385 第十五話 ◆lQS9gmV2XM sage 03/11/30 19:19 ID:JBxDEWWK
がらんがらん、と焦げたドアが階段を転がり落ちる。
魔女の尖がり帽子に、鮮やかな橙の着物を纏った大和撫子が、静かにその階段から現れた。
「うわあ、楓ちゃんやぁ~。ウチを待っとってくれたん? 嬉しいわぁ」
近衛木乃香は無邪気な笑みを浮かべて、ゆっくりと階段を降りてくる。
その背後にはまき絵と裕奈の姿、そして吸血鬼の集団がぞろぞろと続く。まき絵も裕奈もまるで人形
のように無表情で、意志もなくただ木乃香の横にいるといった感じだった。
その他にも複数の吸血鬼がいたが、楓は彼女たちの名前を知らない。
「………」
フロアの吹き抜けを挟んで、着物を纏う木乃香と、チャイナ服の楓が対峙する。
そして開戦した。
「楓ちゃん覚悟ぉ―――っ!」
のどかのように透明になっていたらしい、木乃香の側から楓の側にジャンプしていた桜子が、突然吹
き抜け上空に出現し、ラクロス棒から赤く光るボールを、楓に向けて放った。
爆発が起こり、楓の姿が噴煙の中に消える。
「透明になると他の魔法は使えないのか―――ちょっと不便かな」
魔女姿の桜子は楓側に着地すると、魔女コスの繊維を蜘蛛の巣のように広げ、楓を捕獲しようと周囲
に展開させる。ラクロス棒は青く放電し、楓の奇襲に備えていた。
―――ずばっ
噴煙と、触手化した繊維の奔流が、一気に横に切り裂かれる。
「な、何っ!?」
切れないはずの触手を切られ、驚いた桜子がラクロス棒を構えながら後退する。
「ふう、やれやれでござるな。まさかこの寮で、こんな得物を持ち出す羽目になるとは―――」
現れたのは十字型の巨大な刃だった。刹那の魔除けの呪符が所々に貼られている。
「同じ手は通用しないでござるよ―――魔法の性質が分かれば対処は可能………らしいでござる」
刹那の補助魔法で、退魔の効果を得てパワーアップした武器を構え、楓が鋭い視線で桜子を睨む。
「ふーん。ま、抵抗してくれた方が面白いからいいや―――っ!」
桜子の一言を合図に、吹き抜けの左右から吸血鬼たちが迫って来る。それぞれがバット、ラケット、
リボン、ボールなどを装備し、美砂と同じく青く放電している。まき絵と裕奈も混ざっていた。
「吸血鬼から運動部だけを選び、更に魔法の力を与えた精鋭―――木乃香ちゃん親衛隊!」
楓が跳んで一秒も経たずに、電撃を纏った大小のボールが楓がいた場所に叩き付けられる。着地し
た楓にリボンを持ったまき絵と、テニスラケットなどを持った少女五人が飛びかかる。
「お主たちが目覚める頃には、この悪夢は必ず終らせるでござるから―――今は、御免!」
次の瞬間、楓が十字の刃を振るい、撃墜されたまき絵たちが床に落下した。楓は止まらずに親衛隊に
突撃し、接近戦担当の敵の武器を砕いて打ちのめしていく。包囲を瞬く間に破り、ボールを拾っていた
裕奈たちを紙くずのように吹き飛ばした。
「ははは、まきちゃんたち弱すぎ。そんなんじゃ応援する気にもなれないよ―――っ!」
楓に圧倒される親衛隊を見て、桜子がけらけら笑う。
「せっちゃぁぁぁぁぁ―――ん? どこにいるのぉ?」
その背後では木乃香が、戦闘など興味がない様子で、刹那を探してきょろきょろしていた。
そのとき、ピシ、ピシ、と廊下に直線の罅が生まれ、
「!?」
木乃香の立っていた場所が、細切れになって崩壊した。
「うひゃぁぁぁぁぁ―――なにごとやろぉ―――」
「お嬢様、どうか御無礼をお許しくださいっ!」
木乃香のいた場所を切り崩した刹那が、剣を光らせて木乃香を狙う。
落下する木乃香と、真下から奇襲を仕掛けた刹那の目が合う。
「せっちゃん、見ぃつけたあぁぁぁぁぁ―――」
木乃香のその声は、底無し沼のような暗い歓喜に満ち溢れていた。
刹那の剣が止まる。奇襲をかけたのに、木乃香に隙はなかった。
「くっ!」
木乃香を他の吸血鬼から隔離しながら、刹那は体勢を整えようとする。木乃香はずっと刹那を見てい
て、その視線が刹那に圧力をかける。刹那は背筋に冷たいものを感じた。六階から五階に落下したが、
