30スレ222

リボンなナイト09

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「あーーーーーーーうーーーーーーーー」

2003年12月24日午後、
尾を引きながら遠くなる叫び声の中、空に輝くお星様を眺めていた小太郎は、
遠くでどぷーんと水柱が上がるのを見てたらーっと大粒の汗を浮かべた。

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「着替え持って来たで」
「ありがとうございます」

龍宮神社の裏山で、タタタと駆け寄る小太郎に、
座って焚き火に当たっていた佐倉愛衣が震えながら返答した。

「あー、落ちたのが思い切し山側でこの辺人気ないし、
たつみー姉ちゃんからタオルも借りて来たからはよ着替えた方がええで」
「はい」

学園祭の図書館島コスプレコンテストで経験済みの小太郎がひょいと後ろを向き、
肉体的欲求が限界に近づいていた愛衣もそれを信じて木陰に入る。

「…ひゃっ!?」
「なんやっ!?」

甲高い悲鳴を聞き、そちらに走った小太郎は不意に、柔らかな感触がどんとぶつかるのに気付く。

「なんや、アオダイショウやん。毒蛇ちゃうで。つーか、とっとと冬眠せーや何月や思うてん」
「だって、いきなり木からぶらーんて、あーびっくりしたー…」

呆れた様に足下の大振りな蛇をひょいと放り出した小太郎は、
ぷいっとそっぽを向く。

「あーうー、見てへん、見てへんからな」
「はい、すいません」


そのまま二人は背中合わせになり、小太郎はすすすと前進して座り込む。

「あーうー、あー、悪かったな」
「?」
「あんた、最近腕上げとるさかい、調子乗って思いきしぶっ飛ばしてもうて」
「いえ、嬉しかったです。それでも全然本気なんかじゃないんですから。
それでも、少しは近づけたのが」
「いや、愛衣姉ちゃんマジメやし、ぐんぐん上手もうなっとるで。
その素直な所がええんやな、うん」

小太郎の口調は、どこか早口だった。

「ひゃっ!?」

自らの両手で両目を塞いでいた小太郎が、背後からガシッと両肩を掴まれて思わず声を上げた。

「やっぱりびしょ濡れでガタガタじゃないですか、って、当たり前ですよね。
とにかく、小太郎さんも早くどこかで着替えて下さい」
「大丈夫やて、鍛え方違うから」
「そういう事言ってる人が一番危ないんですっ」
「だから、大丈夫や言うてるやろ」
「むー…」
「ん?」
「紫炎の捕らえ手っ!」
「のわっ!」

小太郎が気が付いた時には背後からまともに決められ、身動き取れなくなっていた。

「あー、そやった、無詠唱もアリの実力派って…」
「乾いた頃には消える筈ですから、しばらくそうしてて下さい」

普段は実に素直な愛衣のちょっと怒った様な口調は、
普段些か口うるさいお姉様方に囲まれている小太郎としてはわずらわしくもあり可愛くもあり、
ちょっとくすぐったかった。

「…あー、やっぱりすっきりしたわ、ありがとな…っておいっ!?」

ぼーっとそんな事を考えながら、ようやく魔力が消えた頃に立ち上がり、
木陰に入った小太郎が草むらに倒れる愛衣を抱き起こした。

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「だーかーらー、ついさっきまで唇紫で奥歯がーたがた言うとったのに、
自分こそあんな、俺でも千切れん魔法なんて無理するからやで」
「ごめんなさいです」
「で、こっちでええんやな」
「はい、すいません」
「だーかーらー、いちいち…ん?こっちって、ウルスラ?…」

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「…おおよその事情は分かりました…」

聖ウルスラエリアの一角の広場で、ミニスカサンタ姿のナツメグを従えた高音に睨まれ、
小太郎はえらい所に連れて来られたと嘆息したくなった。

「つまり、修行中にこの十二月の池に叩き落として体温が概算で39度を突破しているから
クリスマスパーティーには参加出来ないと、間違いはありませんね」
「あ、ああ」
「すいません」

トナカイの着ぐるみで真っ赤なお鼻を装着した高音の眉がひくひくと震えるのを見ながら、
やっぱり気まずい小太郎が乾いた声で答え、その背中におんぶされた巫女姿の愛衣がぺこりと頭を下げた。

