第三話
ネギが授業を再開しだした頃、保健室では――――
「あー、なしてこんなときに先生いないかなぁ、アカンわしかし。
それにしたって、ごっつう珍しいわ、のどかがあない見事に眠りこけるなんてなぁ。」
「亜子さん……すいませんです。授業の邪魔したみたいで。」
「別にウチに謝らんでもええねん。それよりのどか、最近、徹夜するほどのめり込んどる事、なんかしとるん?」
「いえ、特には……。というより、普通に寝ているです。」
「あるいは、何か激しい運動するようなったか……?」
「いえ……。」
「あー判った、かなり激しいオナニーとか?それもネギ先生でヤッとるとか。のどか、先生見るとき熱の入った目で見とるからなー。」
(!!!!)
(うわー、ごっつぅ判りやすい子やなぁ、ウチ冗談半分で釣っただけやのに……なーるほど、そういうことなら話は早いわ。)
亜子のトラップに見事に引っかかり、のどかは顔を耳まで赤くした。
「あー冗談や冗談。せやからそない蛸みたいに赤くならんと。別に先生にメロメロになるな言わんし。いいんちょもあーやから。」
「亜子さん……あなたは、ネギせんせいの事、本当はどう思っているのですか……?
確か、ドッヂ決戦の元となった諍いの後、ちらっと「ちょっと情けない」と言っていたように聞こえたですが……。」
「!……そ、それは……。」
探りを入れながらおどける亜子に、淡々と、且つはっきりとした言葉でのどかは反撃を加える。
「でもその後、何も無かったように良い感じで接していますよね……。
確かにネギせんせいは高畑先生みたく年齢も経験も至っていません。
結果的に、話がこじれて高畑先生が割って入ったそうですが、
ネギせんせいも、静観しないで何とか止めようとしただけ立派です。
そして本戦の時、皆の士気が落ちたとき、やる気を奮い立たせようと入れた檄、
あれがなければ、私を含めてみんな瞬殺されていたでしょう……。
まだ右も左も判らない状態でそこまで引っ張れるネギせんせいは、情けなくなんかないです。
そして………………そう考えると、亜子さんは……ちょっと、調子が良すぎではないかとしか思えません!」
「うぅ…確かに諍いの時はちょっと……思うたけど、流石に自分もあの後
言い過ぎちゃうか考え直したさかい。せやからそこまで言わんでも……な。」
(うわ――――――、これはウチの想像の遥か上空行っとるわ。
のどか本気や。こない怖いのどか初めて見たわ。これが所謂愛の力つー奴か……。)
亜子、藪を突いて見事なコブラを出してしまったようである。
「のどか、ちょっと調子乗りすぎたわウチ……
そこまで考えとると知らんと無責任な事言うたり釣ってからかったり……ほんま、堪忍な。」
「判ってもらえればいいですー。流石に今のは自分も大人気無かったし……。」
「ええてええて。しかし、そない考える根底は、やっぱり、先生の着任初日にもあったっつー、今日のような事なん?」
「………………。」
再び頬を赤く染め、亜子の問いにこくり、と首を縦に振る。
「否定はせぇへん、と。しかし、さっきの言葉だけで確証するのもなんやけど、
意外と芯強いんやな、のどかって。それやったら……いいんちょとかまき絵とか、ライバル多いけど、上手くいくかも知れへんな。」
「い、いえ……それ程でもないですー。でもその発言、まき絵さんの前では口が裂けても…。」
「あー、酷いなぁ。確かにまき絵とは同室のよしみで
宜しうやっとるけど、今のそれと関係無しに本心で応援したんやけどなぁ。」
口ではしょげているようだったが、亜子の顔はすぐに大笑いに移れるような緩み方を呈していた。
「くすくす……。ご、ごめんなさいです……。」
「あはははは………………!」
信奉者と元・離反者、雨降って地固まったようだ。
「……ところで、さっきよりも顔色は良くなった様やけど、どないする?復帰するか…用心とるか。」
「一応……今日はゆっくり休んで調子戻しますー。」
「了解。荷物取りに行くときに先生と相方衆には言うておくから、大事にな。それと……健闘、祈ってるで。」
「は、はい!」
「ほんじゃ、ちょいと荷物持ってくるまで待っててやー。」
その日、のどかは、授業を早退した後、図書館島に寄って、数冊、雑誌と書物を借りて寮に戻っていった……。
第三話終
最終更新:2012年02月01日 13:04