48 夕映@座薬 sage 03/07/26 16:40 ID:KzNCAQZ3
恋をした、までは良かった。
「い、今、なんて言ったの? …………夕映」
ハルナが、それだけ言った。
目をぱちくりさせている早乙女ハルナと、無言で立ち尽くしている宮崎のどかの前で、
綾瀬夕映は拳を固く握り締めて、目眩を覚えるほどの居心地の悪い空気の中に立っていた。
「今、言った通りですよ。パル」
再び、沈黙が場に満ちていく。
耐えきれずに、夕映は口を開いた。
「私は、ネギ先生の事が、好きです」
のどかは何も言わない。
夕映も、もう何も言えない。
(………どうなるのよ? これ)
ハルナはただひたすらに、沈黙が過ぎ去っていくのを願うしかなかった。
のどかは何も言わない。
夕映も何も言えない。
…………
……
…………
…………
それはいつも通りの、平和な朝の通学風景の一つだった。
綾瀬夕映は他の生徒たちよりゆっくりとした調子で、学園への道を歩いていた。時々
足を止めて、ちらちらと後ろを確認する。待っているのは、いつも教室で夕映を指導し
てくれている、あのお子様先生だった。
(あ、来ました…………)
どくんどくんと、心臓がひときわ大きく鳴り出した。胸が見えない誰かに圧迫されて
いるように苦しくて、夕映はゆっくりと息を吸って吐いた。
ネギ(と明日奈)が、まるで風のように軽やかに走りながら、夕映の横に立った。
「あ、綾瀬さん。おはようございます!」
声をかけられた。挨拶をするだけなのに、夕映の頭の温度が上昇する。
「お、おはようございます、です」
できるだけ平常心を保って挨拶を返した。顔は赤くなってなかったか? ネギの前で
夕映は、自分の表情がとても気になるようになった。
ネギはどこか大人びた微笑を夕映に見せた。しかし―――
「やっほー、せんせ!」「おっはよぉ! ネギ君」
ネギがこちらを見てくれたと思ったら、間に椎名桜子・佐々木まき絵の罪のない笑顔
が割り込んできた。
「おはようございます! みなさん―――」
ネギもそのまま、夕映に向けた視線を彼女達に移してしまう。
ずきり、と胸が痛んだ気がした。ネギが自分を見てくれずに、他の女の子と仲良くし
ているのが、夕映には少し辛かった。
ネギは教師で彼女達は生徒であり、仲良くするのはある意味で当然の事ではあった。
しかし嫌だった。今までは当たり前だった事を、夕映は激しく否定したかった。
(先生………私はどうすればいいですか?)
それは理屈では説明できない感情だった。
ネギに自分を見て欲しい、自分を知って欲しい、自分を、もっと、もっと、もっと、
もっと………。
今やその願望は、夕映の心に焦げ付いていた。
走っていくネギの後姿を見つめながら、夕映はその場に立ち尽くす。
気持ちに気付いてから、ネギとの距離が遠く感じる。
「バカリーダー、お腹痛いでござるか?」
「えっ……あ、ああ、長瀬さん、大丈夫です、ありがとう」
後ろから来た長瀬楓に声をかけられて、夕映は曖昧に肯いて歩き出した。
…………
…………
どうしてそうなったのかは、分からない。
図書館島でおんぶをしてもらった時に、あの小さな背中に何かを感じたのが最初だっ
た気がする。気が付くとそうなっていた。
親友の、ネギを想う気持ち気持ちは理解できる。しかし、自分の気持ちはきっと、そ
れに勝っていると思う。この、自分を狂わせんばかりの純粋な感情は、世界で何よりも
醜くて、美しいに違いない。
綾瀬夕映は、ネギに恋をしていた。
…………
…………
その日の晩も夕映はベッドの上で、ネギを想いながら自慰に耽っていた。
「ふっく、ぅ、あ、ああっ、っ、あっ」
乱暴とも言える速さで、指が濡れた性器を掻き回して快楽を生み出していた。まだ膨
らんでいない乳房を、大きくなって欲しいというささやかな願いをこめながら揉んで捏
ねまわし、乳首を軽く抓って刺激を愉しむ。
男の人は巨乳好きが多いと聞いていた。ネギがどうなのかは分からないが、それでな
くとも夕映の胸は貧相だった。手に簡単に収まってしまう柔らかい山を、夕映は強すぎ
