G・Pen上の添乗 前編
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「これが、君の知りたかった事だよ」
フェイトは冷たい嘲笑を覗かせながら通り過ぎる。
その傍らでは、赤い岩山の地面に、
ネギ・スプリングフィールド従者ゆーな☆キッドがガックリとくずおれていた。
「う、あ…あああああああああっ!!」
「おいっ…きゃあああっ!!」
絶叫が岩山に轟く。低い姿勢から、裕奈が猛然とフェイトに駆け寄る。
割り込もうとした焔が、悲鳴と共に吹っ飛ばされた。
「貴様っ…」
火球を手に裕奈に駆け寄ろうとした焔の肩を、調が掴んだ。
「魔力の出力が違い過ぎる。弾き飛ばされるか…塵になるか」
首を横に振って言う調の言葉に、焔が息を呑む。
「うあああああっ!!!」
真っ白く輝いた裕奈が、絶叫と共に文字通り殴り付ける。
ひょいとフェイトが身を交わした向こうで、家一軒分はありそうな岩山に光る拳が叩き付けられる。
塵と化した岩山を前に、焔の顔は炎の申し子とは思えぬ青さを見せていた。
裕奈に背を向けたまま、いつの間にかデタラメに遠く離れていたフェイトに、
岩の地面を蹴った裕奈が見る見る接近する。
くるりと振り返ったフェイトはくわっと目を見開き、退いた右手を光らせていた。
裕奈の目尻から頬に一筋の滴が走り、フェイトの表情には嘲笑が。
「愚かだね」
「あああああ…!?」
「?」
周囲を包む毒霧と共に、突き出されたフェイトの右手が空を切る。
弾け飛んだ体に感覚を合わせようと、裕奈はブンブンと頭を振る。
「ネギ、くんっ!?」
裕奈に体当たりして弾き飛ばしたネギは、空中で、貪る様に裕奈の唇を奪っていた。
「おのれっ!」
焔が、闖入早々二人の世界を作っている謎のカップルへ向けて地面を蹴る。
だが、ネギの放った突風の壁は、焔の視界を塞ぐに十分だった。
「放してっ、ネギ君放してっ!!…」
「ごめんなさい」
目を見開いた裕奈だったが、強烈な睡魔がその瞼を耐え切れぬ程に重くする。
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「いつつ…」
「気が付きましたか?」
ベッドの上で、裕奈は身を起こした。
「ここは…パルの飛行船?」
そこは、見覚えのある船室のベッドの上だった。
「えっと、私…」
「凄いですね、ゆーなさん」
傍らに立つネギが、にっこり笑って言った。
「ゆーなさんの魔力、想像以上に凄いです。
自分で言うのもなんですが、僕やこのかさんの魔力は、旧世界ではトップクラスだそうです。
ゆーなさんは、それに迫る程の潜在的な魔力を持っているみたいなんです」
「私の、魔力が…」
ネギの言葉を聞いた裕奈は、ベッドに身を起こして両手を見た。
「やっぱり、血筋なんですかね。素晴らしい魔法使いだった…」
「…お母さん…」
シーツをぎゅっと握り、肩を震わせた裕奈の姿に、ネギはあわわっとなった。
「あ、あの、ごめんなさい」
「嬉しい。お母さんの証」
小さく首を横に振り、裕奈が言った。
「あ、あの…でも…そんなに巨大な魔力を一度にですね、
第一、ゆーなさんの体が…今もさっきの軋みが体に…だから…」
「…ったのに…」
「?」
「良かったのに…それで…」
「ゆーなさん?」
「それで、良かったのに…どうして邪魔したのネギ君…」
「裕奈さん」
しっかり語りかけようとしたネギだったが、裕奈はその暇を与えなかった。
「どうして邪魔したのネギくんっ!?
あんな、あんなチャンスもう二度と無かった、あの勢いならやれた、あいつをやれたっ!
お母さんの、お母さんの敵を、お母さんの敵のあいつをっ!!
