30スレ281

リボンなナイト09 第八話

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元々、あやかは面倒見がいい。
小太郎が気が付いた時にはあやかにほこほこと体を拭いて貰い、
パジャマに着替えてリビングに戻っていた。
リビングで、ちょっと照れ笑いを浮かべたあやかがちょこんと手を振り、自分の個室に引っ込む。
やっぱり照れ笑いを浮かべて手を振っていた小太郎は、リビングに取り残されるや腕組みをして唸っていた。

「あやか姉ちゃんって、あんな可愛かったんやな…けど、この状況って…」

何か、自分がとてつもない戦場に足を踏み入れている様な予感に、小太郎はごくりと息を呑んだ。
ガチャリと開くドアの音に、小太郎がハッと玄関を見る。

「たらいまぁー」
「おう、ちづ姉…っておいっ」

小太郎が出迎えると、サンタ服を身にまとった千鶴がにへらっと笑って倒れ込む所だった。

「どわっ!」

そんな千鶴を、前に回った小太郎が辛うじて支える。

「んー、コタロー君♪」
“…うわっ、こんだけ着込んでるのになんかぐにゅってやっぱ…いやいやそうやなくて…”
「おいおい、どないしたん」

すっかり色気づいた頭をぶんぶんと振り、小太郎が千鶴に声を掛ける。

「コタローくーん…うにゃー」
「あちゃー、なんやこれ?」
「あら♪」

仕方なしに小太郎が千鶴の背中と太ももを下から支えてひょいと持ち上げ、
千鶴のにこにこ顔を見て嘆息した。


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「ほれ、水」
「んー、ありがとーコタローくーん」

個室ベッドの上の千鶴に小太郎がミネラルウォーターのペットボトルを渡し、
ちょこんと座った千鶴が喉を鳴らした。

「ホンマ、どないしたん?」
「失礼しちゃうわねー、クリスマス会の後の打ち上げー、
一緒だったよその園の人がねー、私にフツーにお酒とか飲ませるのよー」
「なんやそれ」
「んー、野菜たっぷりのスキヤキパーティーだったんだけどねー、
私の事フツーの先生と間違えてー、私もジュースと間違えちゃったのー」

ケラケラ笑う千鶴の前で小太郎は嘆息し、相手の命運に僅かばかり思いを馳せる。

「んー…」
「なんや、寝たんかいな…」

ベッドの縁に座った小太郎が、ベッドの上に寝転がったまま寝息を立てる千鶴の姿に嘆息する。

「おい、千鶴姉ちゃん、ちゃんと寝ぇへんと風邪ひくで…」
「んーコタロー君ー…」

ゆさゆさと揺すっていた小太郎が、千鶴の顔を覗き込む。
こうして見ると、美人だった。にこにこと幸せそうな微笑みを浮かべ、頬がほんのりと染まっている。
緩くウェーブの掛かった髪の毛がベッドで軽く乱れ、美人であり、可愛らしくもあった。

