01スレ721

721 第六話 ◆DLUg7SsaxM sage 03/06/15 16:04 ID:w1LUOn3K

「ひ、ひぃ、だ、誰か、助けて―――っ!」
少年が薄暗くなった公園を走っていく。その後を、もの凄いスピードで黒い影が追って
いく。少年が助けを呼ぼうと携帯電話を取り出す。そして通話ボタンを押そうとした瞬
間、ぱぁん! と乾いた音を立てて液晶が粉々に砕けた。
「ひぃぃぃぃぃぃっ――――!!!」
少年は腰を抜かして崩れ落ちた。自分の携帯に斜め上から飛来し打ち抜いたそれは、―
――忍者などがよく使う「手裏剣」と呼ばれる攻撃用暗器だった。
黒い影が近づいてくる。恐ろしく攻撃的な気配が、少年の周囲を目にも止まらない速さ
で飛び回っていた。風の切る音がしたかと思うと、自分の髪の毛が宙に舞う。肩からぶ
ら下げていたカバンが、突然切り裂かれて中身をぶちまける。
「や、止めてくれぇー――っ! 俺が、俺が何をしたってんだよ―――!」
(自分の胸に聞いてみるでござるよ―――)
とてつもなく至近から聞こえてきた声、しかし振りかえると姿はない。
少年は思いもよらなかっただろう。
まさか、自分が小学生時代に「グロ傷」呼ばわりした少女がそれが大きな原因となって
歪み、女好きになって甲賀の忍者と恋人になり、甲賀の忍者に思い出話として少年の事
を伝え、そして忍者と別れ、別れた忍者が少女の気兼ねなく報復にやって来た、
などとは夢にも思わないことだろう。


(お主にはこのウルシの汁やら動物の脂やらを混ぜ合わせた、塗ると数倍に腫れ上が
って、かゆくてかゆくて堪らなくなる液体をプレゼントするでござるよ……)
そんな声が聞こえると同時にベルトが切断され、ズボンが下がった。黒い影が目ざとく
少年のペニスをねじり上げ、少年の自由を奪う。黒装束に身を包んだ人物が手袋越しに
毒薬の入った瓶を傾けると、脂ぎった刺激臭のする粘液がどろりと零れ落ちた。
「ひい、ま、まさか俺のち●こにその、黒いどろどろしたのを塗るつもりか!? ま、
待ってくれ。頼む。止めろ! 止めてくれぇ! やめ、ぎゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――!!!!!!!!」
亀頭にどろどろした黒い滴が落ちた。黒装束はそれを擦り込むようにペニスを両手で丁
寧にしごく。しごかれる度に少年のペニスに針で刺されるような痛みが走る。脂ぎった
汁に塗れてペニスはびくびく痙攣し、空気に触れると猛烈なかゆみを引き起こした。
(一生の傷よりかはマシでござろう……もっとも寮でその腫れ上がったちん●を隠し
ながら生活するのは無理でござろうがな。腫れが治まるまでの一週間ほど、自分の身体
的な問題を笑われる屈辱と痛みを、たっぷりと味わうでござるよ――――)
そう言って影は消えた。
後にはただ、股間を押さえてのたうちまわる少年が残されていた。

少年は一週間、学校に来られなかった。
…………………………
……………


その日の麻帆良学園は暖かい陽光に包まれていた。時間は昼休み―――友人とお弁当を
見せ合う者、中庭や運動場で元気に球技に興ずる者、五時間目提出の宿題を必死にコピ
ーしている者、寝ている者、各々が他愛のない時間を過ごしていた。
そんな賑やかな日常から少し離れた場所―――鬱蒼と茂った木陰の下に、忘れられたよ
うに古ぼけたベンチが一つ、ぽつんと放置されていた。塗装は所々剥がれて赤錆が浮か
んで、席には周囲から舞い落ちた葉が積もっていた。
「…………」
遠くから聞こえてくる生徒たちの声を聞きながら、和泉亜子は一人でそこに腰掛けてい
た。穏やかな風が吹いて木々がさわさわと揺れ、目の前に葉が数枚落ちてきた。
「…………」
まるで学園の日常から隔絶されたような、ゆっくりとした時間が流れていた。