木乃香の視線から逃れ隙を作ろうと、さらに廊下を切り崩し、瓦礫と共に四階に落下する。
「あはは、せっちゃんと二人っきりやぁ。どこに連れていってくれるんやろぉ―――?」
刹那と木乃香の姿は、舞い上がった埃の中に消えて見えなくなった。
…………
「あちゃー。木乃香ちゃんがどっか行っちゃった……」
苦笑する桜子に楓が、微笑みながら語りかける。
「後はお主だけでござるな」
楓の周囲には、壊滅した親衛隊が横たわっていた。圧倒的な力量差に、全員が意識を失っている。
「まあいっか。今は楓ちゃんの捕獲だけで、護衛までは命令されてないし」
「拙者の、捕獲?」
「うん、そーだよ。楓ちゃんの、ほ・か・く。どうしてか分からないけれど、木乃香ちゃんは楓ちゃん
を護衛にしたがっている……ていうか、強力な護衛をいつも探してるんだよね。きっと私なんかじゃ不
満なんじゃない? 私よりもっと、もっと、強い護衛が欲しいんだよきっと。一人でも強いのにね」
桜子は撃破された親衛隊たちを見渡し、にっこり笑って言った。
「………余裕でござるな」
「あはは、私の事なんか究極的にはどーでもいいんだよ。私たちにとっては木乃香ちゃんの意志が絶対
なの。楓ちゃんが護衛になって、私が要らなくなって捨てられても―――」
桜子は少しだけ、寂しそうに笑った。
「私は木乃香ちゃんの従者だから、木乃香ちゃんを応援して、木乃香ちゃんの意志を実行するだけ」
「その忠義は立派でござる。が、お主に負ける気はないでござるよ―――吸血鬼」
「それはお互い様だよ―――私の次の護衛さん」
桜子が懐から、不気味に発光するタロットカードを出した。それは緑色を何十倍も濃くしたような、
闇黒に近い色である。楓はもちろん、緑色に光るタロットカードの事を忘れてはいない。643号室で
早乙女ハルナが使っていた、有効ならば最強最悪であろうその魔法―――。
「幻覚の類でござるな」
「うん、幻覚。そしてこれが、木乃香ちゃん親衛隊の真打ちでもあるんだよね」
楓の周囲を緑色の光が包む。ハルナの幻覚は楓に効かなかったが、今回のはそうはいかないらしい。
「うふふふ、さあ楓ちゃん。楽しい楽しい、崩壊の時間の始まりだよ―――っ!」
桜子の笑い声と共に、フロアは緑色の光に覆われ、そのまま閉ざされた。
「…………うーむ。どう言って良いのやら」
「えへへ。雰囲気出てるでしょ。この幻覚」
予想と違った幻覚の世界に、楓は苦笑していた。
まず、楓はくノ一装束に戻っていた。643号室に乗り込んだ時の、桜子の知っている服である。
桜子は時代劇の代官の服を着ていたが、髪型は変化していない。ラクロス棒も持っている。
楓は白い石で覆われた日本庭園に立っていて、桜子は大きな屋敷の座敷から楓を見ている。時代劇の
ロケのような場所である。ハルナの幻覚に出てきたのがカエルの大群だっただけに、その光景は楓にと
って随分と平和だったが、もちろん油断はしていない。
「それじゃあ早速。曲者じゃー、であえ―――であえ―――っ!」
「お主……そのセリフが言いたかっただけでござろう」
かなり雰囲気に浸っている桜子に、呆れて楓が言う。
しかしお約束のように、桜子の両脇から黒子の集団が現れた。数人は早くも楓に向かってくる。
幻覚の中だが、楓は一応は苦無を持っていた。黒子は刀を持っている。そして黒子の刀と切り結び、
―――パキッ
楓の苦無があっさり砕けた。
「な、に―――うぐっ……ぁ……」
刀の柄を鳩尾に叩き込まれ、楓がよろめきながら後退する。四方の黒子から鎖が放たれ、楓の手足に
巻きついた。そのまま無様に転倒した楓の手足が鎖に引っ張られ、大の字になって固定される。
「こ、こんな…強……い。こやつら、うぐっ、何者でござる……? これも、幻覚で、ござる、か?」
「うん。絶対に勝てない幻覚だよ」
桜子はにっこりと笑った。
「まきちゃんたちは基本的に捨て駒、私一人で親衛隊は十分に成り立っているんだよね。この幻覚が敵
に見せるのは「自分より強い敵」。実在しない最強。幻の軍隊。これが親衛隊の真打ち」
桜子は、勝利の笑みを顔に浮かべながら、
