292 第十三話 ◆lQS9gmV2XM sage 03/11/16 22:41 ID:4s6I3LYy
今宵も誰かが毒牙に倒れる。
自らを何重にも包囲する賞金稼ぎを眺めながら、
「ふふふ、ザコどもが」
眷族たる蝙蝠の黒衣を纏い、牙を唾液でぬらりと光らせ、悪名轟く真祖が嗤う。
「連中を踏み潰すぞ、チャチャゼロ―――」
「アイサー! 御主人!」
脇に控えた小さな人形が、無機質な瞳で刃を構える。
真祖と従者が、賞金稼ぎに襲いかかる。
戦場は瞬く間に血色に染まる。
繰り返される星月夜に。満ち満ちる悲鳴。渦巻く恐怖。
後には何も残らない。
その恐るべき吸血鬼は、名をエヴァンジェリンという―――
「滝で水浴びはいいけど、流木に当たってダウンするなよ御主人。泳げないんだし」
「おい、お前と一緒にするな」
晧晧とした満月の下、周りを樹木で囲われた泉で、人形がぱしゃぱしゃと足で水面を叩いていた。
人形の視線の先には細い滝と、そこで身体についた血を洗う、一糸纏わぬ少女がいた。
腰まで届く綺麗な金色の髪から、澄んだ水が流れ落ちていく。
乳房は淡い色の突起だけで膨らんでおらず、滝に打たれれば壊れそうな程に、華奢で幼い肉体である。
脚は細く、尻は小さい。恥部には陰毛も生えていない。どこから見ても只の少女だった。
この少女が恐るべき賞金首だとは、一見では誰も想像できないだろう。
少女は泉から上がり、ぺた、ぺた、ぺた、と人形の方に歩いていく。
そして人形が座っている岩に寝転ぶと、そのまま肉体の求めるままに、恥部を指で弄り始める。
「んっ、んんっ……あ、あっ……」
くちゅくちゅと欲のままに恥部を指で掻きまわし、少女の声が大きくなっていく。
岩に愛液が垂れ落ちる。仄かに漂う女の匂いが、周囲の森に溶けていく
人形は少女の行為が気にならない。ただ、常に警戒するのみ。
少女は無防備に、しかし安心して、人形の横で、性欲に身を委ねていた。
「あ、はあぁ、あ、あ、ああっ! あ……はあ、はあ、はあ―――」
少女の身体が震え、勢いよく愛液を飛ばした。
幼い肉体が分泌した愛液は、弧を描いて澄んだ泉に混ざっていく。
人形は興味を示さない。少女が一番無防備な今こそ、従者たる人形が警戒をしなければならない。
「はあ、はあ、ふう……。チャチャゼロ、相手をしてくれ」
「え……いいのか? 御主人」
「どうせ誰も来ないさ……さあ、早く。今夜はどうも、身体が疼いて仕方がない」
人形は黒いミニスカートの中から、聳え立つ巨根を出して、肯いた。
「バカ。拷問用のそれで相手をする気か。私の方が壊れるだろう―――」
人形が髪を掻きながら勃起をゆっくりと小さくし、少女の大きさに合わせる。
人形のそれは10歳の少年ぐらいの、ピンと立った可愛らしいものになる。
「もう濡れているから……すぐに始めて良いぞ」
人形が少女の上に被さり、
「んっ、はぁぁ……あ、あ、あぁ……」
小さいが硬いペニスが、ゆっくりと少女の肉体に挿入された。
「動くぞ。御主人」
人形が腰を動かし始め、泉に落ちる滝の音に混じって、膣を掻きまわす音が響く。
ぐっちゅぐっちゅぐっちゅと、愛液で満ちた少女の中を、逞しいペニスが突いていく。
「あっ、あっ、いい、いいぞチャチャゼロ……そうだ、もっ……とぉ―――」
少女の顔が緩み、潤んだ目で人形を見る。
頬を赤らめながら、少女は嬉しい悲鳴をあげ、更に愛液を分泌した。
人形はそれに応えるように、深くペニスを突き入れる。
人形は少女の弱点を知り尽くしている。
少女は悲鳴を上げて、官能に身を悶えさせる。
理知的な顔が、快楽に浸る。
「あっ、あっ、も、もう、わ、たし、あ、ああっ、あっ、あ、あああ―――っ!」
少女が震えて絶頂を迎え、幼い身体から欲を吐き出した。
「はふぅ、はふぅ、はふぅ、ふぅ、ふぅ、ふぅ……」
余韻に浸る少女からペニスを抜くと、人形はそれを扱きながら茂みに入る。
そして、どぴゅるる、どぴゅ、と草むらに無言で射精する。