「分かりました、さっさと帰って休んでいなさい。
確かあなた、中等部の女子寮に居座っていましたね。きっちり愛衣を送って行きなさい」
「ああ」

命令される筋合いは無い様な気もするが、元々は自分が原因を作った事。
こういうケジメは付けるタイプなので内容的には異論は無い。だから、黙って返答する。


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「よいしょと…あー、医務室呼んだ方がええか?て、寝てるんか?」

愛衣を部屋まで運び、二段ベッドの下段に転がした後、
些かの経験則を基に今後の自分の取るべき行動のお伺いを立てた小太郎であったが、返答は無かった。

「ほな、帰るさかい」

廊下に出て玄関ドアを閉めようとした瞬間、小太郎の耳がピクッと動いた。

「どないしたん、凄い音が…」

引っ返した小太郎が駆け付けた時には、床の上では
うつぶせになった愛衣の全裸体が、
つま先に袴を引っかけた右脚を掲げてヒクヒクと痙攣していた。

「おいっ、大丈夫かっ!?」
「ん?あ、コタローさん?」
「だから何してんね?」
「あー、汗ベタベタだからシャワー入ろうと思いまして…」

すとんと座り直し、ぽりぽり頭を掻きながらぺろっと舌を出した愛衣の横で、
小太郎の首はぐいっとあらぬ方向へと向けられる。

「あー、かなんなホンマ、まー病人やしゆっくり休んどれや」
「重ね重ねご迷惑おかけしますです…」
「って、おい、あぶな…」

ふらりと立ち上がった愛衣に、小太郎が振り返って声を掛けようとした時にはもう遅かった。

「お、おいっ」
「あららら」
“…つーか、軽くて柔らかいのに、結構ずしっと、それに甘い匂い…じゃなくて…”
「だああああっ!!」

体に伝わるぐにっとしたものを感じながら、
小太郎はなんとか我が身にまとわりつく愛衣の体を引きはがそうとするが、
今の状態で無理をしたら愛衣はまともに転倒しそうでもある。
女性を傷付けるのが嫌いな小太郎としては、それは本意ではない。


「つつつ…」
「んー、あ、コタローさん、大丈夫ですか」
「ああ」

ぶんぶんと頭を振り、自分が小太郎を下敷きにして倒れ込んだ事に気付いた愛衣が問い、
小太郎が短く答える。

「あー、今どきますね…」
「あー、無理せんで慌てたら…たーっ…」

一度、浮き上がった愛衣の柔らかな体が再び小太郎の上に落下し、
あさっての方向を向いた小太郎が小さく声を上げる。

「ごめんなさい、えっと…んー…」
「おいっ、まっ、おおうっ!!」

何とか体を支えて立ち上がろうとする愛衣がバンバンと掌でそこら中を叩く。
その内に、いつの間にかズボンの中で限界まで傍聴していた部分を掴まれ、
小太郎が悲鳴を上げた。

「んんっ…」
「あっ、あにょっごめんなさい、その、男の人の大事な所ですよね、直撃しました?」

ぴょこんと身を起こした愛衣が、うめき声を上げた小太郎を見下ろしわたたと頭を下げる。

「あの、痛かったですか?」

小太郎から離れて座り直した愛衣が尋ねる。

「いや、痛いつーかなんつーか、なんやぬるぬる気持ち悪い…」
「…あー、それはあれですねー…あー、お先シャワー使ってくださーい。
汚れたままじゃあれでしょーから」

小太郎の言葉に、人差し指を立てて上を向いた愛衣が、かくんと下を向いて言った。

「あ、ああ、なんか知らんけどそーさせてもらうわ」


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「あー、使わせてもろたけど…なんや、寝とるんか」

浴室を出た小太郎が二段ベッドに近づくと、その下段で愛衣は布団に入っていた。
下着を洗ったので乾かしている間バスタオルを腰に巻いていた小太郎が、
ふと足を止めてベッドの前にしゃがみ込む。
その目の前で、愛衣は髪飾りを外したセミロングの髪を枕元に散らし、
頬をほんのり赤く染めて静かに目を閉じている。
元々が美少女である。こうして眺めていると小太郎でも素直に綺麗だとは思える。