「護衛リーダーの座と、最強部隊の幻覚。私から取り上げられて、全部、楓ちゃんのモノになるんだよ」
どこか諦めたような、優しい顔でそう言った。
「ねえ楓ちゃん。キスしていいかな?」
楓が答えを言うより早く、桜子は楓にキスをしていた。
拘束された楓の唇に、桜子の唇がそっと重なった。桜子が力のない楓の口に舌を入れ、唾液を啜りな
がら舌を絡め合う。くちゅ、ちゅぶ、ぴちゅ、と、合わさった唇の間から、音が静かに聞こえてくる。
桜子はラクロス棒を離して両手で楓の顔を持ち、ただ楓の唇を貪っていた。しかしそれは陵辱の類で
はなく、楓の舌に合わせて桜子は舌を動かしている。楓と少しでも長く繋がっていたいように、主導権
は楓に譲りながら、決して唇を離そうとしない。
その桜子の行為は楓を辱めるものではなく、楓を想う行為だった。
桜子とキスを続けている楓自身が、一番それを理解していた。
だからこそ、敵である桜子の意図が読めず恐怖した。
「―――痛っ!?」
糸を引きながら、桜子の唇が楓から離れた。桜子の唇に、赤い血が滲んでいた。
「な、何が狙いでござるか!? ん? そ、そうか、この唾液、普通の唾液ではないでござろう!」
珍しく動揺した楓が、桜子の唇を噛んだ。
「うん、確かに吸血鬼の唾液は危ない成分が多いけれど……気持ち良くなって欲しかったから」
唇の血をぺろぺろと、美味しそうに舐めながら桜子は言う。
「あ、慰めて欲しいなら今のうちに言ってね。口か指でなら相手するから」
「…………今のお主は信用できぬ。よって相手も結構。お主は、拙者をどうする気でござるか?」
「いや、最後に一回ぐらい、気持ちいいエッチさせてあげよっかな、って思って」
「どういう意味でござるか?」
桜子は笑いながら、
「木乃香ちゃんの命令なの。裏切らないように、楓ちゃんは、思考が働かなくなるまで壊せって」
哀れむように、実験動物を見るような目で、
「ごめんね楓ちゃん。私は、そこまでする気はなかったんだけど、命令だから」
本気で、楓に同情して、涙を流していた。
「じゃあ楓ちゃん、本番を始めるよ。夕映ちゃんの言葉を借りるなら―――」
「壊れて壊れて壊れるまで」
……………………
―――女子寮・四階
「せっちゃん―――ウチはここやえ」
両手を広げて無防備な姿を晒す木乃香に、愛剣を抜いて刹那が挑む。
倒すためではなく、救うために。
心に巣食った魔を取り除き、あの優しい笑顔を取り戻すために。
大切な存在に、刃を向ける。
人々に憑いた魔のみを切り裂く神鳴流の奥義、斬魔剣弐の太刀―――
(成功させるしかない。そうせんと、このちゃんが……)
「いきます! 木乃香お嬢様!」
ばちちちちちちちちちちちちちち…………
木乃香に向けて刀を振るうが、それは魔法障壁に阻まれた。青白い火花を散らしながら、木乃香の障
壁と刹那の刀が衝突する。そしてそのまま障壁は破れ、反動で刹那も後ろに吹き飛んだ。
「くっ、後、ほんの少しなのに―――」
刀を構え直す刹那に、木乃香が優しく微笑んだ。
「せっちゃん……もう、ええんよ。小さい頃はよく助けてもらったけれど、今は、うちは一人でも大丈
夫やから―――刀を捨ててくれへんかな? お願いや」
「このち……お嬢様、何を言っているのです? 私は護衛として、お嬢様に憑いた魔を……」
「いや、護衛とかそういうのは……口で言うても、分かってもらえへんかな……」
木乃香は悲しそうに首を横に振り、呪符を手にした。
「せっちゃん、ごめん」
「み゙ょ゙お゙ぉ゙ぉ゙ぉ゙ぉ゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙ぉ゙ぉ゙ぉ゙ぉ゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙―――っ!」
現れたのは天井ぎりぎりの巨体、トンカチを持ったへちゃむくれた木乃香だった。
「円ちゃんらに、せっちゃんをメチャクチャに壊してくれって頼んだけれど、アカンかった―――」
「し、式神……どうして―――」
刹那は知らなかったが、その式神は関西呪術協会の武闘派を、軽々と撃破した凶悪なものである。
