01スレ393

393 ◆O/UZZY.mgg sage 03/04/29 01:33 ID:i4GXHVGL

第五話

たったったったった…………

「はあはあはあ……たしか、島はこっちだったはず……。」

仕事を一通り終えたネギは、一心不乱に図書館島を目指して走っていた。
杖で飛ばず、魔法力アシストも使わずに。
そんな事すら失念させるほどに必死で走っている。何故にそこまで必死になっているのか。
その理由を、時間を遡って見てみましょう――――――――――――――――――――



午前中某時限・教科担任不在により自習となった2-A

手の空いたネギが監督を任せられ、面々に自習を促した。

「えー、期末試験ご苦労様です。その折に、この時間が自習になったわけですが、
 他のクラスの迷惑にならぬよう、勉強しない人もあまり大声で騒がないようお願いします。
 あと、判らない所、質問があるのなら、わかる範囲で僕が答えますので何なりと申し付けください。」

挨拶代わりにそういった後、ネギは、ゆっくりと室内を回りながらクラスを監督した。

黙々と終わらなかった宿題を片付ける人―――――
友達と取り留めない話に花を咲かせる人―――――
趣味・興味を持った事に没頭する人―――――
居眠りをする人―――――

ありふれた自習時の日常が展開される中、ネギは、この日の朝共に小さな大事件を起こしたのどかの元に近づいた。
図書室の貸出延滞図書のリストを纏めているようである。さっきまでは何事も無かったように無表情で仕事をしていたが、
ネギが近づいたのが判った時には、無意識の内に薄く微笑んでいた。そして、ネギがのどかの席を通り過ぎようとした刹那、
他に気づかれないようにすっと、「読んで下さい」と書かれた白い封筒を差し出し、ネギに受け取らせた。


(何だろう?宮崎さん…何か聞く時は大体直接聞きに来るのに……。
 多分……今朝の事についてかな?だとしたら…今読まないほうがいいな。間違いなく他の子に怪しまれる。)

見事な英断である。自習が終わり、職員室に戻ってその内容を見たとき、
ネギは今朝感じたのに似た感覚に苦しさを加えたソレに襲われた。その内容は―――――

  ネギせんせいへ

  今朝は楽しい時間を下さって有難うございました。
  教師と生徒としてどう思っているかよく判りました。
  ですが、一個人としての本音はまだ聞いていませんね。
  私も、生徒としてでなく、一個人としての本音を打ち明けたいと思うので、
  職務が終わった後、図書館島上層部の第○○閲覧室に来てください。
  多分、夕映さん達の事で遅くなるかと思いますが、私は待っています。

                                     Nodoka Miyazaki

そう書かれた手紙と、その閲覧室までの安全なアクセス方法が描かれた略図が入っていた。

(確かに…一個人としてどうか、ということは言ってなかったな……。
 ……もう、年齢差がどうとか教師と生徒がどうとか言ってられないな。ここまで真摯に向かわれたら。
 しかし、偶然とはいえ、なんでこんな日にバカレンジャー達の居残りをやらせようとしたのだろう…………。)

自分の素直な気持ちに従って新たなモヤモヤをふっ切ろうと決意しつつ、重なった偶然(?)と己を恨むネギであった。


そして、放課後


ネギはもちろん、バカレンジャー達も目を疑う事態が起こった。
いや、この場合は、「バカレンジャー -1」としたほうが良いだろう。
何と、今回は、バカレッドが途中退場…もとい、早退していたのである。


「えー、アスナさんが居ないようですが……だれか理由がわかる人居ませんか?」
「レッド…いや、明日菜さんは昼過ぎから腹痛を患って早退しましたです……。」
「はぁ…。わかりました、綾瀬さん。では、とりあえず、2年生最後の補習をしようと思います。
 今回の期末は皆さん健闘したようですが、それに慢心しないようにと、おさらいの意味を込めて行います。それでは。」
(よしっ!このメンバーだけだったらそこそこ早く切り上げる事が出来る!!
 ……あれ?なんてこと考えてしまったんだろ……今のアスナさんなら何とかなりそうなのに。
 前まではアスナさんの事をよく考えていたのに……まぁ、後でもお腹がおかしいようだったら魔法で何とかしよう。)

神楽坂明日菜、ネギ内優先順位大幅下落。憐れなり――――――。

(明日菜さん、すいませんです。バカレン以前からの朋友・のどかと、先生のためと思って、辛抱です…。
 しかし、昨日島の資料で、即行で市販薬で調合した下剤がまさか貴女ほどの存在にもてき面に効いてしまうとは…。
 のどか。ネギ先生。私が怪しまれない程度で出来る支援はここまでです。後は貴方達次第です。頑張ってくださいです!!)

