547 第十七話 ◆lQS9gmV2XM sage 03/12/24 00:36 ID:UkgEAvuu
…………
…………
何時間が過ぎたのかは、定かではない。
「幻覚強化・楓ちゃんは快楽を感じ続けろぉ――」
悪ノリした桜子が発した言葉、それは今や楓を追い詰めていく拷問に成長していた。
「はぁ………はぁ………はぁ………はぁ………」
ぷかぷかと沼の水面に浮かんでいる、二メートル程の睡蓮の葉を、大小様々なカエルが何重にも取
り囲んでいる。
葉の上では長瀬楓が、群がるカエルたちの玩具にされて横たわっていた。
「はぁぁ………はぁぁ………はぁぁ………はぁぁ………はぁぁ………あ゛あ゛ぁぁ………」
頬から額、鼻から唇、顔中にカエルの唾液が塗りたくられて、まるでニスのように光を反射してい
た。唇の隙間や鼻孔、耳の穴からも精液が溢れて唾液と融け合い、顔の曲面を滑るようにどろどろと
流れ落ちていく。細い目に薄っすらと浮かんだ液体も、カエルの体液か涙か分からなかった。
「あ゛あ゛あ゛ぁぁ……あ、あ゛……や゛め゛で………拙者に、触れ゛る゛な゛ぁ……あ゛……」
長い髪は思いきり掴まれて引っ張りまわされ、肉棒に巻いて扱かれた。べったりと精液に塗れた髪
は汚らしく楓の肌に張り付き、一部は引き抜かれて無惨に沼の水面を泳いでいた。
「はああ゛ぁっ、……だぁ゛め゛ぇ、……や゛、休ませ゛て……、ああ゛っ、あ゛っ、あ゛」
力なく開脚させられた楓の恥部を、カエルの指がぐちゅぐちゅ、ぐちゅぐちゅと掻き回していた。
周辺の陰毛には精液が絡み付いている。何十回もの挿入を繰り返された陰唇は赤く腫れ上がり、悲鳴
を上げるようにひくひく痙攣する。カエルの指が入る度に、赤みを帯びた愛液と精液のミックスジュ
ースが溢れ、牡の精と牝の蜜の淫靡な香りを吐き出していた。カエルたちは楓を陵辱すると、まるで
子孫を残そうとする生物の本能に従うように、楓の子宮に種を植え続けた。
「あ゛、あ゛、ふああ゛ぁあ゛っ、あ゛あ゛、あ……ふぅぅ……ぅあ゛……」
(い、いかん……も、もう、身体をコントロールできない……これ以上触らないでぇ……!)
カエルの指が動く度に快楽が生み出され、楓の身体を電気のように駆け巡る。精液でどろどろにな
っている生殖器と、肉棒に抉られ続けてボロボロの膣はしかし、貪欲に快楽を欲し続けていた。肉棒
で突かれれば痺れるような甘い快楽を生み出し、弄られれば嬉々として喜びの蜜を垂れ流した。
最初、楓は取り敢えず反撃を諦め、玩具にされながらも力を温存して状況打破のチャンスを待つ事
にしたが、それは裏目に出てしまった。
手は蓮の蔦で縛られて衣服は剥ぎ取られてしまい、白い肌の至る所を揉みくちゃにされた。カエル
の一匹が上に圧し掛かかられ、乳房に肉棒を挟んでそのまま扱かれた。肉棒を口で相手する。他の亀
頭を鼻や頬に擦り付けられて、カウパーで汚される。鼻孔に射精され、口内に射精される。胃や気管
にまで入ってくるカエルの精子に、むせながら耐える。髪を束にして巨根を扱かれ、それなりに手入
れしていた髪は精に塗れてブチブチ抜かれた。経験のなかった尻に肉棒を突っ込まれた。血が流れ落
ちて腸が抉られる。子宮が連続で突き上げられる。胸の谷間に射精される。息ができない。鼻の頭に
精液が降りかかる。
(い、今は、た、耐えるしか…………反撃のチャンスは……きっと……きっと……)
性交自体の快楽を自分の中で押さえ込みながら、楓は顔に付いた精液を拭う。
子宮に射精したばかりの肉棒が、全く萎えずに次は口に押し込まれる。鼻孔に射精された精液が流