「やっぱりウチが、自分でやらんとあかんねなぁ―――」
式神は猛スピードで刹那に突進し、その巨大な足で刹那を蹴った。防御もしたし、力を受け流す動作
もとったが無意味だった。刹那の身体が宙を舞う。円たちとの戦いの傷が開き、廊下や壁に赤い飛沫を
散らしながら吹き飛んでいく。全身が粉々になるような衝撃に、少女剣士は打ちのめされた。
「う、ぐぅぅぅぅ……はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、こ、これしきのことで……」
立ち上がろうとする刹那の前に、トンカチを逆に持ち直した式神が迫る。刹那は刀を杖代わりにして
立ちあがった。足から血が流れ落ちて、下にぽたぽた落下する。強烈な一撃を食らった事で、刹那の肉
体に溜め込まれたダメージが一気に噴き出してくる。
千雨に借りたセーラー服が血塗れになる。剣士とはいえ、戦う能力があるとはいえ、まだ幼い少女が
なぜ、そこまでして戦わなくてはならないのか。そういう感情を見る者に抱かせる刹那の姿は、無惨を
通り過ぎて凄惨なものだった。
震える刀の前に式神が迫って来る。中学生の少女剣士と比べると、その姿はあまりにも大きい。
ごん、と鈍い衝撃が股関節に響き、刹那は意識が遠くなった。式神がトンカチの柄の部分を長く持ち、
刹那の股間を叩き上げた。赤い華が咲いた。円にやられた傷が開いて、太ももに真っ赤な血が流れ落ち
る。式神の攻撃に手加減は一切無く、インパクトの瞬間に刹那は浮いた。
「あ……う、あ……あ、う……」
悶絶した刹那の足がガタガタ震えたが、しかし倒れて休息を得ることはできなかった。式神の手が刹
那の両肩を持ち、着ていたセーラー服をビリビリと千切ってしまう。血で汚れた四肢が露になると、式
神は着せ替え人形でも扱うように刹那を掴み、そのまま弄び始める。
式神が刹那の乳房を大きな指で押し潰し、デコピンのように桜色の突起を弾く。白い肌が赤く腫れ上
がり、内出血で変色してしまう。責めは緩まなかった。刹那は刀で式神を何度も斬っていたが、式神は
止まらずに未熟な乳房を嬲り続ける。
自分の頭より大きい拳で、乳房を殴られるようになった。乳房に叩き込まれる度に胸板に衝撃が伝播
し、音が何も聞こえなくなった。刀を握る腕から力が抜けていく。次の一撃で乳房を壊されるのではな
いかという恐怖が、剣士ではなく少女の刹那の心を切り刻んだ。
(ダメだ……刀を、離したら……負け………な、何をする気だ……)
式神の指の一本が、刹那の股間に伸びていく。円に切り裂かれ、無理矢理犯されて、汚されてしまっ
た屈辱が甦る。しかし何もできなかった。振るう刀には既に力はなく、指を止めることはできなかった。
「ひぎいぃぃぃぃぃ―――っ!」
自分を犯した巨根よりも太い指が、刹那の性器を限界まで拡張しながら侵入してくる。犯され傷つい
た膣が、さらに巨大なものに抉られる。刹那は泣きながら、半狂乱で式神の手を刀で斬り続けた。
「あ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙―――っ!」
ショックで錯乱しながら、涙と涎を垂れ流して刹那が何かを喚いた。既に言葉になっていない叫びが、
喉の奥から吐き出されていた。別の指が尻の穴を犯していた。刹那の身体が指に合わせて上下に振れる。
今も刹那は刀を握り、戦意を失ってはいない。抵抗もしている。式神はそんな刹那を嘲笑うように刹那
の身体を指で貫き、ぐちゅぐちゅと音を立ててその幼い肉体を蹂躙した。激痛と恐怖に擦り潰されなが
らも諦めない少女剣士を嬲る式神は、頑丈な玩具を得た子供のようだった。
「なあ、せっちゃん。分かってくれた?」
木乃香の声で、式神は止まった。
「な、なに、を………」
「ウチはもう十分に強い。おまけにもうすぐ、楓ちゃんにウチの護衛になってもらうんえ」
「……え?」
「そのでっかいの見たら分かると思うけれど、ウチはもうせっちゃんより強いんよ。自分の身ぐらい自
分で守れる。でもそれだけじゃあ納得してくれへんと思ったから、ウチは、ずっと、強い護衛を探しと
