04スレ158

158 第十一話 ◆lQS9gmV2XM sage 03/10/30 00:27 ID:78SraQw8

 ―――麻帆良学園・屋上
 木乃香が噛まれる前の話である。
「ああっ、ネギ先生ぇ! お願いやから立ってぇ―――っ!」
 茶々丸に羽交い締めにされながら亜子が泣き叫ぶ。
 ボロボロのネギは倒れたまま動かない。人質を取られていては勝負にならなかった。
 亜子のせいでネギは負けた。誰よりも亜子がそのことを理解していた。
「マスター、女子寮の方で妙な動きが……」
「そんなことはもうどうでもいい。茶々丸よ、呪いを解く準備を始めるぞ!」
「―――了解しました」
 エヴァはネギと、亜子を見てにやりと嗤う。

 ―――麻帆良学園中央駅
 明日菜とカモは女子寮に戻らず、停電後に現れたエヴァの魔力を追っていた。
「間違いねえ! エヴァンジェリンの野郎は学園にいるぜっ!」
「ぜぇ、はぁ、ぜぇ、はぁ、もう、走れない……」
「姐さん、タクシー使えば良かったのに」
「そんなお金、ない」
 少し沈黙があった。
「学園はエヴァの呪いの中枢だぜっ!」
「よしっ、行くわよエロオコジョ!」
 ジョギング位のスピードで、ふらつきながら明日菜が走る。


 ―――女子寮の隣の隣の棟の屋上
 近辺の一番広い屋上を選んで、木乃香と吸血鬼たちは儀式を行っていた。
 屋上に描かれた魔方陣の中に、魔女のローブを纏った木乃香がいる。
 周囲にはやはり魔女のローブを着た、のどか、ハルナ、桜子、円、美砂の五人。
「みんなにこれから、力を与えるえ―――」
 光がのどかたち五人を包み込む。そのまま光は魔方陣を溢れ、周囲の吸血鬼や人形も呑み込んでいく。
「契約完了や。これであんさんらは、ウチの従者やえ―――」
 吸血鬼の中から、歓声が上がる。
「ハルナちゃんらには、更に力を与えるえ」
 木乃香が五人に、タロットカードを渡した。それぞれが赤・青・緑・黄・白に発光している。
「五人には魔法を与えるえ。好きに使ってな―――うふふ」

 吸血鬼たちの従者がいなくなった屋上で、木乃香は一人呪文を唱える。
 大切な二人がいる。明日菜と刹那は仲間にしたい。
 亜子を探しに行った明日菜は寮にいないが、刹那はおそらくいる。
「逃がさへんよ、せっちゃん」
 木乃香は呪文を唱えると、薄い膜が徐々に、周辺を覆い尽くす。
 それはバリアとなって、数個の建物を包み込み、一帯を封鎖していく。
 これで女子寮一帯からは、誰も出られない。

 ―――場所不明
「おい、どうする?」
「どうするって、やるしかない」
 四人の人間が会話をしている。
 彼らは麻帆良の住民ではなかったが、いつも学園の外から木乃香を監視していた。
 結界が無くなった一瞬を狙って、彼らは学園都市に侵入した。
 関西呪術協会―――その過激な一派の、彼らは構成員である。
 木乃香を誘拐すると、彼らは決心していた。
 バリアに閉じ込められて、もう木乃香の身柄を押さえないと、関西に帰れない。
 アホ四人が、誰にも気付かれることなく騒動に加わった。


 ―――643号室
「げっ! 夕映ちゃんとゼロがやられたっ!」
 楓の突然の反撃にクーが目の色を変え、鳴滝姉妹が後退する。まき絵たちを犯していた四体の人形が
楓に一斉に飛びかかって交差し―――頭と、首と腕と胸と腹とペニスと足が離れた。
 人形たちが楓の背後で粉々になって四散し、楓は苦無を持ち直して鳴滝姉妹に向け、笑いながら言う。
「―――残り三人」
「ひ、ひいいいい―――クーフェちゃん拳法部でしょ? 何とかしてくださいぃ!」
 クーを盾にして、前に押しながら鳴滝姉妹が叫ぶ。
 裕奈とまき絵が部屋を、よろよろしながら飛び出した。
 クーと楓は睨み合ったまま動かない。相手の出方を探り、隙を探す。
 しかし楓は苦無と同時に、忍装束の中から煙幕弾を拾っていた。
 睡眠薬が混ざっている特殊なモノで、おそらく吸血鬼にも効果はあるはずである。