れ落ちる。耳の穴に射精されて音が聞こえなくなった。後ろから肛門に肉杭が打ち込まれ、尻に走る
痛みに身を捩る。身体をひっくり返される。乳房を抓られる。カエルの口が乳首を転がしてくる。肛
門からは肉棒は抜けたが、再び子宮口が突き上げられた。身体がガクガクする。口で肉棒を咥えてい
るところに、別の肉棒が四本も顔を小突いてきた。膣の中に精が吐き出される。びちゃびちゃと顔に
精液が落ちてくる。身体をひっくり返される。口と鼻から精が垂れ落ちる。別の肉棒が楓の肛門に埋
め込まれる。
(カエル、なんか、に………ま、ける、ものか・……拙者は、甲賀の、し、のび…で………)
桜子の幻覚のせいか、単に交わり続けているからなのか、楓の中で快楽は肥大していく。
いつのまにか余裕が無くなった。顔に突き出される肉棒から眼を逸らすも、逸らした先にも肉棒が
あった。どこを見てもカエルだらけだった。肉棒だらけだった。後ろから子宮をごつごつ突かれる度
に視界が揺れる。揺れる視界には肉棒しかない。
「あ゛あ゛あ゛っ、あ゛ぐぅ、ぁ゛あ゛あ゛ぁ、うぅぅぅぅ、ぐう! うあ゛ぁっ!」
無数の肉棒を相手に、楓は戦い続けていた。しかし肉棒から口でいくら精を吸い出しても、膣で精
をどれだけ搾り取っても、カエルたちは全く萎えなかったし、数はどんどん増えていった。
桜子は常人の数倍の陵辱に耐えていた楓を、数十倍の陵辱で踏み潰した。膣から血の混ざった精液
が溢れるまで犯し続け、少し休ませて今度は愛撫でイカせ続け、しばらくたってまた犯し始めた。
「う゛う゛ぅ……うあ゛あ゛、あ゛、あ゛ぁ、あ゛ぐぅ……」
忍として性技に関して鍛えられても、限界は当然のように来た。
「ふああぁぁぁあ、あ、あ゛あ゛―――っ、だ、だめぇぇ―――っ、あ゛あ゛、あ゛、あ゛」
ひくひく動く陰唇を、普通の大きさのカエルが甘噛みすると、もう楓の頭の中は真っ白になった。
最早、快感を制御できなかった。発育の良い胸と子宮が、ただ快楽を求めて、楓の意思に反して疼
き続ける。腰が動き始めて、甘い声が漏れるようになる。
「あ、はぁぁぁ、あ、ああん。あ、そ、そんな、あ、あ゛、あ゛っ―――」
新たな肉棒が陰唇に挿入されると、楓はその恐ろしい快楽を味わいながら、必死に理性を保とうと
する。挿入だけでイってしまいびくん、びくん、と身体を震わせながら、異常に高まっていく官能は
幻覚のせいだと、そう自分に言い聞かせながら耐えていた。
「ふあぁぁぁぁあ、あ、あ゛ぁ、あ゛」
しかし、ぐじゅ、ぐじゅ、ぐじゅ、ぐじゅ、ぐじゅ、ぐじゅと、精液と愛液をかき混ぜながら、肉
棒が膣の中を突き始めるとどうしようもなかった。意識は快楽の中に粉薬のように溶けていき、もう
何も考えられなくなってしまう。
「あ゛っ、あ゛っ、あ゛あ゛っ、あ゛あ゛あ゛、す、っごぃ、あ、あ゛、あ゛っ」
我慢していた分、反動も凄まじい。子宮を突かれて、胸を揉まれ、全身を撫ぜられる。それが恐ろ
しい快感となって、楓を美しく、そして醜く狂わせていった。
「も、もう、ああぁぁ、あああ――――っ!」
楓が身体を震わせて、その快楽に打ちのめされていく。
(も、もう、だ、め……おかしく、なる……)
焦点の合わない瞳には、カエルと肉棒しか映らなかった。精液が流れ落ちた耳には、自分を犯す水
音しか聞こえなかった。精液の匂いしか嗅げず、精液の味しかしなかった。
「あ゛あ゛あ゛っ!」
再びイってしまい意識が数秒途切れる。遅れて子宮に精が注がれる。何回目かも思い出せなかった。
「ひぃぃ………ひぃぃ………ひぃぃ………ひぃぃ………」
