01スレ624

624 亀井ぐりら ◆83gthwEldc sage いざ千雨SS 03/06/01 03:52 ID:qt7ioRzM

「撮影会開きます」
タグを打ち終えアップする。
天井を向いてふーっ、と一息つき、そして独り呟く。
「つ、ついに…やってしまった…」
いそいそとブラウザを立ち上げて確認する。
「アホか私は…」
思わず頭を抱える。現実には手を出さないってマイルールを押しのけて、虚栄心が前に出てしまった。
とにかくも来週の日曜日は…

東京某所。丈の短い深紅のワンピースに身を包み、長谷川千雨は立っていた。
荷物は全て駅のロッカーに預けてある。
「確か…この辺で…」
見回すと10人くらいの人だかりを発見する。全員カメラ持ちだ。
「げっ…私、人ごみ苦手なんだよ…」
それも自分の下僕だと思えば幾分気が休まるような気がした。
たったっと足取り軽く近寄る。そして大きく息を吸い込み、声帯の形を変えて発音する。
「おハローっ、みんなっ」
お決まりの挨拶。バカバカしい。そして…
「おぉーっ!ちうタンだっ!」
「ちう様って言おうよ…リアルじゃさ…」
「リアルで見ても最高だぁーっ…」「ちう様ー!」
瞬くフラッシュ。計算し尽くされた事象。分かりきっている。
「ちうは今日も綺麗かなーっ?」
再び発声する。
「最高でぇーっす!」
「綺麗だぁーっ!」
怒号にも似た返答。扇動とはこういうものだ。
Vサインを額に当ててポーズを決める。再び瞬くフラッシュ。
「ちょっとここじゃ人の邪魔になっちゃうから、公園にでも移動しようよっ♪」
「はいっしまぁーっすっ!」
なんて操りやすいんだ…内心ニヤつきながら足を向ける。

と、ドンッと目の前に迫っていた男達に気付かずその中の一人に思い切りぶつかってしまう。
「あっ…」
相手がじろりと見下ろす。
「あ?何だ?俺の顔に用でもあんのか?」
ねめつけながら絡んでこようとする。
「い、いえ…」
こういうのは相手にしない。これに限る…
「ちう様にぶつかっといてその言い草かよっ…!」
しかし後から叫ぶ声がする。相手の目付きが変わる。
「あ?お?やんのか?誰だ?今ヌカしゃがった奴ぁ…」
千雨の体を押しのけ、後ろの下僕達に近寄る。
「お、俺だっ…文句あるかっ…!」
強がって見せる叫んだ者。
「…フザけんなコラァッ!」
男の拳が下僕の一人の腹にめりこみ、下僕は前に体を折ったままドッ、と音を立てて地面に倒れる。
「お、お前ぇぇぇ・・」
他の下僕達が殺気立つ。
が、男がポケットからフォールダーナイフを取り出して刃を開けると空気が静まり返った。
数秒間の沈黙。街の音が空間を包む…
と、下僕達の後ろの方で
「…もしもし…警察ですか…?今、ナイフを持った男が街で暴れてて…。
 場所は…」
という声がする。
「誰だっ…警察なんか呼びやがってっ…!」
逆上した男が下僕達に足を向ける。
手にしたナイフを見て下僕達が後ずさる。
男がナイフを振り回すフリをすると、悲鳴を上げて一目散に逃げ去った。
中には「ちうターン、ゴメーンッ!」と叫ぶ者もいた。

「けっ…テメーラで絡んできといて何が警察だよ…
 今の見たかよ?」
男が後ろを振り返り、ドッ、と仲間と笑い合う。
私を置いて逃げるなんて…。
予想外の出来事に呆然としながら、走り去り、町の雑踏へ消えていく背中達を見る。
「なァ?あんな腰抜け達とナニしてたんだ?お嬢ちゃん?」
「お前、その言い方キモいぞ…」
仲間の野次も相手にせず千雨の顔をのぞきこむ。
「俺達と一緒に行こうぜ」
手首をぐいっと掴むと、そのまま仲間の方へ戻り始める。
「あ、…ちょっ…ちょっと…離してっ…」
千雨の抵抗も空しく、ぐいっと引っ張られていく。
「よっしゃ、いいもの拾ったところでひきあげようか!」
男達の舐めるような視線にほとんど生まれて初めての焦燥感を感じながら、
警察が一刻も早く男達を追ってきてくれることを千雨は願っていた。