 ―――女子寮・廊下
「ふふふーん、ふっふふっふ、ふっ、ふーん―――」
 木乃香に魔法を与えられ、早乙女ハルナは御機嫌だった。
 とりあえず目的は、楓へのリベンジである。
 右手の緑色に光るタロットカードには、周囲の者に幻覚を見せる魔法がかけられている。
 チアの三人には攻撃的な魔法が、のどかにはある意味強力な魔法が与えられていた。
「ん―――? なんであの二人が……」
 ふと横を見ると、吹き抜けの反対側をまき絵と裕奈が、ふらふらしながら逃げていく。
「もしもし木乃香ぁ、夕映たちにトラブル発生みたい。一応増援よこしてぇ」
 携帯で木乃香に連絡し、ハルナはにやりと嗤う。
 チアの三人は実質的に木乃香の戦闘部隊、それが出てきて暴れれば、それなりに大変な事になる。
「面白いだろうな…女子寮中、メチャクチャに壊れちゃたら―――」
 エヴァの魔力と木乃香の魔法、両方の影響を受けた思考が暴走する。
 壊れた笑みを浮かべて妄想しながら、ハルナは643号室に迫っていく。


 ―――643号室
 鳴滝風香はクーの背後に隠れて楓の様子を伺っていたが、戦況は突然に動いた。
「あれー、何かごちゃごちゃしてるね、まあいっか面倒臭いし―――」
 魔女の恰好をしたハルナが、タロットをかざしながら部屋に乱入してきた。

「一番怖いものに嬲られちゃえ―――、あははははははははははははははははははは」

 ハルナが笑いながらタロットを向けると、怪しい緑色の光が部屋に満ちた。

 ボンッ!

 楓がクーに何かを投げた。それはクーに炸裂し、もくもくと白い煙が発生して部屋に満ちた。
 風香は煙を吸って眠くなり、緑の光を見て頭が痛くなった。そして―――



 ぞくり、と悪寒を感じて鳥肌が立ち、風香は眠気が吹き飛んだ。
「え、……どこだ、ここ」
 周囲には白い靄が立ち込め、冷気が満ちて風香を包み込んでいた。
「史伽ぁ! クーフェ! 楓ぇ! みんな……どこいったの?」
 その時、ざわりと冷気が風香の頬を撫ぜた。冷気は渦巻き、靄が凝縮して形を成していく。靄は白い
指になり、長い髪になり、顔になり、清楚なセーラー服になる。
「あ…あ……」
 セーラー服を着た長髪の少女が、ガタガタ震える風香の前に現れた。
 ただしその姿は半透明で、ふわふわと宙に浮いている。
「ゆっ、幽霊―――――――っ!」
 風香の恥部に、生温かい液体が広がっていく。
 ずぶずぶと幽霊が、風香に重なるように下から、身体の中に入ってくる
「あぐ、ぁ、ぁぁ………!?」
 冷たくなっていく下半身は固まって動かず、そのまま……………