逃げようとしても脱出は不可能に近い。別のカエルが、聳える肉棒を楓の股間に近づける。
「………い、い゛や゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――っ」
「いい声で鳴けるじゃん、楓ちゃんも」
ひときわ大きなカエルの頭の上に立った桜子が、ラクロス棒を片手ににたりと微笑む。
「うぐ……う……!?」
「もぉ~~。そんな声出されたらさぁ、私も濡れてきちゃうよぉ……えへへ」
桜子はラクロス棒の柄の先を、楓の陰唇にずぶずぶと突っ込んだ。
「うぐ……あ……あ―――」
「それ、奥まで入れ~」
「ふぐうっ!」
ずんっ、とラクロス棒が女体の奥まで刺さり込み、精液と愛液がどろどろ押し出された。
「うふふ。入っちゃった。まさかこんなモノが入るなんて……やっぱやり込んでる人は違うねぇ」
口をぱくぱくさせる楓を、桜子は股間をモゾモゾさせながら見下ろす。
「ねえ楓ちゃん。なんかね、楓ちゃん虐めるのすっごく楽しいんだけれど、試していい?」
「な………な、にを…………」
「電撃とか」
膣から子宮口まで達している棒の柄が、パチパチと怪しい音を立てる。
「だ……ダメ……それはっ、それはダメでござるよっ……そんなこと、されたら、壊れ―――」
「ショックで頭、賢くなるかもよ」
「や、止めて、そ、それだけは……ほ、本当に、危ないでござるから、だ、だから―――」
バチチチチチチチチチチチチチチチチチチチチチチチチチチチチッ
「きゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛――――――っ! あ゛、あ゛あ゛あ゛あ゛あああ゛
あ゛あ゛あああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛―――がああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ――――――っ!」
子宮から叩き込まれた電撃に、楓の意識が沸騰した。髪の一部が舞い上がり、身体が痙攣を繰り返
し、精液と愛液が焦げたような異臭が漂ってきた。
「まあ、それ以上バカにはならないよ―――、多分ね。きゃははは―――」
ぴくりとも動かない楓の前に、ラクロス棒とタロットを持った桜子が立った。
タロットは、幻覚の発生源でもある。
そして―――
「うわあああああああああああああああああああああああああああ―――」
「なっ! ま、まだ動けるのっ!?」
楓は突然起き上がると、よろめきながらも、タロットを持った桜子の腕に飛びかかった………
…………
………………
「もう一回、最初から、やり直そう―――せっちゃん」
「あ、ああ……もういっかい、さいしょ、から……?」
木乃香の顔に浮かんでいる笑顔は、かつて一緒に遊んでいたまま、何も変わっていなかった。
広く、しかし誰もいない京都の近衛家―――
季節の木々と高い塀に囲まれた庭、誰もいない座敷、周囲の山々の景色も変わっていない。木乃香
はその豪奢な鳥篭の中で、友人もいない孤独な生活を送っていた。
ここで刹那は木乃香に出会った。
日本の魔法関連組織の権力者である近衛家の令嬢と、その矛や盾となる京都神鳴流の剣士。
(そうや……この時が、一番楽しかった………)
身分の違いなど気にもしないで、共に過ごしていた日々が懐かしい。刹那にとっても木乃香は、上
の立場の人間であると同時に、大切な友人でもあった。
友人? いや、この感情は友情ではなく、むしろ……
(はっ! こ、このままじゃいけないっ!)