「和泉さん」


手に書類を持ったネギが、亜子の前に歩み寄る。亜子はゆっくりと顔を上げた。
「今日は、佐々木さんたちと遊ばないんですか?」
「まあ、一人でいたい日もあるさかいに。特に今日みたいな、大切な日は―――」
亜子はそう言って微笑んだ。ネギはちょこんと亜子の横に座る。
「長瀬さんとは、あれから―――」
「何も、ないですよ」
亜子は寂しそうに、しかしどこか安心しているように笑った。
「普段通りに教室で会ったら挨拶して、休み時間に談笑して、帰るときにサヨナラ言っ
て、それで、お終い。あれから関係持った日は一日も無いし、楓も何も言わへん。ネギ
先生が心配せんでも、変な事にはなってませんよ」
「でも、驚きました。長瀬さんが……その、あんな事をするなんて―――」
ネギは言葉を選ぶように、ゆっくりと亜子に言う。
「いつものほほんとしている人だったから、あんな過激な面があるのは意外でした」
「不思議なん?」
亜子はネギの顔を見て、首を傾げた。


「すいません……僕には、理解できません。和泉さんも長瀬さんも」
心底すまなそうにネギは言う。亜子はくすくす笑った。
「そうでしょうねぇ……ネギ先生は普通と違うけど、マトモやから」
「先生失格ですね……僕」
肩を落としたネギの手を優しく握って、顔を覗きこむように亜子は言う。
「そんな難しい話やないんですよ―――」
「………」
「ウチらは毎日お喋りできる友達と、温かい恋人と、そして―――自分を「理解」して
くれる人が一人いれば、それで笑って生きていけるんです」
「………」
「そして楓はウチを肯定してくれました。これはそう、それだけの話です」
「………」
それはあまりに爽快で、重い宣言だった。
「和泉さん、この書類を渡しておきます」
嫌な空気を破るように、ネギは持っていた書類を渡す。
「それで和泉さんの要望は完全に叶いましたが……本当にそれでいいんですか?」
「これでええんです。「辞める」にも「変わる」にも担任の承認がいりますから。
これでいい。ウチはこれからも、恋人ではなくなっても楓の傍にいます。そう決めま
したから」
亜子のその言葉には、確かな決意が感じられた。ネギは諦めたように首を振った。
「和泉さん、どうしてですか? 「それ」は和泉さんの大切な居場所でしょう?」
「ウチの居場所は楓の傍です」
「和泉さん。あなたは」
「間違ってるのかも、知れませんね」」
亜子はベンチから立って、書類を確認しながらネギを見て笑う。
「ただ―――ウチが楓を肯定したらんで、誰が楓を肯定します?」
ウインクして、亜子は言った。

「ウチと楓の関係は、それだけの話ですよ」


さんぽ部、それはバカな話をしながら学園を闊歩する部である。
「え、ええ―――?」「なんで? どうしてぇ?」
その「新入部員」を見て、鳴滝姉妹が驚きの声を上げる。部長が新人を紹介する。紹介
が終ると、他の部員から歓迎の拍手が上げる。和やかな雰囲気。さんぽ部の部員たちは
笑顔で少女を迎え、少女も笑顔でそれに応じる。
そんな中で長瀬楓は、呆然の態で立ち尽くしていた。
少女が近づいてくる。すぐ前に立って楓を見上げる。
「サッカー部はどうしたでござる?」
楓が問うと、少女は応える。
「辞めてきたよ。それでさんぽ部に入った。ネギ先生の許可もとったし」
楓は怖気づいたように、少し後退した。
それもそのはずだった。楓は少女と、数日前までは恋仲にあったのだから。そして数日
前にその関係は破綻し、その少女と楓はお互いの歪みを曝け出して愛し合い、傷付け合
って、そして別れたのだから、関係は終ったはずだったから。
だから楓は、その少女の考えが分からなかった。
「怖いの? なんで? 恋人やなくなっても、一番好きなのは楓なんよ」
楓にのみ聞こえるような、小さい声で言う。
少女は近づき、楓の手をとる。楓が最も好きだった少女の手は、いつも通り白くて繊細
で華奢で細く、握るだけで気持ち良くなれる。
恋仲だった頃とまるで変わっていない、楓が泣く泣く諦めた温もりだった。
楓は目眩を感じてよろめいた。
「お主がサッカーを辞めて? ここに? 拙者は……悪い夢を見ているでござるか?」
少女―――和泉亜子はにっこりと微笑んで

新たな関係の始まりを、告げた。



「夢より酷な、現実やよ」


                            ≪……happyend?≫

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最終更新:2012年02月06日 23:14
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