情でネギの瞳を覗き込む木乃香、そんな木乃香の視線を受けてネギの心臓は
爆発するんじゃないかと思うほどに高なった。
おちつけ、おちつけ、ネギは唾をゴクリと飲み込みむと意を決して口を開いた。
「じゃ、じゃあ…木乃香おねえちゃん」
「なあに?」
「キス…してもいい?」
そう懇願して、下から見上げる少年の顔は、はずかしさと緊張で真っ赤になり、瞳はすこしうる
んでいた。
そんな反則気味の表情が、木乃香の母性本能にヒットした。
そのまま食べてしまいたくなるような衝動に襲われたが、自身を落ち着け
「うん、ええよ、ネギ君キスして」
軽くうつむき目を閉じると、ネギがしやすい様にひざをついて身長をあわせる。
しかし、平成を装いながら、木乃香もネギ同様に心中穏やかではなかった、さっきまで弟のよう
に思っていた少年に、自分がこんなにもどきどきしているなんて……正直以外ではあったが、嫌な
気はまったくしなかった。
むしろ、ちょっと背徳めいたその行為に、もっと踏み込んでみたいと思う自分がいることに、木乃
香の感情と興奮は徐々に高まっていった。
ネギはおずおずと木乃香の前に進み出ると、その顔をまじまじと見つめた。
窓から差し込む朝の日差しに照らし出された木乃香を、童話の中に出てくる女神様みたいだと
ネギは思った。
木乃香お姉ちゃんって美人な顔だちしてるなあ、きれいなロングの黒髪に色白の肌、日本美人っ
て木乃香お姉ちゃんみたいな人のことを言うんだろうな…
そんなことを考えていたが、ふと気がつくと、木乃香は今か今かとネギの口付けを待っている、
緊張しているのだろうか、彼女は少し震えていた。
木乃香に心の中で謝り、ネギは彼女のほほに両手をそえる。
木乃香の体が一瞬硬直し、すぐに力を抜く、そのままそっとネギは顔を近づけ、木乃香の唇にほん
のちょっと押し付けるようにキスをした。
--瞬間、世界は二人だけのものになり、静寂が支配する。
そこに、ひとつの作品が生まれた。
窓から差し込む朝日に照らされ、二人の輪郭は逆光によりシルエットをおび、その光と影のコントラ
ストの中に、少女と少年は女神と天使のように鎮座していた。
どんな芸術家もこの空間は形に残せない、今この時だけの情景がそこには存在した。
一瞬とも永遠とも思える時間のあと、どちらからともなく二人は離れ、目を見開いた。
「ネギ君…キスするのんは初めてなんか?」
「はい、あの、ボク変じゃなかったですか?」
木乃香に不快な思いをさせたんじゃないかとネギは内心心配だった。
「ううん、ネギ君の一生懸命な感じが伝わってきて、うれしかったで……やから今度はウチからネギ
君へお返しや」
そういうと木乃香はネギの返事も待たず、ネギに口付けた。ネギの頭と首に手をまわし、さっきネギ
がしてくれたキスの思いに答えるように、思いを込めてちょっと強引に唇を奪う、まるでそれが自分
のものだと主張するかのように…。
突然の報復にちょっと驚いたネギだったが、さっきよりは余裕ができているため、木乃香にあわせ
て自分からも唇を押し当て、木乃香の唇を堪能した。
---木乃香お姉ちゃんの唇って、あったかくてやわらかくて、いい気持ち、それになんだか
ちょっと甘い感じがする。ボク、木乃香お姉ちゃんがキスしてくれたら、もう三時のおやつはい
らないや、だってこっちのほうがずっとおいしいんだもん)
気がつくと、もう空は明るくなっていた。
自分でも知らないうちにあのまま眠ってしまったらしい、なんて失礼なことをしてしまったん
だろう、ネギは深い後悔に襲われた。
「あっ、ネギ君おきたんか、おはよう」
えっ!?
一瞬自分の耳を疑ったが、木乃香はいつもと変わらずに自分に接してきた。
ちょうど朝食を作っていたところらしく、テーブルの上には二人分のオムレツが湯気を立ててい
る。明日菜はもうバイトに出かけたらしく、部屋には見当たらなかった。
「あの……木乃香さん…」
「ん?なんやネギ君、はよう起きて顔洗っといで、朝ごはんさめてしまうで」
昨日のことは夢だったのだろうか?一瞬そう思ったが、自分が木乃香のベットに寝ていたこと
からあのやり取りは現実のものだったことがわかる。
洗面所で顔を洗いながら、ネギは昨夜、木乃香が言って言葉を思い出した。
『ウチ…ネギ君のお姉ちゃんの代わりになれへんかな?』
やっぱりどうしたらいいか自分には判らなかった、木乃香さんのことは好きだと思う、でも何
かが引っかかる、それは自分が先生だからということではなくて、もっと何か根本から思い違
いをしているかのような気がする、それが判らなくてもどかしい、まったく見当違いの公式に
数字を代入して解を求めているような気分だった。
とりあえず昨日のことは謝ろう、そう考えてネギは木乃香の作ってくれた朝ごはんをいただく
ことにした。
「いただきます」
木乃香のつくってくれたオムレツはおいしかったが、昨日のことが引っかかって、ネギは味も
ろくにわからなかった。
「あの、木乃香さん…」
「ん?なに」
「昨日のことですけど、本当にごめんなさい、話の途中で寝てしまうなんて」
「ええんよ、ウチなんかネギ君に悪いことしたなあ、あの時ネギ君ウンウンうなりながら気絶
するように眠ってしもたんで、びっくりしたわ」
「えっ!?そうだったんですか?」