 ……
 …………
「きゃあぁぁぁぁぁ―――助けて―――っ!」
 史伽が気がついた時、周囲は大変な事になっていた。
 643号室には間違いないのだが、楓も風香もクーもハルナもいない。
 代わりに部屋全体がぞわぞわと蠢いていた。
 ベッドの布団の中から、窓から、ドアから、天井から、床から、無数の毛虫が涌き出ていた。
 赤や黄色で丸々太った巨大なそれが、濃密な毛を生やして、そして全部が史伽に殺到していた。
「いやあっ、来ないで! 来ないでくださいっ! お姉ちゃんにくーちゃん、どこ行ったの―――」
 毛虫たちは史伽のスリッパを齧り、ソックスも食べて、細い脚をもぞもぞと登り始める。
 天井からも毛虫が落ちてきて、史伽の着ていた服を食べながら、顔や胸を這いまわった。
「いやあああ気持ち悪い!」
 顔を這う毛虫を、思わず史伽は手で掴んだ。
「うぶぅっ、な、な……」
 掴んだ毛虫は簡単に潰れ、どぴゅっ、と白濁液が飛び出して史伽の顔を白く汚した。
 次の瞬間、文字通り虫食いだらけの服が散り、ブラもしていない史伽は下着のみになった。
 未成熟な胸には桜色の突起だけがちょこんとついていて、その身体は小学生にしか見えない。
 その肉体を覆うように毛虫が一斉に群がり、背中を、脇を、胸を、毛の生えていない恥部を這いまわる。
「ひっ、そ、そこは……あっ、ああっ、いやっ、あ、きゃあっ!」
 すべって、毛虫の絨毯の上に背中から転倒する。下敷きになった毛虫が潰れて白濁液が噴き出した。
「うぶ、あ、ああ…止めてぇ、お願いです! あああっ、お姉ちゃ―――――んっ!」


 白い粘液が噴水のように飛び散り、史伽の身体は白い汁でどろどろになる。
 それはまるで、小学生の少女が精液の海で溺れているような、異様な光景だった。
 史伽が駄々を捏ねるように暴れる。後から後から涌いてくる毛虫を叩き潰して、半狂乱で抵抗する。
「あっ、そこはダメぇ――――っ! あっ、あぐっ、痛い! 毛が! 毛がぁ―――!」
 特に大きい毛虫が、史伽の性器と肛門にめりめりと潜り込んでいく。
「ひぃっ、あっ、ああっ、痛いよぉ! 止めて! ひぃぃ―――っ!」」
 毛虫の太さにまで穴が広がり、肉壁に毛虫の毛が擦れて、ちくちくする刺激が伝わってくる。
「あああああああああああああ――――――っ!」
 肛門から毛虫が、腸の中にも潜り込んでくる。排出する器官を逆流してくる質量に、史伽は恐怖して
泣き出した。膣と腸を同時に侵攻され意識は信号機のように点滅し、誰かに助けを求めて上に伸ばした
手は、先の指が見えないほど粘液で包まれていた。
「ひゃあ、あ、あひっ、あっ、あっ、ああ――っ、うぐっ、うあ、あっ、はぐぅっ、ぅあ、あっ」
 身体を粘液に絡めとられ、二つの穴を犯され、史伽は白濁液の中でぐねぐね動く。
「うむっ、あ、ああっ、やめてっ、やめてぇぇぇっ、あぐぁっおねえちゃぁぁぁひいぃいやぁぁ―――」
 白く滑らかだった肌は白濁液で塗れ、毛が刺さって全身が赤く腫れあがっている。毛虫の体液がそこ
に染み込み、ますます腫れて痒みを増していく。全身を掻き毟る史伽の体内で不規則に暴れて下半身に
振動を送り、膣を毛で擦りながら毛虫が子宮を舐める。史伽の尻の感触を味わうように腸の中を犯し、
腕を、顔を、胸を、全身ところかまわず這い回り、口の中に入っては潰れて体液を飲ませる。
「ぁぁやめでおねがいおねえちゃんだすげでたすけでやだあぐぁおねちゃんおねえちゃ―――っ!」
 果実に群がり貪る毒虫のように、毛虫は史伽を嬲り尽くした。