一糸纏わない、幼女の姿の刹那はその細い腕で、迫ってくる木乃香を突き飛ばした。橙の着物を纏
う木乃香はよろめいて倒れ、顔には拒絶されたショックがありありと浮かんでいた。
「ふえぇ……せっちゃんは、やっぱりウチが嫌いなんやな……」
「う……い、いや違う! 私は騙されない! こ、こんなの嘘だっ! 全部偽物の幻覚で……」
刹那は胸を抉られる思いで、そして狂ったように叫んでいた。
麻帆良学園に入学し、そして今まで影ながら木乃香を護衛していた日々が夢ではないか?
二人で楽しく遊んでいた日々は、実はこれから始まるのではないか?
身分などに縛られず、ずっと仲良くできる日々がこれから始まるのではないか?
頭の中がぐるぐる回る。
現実と幻が入れ替わっていく。
幻が現実のような、そう錯覚させる威力が、この幻覚にはあった。
(これが幻覚でも……私は、このままの方が幸せかもしれない……)
幻覚は圧倒的な現実味を帯びて、刹那の精神をじわじわと侵し始めていた。
「そう、これからウチらは、幸せになれるんよ。いっしょに遊んで、いっしょに勉強して、ずっと、
ずっといっしょにいられるんよ。今までと違うのは一つだけ、せっちゃんがウチを守るんやなくて、
ウチがせっちゃんを守ってあげる。怖い人からも、怖い犬からも。だからせっちゃんは、安心してウ
チと遊んで―――ウチの寂しさをこうやって、満たしてくれればいいんよ」
一回り小さな、幼女の刹那の手を、木乃香の手が優しく包みこんだ。
「せっちゃんのおてて、すべすべして気持ちええなぁ。こんな可愛いおててに、でっかい刀なんか似
合わへんよ。刀を持ってるせっちゃんは格好ええけれど、少し怖いし。ウチは今のせっちゃんがええ
な。今のせっちゃんが好き。大好きや。もう余計な事はせんでええ。考えやんでもええ。今のまま、
ずっと、何もせずに、考えずに、ここまま、ここにいよう―――」
木乃香の言葉が子守唄のように、刹那を心地良い夢の中に誘い込んでいく。
刹那は自分の心音を聞いていた。どく、どく、どく、と爆発しそうなほど高鳴っていた。
護衛の名の下に隠してきた気がする、得体の知れない感情が涌きあがってくる。
(これは、その、あの、まさか、いや、しかし、で、でも、これしか……恋愛感情―――?)
刹那は自問し、混乱し恐怖した。
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――っ、あぁ―――っ!」
刹那が怯えたように木乃香の手を振り払い、そのまま屋敷の方に逃げる。裸足でべたべた木造の廊
下を走り、襖を次々と乱暴に開けて奥へと逃げる。後ろから木乃香の足音が近づいてくる。刹那は信
じていたものが崩れたような不安に囚われ、さらに奥に逃げていく。
部屋の最奥には刀が飾られていた。刹那は迷わずそれを手に取る。
幼い刹那の手に、それはずしりと重く、落としそうになる。
「せっちゃん、刀を握ってる―――それを、手に取ったって事は、まだ、せっちゃんは、諦めてない
んやね。でも、何を? ウチを元に…せっちゃんに無視され続けた、か弱いウチに戻す事かな?」
背後から、木乃香の低い声が聞こえてきた。
低くて、心にのしかかってくるような重い声だった。
「でもそれはウチのため? せっちゃんのため? ウチはずっと寂しくて辛い思いをしてきたのに、
せっちゃんが満足ならそれでいいんかえ?」