あいつは強い、あいつは強いって分かる。だから、もう二度と無いかも知れない。
だから、良かった、良かったのに、
私はどうなっても刺し違えてもあいつをお母さんの敵を…」
雷は雨だれに変わり、シーツに滴る。
ネギは、裕奈の肩に手を置き、優しく微笑んで首を横に振った。
「駄目ですよ、裕奈さん」
「ネギ君…」
「お話を聞いた事があります。元気が一番だって」
「ネギ君?」
「元気が一番だって、すくすく元気に育っているゆーなさんが大好きだったって。
だから、駄目です」
「お母さん…」
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泣き伏した裕奈は、ばたんと不審な音を聞いた。
「?ネギ君?」
顔を上げた裕奈は、床に倒れるネギに駆け寄った。
「どうしたのネギ君?ネギ君?ちょっと、何よこの熱ネギ君ネギ君っ!?」
ネギの額に手を当てた裕奈の顔色が変わる。
「ちょっと、ちょっとっ!?」
叫んでも反応が無い事に気付き、裕奈は船内を走り回って元の船室に戻って来た。
「な、何なのよ、どうして誰もいないのよどうして連絡とれないのなんなのこの熱はっ!?
ネギ君、ねえネギ君っ!?」
ベッドに横たわるネギの真っ赤な顔からダラダラと汗が流れ落ち、
見るからに呼吸が荒くなり全身が震え始める。
「ネギ君、ネギ君っ!?まさか風土病亜子みたいにっ!?」
裕奈はもう一度船内を一周して戻って来たが、ネギの容態は明らかに悪化していた。
「はい、水枕。薬は分からないし…え、何ネギ君?」
うっすら目を開いたネギの手が何かを求めて空を切る。
「喉乾いた?」
裕奈の声に、ネギが苦しそうに頷く。
「ち、ちょっと待って」
裕奈はネギの身を起こし、水の入ったコップをネギの唇に差す。
だが、たちまちにむせ返った。
「ご、ごめんネギ君。駄目、自分じゃ無理」
手を伸ばすネギに裕奈が言い、裕奈は意を決する。
「ん、んっ…」
ネギの喉が鳴り、ネギの乾いた唇から裕奈の唇が離れる。
「ひどい汗…」
裕奈は四苦八苦してネギをトランクス一枚の姿に剥き上げると、
まずはその胸板にタオルを当てる。
だが、拭っても拭ってもきりがなかった。
「寒いの、ネギ君っ?」
次第に呼吸が荒くなり、ネギの全身がガタガタと震え出す。
裕奈は慌ててベッドの掛け布団を全て被せるが、全く効果が無い。
「寒いの、ネギ君寒いのっ?」
ネギの振動は、裕奈の問いかけに対する明確過ぎる返答となっていた。
「な、なんなのよこれ…あああどうしよう…」
裕奈はもう一度布団を剥がし、ガタガタと震える胸板に手を当てるが、
だからどうしたと言う事も無い。ただ、激しい振動荒い息遣いが明確に伝わるだけだ。
「ネギ君、ネギくんっ!」
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物理的に振動を抑えられていると言う事もあるが、
それでも、僅かにでも落ち着いたのかも知れない。
ベッドの上で、ネギの小さな身体を腕の中に感じながら、裕奈はそう思いたかった。
「あったかい?ネギ君」
丸で返事をするかの様に、ネギは、目の前の裕奈の背中に腕を回し、きゅっと抱いた。
まるで全ての温もりを吸い付くさんとばかりに、汗みずくの胸板がぎゅっと押し付けられる。
「やっぱり逞しい、あんなに強いんだもんねネギ君」
その内、ふーふーと息をしながら、ネギの体がもぞもぞ動き出すのに裕奈は気が付いた。
「あ、ごめん、きつかった?」
裕奈が腕の力を緩めると、ネギの顔が、しっとりと汗ばんだ裕奈の柔らかな谷間にばふっと落ち込んだ。
「ひゃっ、ネギ君?…」
ネギの安らかな寝顔が、何かを言おうとした裕奈の言葉を奪う。
「ネギ君」
そんなネギを見て、裕奈の顔からも慈母の笑みがこぼれる。
だが、本格的なお母さんはそのすぐ先の事だった。
「んー…」
「ちょっ、ちょいネギ君っ」
最終更新:2012年01月28日 14:38