「ほんまや、ネギ君の寝顔、『考える人』みたいやったよ」
そういって木乃香は笑った
その笑顔を見るとネギはなんだか不思議な気持ちになった、心の奥があったかくなり、ドキドキ
する。
もっとこの笑顔を見ていたい、もっとこの暖かさに触れていたい、その気持ちはなんなのか解ら
なかったけど、それはどこか心地よかった。
「あ、あの、それで昨日のことなんですけど、やっぱり僕よくわかりませんでした、申し出は
嬉しかったんですけど、正直どうしていいか」
「ネギ君はどうしたいん?」
「えっ!?」
「大事なのはネギ君本人が『どうするか』じゃなくて『どうしたい』のかってことや、一番大切
なことは自分の『気持ち』なんよ、うちはネギ君の支えになりたい言うたけど、これはうちの『
気持ち』や、『理屈』やなくてな」
「あっ…」
疑問は氷解した。
(僕は勘違いしていた。木乃香さんの申し出に対して『どう返していいのか』ばかり考えて、自
分は『どうしたいのか』をまったく考慮に入れてなかった、木乃香さんの申し出に嬉しさは感じ
ていながらも、自分の気持ちを考えの中から抜いてしまっているんだから、答えは見つかるはず
がなかったんだ)
しかし間違いには気づいても、木乃香の申し出そのものに対しては、ネギはまだ答えを見つけら
れなかった。
「いそがんでもええよ、一番大事なのはネギ君本人の気持ちや、無理せんといてな」
木乃香はネギの苦悩を察してか、そう言ってくれた。
姉の代わりになりたいという気持ちを正直に打ち明けながらも、それを押し付けずに自分に選択
を任せてくれる木乃香の気遣いを、ネギは嬉しく思った。
「ご馳走様」
「ごちそうさまでした」
そうしているうちに朝食も終わり、木乃香は後片付けの準備のため台所に向かう。
「あっ、ボクも手伝いますよ」
そう言って、木乃香に続いて台所に入ったとき、ネギは敷いてあったキッチンマットで足をすべ
らせバランスを崩した。
「うわっ!!」
「ネギ君!」
とっさに手をのばし助けようとする木乃香だったが、育ち盛りの子供の体は思ったよりも重く、
引っ張りきれなかった木乃香は、一緒に転んで倒れこんでしまった。
「いったー、ネギ君大丈夫?頭打ったりしてへんか?」
「は、はい、なんともないです、ありがと-------」
見上げたすぐ目の前に、木乃香の顔があった。
ドキン
さきほど以上に自分の中の不思議な気持ちが大きくなる、密着した互いの体を体温が行き来し、
心臓は早鐘の様に鳴り、なんだか胸の奥がきゅっとなった。
----ああ、そうか------僕はこの女性を-------好きになってしまったんだ。
『like』か『LOVE』かはまだ判らない、でも、彼の中で迷っていた答えは出た。
「ネギ君?」
ふと見上げると、先に起き上がった木乃香が、立ち上がろうとしないネギに、心配そうに手を差
し伸べている。
「木乃香さん…」
「なに?」
「あ……何でもないです、ちょっとボーッとしてました」
「アハハ、変なネギ君やな、じゃあ片付けの手伝いたのむわ」
二人は台所に入り、木乃香が食器を洗い、ネギが拭いて片付ける分担作業で茶碗洗いを始めた。
二人でやると作業も速い、もともと少ない食器は五分程度で片付け終わった。
「これでおわりっと」
最後の皿を棚に戻し、ネギの仕事は終わった。
木乃香さんの方は、と見ると、フンフンと鼻歌交じりに、最後のまな板を洗っているところだった
背中では蝶結びにしたピンク色のエプロンの紐が、リズムに乗ってひらひらとゆれている。
「………………」
ネギは木乃香に近づくと、そのまま背中にそっと抱きついた。
「ん?どうしたんネギ君」
「突然ごめんなさい、木乃香さん。…でも、そのまま聞いてもらえませんか?」
身長差のせいで、自分の背中から聞こえる声に、木乃香は答えた。
「ええよ、言ってみい」
「昨日、木乃香さんが僕に言ったこと、あれ、答えが出ました。」
「そっか、それでどないした?」
「僕、本当は甘えん坊なんです」
「--?、ええやん、そんなの」
「意気地なしなところもあるし」
「かわいいもんや」
木乃香は、ネギが何をこれから言おうとしているか解った。
「ごねて暴れるかも知れません」
「そん時は、ウチがしからなあかんな」
ネギの木乃香に抱きついている手に力が入る
「木乃香さん、ボクの------」
そこでネギはちょっと間をおき、
「ボクの大事な人に、なってもらえますか?」
しっかりとした言葉で、自分の『気持ち』を伝えた。
木乃香はゆっくりと振り向いて、少年の目線の高さにまで顔を下げ、そして-------
「もちろん、ええよ」
太陽のような満面の笑みを浮かべ、そう答えた。
その笑顔を見たとき、ネギは胸がまたドキドキと高鳴るのを感じた、自分がこんな気持ちになる
なんてぜんぜん知らなかった、この鼓動が聞こえたらどうしよう?そう思うとますます胸の鼓動
が早くなった。
あったかくて、恥ずかしくて、どこかこそばゆいような変な感じ、でも嫌じゃなくて、なんだか
嬉しい気分だった。
「じゃあネギ君にウチからのお願いや」
「はい、なんですか?」
「ネギ君は、ウチの事『お姉ちゃん』てよんでな」
「え、『木乃香さん』じゃあだめですか……」
「だめや」
きっぱりと断言されてしまう。
最終更新:2012年02月01日 13:01