「のわっ!」

思わず覗き込んでいた小太郎の前で愛衣がパチッと目を開き、
小太郎は床にのけ反る。

「ああ、コタローさん上がったんですか」
「あ、ああ、すまんな」
「そーですか、それじゃー私もシャワーシャワー…」
「どわっ!だから、危ないて!!」

ベッドの上でむっくりと身を起こし、
一糸まとわぬ裸体から布団をずり下ろして覚束ない足取りでベッドの柵を越える愛衣に、
立ち上がった小太郎は慌てて駆け寄る。
そして、気が付いた時には、二人は床の上でしっかと抱き合っていた。

「…えへへ…コタローさん、あったかい…」
「あー、だから愛衣姉ちゃん熱過ぎや、湯冷めしたらあれやからおとなしゅう寝とれて」

うわずった声で言いながら、小太郎は、自分の心臓がバクバク鳴っている事を自覚せずにはいられなかった。

“…すごい柔らか、それに、髪の匂いが甘うて…”
「ん?」

愛衣の顔がちょこんと下を向くと、小太郎は思わず上を向いた。

「あーうー、ああ、それはあれや、だから…」
「はーい、分かってますよーコタローさん。コタローさんも男の子なんですねー」

屈託なくにこにこ笑って言う愛衣に、斜め下を向いた小太郎の顔がカーッと赤くなる。


「ああ、まあ、ああ、それやそれ、なんかあれ、なんやろさっきぬるぬるしたのが出よって」
「んふふー、それはですねー、コタローさんの体がですね、
ちゃんと男として成長してる、そーゆー事です。
だからー、女性の裸にこーふんして、あーゆー風になっちゃうんですー。
男の人の精液は、西でも東でも魔法薬研究の基本ですよ基本、知らないんですかー?」
「あー、何ぞ聞いた事あるけど、別に俺、立川流やる訳ちゃうよって」
「そーゆーものですか」
「あー、愛衣姉ちゃん、なんかキャラ変わってへんか?」
「未熟者でもおねーさんですからー、それぐらい知ってますよー。
んー、だからそれがフツーなんですから気にしないで下さい」
“…おいおい、熱が脳味噌来てるんちゃうやろな?けど、なんか…”

呆れて一抹の不安を覚えながらも、
ケラケラと屈託なく笑っている、普段はやや堅苦しいくらいの愛衣の笑顔は可愛らしいのも事実だった。

「んー、そーですねー、
私もいちおー女ですから。裸で抱き付いちゃってそれでコーフンぐらいしてくれないと、
そっちの方がかなしーものがありますからねー、だからいーですよー」
「…いや、綺麗やで…」
「は?」

吐いた唾は飲めない、聞き返されて小太郎は言葉を続ける。

「だから、愛衣姉ちゃん、綺麗や思うで」
「…嬉しい…」

女性へのお世辞など無縁そうな小太郎の素朴な言葉に、
きょとんとしていた愛衣はにっこり微笑んで静かに言った。

「…嬉しい…きゅうー…」
「お、おいっ!」
カクンと反り返りそうになった愛衣の体を小太郎が支え、愛衣がブルブル頭を振る。

「あー、ごめんなさい、あんまり嬉しくてちょっとオーバーヒートしてました」
「おいおい…訳分からんなー、やっぱ熱あり過ぎやろ」
「全然、分からない事なんてないですよー」
「なんやねん?」
「女の子として、好きな男の子に綺麗って言われて、
こーんなに嬉しくって胸の熱い事なんてないですから」

にこにこ笑って言う愛衣に、小太郎は目をぱちくりとさせる。

“…やっぱ、イカレとるわ…”

小太郎は確信する。と、言って、言葉自体を否定している訳ではない。
真面目な愛衣の性格からして、ケロッと口に出すとは考えられない。
一応師匠らしい事をしている小太郎はそう考える。
そう思って顔を上げた小太郎は、息を呑んだ。
うっすら開いて小太郎を見下ろす、愛衣の潤んだ瞳。
実際には肉体的に発熱に合わせていただけなのかも知れない。
その夢見る様な眼差しに吸い寄せられる様に、小太郎は、愛衣と唇を重ねていた。

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最終更新:2012年01月28日 14:14
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