 ―――643号室
 ハルナが木乃香から与えられた「魔法」は、声に出した内容を敵に幻覚として見せる。
 一番怖いモノに嬲られろ、と言えば、敵は一番怖いモノに嬲られる幻覚を見、戦闘不能になる。
 ハルナの魔法で、風香は部屋をのたうちまわって壁にぶつかって止まり、史伽は口から泡を吹いて気
絶した。睡眠薬入りの煙幕の直撃をくらい、クーはいびきをかいて眠っている。
 そして幻覚魔法の光と、睡眠薬混じりの煙で満ちた部屋で、二人の少女が向かい合っていた。
「ん―――? 分からないなぁ? なんで楓ちゃんには幻覚が効かないんだろ?」
 幻覚魔法の光の中で正気を保っている楓を見て、ハルナは不思議そうに首を傾げる。
「お主こそ、なぜ眠らん。ちなみに―――」
 楓が苦笑しながら、睡眠薬入りの煙の中に立つハルナを見る。
「山篭りで毒茸を食ったことが何回かあるから、拙者幻覚には耐性あり」
「種明かしすると、前もって眠気覚ましのドリンクガブ飲みしただけ」
「いきなりカエルがたくさん出てきて、驚いたでござるよ」
「明後日が原稿の締め切りだったんだよね。今夜から不眠で描く予定だったの」
「描けばよいでござろう。止める気はないでござるが」
「うーん、でもねえ、ご主人様に燃料のショタ本取られちゃったし、気分が乗らない」
「拙者は気分最悪でござるな。十メートルのカエルは、少しちびったでござる」
「ふぁぁぁぁぁあ、私は眠い。けっこう強力だねこの煙」
 山篭りでの修行の思わぬ効果と、作家の習性。
 二人の奇妙な性質が、お互いの切り札を十分に作用させずにいた。

 どぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ―――ん

「な、何?」
 遠くから響いてきた爆発音のような音に、楓は耳を疑った。
「あ、きっとチアの三人だろうね」
 ハルナは苦笑しながらも、平然として言う。
「今の桜子たち、かなりキてるからねー、ま、こっちはこっちで、始めよっか―――」
 そしてハルナが楓に飛びかかった。


「うりゃあああああああ―――」
 ハルナのつま先が天井を指して白いパンツが見え、次の瞬間かかとが一気に振り下ろされた。楓は間
一髪でそれを避ける。ハルナの足はボギギッ、と鈍い音を立てながら二段ベッドの上段を叩き割り下段
にめり込んで止まった。布団が破れて綿埃が舞い上がる。
「お主、いったい……?」
「木乃香から貰った力は幻覚魔法だけじゃないよぉ。私たちは木乃香の『従者』にして『護衛』、服従
を契約条件に与えられたのは、いかなる敵をも打ち倒すチカラ―――」
 異常な身体能力を持ったハルナが、壊れた笑みを浮かべて楓に攻撃を繰り出し、楓がそれを止める。
楓がハルナを気絶させようと苦無で挑むが、ハルナが楓の攻撃を止める。
「はあ、はあ、はあ……」
 楓の顔色が悪い。
「どうしたのぉ? 楓ちゃん。あ、もしかして、やっぱり幻覚効いてた? もしかして頭痛すぎ?」
 指摘通り、楓は幻覚こそ見ていないが激しい頭痛に襲われていた。魔法の付加効果らしい。
 それに加えてハルナが、間違いなく強い。動きはメチャクチャだが身体能力なら楓以上―――前回の
囮作戦で襲ってきた時とは、最早別人だった。
 頭痛で集中力が掻き乱される。勝負を決めるつもりの攻撃が決まらない。
「くっ―――」
 振り降ろした苦無を避けられ、その腕をハルナに掴まれる。
「捕まえたぁ。勝負を焦ったね、楓ちゃん」
「しまっ―――」
 ハルナは楓の長身を、ボールを投げるように片腕で投げた。
「あああっ!」
 楓が明日菜と木乃香の机に激突する。机上の鉛筆や小物入れが楓の背中を迎えた。
「油断大敵ぃぃっ!」
 ハルナがテーブルを持ち上げ、机の上に寝転ぶ楓に叩き付ける、テーブルが真っ二つになり、破片が
バラバラと楓の周囲に飛び散り、楓が悲鳴を上げる。ハルナはそれを聞いて口元を歪めると折れたテー
ブルを両手にそれぞれ持ち、楓の脚を、腕を、胸を殴り続けた。