瑞々しい草に、とろりと精液が垂れ落ちていく。
「チャチャゼロ……別に、中に出してもいいぞ……」
呼気を整えながら少女が言うが、人形は無言で首を横に振る。
人形は自分が、少女と対等だとは思っていない。
お互いに冗談を言ったりもするが、少女と人形は、主人と、従者なのである。
「妙なところで頑固なヤツだ。誰に似たのかな?」
少女は苦笑しながら、夜空に浮かぶ月を眺めて目を細めた。
「チャチャゼロ、お前は最高の人形だよ―――いつまでも、私の横にいてくれよ」
「おう!」
人形は嬉しそうに少女の横に座る。
そう。その言葉だけで。
人形は、少女のその言葉だけで、満たされているのだった。
…………時を経て人形は復元される。
麻帆良学園都市の混乱の中で、人形は再び覚醒した。
「…………」
いつも人形の場所だった、少女の横は、
もっと優秀な、別の人形がいたけれど。
「…………」
人形の背後には、破壊された、麻帆良都市の結界の核。
主人たる少女を都市に縛り付けている結界。
それ自体が完全に破壊されたわけではないが、機能は失う。
安全装置や予備システム、警報云々は働かない。
今、少女の横にいる人形―――茶々丸がシステムに侵入、全てを停止させている。
「…………」
茶々丸はエヴァのお供をする。
チャチャゼロはその他大勢の一人として、これから女子寮に向かう。
「…………」
主人である少女が決めたことだから、ただ従うのみだけど。
最初の出会い―――それは後に戦場となる643号室の、扉の前。
まき絵たちの歓声と木乃香の悲鳴を背に、人形が一体、部屋から静かに出てきた。
木乃香を問い詰めたところ、標的のネギは亜子を探しに行って留守らしい。
(―――ネギを捕まえる手柄を立てれば、主人の横に戻れるかもしれない)
淡い期待は見事に外れて落ち込み、木乃香を弄んで憂さ晴らしするのも、どうものれない。
主人が恋しい。声が聞きたい。
夜の行為の、相手をしたい。
人形は一人で、孤独に、主人の横―――自分の居場所を、求めていた。
「………ん?」
ふとドアの横を見ると、少女が壁にもたれていた。
長い髪を二つに束ねて背は小さい、大人しそうな外見。衣服は乱れて首筋には噛まれた痕、スカート
は裂けていて足や腕には擦り傷がある。意外に派手な下着は血で汚れて破れ、乾いた血が太ももにこび
り付いている。顔には殴られたらしい痣もある。
少女は激しい抵抗の末に噛まれ、陵辱され、まき絵たちに連れてこられたのだろう。
口からはかなり短いが牙も見える。吸血鬼化はしたが、犯された時の怪我が酷くて動けないらしい。
その時、少女が動いた。
「ううん……ん、貴方は……………どちらのお人形さんですか?」
「え、え? えーと、ちゃ、チャチャゼロだけど……」
どう答えたらいいのか分からず、人形は名前をとりあえず言った。
「チャチャゼロさんですか……分かりましたです。ねえ、チャチャゼロさん―――」
少女の目が細められた。
視線は鋭い。
「貴方はどうして泣いているのですか?」
人形は、頭を殴られたような衝撃を受けた。
動揺して、口が上手く動かない。
「な、泣いてなんかいないぞっ! ほ、ほらっ!」
目を擦りながら人形が慌てて言う。人形は人形、泣けるはずがない。
「涙に絶対的な価値なんてないです。頬を濡らしていなくても、貴方は泣いています」
断定した少女に人形は戸惑い、そして聞いた。
「お前……誰?」
少女は無表情で目を細め、呟いた。
「あやせ―――私は綾瀬夕映と言います」
人形はとりあえず、少女の傷を回復させてみた。
主人の横にいた頃から、回復のアイテムは携帯している。
人形は主人との思い出を、ゆっくりと語り出した。
溺れた主人を助けたこと。
いっしょに戦ったこと。
褒められたこと。
そして愉しい夜の行為のこと。
あまりに変わり果てた現状を忘れるように、人形は主人との日々を語り、少女はそれを聞いていた。
「………私はそれで、先生に抱っこされたんです。それで少し、好きになってしまいました」