ってん。そう、せっちゃんも納得してくれるような―――」
(このちゃん……何を言っているんだろう……)
「せっちゃん。ウチは考えたんよ。せっちゃんが学園に来てから、話してくれへんようになった原因を。
でも、ずっと考えたけれど、思い当たる事は一つしかなかったんや。小さい頃、ウチはずっとせっちゃ
んに守ってもらってばっかりやった。せっちゃんはウチをずっと守ってくれた。そうやったよね? ウ
チはせっちゃんの事、友達やと思っとったけれど、せっちゃんにとったらウチは、どんくさくて、一人
じゃ何もできないお邪魔虫やったんと違ううやろか?」
「ち、違う、そんな、事、思ってない……っ!」
刹那の言葉に、木乃香は顔を歪めた。
「じゃあ何で喋ってくれへんのよ! 何でいくら話しかけても逃げてしまうんよっ! 何でウチに笑っ
てくれへんのよっ! 何でウチと遊んでくれへんのよっ! ウチが何か悪い事したんやったらそれを言
うてっ! ウチは謝るからっ! ウチが嫌いなんやったら、好かれるようにがんばるからっ! だから、
昔みたいに………昔、みたいに……」
(ちょっと待ってよ、このちゃん……それじゃあ、その……)
厳しい修行にも耐えて、力を得て、
西を裏切っても木乃香を守ろうと決意して、
話したいのを我慢しながら、影から木乃香を守ってきたのに、
その、護衛本人が……
(このちゃんの、心に憑いた、魔は……………………………原因は、ウチなん?)
「でも大丈夫やえ、せっちゃん! ウチはもう一人で何でもできるし、楓ちゃんももうすぐ護衛になっ
てくれるし、せっちゃんがウチを守る必要はなくなるっ! だから、普通に、友達として、ウチの横に」
「嘘や」
刹那が言う。
「せっちゃん?」
「そんなん嘘やっ! ウチが、ウチがこのちゃんの、魔になってるやなんてそんなん嘘や! 絶対に嘘
やっ! このちゃんは操られてるんやっ! そうや、悪いヤツに操られてるんやよ! そうに決まって
る! だから、ウチが魔を払って、このちゃんを、助けて、だから、ウチが、悪いヤツやっつけるから
っ! このちゃんを守って、だから、ウチは、ウチが、魔やなんて、そんなの、悪いヤツのせいに決ま
ってる……だから、ウチががんばるから、だから、う、ウチは、違うっ! ………違う…ちがう……」
式神が手を離すと刹那はゆっくりと倒れ、木乃香が走り寄ってそれを受けとめる。
「このちゃん……」
「せっちゃん、そんな顔をせんといて。ウチのことでそんな顔をされたら、ウチも悲しい。それに」
「なに……」
「ウチはエヴァンジェリンには支配されていない。これは、ウチの意志やから―――」
「あ……」
からん、と刹那の手から、刀が落ちる。
その刀を見て、木乃香が微笑んだ。
「ありがとう、せっちゃん……分かってくれたんやね」
「ち、違う…………あ…」
温かい回復魔法の光が、刹那を包み込んだ。
苦痛には強い刹那も、傷が癒されていく心地良さには、思わず身を委ねてしまう。
「こうやって、二人きりで話すのは、久しぶりやね」
「あ、あぁ……」
焦点の定まらない瞳で、刹那が木乃香を見る。
回復魔法の上から、毒々しい緑色の幻覚の光が、木乃香から溢れ出して刹那を包んだ。
昔懐かしい光景が広がっていた。
京都の山奥の、木乃香の育った家である。
一糸纏わない、幼い刹那はそこに立っていた。
木乃香と初めて出会った頃の姿で、膨らんでいない胸と、毛の生えていない恥部を晒している。
「どうして……ここに?」
刹那は戸惑って、周囲を見渡す。
「幻覚やよ、せっちゃん」
「このちゃん……」
橙の着物を纏う木乃香が、先程と変わらない姿で立っていた。
「せっちゃん覚えてる? これはウチがせっちゃんと、初めて出会ったときの着物と、同じ柄やよ」
木乃香は微笑んで、刹那の手を握る。
そしてしゃがみ込んで、幼い刹那と同じ目線になる。
刹那の小さな唇に、そっとキスをする。
「あ……」
刹那の顔が紅潮する。
「さあ、せっちゃん―――」
刹那の裸体が、木乃香の橙の
最終更新:2012年02月12日 21:12