東京、某河川敷、ほぼ同時刻、ネギは鼻歌混じりに河原を散策していた。
「ふー…東京でも河はまだましな方だなぁ…でも空気はどうしようもないのかなー…」
空と地面を見比べながら、橋の方へ歩いていく。ふと、橋の上を通りかかった車の中に、
どこかで見たことのある少女の顔を見つける。必死で窓をドンドンと叩いている…
「……誰だっけ…」
んー…と首をかしげながら、今まで出会った生徒の顔を一人ずつ思い出す。
「…あ!千雨さん、長谷川千雨さんだっ…」
それが何故、窓を必死で叩いているのだろう。
ほぼ間違いなく何かまずい事態なのだ。
たっ、たっ、と大きくステップを踏んで跳び、橋の欄干の上に躍り上がる。
足に徐々に”力”を入れて加速する。すぐに車の横に追いつく。

「どーしたんですかっ?長谷川さん」
大声で呼びかける。
車内で暴れていた千雨が目を丸くしてネギを見つめる。
それも束の間窓にすりよって、ドンドンと叩く。車の中の男達もネギを見詰める。
が、運転席に座っている男がぐっ、とアクセルを踏み込み、スピードを上げる。
まずい…このスピードじゃ杖でも追いつけない…。
アレを使うしかっ…
「ラス・テル、マ・スキル…」
思考を終える前に口の中で呟き始める。
「光の精霊11人!集い来たりて敵を射て!!魔法の射手!!」
呪文の詠唱と共に揃えた右手の人差し指と中指から閃光が飛び、
男達の車の前輪のタイヤに突き刺さる。
パーンという破裂音と共に、橋の上で車が大きく車体を振って半回転して、進行方向と逆に向く。
後ろから走ってきた車に正面からぶつけられる。
広まるクラクションの音。フロントが大破してしまった車に駆け寄りドアを開ける。
頭を振り振り思考をまとめようとする男たちの手から千雨の体をもぎとって車の外へ出る。
そして橋の上から河原へ飛び降りる。あまりゴタゴタには関わりたくない。

橋の下の河原で千雨の手当てをする。すでに気絶していた。
一応、治癒魔法をかけとこうっと…。千雨の喉に手を当てて掌に意識を集中させる。
ネギの体から流れ出た魔力が千雨の体を覆っていきぼんやりと光を放つ。
そして徐々に光が染み込み千雨の体に同化していった。
「…さてっと…これからどうしようかな…長谷川さんをおぶって帰るのは…
 ちょっと疲れるな。…しょうがない、まだ昼間だけど…」
手にした杖を宙に浮かばせる。
千雨の脚を揃えてひざ裏に杖を通し、自分も杖に腰掛ける。
そして千雨の肩を掴んで支え、もう一方の手で杖を掴む。
杖が宙を滑り始める。
徐々にスピードを上げて河原の上を走る。そして角度をつけて空へ向かう。
ネギは空を飛んで麻帆良学園へ帰る間、千雨の顔を見続けていた。静かに寝息をたてている。
何があったんだろう…多分あの男達に連れ去られるところだったんだ…
でも助けることができて良かった…。ほっとしながら、目的地を目指す。


寮の芝生に降り立つ。幸いにして誰も見当たらない。ネギは両手で千雨の体をかかえると
千雨の部屋へと走った。ドアを開けて靴を脱ぎ、ベッドへ向かう。千雨を寝かせて布団をかけると
パソコンデスクから椅子を拝借して腰掛ける。
さて…とネギは考えた。魔法使うとこも見られてるし、残ると辛い記憶もあるだろうから…。
ふと浮かんだ考えを振り払う。いやいや…どうせ記憶消すのは失敗するんだ。
…とりあえず、目を覚ますまではいてあげよう…

「ん…?」
ここは…この天井は…私の部屋だ。何かを思い出そうとすると思考がかすむ。
「あ、長谷川さん、気が付きましたか?」
顔を横に向けると、子供教師がイスに座って私の顔をのぞき込んでいる。
私は…
思考が完成する前に子供教師がイスから立ち上がる。
「僕、部屋に戻ってココアでも入れて来ますね…」
背を向けてドアへ向かう子供教師の後姿と、記憶の中の逃げ去っていく私を慕っていた男達の姿が重なる。
「ま、待って…先生…」
「え…?」
千雨はベッドから飛び出してネギの体を抱きすくめる。
そして呟く。
「ひとりにしないで…」

(続く…)

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最終更新:2012年02月06日 22:55
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