少女が平坦な口調で、自身のことを話し始めた。
少女の二人の親友のこと、積極的だが少しマニアックな趣味の少女と、消極的で男嫌いの少女の話。
男嫌いの少女が担任に恋をして、その恋を応援していたこと。
奇妙な図書館でその担任に助けられ、少し好意を抱いてしまったこと。
しかし親友のために、気持ちに気付いてから20分で諦めたこと。
「その娘は素直でとても優しいです。私みたく変に冷めて捻くれていませんし」
理由は、自分より親友の方が、担任の相手として相応しい気がしたから。
「まあ、エヴァ様が先生を狙う以上、その決断も無意味になりましたが」
そう言って少女は、話を終えた。
少女の話は人形にとってはショックだった。
自分より相応しい存在になら、好きな者の横を譲ることができる―――そう少女は言っていた。
それは有能な他者に居場所を奪われた人形にとって、残酷な考え方だった。
両者は何度か考え方を述べたが、意見は平行線のままだった。
しかしそこに殺伐とした雰囲気はない。
理由はどうあれ、好きな存在の横にいれない傷を舐め合うような、そんな空気が両者に漂っていた。
人形はふと、思い付いた事を少女に尋ねた。
「ええ、泣きましたです。その親友の前で。……………………涙は流しませんでしたが」
少女は答える。
そんな二人の、会話が続く―――
「そこまで言うなら、エヴァ様の横を相手から奪えばいいですよ―――」
少女はさらりと、そう言い切った。
「どうやって?」
「例えば……ザコではない有能な吸血鬼を増やして、エヴァ様のポイントを稼ぐのはどうですか? 命
令は『必要に応じて仲間を増やしながら、ネギ先生を確保すること』。別に違反にはなりません」
少女の意見は人形にとって、なかなか魅力的だった。
こうなってしまった以上、人形は地道にこつこつと、主人の評価を高めていくしかない。
しかしその手の、器用さを求められる作戦は人形の苦手とするところだった。
黙った人形に、少女が作り笑顔で微笑んだ。
「できないんですか? 今までのは愚痴? 優しく慰めてナゼナゼして欲しかったですか?」
「なっ、で、できるに決まってるだろっ! チャチャゼロを舐めるなよ!」
「どうやって?」
「…………」
「ふふふ。回復してくれた御礼です。私も知恵を絞りましょう」
夕映は無表情で答える。
「作り笑顔よりその表情の方が、綺麗だな」
人形が言った何気ない一言に、少女は酷く動揺したようだった。
「え? あ、あの、何を言っているですか? わ、訳の分からないことを……」
後から聞くに、少女は無表情とは言われても、それが綺麗だと言われた経験がなかったらしい。
「あ、夕映、実は照れてるだろっ!」
「大声で言わないでくださいです!」
「あの、もしもーし。お邪魔していいかなお二人さん」
二人の前には、吸血鬼の鳴滝姉妹とハルナがいた。彼女たちはネギの逃亡阻止に、外で他の吸血鬼と
待機していたが、待ちくたびれたらしい。
「お邪魔? 何がお邪魔なんですか?」
不思議そうな声でハルナを見る二人に、ハルナは苦笑した。
「え、何がお邪魔って、そりゃあ、空気って言うか……まあ、いいや。で、ネギ先生は?」
ハルナには少女と人形が、気の合った友人以上恋人未満程度に見えたのだが・・・・・・
気のせいだと思い、ハルナは次の事を尋ねた。
………………
「これから我々は有能な同士を集めながら、麻帆良学園都市の制圧を目指します」
「ど、どうして、そんな大規模なことに?」
「兵隊を増やすのは御主人様の命令、都市制圧はその命令実行の必然的な結果です」
確かにどんどん兵隊を増やせば、学園都市への影響は避けられない。
少女は人形の事情には触れず、考案した作戦を淡々と告げた。
「現時点で我々が制圧したのは643号室のみ。みんなお風呂にいっていないのか、幸い周囲には気付
かれていません。ですから、まず外で兵隊を増やして、一斉にこの女子寮全体を襲います」
少女は普通に、とんでもない事を言う。