「ち、違うっ! わ、私は…………私は、ぁ……お、お嬢様の、ために……」
「せっちゃんは嘘吐き。せっちゃんは自分のためにウチを守っているえ。ウチが寂しがっても、せっ
ちゃんは自分が満足ならそれでええんや」
「ち、違います! そ、それは―――」
とすっ
「あ、ああ……お、おじょうさまを……さ、さし………」
構えていた刀に、木乃香が飛び込んできた。
胸に消えた刃先は、木乃香の背中から突き出ていた。ただし、血は流れていない。
「守る人間と、守られる人間、それがウチらの、関係の本質―――」
刹那の顔は蒼白になって、刀を握る手がカタカタ震え出した。
木乃香は涼しい顔で続ける。
「せっちゃんの、その剣士としての精神は、砂金みたいに綺麗で価値があるモノやろうね―――」
「お、おじょうさ、ま……ぬ、抜かな、いと……あの、これ、抜かないと……」
刀を引こうとする刹那だったが、それより先に木乃香が前に進んできた。
刃が根元まで木乃香の中に消える。
木乃香の顔が、刹那の眼前にまで来る。
「でも正直に言うと、ウチには石ころ以下のモノなんよ。ウチがせっちゃん守るから、せっちゃんは
剣士を辞めてよ」
木乃香の目が細くなる。
刹那の目は大きく開いて、涙が溢れ出していた。
「ウチが守られる側やから、失敗したんよ。せっちゃんが剣士辞めて守られる側になれば、解決」
刺されている木乃香は、落ち着き払った表情で、微笑んでいた。
刺した刹那は、熱病にでもかかったように、がたがた震えて汗をかいている。
自分を突き刺している刀を握る刹那の手に、木乃香は優しく自分の手を重ねる。
視線を落とす。
刃が映る。
刀で二人は、結合している。
「こんな刀が無くても、ウチ等は繋がっていられるんよ、ずっと、ずぅ……っと―――」
二人の身体が重なる。
刹那が刀を離す。
木乃香に刺さっていた刀は、煙のように消え失せた。
自分が刺してしまった木乃香が、
それを許してくれた木乃香が、
大好きな木乃香が、
魔に憑かれた木乃香が、
刹那の頭を埋め尽くした。
「―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――っ!」
刹那が奇声を上げて泣き喚いた。
精神が壊れていく音のような、壮絶な声だった。
「……………」
木乃香はまるで母親のように、幼い刹那を抱きかかえて、そのまま包み込んだ………。
………………………………
……………………………………………
女子寮を取り囲んでいたバリアが消えた。
学園都市に満ちる夜に、小さな影が蠢いている。
それは、女子寮で増殖した吸血鬼だった。
それらは闇に紛れて、大群で、静かに、浸透するように、
獲物を求めて、人間を求めて、新たな仲間を求めて、血を求めて
学園都市を破滅させかねない危険を孕んで、じわじわと都市に広がりはじめた。
…………
…………
「そ、そんな………」
桜子の持ったタロットに飛びかかった楓の身体は、桜子を透り抜けて沼に落ちた。
「……ふふふ、ふふっ、ふっふっふっふっふ、あっはっはっはっはっは―――っ! 残念でした楓ち
ゃん。明かされた衝撃の事実! 私に攻撃しても、実は無駄だったのですっ!」
呆然とした楓は、よろよろしながら、もう何もできなかった。
「実はね、私と楓ちゃんてぇ、物理的に接触してないの。あ、ブツリテキって言葉の意味分かる?