「どうしたの楓ちゃぁぁん、私の勝ち? 勝ちなの? もう降参なのあははははははははは―――」

 ハルナは勝ち誇ったように笑い、腕を振り下ろす。


 楓が手で頭を庇いながら、身体を丸めて机の上にいる。ハルナはそれを叩き続ける。
「あははははははは、は…………?」
 ハルナの身体が動きを止めた。正確には、黒い繊維でいつの間にか縛られていた。
「油断大敵―――そのまま返すでござるよ」
 楓はあやとりをするように、指に黒い糸を巻いていた。その糸は髪の毛の中から伸びている。
「かっ、隠し武器っ!」
「遅い」
 楓が16人になった。
 そして、16人全員がハルナを総攻撃した。

「ふべばべほげぼげぼべ――――っ!」

 ハルナは吹き飛び、ドアを飛び出てごろごろ転がり、開脚前転の途中のポーズで動かなくなった。
「な、なかなか手強かったでござるな……」
 楓もよろけて、床に手をついた。ぽたぽたと身体のあちらこちらから血が落ちる。
「………」
 夕映と、チャチャゼロがいない。騒ぎの隙に窓から逃げたらしい。
「あやつら……まだ動けたでござるか―――っ!」
 楓は思わず叫んで床を拳で叩いた。最悪の失敗だった。
 囮作戦では自ら囮になり、今回は木乃香を人質に仕立てて楓を陥れようとした夕映。
 楓は、夕映が再び自分を狙ってくるのを確信していた。
 流石に楓にも余裕が無い。戦いで傷つき、楓は最早、狩られる側になっていた。
 逃げなければならない。一ヶ所に止まるのは危険だ。今襲われたら一たまりもない。
 廊下に出ようとして思い止まる。ハルナのような吸血鬼がまだいるかもしれない。
「ひとまず、部屋に帰って装備を……丸腰では、魔法とやらに、対抗もできない……うぐっ」
 楓はよろよろと、天井裏に消えた。
 643号室は、脱落したクーと鳴滝姉妹を残し、誰もいなくなった。


 ―――女子寮・廊下
 性器や口、肛門から血や精液、体液を垂れ流しながら、二人の少女が床を這っている。
「はあ、はあ、はあ……」
 固く冷たい床が体温を奪う。仲間に裏切られ、暴力を受け、陵辱され、力尽きた。
 馬鹿げたサイズのペニスで抉られ、膣はすでにボロボロだった。
 処女云々の概念的な喪失感と、生殖器に汚液を注ぎ込まれた現実的な恐怖が、二人の心を蝕んでいた。
「……うう……は、早く、少しでも遠くに逃げなきゃ……まき絵、しっかりして」
 重い身体を起こし、裕奈は顔にへばりついた精液を拭うと、まき絵に向けて手を伸ばした。
「……無理だよ……逃げられっこないよ……すぐ捕まって、また犯されて、それで―――」
 虚ろなまき絵の目からぽろぽろと、大粒の涙が零れる。その顔には絶望の色が濃い。
「それに、身体、もう動かない。裕奈……ひ、一人で逃げて……女子寮から出れれば助かるかも……」
 裕奈の顔が歪んだ。
「バカッ! わ、私だって怖いんだから、そんな事言うなら、本当に置いてっちゃうよ!」
「……裕奈ぁ、ごめん、ごめん……」
 まき絵は泣き出した。
「怖いよ……次捕まったら、何されるか分からないよ……置いていかないで、お願い……」
 まき絵の震える手が、裕奈の腕を掴む。
「そうだよ、その意気。ここから逃げて、傷の手当てして、身体洗って、とにかく逃げるの!」
「こんなとき、亜子がいてくれれば……手当て上手いのに―――」

 ―――――――――!?