「外で増やした兵隊の中から、人間と見分けがつかない程に牙の短い吸血鬼を選んでください。混乱の
中、必ず抵抗する人間が現れます。我々吸血鬼に対抗できる有能な人間、それこそが貴重な戦力であり、
それを狩って仲間にするのも重要です。正攻法では被害が大きくなりそうなので、牙の短い吸血鬼を囮
にして、不意打ちで狩るのを提案します」
少女の言葉に、双子とハルナが黙る。
「同時に木乃香さんも人質にして利用しましょう。囮で失敗した保険として、木乃香さんを利用して罠
を仕掛けるのもいいかも知れません。彼女は権力者の孫―――もしかしたら、他にも役に立つかも」
混乱が始まる。
これから37分後、67人の吸血鬼が女子寮を襲撃し中で増殖、寮はパニックに陥ることになる。
「夕映、お前、すごいな……」
「私は恩はきちんと返す主義ですから。さあ、チャチャゼロさん……貴方は、増殖した同胞から優秀で
有能な吸血鬼だけを選び、御主人に奉げればよいのです。そうすれば評価も変わるでしょう」
少女は無表情で人形を見る。
人形は、魅入られたように少女を見ていた。
人形を主人の横に戻すための、女子寮と吸血鬼たちを巻き込んだ、少女の壮大な策が動き出す。
………………
圧倒的な長瀬楓の参戦で、作戦は木乃香を人質に使ったものにシフトした。
「はあ、はあ、まさか長瀬さんがあんなに強いとは……」
一人643号室に戻ってきた少女を見て、人形はようやく安堵した。
人形の後ろには、精液と尿に塗れた、無惨な木乃香が吸血鬼化して横たわっていた。
「………お風呂にでもどうぞ。あまり人に見られないように」
少女が言うと、木乃香はのろのろと立ち上がって風呂に向かった。
「やりすぎですよチャチャゼロさん」
「悪い悪い。調子にのっちまった。あ、あと相談なんだが」
「なんです?」
「みんなで相談して決めたんだが、夕映がリーダーになってくれよ。ほとんど働かないまき絵たちは、
みんなでシメちまおう。夕映だって犯された恨みがあるだろ?」
「名案です。長瀬さんを捕えたら、思いきり、壊れるまで、潰してやりましょう」
少女と人形は、無表情な顔をお互いに見る。
離れているときも二人は頻繁に連絡をとっていた。
人形は、少しではあるが少女の表情を読めるようになっていた。
少女が笑っているのか、泣いているのか、怒っているのか、それが伝わっていくる。
それは少しでも少女を知ろうとした結果だった。
妬みも僻みもなく、人形は純粋に、綾瀬夕映という吸血鬼を尊敬し、親しくなりたかった。
少女は、少しではあるが人形を意識し始めていた。
綺麗と言われたのが原因ではない。しかし人形の姿を見ると、少女は妙に心が落ちついた。
自分を必要としてくれる人形の横は、居心地がいい。
少女はそれを、優越感からくる偽善な感情だと判断していた。
そうやって理由を考えて、少女はその感情を納得させながら、人形と接していた。
かつてネギに抱いていた感情と同じモノを、人形に抱いているのを、まだ認めていない。
エヴァの魔力で感情が制御されている中で、静かにその芽は育っていく。
………………
「はあ、はあ、はあ、はあ、か、身体が、動かないです……」
「大丈夫だっ! すぐに治るっ!」
長瀬楓に敗れ、夕映とチャチャゼロは逃げていた。夕映は痺れ薬を飲まされて、ほとんど動けない状
態である。チャチャゼロも全身が焦げてダメージが酷い。身体の関節から変な音がするし、焦げた部分
はヒビも何ヶ所か入っていた。
正直、夕映を運ぶのは、今のチャチャゼロにとって負担が大きい。しかし自分のために頑張ってくれ
た少女を見捨てて逃げる事はしない。木乃香なら治療できると考えて、ふらふらしながら必死に走る。
夕映は身体が動かない恐怖に震えていた。
夕映がこのような目にあったのは自分の不注意のせいだと、チャチャゼロは考えていた。
早く元気になって欲しい、その一心で、悲鳴を上げる身体で、夕映を支え、励まし、走る。
しかし、到着した二人に、木乃香は冷たかった。
