381 序章 ◆DLUg7SsaxM sage 03/04/28 20:28 ID:paIirFwu
・・・それは、ウチが小学生のときやった。
事故に巻き込まれて手術して、体育より過激な運動はできひんようになった。
脇腹にどえらい傷を貰った代わりに、
女子サッカー選手の夢が早くも終わった。
退院して、笑顔を「作り」ながら過ごす日々が始まった。
友達はみんなウチの話題は避けてるようやった。だからウチも何にも言えへ
んだ。ウチに悩みを相談されたら、きっとその子が困るから。
でも、誰かに甘えたかった。話を聞いて欲しかった。そうせんとショックで
どうにかなって、押し潰されてしまいそうやった。
「あ・・・」
ウチはその男の子を久しぶりに見た。サッカーがとても上手で、ずっと前か
ら好きやった男の子やった。仲も良かった。
驚かそうと思って後ろから近づいた。きっとウチは慰めて欲しかったんや。
温かくて、歯が浮くような優しい言葉をかけて欲しかったんや。
そしたら彼は、横の子に、
「そーだ、和泉のグロ傷見たか? あーあ、かなり萎えたよ。顔はいいんだけどなー」
・・・え?
刃物を胸に刺されたかと思た。事故の時より、手術の麻酔が切れた時より痛
かった。目の前が暗くなって、脚ががたがた震えた。
思い出が、墨汁ぶっかけたみたいに真っ黒になった。
心の中で何かが、音を立てて壊れた。
───第1話───
亜子は昔の事を思い出していた。熱いシャワーを浴びているのに、身体が震
えて止まらない。
「何でや、何でこんなに不安になるんや・・・大丈夫や! 自分で好きになっ
た人を信用できへんで、誰を信用するんや! 亜子・・・」
自分に言い聞かせるように、何度も繰り返す。
亜子は華奢な身体をバスタオルで包むと、勇気を出してドアを開けた。今
、部屋には亜子と恋人しかいないのだ。
「おまたせしたなぁ」
不安を悟られないように、いつも以上に明るい声を出して、そして恋人の胸
に、えいっ、と飛び込んだ。
「おっと、いきなりでござるか?」
裸の楓は普段と変わらない声で言った。亜子は楓の大きい胸に顔を埋めると、
安心したような笑みを見せる。
「えへへ。楓の胸はふかふかで、気持ちええんやもん。まずは、いっつもの・・・」
「んっ・・・」
ちゅ、ぴちゃ、くちゅ・・・
背伸びして、楓にキスをする。亜子は舌を楓の口内で思いっきり動かした。
舌同志を擦り合わせて、歯の裏まで舐めて、唾液を味わって飲み込んだ。
(楓の身体は温かい。楓の口はとっても美味しい。ウチ、今、楓とつながって
るんや。キスしてるんや。何も怖がる事なんかあらへん・・・)
亜子の不安感がみるみる薄れて、心の中が温かい光で満たされていく。
(男なんか、もう絶対好きにならへん。ウチには、楓がいてくれる・・・)
二人はキスを続けながら、脇のベッドに倒れこんだ。
第1話完
最終更新:2012年02月01日 13:10