 裕奈が無表情で固まった。まき絵も、自分の言葉に驚いて硬直してしまった。
「亜子……あれからどうなったの? て言うか私たち、亜子の事、縛って、犯して……」
「あ、あれ、何で、私たち、亜子を犯したわけ? だって―――」

「「友達なのに」」

 呆然と見つめあう二人。
 この時、消耗していた二人は自覚していなかったが、エヴァの支配は薄れていた。



 ぐしゃ、と頭を踏み付けられて二人の会話は終った。
「見つけました―――まき絵さんと裕奈さんです―――」
「い、いつの間に……きゃあああああ―――っ!」
「あ、頭が……離してぇ……」
 のどかの細腕がまき絵と裕奈の頭を掴み、そのまま持ち上げ、放り投げた。
「うあっ!」
 床にバウンドした二人が、よろめきながら逃げる。
「桜子さん―――お願いします―――」
 ラクロスのボールが飛んでいった。ボールはまき絵と裕奈の背中に迫り、爆発する。

 どぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ―――ん

 床が軋み、電灯が砕け、衝撃波が吹き荒れる。
 まき絵と裕奈の身体が枯葉のように舞い上がり、床に落ちて動かなくなった。
「いえ―――い! クリィィンヒィィット!」
 魔女姿の桜子が、魔法のステッキよろしくラクロス棒を振りまわしながら近づいてくる。
 ボールの破壊力を増幅させる「魔法」―――それはラクロス棒を、凶悪な武器に変質させていた。
 魔女姿の美砂、円、のどか、そして数人の吸血鬼と人形が桜子の後に続く。
「んじゃ、私は木乃香ちゃんのトコにこいつら連れていくね」
 両足をロープで縛り、桜子がずるずるとまき絵と裕奈を引きずっていった。
「ちぇ、いいなー桜子。木乃香ちゃんに御褒美とか貰えたりして」
「まあ、仕留める役を決める方法をミスったね。桜子じゃんけん強いからなー」
 吸血鬼の集団は和やかに談笑しながら、女子寮を跋扈する。


「うわああああああ、こっち来るなぁぁっ!」
 談笑する声が聞こえたので長谷川千雨がドアを少し開けて見てみると、円たちだった。
「長谷川だ―――っ!」
 不気味な笑みを浮かべてこちらに走ってくる吸血鬼軍団を前に、千雨は死を覚悟した。
「待て!」
 吸血鬼たちの足が止まる。千雨と吸血鬼たちの間に、剣を持った桜咲刹那が立っていた。

 吸血鬼の襲撃時、刹那は一階でパニックをおさえながら吸血鬼たちと戦っていた。
 生徒たちを安全な場所に誘導し結界を張った。人々を魔から守るのが神鳴流である。
「あ……この魔力の感じは……まさか、このかお嬢様………?」
 一階の人々を助け終わると同時に、幼馴染が吸血鬼の毒牙にかかったのも知った。
 からんと剣が手から滑り落ちた。膝を付き、頭の中が真っ白になる。
 他人を助けている間に、木乃香は魔に堕ちてしまった。
「わたしは、いったい……ただ、目の前で襲われている人を、放っておけなくて―――」
 関西から裏切り者と言われながらここに来て、その結果がこれだった。
 涙が溢れていた。無力感に襲われた。戦闘のプロだと自惚れていた。
「いくら大勢の人を助けても、木乃香お嬢様を守れなければ、意味がない……」
 一階で襲われていた生徒たち、あんな連中助けなければ良かった。
 それは一番正直な、醜い感情だった。

 自分はどうなってもいい。木乃香を、魔から救い出さなければ。
「お前たち! 木乃香お嬢様はどこだっ!」
 吸血鬼たち一人一人は刹那にとってはザコである。円と美砂は妙な恰好をしているが、意味は分からない。
「教えるわけないじゃん」
 円の言葉に、頭に血が昇る。
「ならば聞き出すのみだっ!」
 一階で戦っていた吸血鬼たちと円たちではレベルが違うが、冷静でない刹那は気付かなかった.
 剣を抜き、床を蹴り、少女剣士は吸血鬼の大群に、一人で突っ込んでいった。

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最終更新:2012年02月12日 21:05
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