床に這いつくばる二人を、木乃香は机を積んで作ったピラミッドの上に座り、まるで貴族が平民を見
下ろすように眺めていた。力関係は完全に逆転している。人質に過ぎなかった木乃香が魔法に目覚め、
今では女子寮の吸血鬼の中心人物になっている。
「なんや大変そうやけれど、悪いけれどあんたら信用できへんから治療はせーへん」
自分を人質として利用した夕映と、自分を犯したチャチャゼロを、木乃香は冷めた目で見ていた。
「た、頼むよ、せ、せめて夕映だけでも…うぐっ」
チャチャゼロが夕映の前で倒れた。そこで夕映が、チャチャゼロに入ったヒビを見つける。
「こ、こんな怪我で私を運んで!? 木乃香さん、私はいいですからゼロさんを治療してください!」
痺れる身体を必死で起こして、夕映が珍しく叫んだ。
「お願いです! このままじゃゼロさん壊れちゃいます! 私にできる事なら何でもしますから!」
「ふーん、ほな、ウチの忠犬にでもなって貰おうかな。そしたら治療してあげる」
「……わ、分かりました」
夕映は忠犬を、「奴隷」という意味だと解釈した。しかし違った。
「なんで犬が服を着てるのかなあ? 治療して欲しかったら、早く脱いで犬になり―――」
桜子や他の吸血鬼たちが、苦笑しながら夕映を眺めていた。
ぷるぷる震える手で痺れた身体を支え、四つん這いになった夕映が、苦しそうに木乃香を見上げる。
「わ、わん……わん……わん……わん」
服は吸血鬼に脱がされ、犬と同じ裸。
チャチャゼロの場所から見えるのは、夕映の小さな背中と尻だけである。注意から野次や嘲笑を浴び
ながら、夕映は、チャチャゼロが尊敬した少女は、惨めな犬の真似事をさせられ辱められていた。
「わん! わん! わん! わん!」
「ほらほら、夕映ちゃん、犬なら、マーキングせな。そのままのポーズでええよ」
「………」
夕映の股間からちょろちょろと、黄金水が流れ出した。白い太ももを伝って膝の方に流れ落ち、微か
な匂いと共に、夕映を中心に尿の水溜りができる。吸血鬼たちが野次を飛ばし、鼻を摘みながらポケッ
トティッシュを夕映に投げてぶつける。
夕映はただ、屈辱に耐えていた。ぴしゃぴしゃと尿の水溜りから身体をずらしていく。身体が痺れて
いるので、その動作は鈍い。手や脚を尿で濡らしながら、夕映は、言った。
「………わん……………わん」
「よろしい、夕映ちゃんは合格。治療はしたるよ―――ゴキブリ掃除の後でな」
「え?」
「ゴキブリたちが結界を作り始めた。面倒臭いから先に掃除をするえ。桜子ちゃん―――」
木乃香が懐から、タロットの束を取り出した。ハルナたちに渡したのとは別のセットだった。
「我が護衛、椎名桜子、『太陽』の如き火球を操る汝に更に力を与えん―――塔をも砕く雷と万物を吊
るし上げる無数の腕を以て、我に害なす者達を、粛清せよ―――」
『塔』と『吊るされた男』―――円と美砂にも与えられていた魔法が、桜子にも与えられる。
「ははは、木乃香ちゃん。タロット何組持ってるの? マニアだねー」
苦笑した桜子が新たな二枚を受け取り、苦笑しながら―――天井を見た。
桜子は円がリボンに使っていた触手化の魔法を、自分の魔女コスに使用する。
そして破壊力が増幅されたラクロス棒に、美砂が使っていた電撃を付加する。
魔女コスが解けて繊維に戻り触手化、無数のラクロスのボールを器用に桜子に結び付ける。
そして、桜子の魔女コスが蜘蛛の巣状に広がり、
「いっくよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ――――――っ!」
ラクロス棒に光を灯し、壁に繊維を打ち込みながら桜子が垂直に壁を駆け上がる。ボールが赤く発光
し、二階分の高い天井の中央に打ち込まれ轟音と共に爆発した。
「きゃあっ!」
天井の破片が雨のようにフロアに降り注ぎ、チャチャゼロが夕映に駆け寄る。
吸血鬼たちが後退するが、木乃香は平然としている。