るぐらいの力で握り締めた。ネギに見られて恥ずかしくないぐらいに育って欲しい。甘
い快楽と、ほろ苦い願望が胸の中で混ざり合い、それはネギへの想いに合流して、更に
性欲を増幅させていく。
夕映の小柄な裸体がベッドの上で淫靡に動き、喘ぎ声を漏らして身悶える。
「ふうっ、ふうっ、ふうっ、ふうっ、ふうっ、ふうっ、ふうっ……………」
夕映の目が快楽に潤んでいくが、その目は興奮した獣のようにぎらぎらとしていた。
頬が紅潮し、喘ぎ声を漏らす口からは、涎がだらしなく垂れている。
階段を駆けあがるように、指の動きが激しくなり、呼気がだんだん荒くなる。
哲学と文学をこよなく愛した、理知的な夕映は其処にいなかった。胸や股間を延々と、
弄る事しかできないロボットのように、貪欲に快楽を求め続ける。
肉体が限界に達して、精神が焼き切れるまで、ひたすらに続ける。
「あ、あ、ああぁっ あ、あふあぁあっ ふあぁぁあ、あぁ、あ、ふう、ふう、ふあ、
あ、ぁあ、あっ、あっ、あっ」
普段の物静かなイメージからは想像もできないほど、夕映激しく乱れていた。全身に
べっとりと汗が纏わりつき、爆発しそうな感覚が近づいてくる。夕映は目を見開くと、
掻き毟らんばかりに性器を弄くり回した。甘い刺激が許容量を無視して、連続して押し
寄せて夕映の精神を押し流していく。
「はぁぁぁぁ―――――ぁああっ――――っ」
絶頂を向かえて、指の隙間から愛液が、勢いよく飛んだ。
夕映は荒い呼吸を繰り返して天井を見つめる。
何も考えられない空白の一瞬、それが過ぎて理性が回復してくると、再びネギへの想
いが心の奥から沸き上がってくる。
「ネギ先生……」
脇に転がっていた枕をぎゅう、と抱き締めて夕映は、消えそうな声で呟いた。
…………
…………
そして夕映は、ついに決意した。
のどかに、自分の正直な気持ちを告白した。
嫌われるのは覚悟の上だった。
本心を胸の中に隠し通し、のどかの恋を応援する―――それは一つの選択肢であり、
夕映はそれを否定はしないし、理解もできる。
しかし夕映は、親友ののどかに、本心を言わなければならない気がした。これから夕
映はきっと、行動せずにはいられないからである。
「―――夕映さん」
のどかが沈黙を破って、夕映に語りかける。前髪のせいで表情は見えない。
「のどか、怒りましたか? ―――私のこと、嫌いになりましたか?」
いつもと変わらない夕映の口調、しかし聞く者が聞けば、その声には夕映の不安と、
緊張が確かに混ざっていた。
「びっくり、しました―――」
のどかが夕映に、ゆっくりと近づいていく。
「だって、夕映さんて、まったくそんな素振りを見せていなかったですし―――。寮で
も学校でも、そんな事、一言も―――もしかして、私に気を使ってくれていたんですか
―――?」
「………」
沈黙は肯定。
「やっぱり、ショックです―――。ショックが無いなんて言ったら嘘になっちゃいます
―――。夕映さんて、思っている事をきちんと口に出して話せるし、思い立ったらすぐ
実行するような行動力もありますし―――。不安です、もうどうしていいか分からない
ぐらい不安です―――。でも」
のどかは、夕映の前に立って、にっこりと微笑んだ。
「私は、ネギ先生が好きです、ううん、大好きです―――。でも、だからこそ、ネギ先
生の良さを分かってくれる人も大好きです―――。いいんちょさんも、まき絵さんも、
明日菜さんも大好き…………勿論、夕映さんも。嫌いになんてなるはずありません――」
「のどか……」
「今日から、ライバルですね―――」
ああ、そうだった、と夕映は思った。
のどかは、こういう娘なのだ。
何を怯えていたのだろう………
「フェアに、闘いましょう……」
夕映は軽く目を擦ると、微かに微笑んでのどかと握手した。
友情を確かめるように、お互いを認めるように。
…………
…………
「ネギ先生も罪だねぇ……」
早乙女ハルナは二人の横で、どこか遠い目で、窓から夕日を眺めていた。
to be continued
最終更新:2012年02月06日 23:27