どうやら、バカレッドはバカブラックののどかの為を思っての暗躍の餌食にされていたようです。合掌。
それにしても、魔法の本騒動で武者震いしたり、こんな無謀な暗躍したり、食えない存在である。綾瀬夕映。

こうして、重荷(?)の居ない状態での補習は順調に終わった――――――――――――――――――――



翻って元の時間軸

「はぁはぁ……。ようやく着いた…。えっと、次は宮崎さんがいる閲覧室か……。
 えーと、なんでこんな変な道順……。あ、そっか。
 今から入れる地下ルートだと地表まで罠があるんだっけ。それを避けるために…。おっと、考えてる暇は無い。早く行かなきゃ!」

騒動の事を思い出し、魔法力のアシストを全開にしてそのルートを走り出すネギ。
しかし、期待と焦りからルートを失念して罠を発動させるが、それすらも軽くいなして地表に出、
いよいよのどかの居る閲覧室に辿り着いた。どうやら、屋上にあるオープンタイプの閲覧室、とゆうより空間である。そして……!


「み、宮崎さん……遅れてすみません…。」
「ネギせんせい……本当に、来てくれたですか…!」
「はい……宮崎さんの、本心を聞きに。そして、僕の本心を伝えに…!」
「判りました。今から、伝えます……。」

やはり、いつもの両手をかざすポーズに、両目を隠した前髪になっているが、
しゃんとした姿勢で、首もネギの方向を向いている事から、のどかの決意が真剣であることが窺えた……。

「私は…今の今まで、男の人と付き合った事がありません…。
 別に、毛嫌いをしている訳じゃないんです……。
 この学校の環境の御蔭で、あまり触れ合える事が無くて、
 その結果、男の人に慣れる事が出来なくて…そして今に…。
 でも、いつの日からか…とはいっても、つい最近ですが……、
 その人は、ここの空気に馴染んでいない時に、非力でありながらも、
 私を助けてくださいました…。あれがなかったら、多分…
 私は、この場所に、存在していなかったかも知れません……。
 それ以来、その人の存在が、そして、その人が振るった言葉が、
 その後の私の…そして今の私の、ささやかな勇気の源になっている気がします。
 その人が窮地に陥った時、私が必死で匿ったのも…
 その人から、勇気を貰っていたのかもしれません……。」
「………。」
「でもその一方で、散々その人から勇気を貰っていながら……
 中々お礼が言い出せなくて……そして、皆のように普通に触れ合えなくて…。
 結局自分の殻の中だけで自己完結の妄想に浸り、以前の私との堂々巡りをしている事もあります。
 余程の秘め事で無い限りは、自己完結の妄想も……虚しいだけですよね……。
 そうしていく内に、周りがその人との距離を縮め、自分はそのまんま。相対的に、格差が広がるばかり。」
「宮崎さん、自分を責めないで!」
「だから……差を広げられたくないから、虚しい自分になりたくないから、この場で…はっきり言います!」


「ネギせんせい……好きです。
 せんせいの存在が…言葉が…今までの私を支えてくれました。
 今朝…私の長所から……私は、知識と心で人を支える存在になる、と言いましたよね?
 今の私じゃまだ、未熟かもしれないですが……これからは、支えられるだけでなく、支えていきたいです…!」

一陣の風が吹き、ほんの数秒、のどかの片目が垣間見えた。
穏やかな彼女から想像も出来ない、鋭く真剣な眼差しが、この告白に嘘偽りが無い事の証人となっていた……。

「宮崎さんが言うほど、僕は格好の良い存在ではありません。
 僕は、数え年でないと、まだ年齢が一桁の「お子ちゃま」です。
 壇上で経歴を生かして弱みを見せないようにしているのですが、
 それ以外では、どこにでも居る……普通の年相応の子供です。
 この見た目から、信頼を得た今でもたまに舐められる事があります。
 故郷を、親友を、そして、姉を懐かしがって枕を濡らす事もあります。
 姉と暮らしていた時の癖で、人の布団に潜り込んでしまう事も多々あります。
 それ以外の事も含めて……非常に甘えん坊で、自立できていない所もあります。
 また、ゴネて、ドッヂの時のように、キレて何をしでかすか判らない人間でもあります。
 そんな僕でも良かったら……何度でも支えてくれませんか?
 その代わり、何かの時は、僕も支えますから。……宮崎さん、僕も、あなたの事が好きです。」


魔法学校の修行の時のような、きちっとした姿勢と、鋭い眼光は、もし、顔の紅潮が無ければ、かなり退いていたであろう。
それだけ、ネギも、のどかの本心を受けて、真剣に想いをさらけ出していたのであった。
そして、ネギの本心を受けて、のどかの表情は、目に涙を浮かべながらも、安堵と、幸せが満ち溢れた、いつもとは違う穏やかさを呈していた。

「嬉しい…ですー。
 だから…ネギせんせいも、自分をあまり悲観しないで下さい。
 これからは、言いづらい困った事や、淋しくて甘えたい時は、
 是非私を頼って下さい……探してる本を尋ねる感覚で……。」
「宮崎さんも、今後は、授業以外でも、
 「何でも」僕に尋ねてきて下さい。これからも……宜しくお願いします。」
「こちらこそ……。」

互いの想いを確認しあった後、どちらからとも無く、
二人は、この日二度目の、早朝以来の熱いキスを交わした後………………



床にゆっくりと落ちていった……。

第五話終

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最終更新:2012年02月06日 22:07
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