天井の残骸の中にひらひらと、無数の呪符が落ちてくるのを見つけ、木乃香が一枚を手に取った。
「ちっ、バレていたか!」
「これはこれは、中学生と思って油断しましたぁぁぁ~。あはははははは、落下ちゅー」
破片に混ざって三人の人影がフロアに落下してくる。一人は全身黒服、一人はアーミールックの金髪
で両方とも呪符を持っていた。そしてもう一人、全身緑色のフリルに包まれた少女が、日本刀を装備し
て着地する。関西呪術協会の武闘派たち。そして、
「貴女が木乃香お嬢様ですかぁぁ~。吸血鬼化してるし腕ぐらいなら平気ですよね?」
無邪気な笑みで、緑フリルの少女が刀を構えて木乃香に殺到した。
「安心してください後でキチンと接着しますからあはははははははははははははははは―――」
黒服と金髪の男も、呪符を持って木乃香に迫る。
「このバカ女―――無茶しやがって!」
天井を破壊し落下する桜子に、噴煙の中から赤髪に巫女装束の少女が突っ込んできた。
神鳴流の使い手である少女は落下せず、天井に潜んでいた。木乃香の護衛である桜子を仕留めるため
に。落下中では攻撃を避けようがない。そして、その剣先を桜子に突き刺そうとして、
「甘いよ―――っ!」
桜子が空中で方向転換し、刀をあっさりと避ける。呆然として落下する赤髪の少女の目に、桜子を支
える無数の触手が映る。それは、魔女のローブをなしていた繊維の束だった。ローブの体積以上に増殖
した糸が天井や左右の壁に食い込んで、桜子の身体を空中で自由に移動させている。
気付いた時には遅く、赤髪の少女は糸に絡み取られ、空中で締め上げられる。
「うぐぅぅぅぅ―――」
赤髪の少女の身体はそのまま桜子に引き寄せられる。そこには、青く放電するラクロス棒が………
「いったい、何が起こっているのですか……」
「さっぱり分からないが……カタギの連中じゃねーぞ、こいつらっ!」
突然乱入してきた集団に、チャチャゼロも動揺を隠せない。
「きゃう―――んっ!」
木乃香のバリアに触れた緑色フリルの少女が、実に軽やかに吹き飛んできた。
「夕映こっちだ! あの緑はヤバい!」
緑フリルの少女から離れるように、チャチャゼロが夕映を運ぶ。
「ありゃりゃ、なんや、強いなー、お嬢様」
「うむむ」
黒服と金髪が呪符を放つが、バリアの中の木乃香には届かない。
「神鳴流って、意外と厳しいんですよねぇぇ~。あは」
逃げるチャチャゼロと裸の夕映の背後から、無邪気で病的な声が近づいてくる。
「もっと私は斬りたいのに、なんか私に仕事まわしてくれないんですよぉぉ~。ずっとずっと監視で、
斬る感触忘れちゃいましたぁぁ。本調子じゃないないない。だから試し斬りされてくださぁぁい。首な
らベター腰ならベストですあはははははははははは」
「てめえっ! 夕映に指一本でも触れ―――」
ボロボロの身体でチャチャゼロが振り返り、迫って来る敵と対峙し、
「あはは―――」
日本刀に、チャチャゼロの左腕が斬り飛ばされた。
「ちゃ、チャチャゼロさん―――っ!」
夕映が悲鳴を上げる。
「外れましたねあはははは。うー、やっぱり本調子じゃないないない」
その時、触手化した繊維で赤髪の少女をラクロス棒に巻きつけながら、桜子が金髪の前に着地した。
棒は青く放電し、赤髪の少女は感電してガクガク身体を震わせている。そしてラクロス棒には赤く発光
するボールがセットされていた。
金髪が「え?」と言うと同時に、至近からボールと赤髪の少女を撃ち込まれ、ボグシャッ!と爆発し
感電して吹き飛んだ。真っ黒焦げで床に落下した金髪と赤髪は死んではいなかったが、ぴくぴく動いて
立ち上がらない。桜子はびゅんびゅんびゅんびゅん、とラクロス棒を振りまわし、構え直して笑う。
「うーん、なかなかいい感じ。力の調節も80%は完璧だね」
「あはは、流石はウチの最強の護衛や桜子ちゃん。パルたちの分も頼むえ」
木乃香が嗤う。
傷ついた人形と、動けない少女を巻き込んで、乱戦が始まった―――
最終更新:2012年02月12日 21:09