とにかく実際の楓ちゃんはただ元いた場所で寝てるだけで、私はその前に立っているだけなの」
意味は分からなかったが、とにかく桜子には勝てないらしい。
「うーん、楓ちゃん! コンテニューしますか?」
満面の笑顔の桜子が、ラクロス棒を構える。
「んー、でも最後ぐらい派手に散らせてあげる。武士の情けでござるよ。にんにん」
物真似は下手だったが、桜子は気にする様子もなく、棒を翳した。
すぅ―――、と沼の水位が下がった。正確には、水が桜子の背後に集まり出していた。
突然、沼の水が盛り上がり、壁状になって迫ってきた。
それは―――巨大で、ギャグのような、しかし紛れもなく津波だった。
桜子をお約束のように透り抜け、轟音と共に楓に押し寄せる。
「バイバイ楓ちゃん。壊れた後も、木乃香ちゃんの護衛頑張ってねぇ―――」
桜子の声が聞こえてすぐに、楓は波に呑み込まれ、鈍い衝撃と同時に、沼に沈んだ。
………………
………
「きゃはははははははははははははははははは、私の勝ちだ―――っ!」
穏やかになった水面の上を、桜子が立っている。
楓の姿はない。
吸血鬼が一人だけ、
一方的な勝利を謳歌し、
無邪気に、しかし邪悪に笑う。
沼の幻覚では数時間が経過しているが、現実では数十分しかたっていない。
「ん? 刹那ちゃん逃亡防止バリアが消えてる? 木乃香ちゃんが刹那ちゃんを捕えたのかな?」
緑色の幻覚の光に満ちた女子寮の六階に、桜子はただ一人立っていた。
足下には楓が倒れている。この後、楓には木乃香の護衛兼奴隷としての生活が待っている。
「あ―――、愉しかった。う、うん…………あっちゃー、かなり濡れちゃってるよ……」
桜子は少し顔を赤くしてパンツから手を抜くと、ポケットティッシュで拭きながら周囲を見る。楓
に負けたまき絵や裕奈たち親衛隊が、ぐったりと床に倒れていた。
「ったく! 使えない連中だね全く。バカとファザコン」
まき絵と裕奈の尻を蹴ってみるが、二人は起きなかった。
「それにしても、楓ちゃんも大した事なかったな―――。賭けやれば面白かったかも」
楓のことは木乃香がまあ、適当に上手くやることだろう。
幻覚のタロットは、木乃香から回収に来るだろう。
ラクロス棒をびゅんびゅん振りまわしながら、桜子は階段に向けて歩いていく。
目的は、狩り。
舞台は、学園都市全域。
知ってしまった、責める愉しさ。
目覚めてしまった、虐げる快感。
「美味しそうな娘も、可愛い男の子も、美人のお姉さんも、かっこいいオジサマ系も、むかつく新田
とかも、嫌味な先輩も…………ふふ、ふふふふふふ、きゃはははははは―――」
開いた口から、涎が垂れ落ちる。
「狩って狩って狩りまくってやる! 泣かして鳴かせて犯してやる! ひゃはははははははは、あ、
やば、考えたら濡れてくる。はあ、はあ、はあ、はあ、もう、今夜はオールだねっ! 長い夜になり
そーだよっ! はあ、はあ、はあぁぁぁ―――あぁ~たまらない~~~~~ふふふ」
ぴく………ぴく………
「ふふ…………………………楓ちゃん、まだ動けるんだ」
倒れている楓の指が動いている。桜子は沼の世界の視界で楓を見る。
沼から浮かんできた楓が、苦しそうに桜子を見ている。
「楓ちゃん、大好きだよぉ。もっと愉しませてね。絶対に、私には勝てないけれどね―――っ!」
そう言って桜子は、ラクロス棒を楓に振り下ろした。
…………
…………
カタカタカタと、キーボードを叩く音が響いている。
部屋のドアの隙間からは、緑色の光が漏れている。
ドアの向こうには桜子がいる。
「ふーん、これが麻帆良学園都市の、セキュリティシステムのセキュリティか」
桜子に気付かれず、千雨は黙々とパソコンに向かう。
キーを叩く指が止まる。
「最強ハッカーちう様の評価は、そうだな……」
画面が展開する。
表れたのは、隠されていた情報。
「40点だな、これ。さて、結界の復帰とやらはどうすりゃいいんだ……?」
―――侵入成功。
学園都市に広がる吸血鬼は、後は増える一方である。
このまま吸血鬼の群れで、都市が埋め尽くされる可能性もある。
楓と桜子、
刹那と木乃香、
夕映、まき絵、裕奈
女子寮にいない数人、
そして関係ない麻帆良の住民たち、
知らないうちに多くの人間の未来を背負い、
しかし千雨はただ、友達になれるかもしれない二人と、自分を助けるために、作業を続けていた。
≪to be continued ≫
最終更新:2012年02月12日 21:20