891 「剣華繚乱・パイロット版」深紅 ◆1ZRuinS//g sage 03/10/09 23:33 ID:ouyUgats
麻帆良学園本校中等部3年A組出席番号15番、桜咲刹那。
華奢な肢体に似合わぬ太刀を華麗に使いこなし、凛とした涼風を纏う黒髪の少女。
京都神鳴流道場の女師範・青山素子に師事する彼女は、学園生活の中でも厳しい修行を欠かさず、天性の資質を開花させつつあった。
週末の休日を利用して、刹那は都内の神鳴流道場分館に通い、師範から直々に稽古を受けている。
中学生の身で剣の道を極めつつあるとはいえ、まだまだ恩師の前では赤子同然。
実際に剣を交えて擦り傷だらけになり、格の違いを思い知らされ、手合わせを終えた後で優しい言葉をかけられるたびに、刹那は楚々とした美貌の女師範・素子に対する敬愛の念を高めていくのだった。
素子もまた、妹のような愛弟子への想いを募らせ、煩悶とした日々を過ごしていた。
その日、道場では稽古を早めに切り上げ、門下生一同による大掃除が行われていた。
せわしなく響く拭き掃除や庭掃きの音を遠くに聞きながら、独りで物置を片付けていると、刹那は薄闇の中で一冊の古ぼけた帳面を見つけた。
表紙には丁寧な字で「青山素子」と記されている。
「…………」
ごくりと息を呑み、しばしの逡巡を経て、刹那は表紙を開いた。
他人の秘密を覗き見ることへの罪悪感に、素子のことなら少しでも多く知りたいという思慕の念が打ち勝ったのだ。
ひなたの匂いがする色褪せた紙の上には、漢文の書き取りが几帳面に並んでいる。どうやら素子が受験勉強に使っていたようだ。
ほっと安堵の息を漏らすと同時に、なぜか刹那の小さな胸には微かな物足りなさが去来していた。
ところが、そのまま何気なく目を通していくうちに、はたと彼女の手が止まった。
「こ、これは……?」
頁の中ほどを境にして、そこには刹那が予想もしなかった恩師の痴態が綴られていたのである……。
最終更新:2012年02月12日 20:55