30スレ247

リボンなナイト09 第四話

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「…ぶわっ、ちっ!」
「ちょっ、大丈夫!?あつっ!!」
「おいっ!?」

小太郎がうっかりすすり込んだ熱いコーヒーに咳き込み、
カップを放り出してしまった小太郎の顔から血の気が引く。

「大丈夫…ぶわっ!」

とっさに駆け寄ろうとした小太郎の視界が不意に白くなった。

「あー、大丈夫か?その、痕とかなってへんか?」

顔に掛かったバスローブを剥ぎ取り、慌ててそっぽを向いた小太郎が聞いた。

「んー、残っちゃうかもねー」
「えっ!?」

しんみりした円の言葉に、思わずそちらを見た小太郎はにこにこ微笑む円の笑顔にきょとんとする。

「大丈夫、別にヒリヒリもしないし」
「なんや」

ほっと胸を撫で下ろす小太郎の額を、円がちょんとつついた。

「随分進歩したねー、女の子のお肌気にするなんてー」
「それは、まあ、俺のドジやし…」

もごもごと言う小太郎の前で、
先ほどまで髪を拭いていたバスタオルを体に巻いた円がふふっと笑った。
そして、円の視線が、
歴戦の経験で熱さと共にバスローブを脱ぎ捨てた小太郎の下から上まですーっと這い昇ると、
途端に小太郎は真っ赤になり身をよじる様にそっぽを向いた。

「悪い…」
「あ、いいっていいって、男の子なんだからそーゆー事もあるって」

ぽつりと謝る小太郎に、慣れていると言う訳でもない円が精一杯のフォローを入れる。

「んー、ちょっとこの格好は男の子の前で失礼だったかなー、ごめんねー」

そう言いながら、小太郎がチラッと後ろを見た時には、
円は確かめる様にバスタオルの胸元を引っ張っていた。

「い、いや、別にくぎみー姉ちゃんが悪い訳ちゃうし」
「くぎみー言うな」
「ああ、悪いっ、つっ」
「もーっ、そんなぺこぺこしない、そーゆー子じゃないでしょコタロー君は」
「なんやねんホンマに」

脳天を拳でグリグリされ、振り返った小太郎が円の澄んだ瞳を見る。
小太郎がちょっとの間見とれていると、互いにきょとんとしている事に気付き、共に吹き出した。

「んー、見たかったー?」
「んー、まあ、なんつーかやっぱ俺も男やし。って言うのか?」

ちょっと前屈みになって形のいい膨らみの谷間を見せた円に、
小太郎が上を向いて、歩く事なく精一杯の軽口で応じる。

「………」

くすくす笑っている円をちょっとまぶしそうに眺めていた小太郎は、口を開いた。

「あー、くぎみん姉ちゃん」
「く、ぎ、み、ん、言うな」
「アタタタ、すまん…」

コメカミをダブルグリグリされて、小太郎がうめき声と共に謝る。

「で、何、改まって?もしかバッチリ円お姉様の美乳を見せて下さいとか?」

何となく場の雰囲気に当てられている事を自覚しつつ、円が言う。


「あー、くぎ…円姉ちゃんが惚れとるのってあれ、あのオオガミコジローとか言うスカシた兄ちゃんやろ」

言わなければならない気がした。一瞬殺気がかすめたが、
夏美や愛衣がいて、恋する乙女の表情と言うのが僅かにでも分かった気のした小太郎は、そう感じていた。

「オオガミコジローはここにいるでしょ?」
「明らかに別人やん」
「でも、オオガミコジローはコタロー君の事でしょ?」
「いや、まあ、それはそうやけどな、そのあれや…」
「何?コジローに嫉妬した?とかって、自分で嫉妬とか言ってるのってどんだけってね」
「円姉ちゃんは綺麗やと思う」
「…そりゃどーも」

目をぱちくりさせた円がにこっと笑って答える。

「いや、マジで言ってんやけど」
「分かってるよ、別に私にお世辞言う必要もないしねー、特にコタ君の性格だと」
「ああ。円姉ちゃんは綺麗やと思う。
で、あれや、なんつーか、正直嬉しいは嬉しいんやけどあー…」

頭の中がまとまらず、その表側の黒髪をくしゃくしゃかき回し始めた小太郎を、
円は微笑んで眺めていた。

「小太郎君の事、好きだよ」

小太郎が顔を上げる。精一杯、必死の思いを直球で返した、そんな円の微笑みだった。

「私は、小太郎君が、好き。
まー、ちょっとバカっぽいけど今時珍しい硬派で逞しいし、
それに、優しいし、やっぱほら、中身に惚れちゃったって奴?」
「優しい、俺が?」

最後はアハハと照れ笑いしていた円が、小太郎の問いにっこり笑ってこっくり頷く。

「小太郎君、ここに来るまでは色々あったとか、いや、夏美とか喋った訳じゃないよ。
あの夏から今まで、ずっと一緒にいたら嫌でも耳に入って来るから。
ちょっと聞いたぐらいで私がなんか言う事じゃないかも知れないけどさ、
やっぱ、嫌な事でも糧になってるとかそういう事もあるのかってね、
小太郎君、根が真っ直ぐだと思うから、そういう事あって優しくなれるんだって。
やっぱ躾けが良かったのかなー、なんせ那波さんにいいんちょでしょ、
で、夏美もね、しっかり尻に敷かれてるし」
「誰がやねん…そやなー」

そう言って、二人は向かい合ってくすくすと笑い合った。

「大好きな男の子とホワイトクリスマス」
「土砂降りやけどな」
「そーゆー事言わない。女の子憧れ最高のクリスマスだから後悔しない」

きっぱり言い切る円を、小太郎はほれぼれと眺めていた。
そして、どちらともなく唇を寄せていた。

「あったかくて、柔らかいなぁ円姉ちゃん」

唇が離れた時、円と抱き合った小太郎が口にした。

「やっぱ逞しいよ、小太郎君」

ご機嫌な円を前に、小太郎は、間一髪語尾の「も」を発音前に消去した事に心の中で胸を撫で下ろしていた。

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最終更新:2012年01月28日 14:19
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