“…やっぱり…いい女なんやなぁ…”
「…どわっ!…」

改めて、自分が惹かれていた事を思いながらほーっと眺めていた小太郎は、
不意にぎゅっと抱き締められ悲鳴を上げた。

「な、何すんんぶぶっ!!」

そのまま、小太郎が口答えをする前に、その口は顔ごとぎゅーっと千鶴の胸に押し付けられていた。


「大丈夫よー」
「ん?」

千鶴の優しい声に、小太郎は抵抗をやめる。

「大丈夫よー、大丈夫」

千鶴の手が、小太郎の後頭部を撫でていた。

「大丈夫だから、いい子だから、ちゃーんとサンタさん来てくれますからねー、
大丈夫、だから大丈夫、サンタさん、来てくれるから大丈夫よ」

小太郎の両目からじわりと溢れた雫が、目の前の赤い布地に吸い込まれた。

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「んー?」

ベッドの上で、身を起こした千鶴が目をこすっていた。

「んー、コタロー君、泣いてるの?」
「な、泣いてなんてへんわっ!」

ベッドに座り込み、ぐしぐし目をこすりながら吐き捨てる小太郎を前に、
千鶴はくすっと笑みを浮かべた。

「だから、泣いてへんて」
「そうよね、コタロー君、強ーい男の子だもんね」
「あ、ああっ」

そんな小太郎の頭を、千鶴の掌が撫で撫でしていた。
そして、改めて優しく抱き締められる。

「でもね、強い子でも、たまにはいいでしょう。
今夜はクリスマス、特別な夜なんだから」
「ああ」

温かく、柔らかなものに包まれながら、小太郎は再びしゃくり上げた。
なぜ、こんなに涙が出るのか分からない。分からないけど嗚咽が止まらない。


「特別な夜か」

小太郎の言葉に、千鶴はにっこり微笑んだ。

「きゃんっ」
「悪い、痛かったか?」

ちろっと上目遣いに千鶴を見た小太郎が千鶴をぎゅっと抱き締め、
慌てた小太郎に、可愛らしい悲鳴を上げた千鶴は優しく微笑み首を横に振る。

「やっと、素直になれたのね」
「ああ、千鶴姉ちゃん。俺、千鶴姉ちゃん大好きやさかい」
「私も、コタロー君が大好きよ…何?…」

ふっと嘆息する小太郎に、千鶴が聞き返す。

「いや、なんつーか、ありがとな」
「どーしたのコタロー君、奥歯に物が挟まったみたいにっ」
「うぶぶぶぶっ!!わ、分かった、分かったっ」

ちょっとむっとした様な千鶴が、小太郎の頭をぎゅーっと抱く。

「いや、なんつーかな、千鶴姉ちゃんにしたら、
俺もガキらと一緒でみんな可愛いそんなモンなんやろなーって、
いや、ええねんでそれで、それでも千鶴姉ちゃんみたいになんつーか
綺麗で優しゅうてそんないい女に可愛がってもろて、それだけで俺なんかからしたらえらい贅沢な話言うか、
だからな、こんなガキのひねくれてひがんだ話気にせんでも俺すっごく感謝してるさかい」
「つまりー」

ベッドにあぐらを掻きそっぽを向いてもごもご言う小太郎に、
相変わらずにこにこ微笑む千鶴が人差し指を立てて言う。

「つまりー、コタロー君は、私の特別な男の子になりたい、そーゆー事ですかー?」
「んー、まあつまりー…」

もごもご言っていた小太郎が、にこにこ微笑む千鶴にじっと見られ、こくんと頷いた。


「小太郎君」

呼びかけに、前を向いた小太郎はすぐ目の前に千鶴の、優しい瞳を見た。

「小太郎君も忘れてるのかしら?」
「何がや?」

唇が離れ、ぽーっとしていた小太郎が聞き返す。

「私もまだまだお子ちゃまだって事、コタロー君には負けるけど」
「んー、どっちかって言うと…いえいえいえいえ忘れてませんですはい」

途中からブルブル首を横に振って答える小太郎に、千鶴はくすっと笑う。

「だから、まだまだお子ちゃまで、恋に恋して男の子の真剣な言葉に胸が揺れて、
そーゆー年頃の女の子、って自分で言うのもなんだけど、それ、分かってるのかしらコタロー君は?」
「すまん、その、半分ぐらい分かってへんかった。
いや、マジな話、ちづる姉ちゃん、ここで出会ってから凄く頼もしゅうて頼り甲斐あって、
俺なんか甘えっぱなしで、それに…」
「それに?」
「それに、最初に会った時、ケガさせてもうて、そんな俺を千鶴姉ちゃん何も言わんと受け容れてくれた。
その事、千鶴姉ちゃんが何て言うても忘れられへん。
だから、千鶴姉ちゃんにしたら俺なんかほんままだまだガキやて、
だから、あー、なんつーか男としてそんなガキな千鶴姉ちゃんを俺が守ってく言うのはやな…」
「それで、小太郎君はどうなの?」
「だから、俺は…俺は、ちづる姉ちゃんが好きや、大好きや」
「ありがとう」

前を向いて告げた小太郎を、千鶴は優しくその腕に包み込んでいた。

「それが、コタロー君。小太郎君の今の精一杯。精一杯一生懸命、ちゃんと前に進んでる。
今までは一人だったかも知れないけど、一緒に大人になる人がいても、いいんじゃない?」
「ちづ姉ちゃんはええんか?」
「まだ分からないかも、でも、大好きよコタロー君の事」

精一杯伝えた小太郎は、ふっと静かに笑みを浮かべる。


「ふふっ、ちょっと大人っぽい大人の微笑み」
「そうか?」

千鶴の言葉に、小太郎は少し気分を良くしていた。
もう、何番目に好かれているとかなんとか、アホらしくなった。
千鶴の大きな胸に抱かれるのなら、何百番目でも十分、お腹いっぱいありつけそうだ。
真っ赤な顔で、優しい眼差しの千鶴をちろっと上目遣いに見上げた小太郎は、
そのままぐいっと顔を上に動かす。

「んんっ!」

不意をつかれた千鶴が目をぱちくりさせる。

「んっ!?わ、悪い千鶴姉ちゃんやっぱ…」

唇を離した小太郎が言い終える前に、千鶴は小太郎の熱い頬を両手で挟み持つ。
されるがまま、小太郎は目を閉じて千鶴の柔らかな唇に触れていた。

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最終更新:2012年01月28日 14:30
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