01スレ534

534 第四話 ◆DLUg7SsaxM sage 03/05/18 00:54 ID:il24YqWp

──土曜日・学園──

「あ、亜子。いきなり今晩のエッチは中止とか言われても・・」
「ごめん、本当に堪忍! 代わりに駅前のプリンパフェをゴチするから許してぇ」
困惑する楓の前で、亜子は手を合わせて何度も謝る。最近では日常化しつつあるこの光景が、今の亜子と楓の関係を現していた。
亜子のドタキャンは次第に多くなり、楓はその度に笑って許している。楓は他の予定が入っている時も亜子との時間を優先し、そしてドタキャンされても笑って許した。
楓は自分から、何かを亜子に要求する事もなかった。


「亜子が都合悪いなら仕方がないでござる。だけど「謝罪の品」みたいなプリンは欲しくないでござるよ」
楓は寂しげに微笑んで、亜子の頭を撫ぜた。楓は亜子に、物品の類はいっさい求めていない。
しかし亜子は明らかに動揺し、慌てて弁明し始めた。
「そ、それは、その、ウチの気持ちがすっきりしないっていうか、その・・」
言葉に詰まって亜子が気まずそうに目を逸らし、楓はそれをしっかり観察していた。
それが今の亜子と、楓の関係。


・・・
・・・
「亜子、いったいどうしたでござるか・・・」
自然と独り言が出る。


甲賀の忍・長瀬楓はその観察眼で、亜子が嘘を言って自分を避けていることに数か月前から気付いている。亜子がドタキャンした時に、プリンで機嫌を取りにくると、それは嘘を付いているサインである。
何度も問い詰めようと思ったが、いつかは亜子の方から話してくれると思い、楓は今まで嘘を付かれる事に辛抱強く耐えていた。
しかし、その気持ちを維持するにも数か月は長すぎた。胸が苦しい。
亜子はなぜ、自分を避けるのか?
それは言えない理由なのか?
日に日に不安は成長し、眠れない夜が多くなった。


楓は部屋で、一人で夜空を見ていた。久々に亜子と二人で過ごせる筈だった夜は、一転して虚しい時間に変貌した。
そして遂に、楓は決意した。
「調べるでござるか・・・亜子が拙者を避ける理由」
しなかっただけで、できないわけではない。
情報収集───それは忍の十八番である。


・・・
・・・
同時刻、和泉亜子も一人で過ごしていた。
「あかん、このままじゃあかん・・・」
亜子は布団に包まっていた。まき絵のいない部屋は恐いほど静かで暗く、空気は亜子の心にじわじわ染みみ込んで、孤独と不安をゆっくり増幅させる。


本来なら今夜は、横には自分を包んでくれる恋人が居る筈だったが、亜子はそれを拒んだ。
拒まざるを得なかった。
かばっ、と亜子はベッドから起き上がる。
「このままじゃあかん!」
亜子は叫んだ。自分に向けて。


亜子は、男の子と恋愛がしたかった。


亜子は女好きではなかった。


・・・昔、亜子には好きな同級生がいた。サッカーが上手な憧れの人だったが、亜子は事故によって傷を負いサッカー生命を断たれ、同時に失恋した。


様々なモノを同時に失った亜子の心の傷は男性への恋愛感情への恐怖に結びついて、結果として亜子は同性愛に逃げた。
そして楓を好きになった。楓を愛している。それは間違いない。
しかし楓と付き合い始めて心に余裕ができると、封印していた男の子への恋愛感情が芽生えてきた。
好きな人は楓に違いないのだが、恋愛したいのは男性だった。実際の恋人が恋愛対象から外れている矛盾に、亜子は苦しんでいた。


・・・楓が、男になってくれたらいいのに───


本気で歪んだ妄想を抱くようになり、それから亜子は楓を避け始めた。


恋愛感情の有無は別次元の問題で、もう別れるしかないと亜子は考えていた。
しかし、今まで一度も楓をイかせられなかった事実が、その決断を鈍らせていた。

楓を含むこの世の全ての人間が、傷モノの肉体では感じてくれないのではないか?

絶望に近い想像が、亜子の心を掻き回していた。
楓と別れて一人になる。
男の子に相手にもされない自分。孤独。怖い。
亜子は思考力を総動員して、不安を払拭する方法を考えていた。


──日曜日──

ネギは学園の生徒相談室にいた。

「ネギ先生、誰にも聞かれたくない相談があるんです」

昨夜、電話で和泉亜子にこう持ちかけられたネギは、亜子のリクエスト通りに休日に、部屋を一つ用意して当人を待っていた。
「・・失礼しまーす」
ドアを開けて、亜子が入ってくる。
亜子は微笑して一礼すると、まずネギを見、続いて周囲を見、扉から顔を出して廊下を見、再度ネギを見て、
「約束通り、先生だけですね」
優しくそう言って、ガチャリ、と入り口を施錠した。
「い、和泉さん!? いったい何を───」


ネギは驚いて飛び上がった。亜子がいきなり服を脱ぎ始めたのだ。
わずかに膨らみを帯びた胸が、細い腕が、よく引き締まった脚が、瑞々しい白い肌が、纏った衣を一枚ずつ失い、無防備な亜子の肉体がそのままネギに解放されていく。
胸に淡い桃色の突起が見えて、ネギは目のやり場に困った。
そして脇腹には皮膚が裂け、肉が歪に再生した痕───その傷はまるで水晶玉に走った一筋の罅のように、圧倒的な存在感で亜子の肌に刻まれていた。


生まれたままの姿の亜子は仄かに顔を赤くすると、少し恥ずかしそうに両手を広げ、困惑するネギの前で呟いた。


「先生で試させてください・・・男の子が、ウチに、感じてくれるかどうか・・・」


不安に押し潰され、亜子は最後の手段に出た。


・・・
・・・
「・・・」
亜子を尾行していた楓は、天井裏で成り行きを見ていた。

───第四話・完

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最終更新:2012年02月06日 22:29
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